NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

#75 オーシャン「Put Your Hand In The Hand」

2009-04-26 04:39:47 | Weblog
#75 オーシャン「Put Your Hand In The Hand」(The Buddah Box/Essex)

カナダのグループ・オーシャン、71年の大ヒット(全米2位)。日本では原題よりも邦題「サインはピース」で、あまりにも有名なあの曲だ。

この曲が出た頃、筆者は中学2年だったかな。とにかく、当時ものすご~く流行った。AMラジオではひっきりなしにかかっていた記憶がある。

で、いま考えてみれば、この曲が筆者にとって初めての「セカンド・ライン」体験だったように思う。

同系統の曲、ザ・バンドの「Upon The Cripple Creek」は69年発表のセカンド・アルバムに収録されていたから、そちらを先に聴いた可能性もないではないが、ザ・バンドなんておっさん臭いバンド、ボクらの間ではまったく流行ってなかったから、たぶん当時は聴いていない。やっぱり、「サインはピース」が、生まれて初めて聴いたセカンド・ラインだったのだろう。

もちろんその頃は「セカンド・ライン」という言葉すら知らなかった。ただただ、「なかなか新鮮な、かっこいいビートだな」と思っていただけだった。

その後、セカンド・ラインの曲で流行ったのはニール・セダカ(とエルトン・ジョンのデュエット)の「Bad Blood」だが、これは75年、筆者が高3のときのヒット。だいぶん後になってからである。

しかも、その時点でもまだ「セカンド・ライン」という言葉は知られていなかった。ようやくその言葉を覚えたのは、大学時代にリトル・フィートにハマったあたりからだ。

ということで、いまでは当たり前のように自分のレパートリーの中に取り入れられているセカンド・ラインも、こうやって長い時間をかけて、徐々に意識されていったわけだ。自分の音楽史において、この「サインはピース」は、実に記念すべき曲だということやね。

ここでオーシャンについて少し紹介しとくと、女性リード・シンガー、ジャニス・モーガンを中心とする5人組バンド。ヒットらしいヒットは「サインはピース」のみで、後は3曲ほどがビルボードの70~80位台に入っているだけである。

典型的な一発屋といえそうだが、実はこの「サインはピース」、彼らのオリジナルではなく、ソング・ライターが別にいる。

彼らと同じカナダ出身のシンガーソングライター、ジーン・マクレランである。

もともと彼はいまのフリーター達のようにさまざまな職業につきながら、セミプロとして音楽活動を続けていたが、70年前後、カナダのTV番組に出演するようになってから、大きくチャンスが広がった。

当時売り出し中の女性シンガー、アン・マレーと知り合い、彼女に「スノーバード」を提供したことで一躍注目され、キャピトルと契約、カナダのみならず米国でもデビューを果たす。

そして、オーシャンに提供したこの曲でいま一度、そのたぐいまれなるソングライティングの実力を証明したのである。

当時筆者は、雑誌などメディアの情報量不足ということもあって、そんな裏話をまったく知らなかった。が、とにかくこの曲については「いいものはいい」と感じていた。他のリスナーも、みんなそうだったのだと思う。だから、大ヒットとなった。

当時のレコード会社やラジオ局はこの曲をソフト・ロック、あるいはバブルガム・ロック的なものとして紹介していたという記憶があったけど、いま聴いてみると、実にしっかりとした骨太なサウンドなんである。

歌いかた、ハモのつけかたはいかにも白人的なカントリー・ロック路線なんだが、曲の底流にあるのは、セカンド・ラインの本質、ゴスペル・ミュージックそのものなんだと感じる。

それはやはり、作曲者であるマクレランのセンスによるところだろう。

「一発屋ヒット」というと、曲もチンケでつまらないものだという先入観があったりするが、必ずしもそういうものではない。全く無名のアーティストが出したホームラン級ヒットには、それなりのワケがある。

