NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#468 高中正義「GAPS!」(東芝EMI/Eastworld CT32-5520)

2023-02-28 05:55:00 | Weblog
2023年2月28日(火)



#468 高中正義「GAPS!」(東芝EMI/Eastworld CT32-5520)

ギタリスト高中正義の16枚目のオリジナル・アルバム。89年リリース。高中自身とエミリオ・エステファン、ジョルジ・カサス、クレイ・オストワルド(いずれもマイアミ・サウンド・マシーン)によるプロデュース。東京、マイアミ録音。

高中については過去にも何枚かで触れてきたので説明不要だろう。日本を代表するトップ・ギタリストのひとりである。

筆者は特別に彼のファンではないが、その卓越した才能、それもギター・テクニックだけでなく、作曲・編曲、プロデュースの才能においても、わが国のトップ・クラス・ミュージシャンであることは間違いないと思っている。

「The Party’s Just Begun」はアップ・テンポのダンサブルなナンバー。作曲はウィル・ペレス=フェリア、ビル・ダンカン。アレンジはダンカン、カサス、オストワルド。

つまり、本盤での約半分、マイアミ録音のパートでは、ダンス・ミュージックのトップ・グループ、マイアミ・サウンド・マシーン(以下MSM)の面々とタッグを組んでいるのだ。

サウンドのノリの良さはさすが、必殺ヒット請負人MSMの仕事であるな。

「Tell It Like It Is」はバラード・ナンバー。バックグラウンド・ボーカルとしてクレジットされているが、実質的にリード・ボーカルをとっているのは、後年グラミー賞も獲得することになる実力派シンガー、ジョン・セカダ。MSMの一員として、作詞・作曲も彼が関わっている。

少し高めで繊細なセカダの歌声に、おなじみの高中のオーバードライブ・ギターが絡むと、実にいいムードになる。

「Out Of Touch」からの4曲は、東京での録音で高中自身の作曲・アレンジだ。ギターだけでなく、共同作業ではあるがシンセサイザー&ドラムスのプログラミングも高中が手がけている。

その「Out Of Touch」はラテン・フュージョンっぽさとダンス・ナンバーっぽさが程よくブレンドされた曲調で、ギターも泣きまくる一曲。女性外人シンガーふたりのコーラスに、80年代の「シティ・ポップ」を感じるね。

「Messa Boogie」はギター・アンプの名前と、めっさ(めちゃくちゃ)+音楽スタイルのブギを引っ掛けた洒落をタイトルにもつナンバー。シャッフルのリズムが心地よい。

高中がそれまで演奏して来た、さまざまなスタイルのギターを、手を変え品を変えして聴かせてくれる。ギターをたしなむ人なら、絶対楽しめるはず。個人的には一番気に入っている。

「Colada」は賑やかなダンス・ナンバー。ディスコ・ビートに乗って、ひたすら陽気なソロを繰り広げる高中。気分はアゲアゲであります。

「Give It Up」は、MSMの連中をバック・コーラスに従えたロック色の強いアップ・テンポのナンバー。ラテン・ロック風のスクウィーズ・ギターがフィーチャーされ、高中節を堪能出来る。

「City Is A Jungle」は再び、MSMとのコラボによるナンバー。ノエル・ウィリアムズの作詞・作曲。

MSMのプロデュースだと、どうしても高中のギターは前面に出てきにくい。主役というよりは、他のパートと似たような扱いになりがちで、よくてソロ・パートを優先して振ってもらえる程度だ。「とにかく高中のギターが聴きたいんじゃあああぁぁぁ!!」というコアなファンには物足りないかもね。

「Say Scratch」は高中作曲・アレンジのナンバー。スティーヴン・アージーのラップをフィーチャーしたファンク・サウンドが全面的に展開される。ギターはリズム楽器扱いという感じで、ソロは期待しない方がいい一曲。

「So Exited」は三たびMSMとのコラボ。セカダのボーカルをフィーチャーしたワイルドなダンス・ナンバー。ランディ・バーロウのアレンジ。

後半、堰を切ったように高中のギターが暴れまくるが、おおむねボーカルがメインの作りだ。

「Suite “Keys”」は高中作曲・アレンジ。これがなかなかいい曲だ。かつてのリゾート・サウンドを再現するかのような、オーソドックスなエイト・ビートのバラード。

