NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

#108 amingdon boys school「From Dusk Till Dawn」

2010-01-31 09:54:32 | Weblog
#108 amingdon boys school「From Dusk Till Dawn」(ABINGDON ROAD/Epic)

西川貴教が現在所属しているバンド、amingdon boys schoolの8番目のシングル。西川貴教・柴崎浩の作品。

西川は70年生まれの39才。T.M.Revolutionとしてメジャーデビューしたのが96年。以来、足掛け14年のキャリアを持つシンガーだ。

楽器演奏、作曲はせず、ボーカル専任なのだが、このひとのうたは本当にハンパなくうまいと筆者は思う。

そのシャープにしてワイルドな歌声は、現在の日本のミュージックシーンにおいても、屈指の存在ではなかろうか。

たとえていうなら、ヒトではない、神もしくは悪魔の域に達した声。そういう、超越的なものさえ感じる喉なのである。

とはいえ、デビュー以来快進撃を続けていた西川にも、いささか失速していた時期があった。結婚、そして離婚というプライベート面の問題が大きかったのか、2000年前後は、本業の活動がしぼみがちであった。絶大であった人気も、正直下降線をたどっていた。

だが2005年、心機一転、amingdon boys schoolという名の新グループを立ち上げ、西川は復活した。以前よりもロック色を強め、バンド・スタイルでの再出発を果たしたのだ。

「ゼロからのスタート」。まさにそういうスタンスであった。

翌年12月にはメジャー再デビュー。人気TVアニメ「D.Gray-man」のオープニング曲で華々しく登場した。

エッジの立ったギター・サウンドにのって激しくシャウトしまくる西川のパフォーマンスに、デビュー以来のファンたちはホッと胸をなでおろしたものだ。

以来3年余、おもにアニメやゲームのタイアップ曲を中心に地道に活動しているが、もちろんヲタク御用達のみではない。TM時代以上に幅広い支持を集めており、さらには海外進出も果たしている。

インターネットでの世界同時発信/流通により、Takanoriの名前もワールドワイドになった。

昨年11月には初のワンマン・ヨーロッパツアーで6か国にて9公演を敢行。12日間のハードスケジュールを無事乗り切ったという。

きょうの音源の最後の部分で、4回ものライブを行ったドイツでのステージの模様を聴くことが出来る。西川が満場のドイツ人観客を前に「ダンケシェーン!!」と叫ぶさまに、思わず胸が熱くなる。

筆者の持論として、「歌手はいやしくもプロと名乗る以上、ただ上手いだけじゃダメだ。リスナーを感動させ、泣かせるくらいのものがないと」と思っている。

とはいえ、聴く者を思わず知れず落涙させてしまうぐらいの「チカラ」を持ったシンガーなど、いわゆるプロにだってそういるもんじゃない。

が、西川貴教は、まぎれもなく、その数少ないプロ中のプロといえる。少なくとも筆者は、そう思っている。

ワイルドなロックと正統派ポップスが完璧に融合した、西川畢生のバラード「From Dusk Till Dawn」。隠れもなき名曲であります。

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#107 ブッカ・ホワイト「The New Frisco Train」

2010-01-24 09:01:36 | Weblog
#107 ブッカ・ホワイト「The New Frisco Train」(Hellhounds on Their Trail: A History of Blues Guitar 1924-2001/Indigo)

カントリー・ブルースの雄、ブッカ・ホワイトのナンバーより。ホワイト自身のオリジナル。

ブッカ・ホワイトことブッカー・T・ワシントン・ホワイトは、1906年(他に諸説あり)ミシシッピ州ヒューストン生まれ。

30年に初レコーディング、77年にメンフィスにて亡くなるまで、カントリー・ブルースの大御所として多くのアーティストに影響を与え続けた。たとえば、ボブ・ディランやレッド・ツェッぺリンのような白人ロック・ミュージシャンたちにも。