マクレランの作曲センス、ジャニスの声の魅力、バックの4人の確かな演奏力。この3つがそろったからこそ、この曲はすべての人々から熱狂をもって迎えられたのだろう。

ぜひいま一度、聴き直してみてほしい。

#74 アル・キング「Reconsider Baby」

2009-04-19 07:20:50 | Weblog
#74 アル・キング「Reconsider Baby」(Blues Master the Complete Sahara & Shirley Recordings/Forever More)

今年83才を迎えるブルース・シンガー、アル・キング。60年代のレコーディングから、ローウェル・フルスンのカバーを。

アル・キングは、三大キングやらアール・キングやらの影に隠れて、一番ジミなキングといえそうなシンガーだが、なかなかいい味をもっている。

26年、ロサンジェルス州モンロー生まれ。本名はアルヴィン・スミスといい、51年の初録音はこの本名で行っている。

64年にシャーリーに移籍。このアルバムはシャーリーと、それに続くサハラ時代の録音をまとめたものだ。

アルは他のキング達と違ってスタンダップ・ブルースマン、すなわち楽器を弾かないシンガーだ。そのため、他の連中より注目度が低いということなんだろうな。特に日本ではまったく人気がない。ボビー・ブルー・ブランドと同じような憂き目にあっているのだ。

しかし、歌に関しては、他のキングにも負けない実力をもっていると思う。

中音中心の伸びやかな歌声は、非常に説得力がある。ローウェル・フルスンにも通じるところのある、声質だ。

また、バックにも恵まれている。ギターのジョニー・ハーツマン、このひとのプレイが実にカッコいいのだ。

クールでスマートという形容がピッタリのジョニーの演奏は、アル・キングの洒落心のある歌に見事にマッチしている。いかにもウェスト・コースト・ブルースなサウンド。

アルはその後、寡作ながらも音楽活動は続け、98年にもアルバムを出すなど、マイペースでその存在をアピールしている。

チョビ髭をたくわえた小粋なオジさんという感じのアル。他のキングたちとは、ひと味違ったブルースが味わえます。必聴。

#73 ロビン・トロワー「Looking For A True Love」

2009-04-12 10:48:41 | Weblog
#73 ロビン・トロワー「Looking For A True Love」(Someday Blues/V-12)

洋モノに再び戻ろう。息の長い英国のギタリスト、ロビン・トロワー1997年のアルバムから、彼のオリジナルを。

45年ロンドン生まれ。クラプトン、ペイジらとほぼ同世代のトロワーは、プロコル・ハルムを経て73年にソロ・デビュー。以来ずっと自分のバンドを率いて35年以上活躍し続けている、超ベテランだ。

彼の人気を決定づけたのは、76年にリリースした「ロビン・トロワー・ライブ!」だろう。このライブ盤で、スタジオ録音を上回るハイテンションなギター・プレイを披露、世のギター小僧どもの度肝を抜いたのだった。

当時の評価としては、「ジミ・ヘンの再来」みたいなギター・テクニック面のものばかりだったように記憶している。

たしかに、フレージングやエフェクトの使いかたは、かなりジミへンライクではあった。でも、ギタープレイ「だけ」に注目が当たるのは、彼にとって不本意なことだったのではなかったかと思う。

なにより彼はバンドのほぼすべての曲を作っていたのだから、もっとコンポーザーとしての面を評価すべきだったのだと思うね。

とはいえ、彼のように、派手に歌いまくるわけでもなく、格別イケメンでもない、地味~なミュージシャンに一躍スポットが当たったというのも、実に興味深い現象だ。まだロックが、ロックということだけで世間の注目を集めていた時代だったから、ともいえる。

当時から「実力派」の評価が高かったトロワーだが、それがウソでなかったのは、35年余りを経て、いまだにプロとして活躍している事実で、十分に証明されているね。

さてこのトロワー氏、キャリアを重ねるとともに、ジミ・ヘンのモロな影響は次第に消えていき、よりルーツ・ミュージックに根ざしたブルース・ロック、ハード・ロックへとシフトしていった。