メロディアスなフレーズを重ねて次第に盛り上がっていくさまが、なんともいえずいいんだよな。こういう曲を今後もキボン。

ラストの「City Is A Jungle(Extended Club Mix)」はCDのボーナス・トラック。ジョン・ハーグによる同曲のリミックス・バージョンだ。

全編を通して、ドラムスはすべてプログラミングによるもので、これが好みの分かれるところだろうな。

個人的には、若干表現に揺れ、ブレがあっても生ドラムスの方が味があって好きなのだが、サウンドの統一感の方を優先すると、こちらを選ぶのだろう。

MSMとコラボすることにより、ギター・インスト一辺倒でなく、サウンドにもバラエティを持たせ、適宜ボーカルも配した内容で、リスナーを飽きさせない。なかなかうまい構成だと思う。

ソツなくまとめられていて、安心して聴ける一枚。名盤とかマスターピースとかそういう評価はおそらくされないだろうが、常に一定以上のクオリティをキープしてリスナーに提供する高中は、やっぱりプロ中のプロだ。

要するに、音の選び方に試行錯誤とか、迷いがないのだな。

まぁ、人はこれを「才能」と呼ぶのでありましょう。凡人の筆者には一生かかっても到達できない境地であります。

最近の高中正義はアルバム制作を10年以上お休みしている。どちらかといえばDVD制作に力を入れているが、それよりはやはり新しいアルバムを聴きたいものだ。

熱烈ファンとは言えない筆者でさえ、そう思っているんだから、ファンならなおのことだろう。

ぜひ、今年3月に70歳になる記念に、新作をリリースしていただきたい、高中殿。

<独断評価>★★★☆

音盤日誌「一日一枚」#467 FREE「THE FREE STORY」(Island PSCD-1016)

2023-02-27 06:01:00 | Weblog
2023年2月27日(月)



#467 FREE「THE FREE STORY」(Island PSCD-1016)

英国のロック・バンド、フリーのベスト盤。73年リリース。ガイ・スティーヴンス、クリス・ブラックウェル、彼ら自身ほかのプロデュース。

68年結成、73年に解散したフリーの、全史を見渡せる一枚。アナログLPでは2枚組だった。

デビュー・アルバムからの「I’m a Mover」から、ラストの「Come Together in the Morning」までの19曲。CDでは「Heartbreaker」のみ省かれている。

個人的なベスト・チューンを挙げていこう。

フリーといえばやはり「All Right Now」だろう。70年リリース。サード・アルバム「Fire and Water」からシングル・カットされ全米4位の大ヒットとなり、フリーの名を一躍全世界に広めたナンバー。

アンディ・フレーザーとポール・ロジャーズによる作品。フリーの楽曲は、多くがこのコンビによるものだ。

ハードなサウンドの中にも、キャッチーなメロディが光る。ヒットして当然なナンバーだと思う。

このヒットによりサード・アルバムも全英2位、全米17位をとるまでに売れ、日本での認知度も一気に上がった。

「Fire and Water」はそのサード・アルバムより。「All Right Now」のひとつ前のシングルとしてリリース。

ソウル・シンガー、ウィルスン・ピケットによるカバーでも知られているナンバー。フリーの黒人音楽志向がその曲調にはっきり出ている。

フリーは売れ筋の音よりも自分たちのやりたい音楽を優先し、それが世間にもちゃんと認められた好運なバンドだと言える。その音はシンプルで飾り気がなく、ひたすら力強い。

「Be My Friend」はフレーザーのピアノをフィーチャーしたバラード・ナンバー。4thアルバム「Highway」から。のちのバッド・カンパニーにも引き継がれることになる、哀感に満ちたメロディがいかにもフリーらしい。

「The Stealer」は「All Right Now」に続く、シングル・ナンバー。同じく「Highway」から。フレーザー、ロジャーズ、ポール・コゾフの作品。