その特徴ある、四角くいかつい顔同様、彼の野太いダミ声は多くのひとびとの印象に残ったのである。

有名な逸話だが、彼の19才年下のいとこがB・B・キングで、すでにメンフィスでブルースマンとして名を成していたホワイトを頼って彼のもとに身を寄せたのだが、ホワイトの弾く流麗なスライド・ギターに圧倒され、「自分はスライドが弾けないが、かわりにそういう効果を出せないものか」と苦心し、あのヴィブラート、チョーキングを駆使した「スクウィーズ奏法」を生み出したという。

そういう意味では、その後のポピュラー・ミュージックにおいて主役となる楽器、ギターの演奏法にさえ少なからぬ影響を与えたひとなのだ。

さてきょうの一曲は、ホワイトが得意としたアコースティック・スライド・ギターをフィーチャーした、アップテンポのナンバー。

とにかくそのスピード感は圧倒的だ。力強く繰り出すシンプルなツービートにのせて、リズミカルなスライド、そしてエグい歌声が炸裂する。

いまを去ること40年前、そう、筆者がZEPのサード・アルバムのB面(特に4、5曲目)を聴いたとき、「世の中にはこんなユニークなスタイルの音楽があるんだ」と、目からウロコが落ちたものだが、いま思えば、それがホワイトたちの演っていたカントリー・ブルースとの最初の出会いだったんだよなぁ。

それまで学校の音楽科の時間で習っていたような、いわゆる整然とした美しい音楽ではない。ノイズ、軋みの多い、雑然とした音楽。でも、これが実に魅力的に聴こえたのだ。

もちろんそれは、時代を経るにしたがってどんどんリファインされていき、シティ・ブルース、モダン・ブルースへと進化していくのだが、そうなる前のダイヤの原石のごとき音楽、それが戦前のカントリー・ブルースだった。

ブッカ・ホワイトの、凄みある歌声、そしてとても一人で弾いてるとは思えない達者なスライド・ギター。まさにカントリー・ブルースの粋(すい)なり。

その見事なダイナミズムに、身をゆだねるべし。

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#106 ギター・スリム「Down Through the Years」

2010-01-17 08:16:11 | Weblog
#106 ギター・スリム「Down Through the Years」(Atco Sessions/Atlantic)

ふたたび、ピュア・ブルース路線に戻ろう。きょうの一曲はこれ。ギター・スリム、アトコ(アトランティック)時代のヒットを。レナルド・リチャードの作品。

ギター・スリムを取り上げるのは、今回が初めてだったと思うが、長いブルース史上においても極めてユニークなアーティストのひとりだと筆者は思っている。

本名エディ・ジョーンズ。26年ミシシッピ州グリーンウッド生まれ。59年に32才の若さでニューヨークにて亡くなっている。

ギター・スリムといえば、なんてったって「The Things That I Used to Do」。スペシャルティ在籍時代の54年に放ったこのビッグ・ヒットで、彼は全国区的人気を獲得した。

以後、亡くなるまでわずか5年だったのだが、その間にもアトコで何枚ものシングル・ヒットを出しており、このバラード・ナンバーもそのひとつ。

ギター・スリムは、いわゆるブルースの枠にとらわれない、非常に幅広い音楽性を持っていたひとだったと思う。

人種音楽だったブルースを、より多くの人々が楽しめるようなエンタテインメント・ミュージックに昇華させていったミュージシャンのひとりで、後のジミ・ヘンドリックス、スティービー・ワンダー、マイケル・ジャクスンらにも匹敵するようなイノベーターであったと思うのだ。

ただいかんせん、短命過ぎた。もっと活動期間が長ければ、さらにすごい仕事を残したのではないだろうか。

とにかく、度肝を抜く派手なステージングにおいて、当時のブルース界では突出していたのが、ギター・スリムだ。

髪を染め、原色のスーツに身をつつみ、何十メートルもの長さのギターコードを使ってライブ会場中を動きまわる、といった今日ではごくフツーなステージ・パフォーマンスも、スリム自身の創出したアイデア。

