2011年7月31日(日)
#182 エース「ハウ・ロング」(Five-A-Side/Anchor Records)
#182 エース「ハウ・ロング」(Five-A-Side/Anchor Records)
英国のバンド、エース、1975年の大ヒット曲を。メンバー、ポール・キャラックの作品。
エースは72年結成。フィル・ハリス(g)、アラン・バム・キング(vo,g)を中心とする5人組だが、彼ら2人が見出して参加させたポール・キャラック(vo,kb)のほうにむしろスポットが当たる格好となった。
キャラックが作曲し、歌ったきょうの一曲「ハウ・ロング」が全米、全英両方のチャートで上位にランクする大ヒットとなったのだ。特に全米では最高2位まで昇りつめ、まったく無名の外国バンドの名を一気にアメリカ中に知らしめることとなった。
いったい、この曲の何がそんなにアメリカ人の琴線にふれたのか。まずは聴いてみよう。
サウンド的には、特筆すべき何かがあるわけではない。エースはその結成、活動形態から本国において「パブ・ロック」とよばれていた。でもパブ・ロックとされるバンドのすべてに共通した音楽スタイルがあるわけではない。
パブ・ロックの代表格、ドクター・フィールグッドのように、ロックンロール、ブルース系のサウンドもあれば、このエースのように、ややメロウなサザン・ソウル系のサウンドもある。要するにパブのような場所で活動するライブ・バンドという括りってことなんだろうな。
それはさておき、サウンド的に格別特徴のないエースがいきなりメガヒットを飛ばしたのは、ひとえに歌を担当したキャラックの声の魅力、これによるものに違いない。
どちらかといえばバラード向きの、甘いが落ち着いた声質。でもそれだけじゃなくて、非常に「ソウル」を感じさせる巧みな歌い口。派手なものはないのだが、聴くものをホッとさせる魅力に溢れている。
もうひとつは、彼の作り出すAORなメロディ・ライン。これによるところも大きい。
キャラックは見てくれ的には残念ながらオッサン系なので、スター性はないのだが、彼の歌声とセンスはオール・アメリカンな指向とぴったりと合致していた。そういうことだ思う。
この大ヒット後、エースは残念ながらというかやっぱりというか、鳴かず飛ばず。デビュー曲のようなヒットは出ず、結局バンドは77年に解散となってしまう。
「偉大なる一発屋」で終わってしまったわけだが、でもこの曲の素晴らしさに変わりはない。
そしてそれを生み出した、キャラックの才能のスゴさも。
それは、バンド解散後の彼のキャリアを見ればすぐわかる。
その後すぐにブライアン・フェリー率いるロキシー・ミュージックに参加。80年代半ばにはスクィーズというバンドで再びリードボーカルをとり、さらにはニック・ロウのバンド、カウボーイ・アウトフィットや、マイク・アンド・ザ・メカニックス、エリック・クラプトンのバックなど、見事なキャリアを築いているのだ。
そのボーカル、コーラス、キーボードの実力で、スターたちの絶大な信頼を得ているキャラック。ミュージシャンズ・ミュージシャンとは彼のことだと思う。
ポール・キャラック畢生の男伊達は、当然このバラード「ハウ・ロング」で知るべし。ホンマ、ええ曲でっせ。