マイナー調のブルース・ロック・ナンバー。こういう影のある、カタルシス感の乏しい曲は残念ながらあまりヒットしないんだよなぁ。悪くはないんだけど。

「Mr. Big」はそのタイトルが英国、米国それぞれで人気ロック・バンド名として使われた逸話を持つ、ある意味、フリーを象徴するナンバー。メンバー全員の作品。

71年のライブ・アルバム「Free Live!」から。ミディアム・テンポのずっしりとしたサウンドが強く印象に残る。

LPでは2枚目トップの「The Hunter」は、やはりアルバム「Free Live!」から。

元曲はアルバート・キング67年のアルバム「Born Under a Bad Sign」に収録されており、69年にシングル・カットもされている。ブッカー・T・ジョーンズ、スティーヴ・クロッパーほかの作品。

他のアーティストのカバーはあまりやらない彼らだが、この曲はよほど気に入ったのだろう、ステージでの定番にしていたようだ。

この曲はバンドのタイトな演奏、とりわけポール・コゾフのタメの効いたブルーズィなプレイが、この上なくカッコいい。そしてもちろん、ロジャーズの渾身のシャウトも。

「Get Where I Belong」もライブ盤より。

ギターやピアノなどアコースティック楽器をフィーチャーし、コーラスも交えたフォーク・ロック・ナンバー。71年当時の彼らとしては、ちょっと異色のサウンドだな。

彼らも次第にアメリカナイズされていく様子を、そこに見てとれる。

「Just for the Box」は唯一のインスト・ナンバー。

フリーは一時期、ロジャーズ抜きの「コゾフ、カーク、テツ&ラビット」として活動していた時期があったが、
その時期の唯一のアルバムより。72年リリース。

コゾフの多重録音をフィーチャーした、ヘビーなブルース・ロックなのだが、メイン・ボーカルを欠いた状態のフリーは、やっぱりサマにならないなぁ。

「Lady」はアルバム唯一の未発表音源。ロジャーズの作品。

ここで聴かれるギター・プレイはおそらく、ロジャーズによるものだろう。コゾフのレスポールの音とはかなり違う。

ロジャーズも最初のフリー来日、あるいはバドカンでもギターを弾くなど、ギターを弾けないわけではないのだが、彼の面目はやはりボーカルにある。

コゾフ抜きのフリーは、フリーではない。そう強く思う。

「My Brother Jake」は71年リリースのシングル。アルバムではこのベスト盤で初めて収録された。

英国内では大ヒットして4位になったという、フレーザーのピアノをフィーチャーしたナンバー。

旧友を偲んで書かれた、ハートフルな歌詞がいい。

「Little Bit of Love」は72年リリースのシングル。アルバム「Free at Last」からのカット。メンバー全員の作品。

陽気なロックンロール・ナンバー。以前の翳りのあるサウンドは消えて、バドカンの曲といっても構わないくらい、完全にアメリカンなテイストに変わっている。

このサウンド、古くからのコゾフ・ファンあたりには、ちょっと抵抗があったかもね。でも、バンドの音はこうして変化していくものなのだ。

「Sail On」はその「Little Bit of Love」のB面曲にして「Free at Last」収録曲。やはり、アメリカナイズが顕著なロック・ナンバーだ。

世界的な成功を目指して、フリー号は舵を切ったってことなのだろう。

「Come Together in the Morning」は73年のラスト・オリジナル・アルバム「Heartbreaker」より。ロジャーズの作品。

マイナー調のメロディながら、ポジティブな展開もあり、陰と陽のコントラストが見事である。バドカンとしてのリスタートを感じさせるナンバー。

73年フリーは解散、そのままロジャーズとサイモン・カークはバッド・カンパニー結成へと動く。

そして、フリーを越える全世界的な成功を収める。

その萌芽は、こうして聴いていくと、後期のフリーにすでにしっかりとかたちとなっていることが分かる。

しかし、真の成功はフリーのオリジナル・メンバーによっては勝ち取れなかった。

コゾフという素晴らしいギタリストがいたものの、彼は残念ながら繊細過ぎて、ロック・ビジネスという生き馬の目を抜く世界で生き残っていくだけのタフネスはなかった。

そして、彼は76年に25歳という若さでこの世を去ることとなる。

われわれにせめて出来るのは、フリーのサウンドを折にふれて味わうことで、彼の傑出した才能を忘れないこと、これだけではないだろうか。

フリーという唯一無二のバンドの歴史を、凝縮した一枚。

<独断評価>★★★★☆

音盤日誌「一日一枚」#466 MICHEL LEGRAND「AT SHELLY’S MANNE-HOLE」(Polydor/Verve J25J 25122)

