NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

#191 ARB「ROCK OVER JAPAN」

2011-10-30 00:05:34 | Weblog
#191 ARB「ROCK OVER JAPAN」(ROCK OVER JAPAN/ビクターエンタテインメント)

息の長い日本のロックバンド、ARB(エーアールビー)、1987年のアルバムより(映像は1988年の武道館ライブ)。バンドメンバー、Ryo & Hisashi(石橋凌・白浜久)の作品。

この曲が発表されたのは24年も前のことなのだが、ここのところにわかに再注目を浴びている。何がきっかけかというと、先日も当欄で取り上げた人気深夜アニメ「輪(まわ)るピングドラム」にて、カバー・バージョンが挿入曲として頻繁にかかっていることが大きい。それもピンドラの中で最も印象的なシーン、「生存戦略~!」のくだりで繰り返し使われているので、その認知度は相当高いのだ。

ピンドラのほうでは、トリプルH(高倉陽毬役の荒川美穂、伊空ヒバリ役の渡部優衣、歌田光莉役の三宅麻理恵によるユニット)が歌っており、橋本由香利によるシンセサイザーを多用したエレクトロ・ポップ調のアレンジになっているが、オリジナルのARB版とはだいぶん印象が違う。なんといっても、女声ユニゾンコーラスと男臭い石橋のソロ・ボーカルとでは、ポップスVSロックというぐらい雰囲気が違う。

古くからの硬派なARBファンが聴いたら「なんじゃこりゃあ~っ?」みたいな感じだろうが、ここはまったく別物として聴いたほうがよさそうだ。

むしろこの曲を、そして他のいくつかの曲(「灰色の水曜日」「Bad News 悪い予感」「イカレちまったぜ!!」「ダディーズ・シューズ」)も含めてARBといういにしえのアーティストを、2011年の新作アニメの中で改めてフィーチャーした発想が、スゴいという気がするね。

筆者はARBを今からだいぶん前、まだ大学生だった80年頃(!)にライブを観たことがあるが、当時から骨太でビターな持ち味のバンドだなぁと思っていた。デビュー当時はキーボードも含めた5人編成で、後にチューリップへ流れて行った2人のメンバーも含まれており、だいぶんポップス寄りだった記憶もあるが、セカンド・アルバムあたりからロック指向にまとまってきて、当初の「アレキサンダー・ラグタイム・バンド」(もちろん、ジャズのアーヴィング・バーリンの曲名が由来である)という名も捨て、ARBというシンプルなバンド名を選んだ。

ファン層もこの手のバンドにしてはどちらかといえば男性が多く、後続のボウイのようにはミーハーな女性ファンもつかず、特に大ブレイクするようなこともなく男ウケするバンドとして地道に活動していたが、彼らに影響を受けた後輩ミュージシャン達は意外に多いようだ。たとえばユニコーン。たとえば現在クロマニヨンズの甲本ヒロト&真島昌利。「日本語によるロック」というものを、はっぴいえんど流でもツイスト流でもサザンオールスターズ流でもなく独自のアプローチで追究していた姿勢に共感し、けっこう多くのフォロワーが生まれていったのだ。

筆者的には、そのメロディラインもちょっとユニークだなと感じることが多い。必ずしもブルース色が強いとは限らず、ときには日本的な陽旋法も織り交ぜて、民謡風のノリで日本のロックを生み出している。この「ROCK OVER JAPAN」 はその好例といえるんじゃないかな。ロックとは標榜しているものの、海外の人々が聴いたら、オリエンタルなものを感じるのではないかと思う。

日本語でロックするからには、日本流のアプローチでやっていいんじゃないか、そういう風にARBは、われわれに道を指し示してくれたんだと思う。

ピンドラのヒットのおかげで、ARBへの再評価の動きも出てきた。まさに温故知新である。

ライブ映像は、第3期後半のARBを知ることが出来る貴重なもの。石橋、白浜、浅田孟、KEITHらの一体となったパフォーマンスが実にカッコいい。トリプルHとはまたひと味違うARBの、ロック魂を感じてくれ。

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#190 トム・ジョーンズ&ジェフ・ベック「Love Letters」

2011-10-23 10:56:46 | Weblog
#190 トム・ジョーンズ&ジェフ・ベック「Love Letters」(Martin Scorsese: Red White & Blues/HIP-O Records)

英国人監督マイク・フィギスによるブルース・ドキュメンタリー映画「Red, White & Blues」より。エドワード・ヘイマン=ビクター・ヤングの作品。

まず、この顔合わせにビックリされる人も多かろう。コテコテの歌い方でおなじみの絶倫シンガー、トム・ジョーンズに、孤高のギター・ヒーロー、ジェフ・ベック。なんともはや濃ゆ~いお二人が、なぜかナット・キング・コールやプレスリーでおなじみの甘いラブ・バラードを演っているのだ。おもわず聴いてみたくなったでしょ?

でも、これが意外とイケるのだ。トムの大げさな歌いぶりはいつもの通り、一方ジェフは特にジャズっぽく弾くでもなく、さらりとしたバッキングをつけ、ソロもあっさりとしてる。でもスタジオ・セッションらしく、リラックスした、いい感じにまとまっている。

そして、何よりもはっきりといえるのは、原曲そのものはブルース色がほとんどないのに、ちゃんとブルースとして聴こえてくるのだ。

それは、そのリズムの取り方、特にピアノやリズム隊の、「タメ」のリズムによるところが大だろうな。そしてもちろん、演ずる者の強い個性が、この曲に内包された「ブルース性」を見事に引き出しているのだと思う。

ブルーノートで書かれていなくても、8小節や12小節形式でなくとも、3拍子のワルツであっても、そのノリがブルースであれば、ブルースとよんでいい。そういう好例だ。

この二人はトムの方が4才年上。音楽性には違いがあるものの、ブルースに親しみ、60年代に出身地英国、さらに世界でブレイクしたという点では共通している。いわば仕事仲間だな。

レコーディング当時(2002年)、トムは62才、ジェフは58才ってところか。ふたり合わせて120才の超ベテランコンビが生み出す、ハートフルなブルース・バラード。その名人芸に酔い痴れてくれい。

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