97年の本アルバムでも、かなりブルース色の強いサウンドになっている。ジミ・ヘン的弾きまくりでなく、アルバート・キングのようなタメのギター、中音をきかせたボーカル、オルガンを加えたタイトなリズム隊。実にブルーズィだ。大半はトロワーの作品だが、「クロスロード」「スウィート・リトル・エンジェル」「フィール・ソー・バッド」の3曲のカバーがいいスパイスになっている。

きょう聴いていただく「Looking For A True Love」も、アルバート・キング・マナーのツイン・ギターがバッチリ楽しめる佳曲。

ときにトロワー、52才。若い頃のギラギラした感じがうまく枯れて、ブルースがサマになってきたのだ。ブルースマンは50から、とはよくいったものだ。

アルバート・キングやレイ=ヴォーンの路線が好きなかたには、お薦め。キャリアを積んだミュージシャンならではの、味わい深い音に触れてみよう。

#72 THE BAWDIES「EMOTION POTION」

2009-04-05 07:31:05 | Weblog
#72 THE BAWDIES「EMOTION POTION」(THIS IS MY STORY/Getting Better)

今週も和モノだ。まずはMySpaceへの投稿映像を観ていただこう。彼らのメジャーデビューアルバム「THIS IS MY STORY」からのシングル、「EMOTION POTION」である。

いやー、びっくりした。見た目はフツーの日本のバンドなのに、生み出しているサウンドがものスゴく洋楽っぽいし、クロいんである。

揃いのスーツに身をつつんだ彼らがたたき出すビート、そして歌声は、60年代の英国R&Bバンド、たとえばヴァン・モリスン率いるゼムあたりを彷彿とさせる。

これまでの日本のバンドで言えば、パブ・ロック系ということで、ミッシェル・ガン・エレファントの流れか。でもボーカルの黒さ、太さということでいえば、サザンとかウルフルズとかにも近い。リード・ボーカル兼ベースのROYこと渡辺亮は、ひさびさの逸材といえそう。

しかも、リード・ボーカルだけでなく、バッキング・コーラスも黒い。モシャモシャ頭のギター&ボーカル、TAXMANこと舟山卓も、実にヘビーな歌声の持ち主。いうなれば、桑田が二人、あるいはトータスが二人いるようなスゴいバンドなのだ。

レノン&マッカートニーがソウルフルになったような亮・卓コンビをバックアップするのは、ギターのJIM(木村順彦)、ドラムスのMARCY(山口雅彦)。この4人はともに学生時代からの友人で、卓以外は小学校の同級生、そして卓が高校のとき以来の付き合いで、一緒にバスケをやりながらバンドも始めたとか。つまり、完全に自然発生的なバンドなのだ。

すでに海外(オーストラリア)でもライブを行い、大好評を得たというTHE BAWDIES。日本のバンドというと、オリエンタリズムを表に出さないとウケない時代があったものだが、モロに洋楽指向、それもルーツミュージックに根ざした、かなーりレトロな音作りにもかかわらず、すんなりと受け入れられたということである。なんか時代の変化を感じるねぇ。

ま、どこの国の人間がやっているかなんて意識させないくらい、ごくごくストレートな王道ロックンロール/R&Bなんだな。

それから、THE BAWDIESというネーミングも、実に大胆だ。直訳すれば「スケベエズ」だぜ。これ以上スゴいバンド名はなかなか付けられません(笑)。

ロックンロールという言葉の意味はメイクラブ、つまり●ックスだということは、洋楽に通暁したひとならご存知かと思うが、まさにその通りのバンド名を名乗ってしまったTHE BAWDIES。あっぱれ!という他ない。

まだ20代の若者たちが、40年以上前のサウンドを追求し、しっかりと自分たちのものとして消化している。これには驚きを禁じ得ない。

欧米の影響を受けること50数年、ようやくにして日本人も、ロックの本質を体得したのかもしれない。

THE BAWDIES、今後がメチャ楽しみなバンドだ。ぜひ名前を覚えておいてほしい。

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