2023-02-26 05:00:00 | Weblog
2023年2月26日(日)



#466 MICHEL LEGRAND「AT SHELLY’S MANNE-HOLE」(Polydor/Verve J25J 25122)

フランスの作曲家、ミシェル・ルグランのライブ・アルバム。68年リリース。ナット・シャピロ、ジェシー・ケイによるプロデュース。

ミシェル・ルグランといえば「シェルブールの雨傘」「ロシュフォールの恋人たち」「華麗なる賭け」といった映画音楽の担当としてあまりにも有名だが、そんな彼も実はバリバリ、ゴリゴリのジャズ・ピアニストであったことを、皆さんご存じだろうか。

ジャズ・ファンなら、彼がプロデュースした「ルグラン・ジャズ」という58年のアルバムを知っているかもしれない。

これは彼が米国へ新婚旅行をした際に、現地のジャズ・ミュージシャンとの共演を果たした一枚で、マイルス・デイヴィスをはじめ、ドナルド・バード、アート・ファーマー、クラーク・テリー、ベン・ウェブスター、ジョン・コルトレーン、ポール・チェンバース、ハービー・マン、フィル・ウッズ、バリー・ガルブレイス、ビル・エヴァンス、ハンク・ジョーンズといったトップ・プレイヤーたちがレコーディングに参加している。

この時、ルグランはアレンジと指揮をつとめており、ピアノ演奏まで携わっていなかったので、プレイヤーとしての彼を知ることはできなかったのだが、10年の時を経て再びジャズに取り組んだ本盤では、ピアニスト、そしてボーカリストとしての実力をフルに味わうことができる。

本盤でルグランと共演するのは、ベースのレイ・ブラウンとドラムスのシェリー・マン。

ブラウンはオスカー・ピータースン・トリオのメンバーとして、マンはブラウン、バーニー・ケッセルと組んだザ・ポール・ウィナーズなどで著名だ。

ともに米国ジャズ界のトップに君臨するふたりと、外国人ルグランは果たしていかなるプレイを繰り広げるのだろうか。

収録場所はカリフォルニア州ハリウッドにある、マンの名前を冠したジャズ・クラブ、シェリーズ・マンホール。

オープニングの「ザ・グランド・ブラウン・マン」はメンバー3人の苗字を合わせて作ったタイトルの、ブルースをベースにしたナンバー。3人の共作。

ゆったりとしたテンポで始まり、イン・テンポに転じたのちは徐々にスピードを上げていき、最後は猛烈な高速ソロに入るルグランと、それをしっかり支えるリズム隊。

のっけから、まさに火花が出るような演奏が展開されて、聴く者の度肝を抜いてくれる。

「ア・タイム・フォー・ラヴ」は一転して、ロマンティックなバラード・ナンバー。ジョニー・マンデルとポール・フランシス・ウェブスターの作品。

映画「いそしぎ」の主題歌で知られるコンビの佳曲を、抒情たっぷりに奏でるルグラン。

10本の指が鍵盤の上を自在に飛び跳ねて、甘美な時間を生み出していく。

アルコ(弓弾き)によるブラウンのサポートもナイスだ。

「レイズ・リフ」はワルツ・ビートのブルース・ナンバー。3人の共作。

ブロック・コードを多用したルグランのプレイはダイナミックのひとこと。

ピータースン、ガーランドといった、さまざまな米国のジャズ・ピアニストをとことん研究していることがその演奏からよく分かる。

そしてブラウンの手だれのソロも、この曲のもうひとつの主役だな。

「ウォッチ・ホワット・ハップンズ」は映画「シェルブールの雨傘」の挿入歌。ルグラン、ジャック・ドゥミほかの共作。

ここでのルグランのプレイが、この上なく素晴らしい。

作曲者自身による演奏だけあって、曲の持つポテンシャルをすべて引き出している。

元曲はボサノヴァだが、ここではスロー・スウィングにアレンジして、ジャズらしさを強めている。

万華鏡のように刻々と変化していくサウンド。音楽を極めた者にしか出し得ない、至高の響きだ。

この一曲を聴くだけのために本盤を買っても、まったく惜しくはない。

「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」はおなじみロジャーズ=ハートのコンビによるスタンダード・ナンバー。