とにかく「目立ってナンボ」という彼のミュージシャンシップには、唖然とさせられつつも、学ぶべきところが多いね。

きょうの「Down Through the Years」は、典型的な2拍3連バラードで、大ヒット「The Things That I Used to Do」にも通じるところのある、ニューオリンズ・スタイルのR&B。

ギター・スリムの歌声が、文句なしにエグい(いい意味で)。心の底からのシャウトが、耳をえぐるようだ。

やや走り気味の、間奏部のギター・ソロも、上手いというよりは、味があるって感じだ。

ブルーノートを余り多用せず、陽性のフレーズで彼らしさを出しているのである。

他の多くのブルースマンがどうしても抜け切ることができない「重さ」を、彼は見事に脱して、より多くのひとにアピールする「軽み(ポップ)」を達成している。まさにプロフェッショナルなのだ。

空前絶後の表現者、ギター・スリム。そのワイルドきわまりない音世界を、堪能してくれ。

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#105 supercell「君の知らない物語」

2010-01-10 11:02:39 | Weblog
#105 supercell「君の知らない物語」(Sony Music)

少し遅めのスタートとなったが、今年もよろしく。新年第一弾はこれ、話題のクリエイター集団、supercellのメジャーデビューシングルだ。

supercellは、作詞・作曲・プロデュース担当のミュージシャン、ryoを中心とするチーム。ボーカロイド・初音ミクをフィーチャーした一連の作品でネット界に大反響を巻き起こし、一躍メジャーな存在となった。まさにネット時代の、寵児的存在なのだ。

そのsupercellが、満を持して世に問うたのが、このシングル曲。昨年放映された中でも最も印象的なアニメのひとつだった「化物語(ばけものがたり)」(原作は西尾維新によるライトノベル)のエンディングテーマとして制作された。

この曲ではボーカルは初音ミクのようにバーチャルなものでなく、生身のシンガーを初登用している。ニコニコ動画で初音ミクの曲を何曲もカバーしていた縁でryoの目に(というか耳に)とまったらしい、nagi(ニコ動でのHNはガゼル)がリードボーカルをつとめているのだが、これがまた既存のシンガーにはない清新な魅力を放っているのだ。

あくまでも高く清く澄んだ声、でもちょっと儚さやもろさを感じさせるその歌声は、どこにでもいそうで実はどこにもいない、そんな印象だ。

高音部で少し苦しげな発声になり、素人っぽさが抜けきらないあたりも、逆に彼女ならではの持ち味。そういう意味で、亡き坂井泉水あたりに通じるものがある。

またバックには、ギターの西川進をはじめとする、実力派スタジオミュージシャンを揃えている。中でも、ピアノの渡辺シュンスケがダイナミックな演奏を聴かせてくれるので、こちらにも注目だ。

最近、スキマスイッチ、アンジェラ・アキ、WEAVERなど、ピアノ・サウンドをフィーチャーしたアーティスト、あるいは楽曲が増えてきているように思うが、supercellもまた、ピアノがそのサウンドの要であると見た。

なお、ご覧いただくPVの映像は、「化物語」本編とは独立した内容ながらも、主人公の高校生カップルが「ほしのさと天文台」(実在していない)に夏の星座を観に行くといった設定で、アニメの内容とも微妙にリンクした一編の青春ドラマになっている。

自分自身には、こんな甘酸っぱい青春の思い出など皆無ではあるが、これを観て「君の知らない物語」を聴くと、不思議と懐かしさがわき起こってくる。「セイシュンやな~」という感じ(笑)。

誰の身にも起こりそうな、でも現実よりはずっと魅力的な「もうひとつの物語」を見事に作りあげ、若い読者やリスナーの心をガッチリとつかんだ西尾維新、そしてsupercellの実力。脱帽であります。

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