この曲でルグランは、達者なスキャット・ボーカルを披露する。これがなかなか味わい深く、また可笑しみもある。

スキャットとピアノの合わせ技(シンクロ)も見事だ。

シンガーとしてはほとんどレコードを出していないものの、彼の歌の実力はなかなかのものだと思う。

いつかFMラジオで聴いた彼のライブでの「アイル・ウェイト・フォー・ユー(シェルブールの雨傘)」の歌とピアノが今も耳に残っている。

「アナザー・ブルース」は再びブルース・ナンバー。3人の共作。

ブラウンのソロによるテーマから始まり、ルグランの飛び跳ねるようなソロへ。

どんどんとピアノのトーンが上がっていき、バックのプレイにも火がついていく。

熱狂、混沌、さらには狂気。そんなものさえ感じさせるエキサイトぶり。

ブラウン、ルグラン、マンのインタープレイが白熱する一曲だ。

「ウィロウ・ウィープ・フォー・ミー」は有名なジャズ・スタンダード。アン・ロネルの作品。

ブラウンのソロに導かれて、ルグランがテーマを弾く。少ない音で、訥々と語りかけるような演奏だ。

スローの極みのような、気だるい演奏が、テンションの高い曲の多い本盤では、異彩を放っている。

「ロス・ゲイトス」はスペイン語で「猫たち」を意味するタイトルのナンバー。3人の作品。

シンプルにコード進行だけ決めて、スパニッシュ・ビートに乗って即興演奏が繰り広げられる。

のちにチック・コリアがお家芸としたサウンドを、すでにルグランは先取りして始めていたのである。

猫たちが奔放に戯れるさまのような、自由度の高い3人のプレイは、それぞれの高い演奏力、音楽的センスあってこそのものだろう。

以上、ルグランのライブは完全にジャズ・ピアニストのそれであった。

しかも、他のどのピアニストにも増して、自分の持っている全てを提供するサービス精神、エンタテイナー精神にあふれたステージングであった。

真にすぐれたクリエイターはまた、すぐれたパフォーマーでもあることが多い。

ミシェル・ルグランはまさにそういう完全無欠のアーティストのひとりであった。

脱帽、のひとことである。

<独断評価>★★★★

音盤日誌「一日一枚」#465 吉川晃司「MODERN TIME」(SMS MD32-5022)

2023-02-25 05:02:00 | Weblog
2023年2月25日(土)


#465 吉川晃司「MODERN TIME」(SMS MD32-5022)

シンガー吉川晃司、4枚目のスタジオ・アルバム。86年リリース。木崎賢治、梅鉢康弘のプロデュース。

吉川は65年、広島県生まれ。84年、シングル「モニカ」でデビュー。

筆者は吉川のことを、デビュー当初からしっかりと意識していた。

180cm以上の長身で、しかも逆三角形体型の超カッコいいヤツ(ただし、顔はまあまあ)が映画デビューして、歌でもデビュー。

しかもその曲は、筆者も仕事絡みではあったが激推ししていた、NOBODYによるポップなナンバーだという。

やっかみ半分で聴いたら、これが意外とイケる。

ということで、しっかりヤツにハマってしまい、カラオケでは毎度、吉川のデビューからのシングル3連発を歌うようになった(笑)。

とにかくデビューしてまもない頃の吉川は、ミーハーな女性ファンの多い、ロックミュージシャンもどきの青春スター、そんな感じだった。

しかし、デビュー3年目に入ると、吉川もがむしゃらに働く(というかひとの指示で働かされる)モードからようやく脱して、自分が本当は何をやりたいのか、考えられるようになってきた。

ポップ・アイドルからアーティストへの、脱皮の時期が来たのだ。

そんな意味で、この「MODERN TIME」は吉川の「覚醒モード」の一枚と言えるだろう。

「Mis Fit」は安藤秀樹作詞、原田真二作曲のナンバー。

安藤はシンガーソングライターで、デビュー盤以来の付き合い。原田は言うまでもなく、ロック御三家のひとりとして人気の高いアーティスト。彼もまたデビュー以来曲を提供している。

コンピュータ・サウンドとハード・ロックの完璧な融合。当時最新のスタイリッシュな音がここにある。

「キャンドルの瞳」は先行シングル。オリコン2位。これも安藤と原田による作品だ。

初期の、NOBODY的ライト・ポップ路線から脱却したことを示すナンバー。

エレクトロ・ポップを基調としながらも、陰影を感じさせるマイナー・メロディ、歌詞、サウンドはロックと呼ぶにふさわしい。サックス・ソロもハマっている。

「Modern Time」は作詞・作曲ともに吉川。

吉川は前作「INNOCENT SKY」では作曲の大沢誉志幸と組んで作詞デビューしていたが、ついに作曲にも進出したのだ。名実ともにアーティストとしての条件をクリアしたと言える。

しかもこの曲でシングル・カット。結果はオリコン10位と従来より若干後退してしまったものの、吉川=アーティストというイメージをファンに強く印象づけることに成功した。

そのため初期からの、吉川にアイドル・イメージを追い求めるファンたちは、ほとんど消え去ってしまったと言う。

吉川本人としてはそれは望むところだったようで、以後彼は、自分の新しいイメージを思うがままに追求するようになる。

松武秀樹のプログラミング・サウンドから始まる、文字通りモダンで洒落た音を楽しもう。

「MISS COOL」は安藤と中島文明(現フミアキ)によるナンバー。ニューウェーブ・サウンドながらファンクでもある。

前作以来吉川のバックをつとめている後藤次利の、本気度を感じさせるスラップ・ベースがカッコいい。

そしてアルバム収録曲はすべて、後藤がアレンジしている。すなわち、吉川のであると同時に後藤の世界でもあるのだ、この「MODERN TIME」は。

つまり、ふたりのロック・ワールド。

「Drive 夜の終わりに」は安藤とキーボーディスト、佐藤健のナンバー。ゆったりとしたテンポのバラード・ロック。

かつては若干うわずっていたその歌いぶりにも余裕が出てきて、この曲などはとても説得力が感じられる。シンガー吉川の覚醒でもあるのだ。

「選ばれた夜」は安藤と原田の作品。ミディアム・テンポのロック・ナンバー。ビートに力強さを感じるサウンドだ。

「BODY WALK」は安藤と吉川の作品。ロックンロール、ハード・ロックを基調にした、気分のアガるナンバーだ。

「ナーバス ビーナス」は12インチシングルにカットされたナンバー。オリコン12位。吉川の作詞・作曲。

通常サイズのシングルだけでなく、ダンス・ピープルの需要を考えて12インチシングルも出していたあたり、流行に敏感な吉川らしい。

サビのメロディがなかなかキャッチーで、吉川は作曲のセンスもあるなと感じさせる出来ばえだ。

「サイケデリック HIP」は吉川の作詞・作曲。

後藤のスラップ・ベースが暴れまくる一曲。そしてハードなギターを弾くのは布袋寅泰、北島健二のふたり。

布袋はこのアルバムから吉川をバックアップするようになり、以後のアルバムにはすべて参加している。よほど、ウマが合ったのだろう。

つまり、88年に結成されるCOMPLEXというスーパー・グループの芽は、すでにこの時点でめばえていたということか。

布袋はボウイにおいて商業的成功を収めていたが、何かひとつ足りないものを感じていたのだろう。

それを吉川という、稀有な容姿と才能を持つ男の中に発見したということではなかろうか。

ロックとはただの音楽ではない。優れた曲を作り、いい演奏をすれば誰でもいい、そういうものではない。

「誰がそれをやるか」、それが音楽そのものと同じくらい重要なのだ。

他を圧するビジュアルを持つ、そういう人がやってこそ、優れた音楽も100倍、1000倍の威力を持つ。

顔はアジア人だからイマイチなのは仕方ないが、他を圧倒するタッパ、体格を持ちステージ映えのする吉川、そして布袋がタッグを組めば、天下を取れるのは当然だ。

彼らこそは、ハウリン・ウルフとヒューバート・サムリンに匹敵する、強力なタッグなのだと思う。

ラストの「ロスト チャイルド」は安藤の作詞・作曲。

哀感あふれるメロディのバラード・ロック。デジタル・ビートに絡むサックスとギターが味わい深い。

吉川はその後もコンスタントに活動を続け、現在も何年かに一枚のペースでアルバムもリリースしている。

いまや57歳となり、見かけはすっかりシニアとなったが、あえて白髪染めなどしないところがロックだなと思う。

青春アイドルであることをやめ、従来の芸能人的な生き方を捨てたことにより、吉川は今に至る道を発見出来たのだろう。

<独断評価>★★★★

音盤日誌「一日一枚」#464 ALBERT COLLINS, ROBERT CRAY, JOHNNY COPELAND「SHOWDOWN!」(Alligator ALL87432)

2023-02-24 06:18:00 | Weblog
2023年2月24日(金)


#464 ALBERT COLLINS, ROBERT CRAY, JOHNNY COPELAND「SHOWDOWN!」(Alligator ALL87432)

米国のブルース・ミュージシャン、アルバート・コリンズ、ロバート・クレイ、ジョニー・コープランドの3人によるセッション・アルバム。85年リリース。ブルース・イグロア、ディック・シャーマンによるプロデュース。

当時コリンズは53歳、クレイは33歳、コープランドは48歳。ブルースマンとして脂の乗り切ったコリンズとコープランド、新進気鋭のクレイががっぷり組んだかたちである。

レコーディング・メンバーは3人のほか、オルガンのアレン・バッツ、ベースのジョニー・B・ゲイデン、ドラムスのケイシー・ジョーンズ。いずれもコリンズのバック・バンドのメンバーだ。

オープニングの「T-Bone Shuffle」は言うまでもなく、Tボーン・ウォーカーの代表曲。軽快なテンポのシャッフル・ナンバー。

ボーカル、ギターを3人で回していく。まずはコープランドが歌い、ギターを弾く。次いでコリンズ、そしてクレイ。

ギター・プレイは、それぞれのスタイルの違いがはっきり出ていて興味深い。どちらかといえばベテランふたりがホットなプレイなのに、若手のクレイの方がクールなのが面白い。

「The Moon Is Full」はコリンズの妻、グウェンの作品。ゆったりとしたテンポのファンク・ブルース・ナンバー。コリンズのお得意パターンである。リード・ボーカルはもちろん、コリンズ。

ギター・ソロはクレイ、コリンズのふたり。つまり3人全員でなく、デュオというかたちの曲もあるということか。

「Lion’s Den」はコープランドの作品。アップ・テンポのツービート・ナンバー。リードボーカルをコープランドが取り、そのまま熱いソロに突入する。

後半はコリンズ、そしてクレイのギター・ソロも炸裂。嵐のような、あっという間の4分だ。

「She’s Into Something」はコンポーザー、カール・ライトの作品。マディ・ウォーターズが歌ったこの曲で一番知られている。リード・ボーカルはクレイ。

ギター・ソロは、まずはクレイから。エイト・ビートからシャッフルにリズム・チェンジした後は、コリンズ。それぞれの持ち味をうまく活かした構成だな。

「Bring Your Fine Self Home」はコープランド作のスロー・ブルース。

コープランドがとるリード・ボーカルのバックで聴こえる、シブいブルースハープはコリンズによるもの。ライブではまずお目にかかれない、コリンズの意外な側面を知ることが出来る。

ギター・ソロはコリンズ。こちらはいつものエグいコリンズ・トーンだ。

「Black Cat Bone」はブルース・ミュージシャン、ホップ・ウィルソンの作品。ウィルソンは21年生まれなので、彼らより先輩、大先輩にあたる。

コープランドのリード・ボーカル、コリンズ、コープランドのギター・ソロ、コープランドとコリンズのデュオ・ボーカル。脂っこいふたりのプレイが満喫できる一曲。

「The Dream」はクレイとプロデューサー、ブルース・ブロムバーグの作品。スロー・テンポのブルース・ナンバー。

クレイのリード・ボーカル。ギター・ソロはコープランド。これがなんともパッショネートなプレイで、当盤でも一番かという出来だ。

その盛り上がりぶりの影響が、クレイの歌にも熱が入って、次第にエキサイトしていく感じがよく伝わってくる。

「Albert’s Alley」は「The Y Twist」「Full Time Lover」などの曲で知られるブルース・ミュージシャン、フランク・”サニー”・スコットの作品。シャッフル・ビートのインストゥルメンタル・ナンバー。

まずはコリンズがソロ、次いでコープランド、そしてクレイ、再びコリンズに戻って、締め。三つ巴のギター・バトル激しくが繰り広げられる。

「Blackjack」はレイ・チャールズ作のスロー・ブルース。リード・ボーカルはコリンズ。

ギター・ソロはコープランド、クレイ、コリンズの順で続く。

3人のギターがねちこく絡み合う、コテコテのエンディングがセッションらしくていい。

ボーナストラックの「Something to Remember You By」はギター・スリム作のスロー・ブルース・ナンバー。リード・ボーカルはコリンズ。

ギター・ソロは前半コープランド、後半コリンズ。ともに哀感漂うプレイが◎であります。

3人のブルースマンの個性をそれぞれ際立たせる選曲、そして演出。単なるジャム・セッションを収めたイージーな企画ではない、入念な作りはさすがアリゲーター・レーベルの作品だ。

気軽にさらりと聴けるが、聴き込めば聴き込むほど、いろいろな発見がある一枚。

ブルースほどシンプルで、かつ奥深い音楽はないと思い知らされます。

<独断評価>★★★★

音盤日誌「一日一枚」#463 DAVID LEE ROTH「A LITTLE AIN’T ENOUGH」(Warner Blos. 9-26477-2)

2023-02-23 06:40:00 | Weblog
2023年2月23日(木)


#463 DAVID LEE ROTH「A LITTLE AIN’T ENOUGH」(Warner Blos. 9-26477-2)

米国のロック・シンガー、デイヴィッド・リー・ロスのサード・アルバム。91年リリース。ボブ・ロックによるプロデュース。

78年、ヴァン・ヘイレンの初代リード・ボーカリストとして登場。85年に脱退してソロとなったロスは、その後どのような道を辿ったのだろうか。

アルバムは「A Lil’ Ain’t Enough」でスタート。いかにもヴァン・ヘイレン・ライクなハード・ロック・ナンバー。ロスとシンガーソングライター、ロビー・ネヴィルとの共作。

ファースト、セカンド・アルバムではエディ・ヴァン・ヘイレンに代わる新しい相方としてギタリスト、スティーヴ・ヴァイと組んだが、今回彼とは袂を分かち、気鋭の若手と組むことになった。それが69年生まれのジェイソン・ベッカーだ。

オープニングからベッカーは、ハードでど派手なプレイを聴かせてくれる。つかみは十分オッケーだ。

「Shoot It」はホーンをフィーチャーした賑やかなロックンロール・ナンバー。お祭り男ダイヤモンド・デイヴが好きそうな曲調。要所要所でギターの決めフレーズが入る。

「Lady Luck」はミディアム・テンポのロック・ナンバー。ヘビーで粘り腰なビート、マイナーなメロディに第3期ディープ・パープルのような雰囲気がある。

「Hammerhead Shark」はアップ・テンポのナンバー。陽性のロックンロールだ。

ボーカルで引っ張って、ギターで盛り上げる。手だれの職人のワザだな。

ギターはベッカーの他にもうひとり、スティーヴ・ハンターがいて、主にリズム・ギター、スライド・ギターを担当している。この曲ではベッカーとハンターのスリリングな掛け合いもあって、聴きものだ。

「Tell the Truth」はダークでダウナーな曲調のロック・ナンバー。曲作りにはハンターも加わっている。

そのハンターのメロウな泣きのギターもいい。彼は特に突飛で独創的なことはしないが、常に合格点をクリアしてくるタイプだ。

「Baby’s on Fire」はアップ・テンポのハード・ロック。ロスの野獣じみたシャウト、ベッカーのバイオレンスなギター・プレイが全開だ。

「40 Below」もまたアップ・テンポのロックンロール。マットとグレッグ、ピソネット兄弟というリズム隊の切れ味バツグンのビートが、この曲の陰の主役だ。このリズムなくして、本盤のサウンドは成り立たなかっただろう。

「Sensible Shoes」は異色のブルーズィなナンバー。印象的なハープ演奏はロスによるもの。

シャウトではなく、少しくぐもったような声で歌うロスが新鮮に聴こえる。ハンターのソリッドなギターもいい感じだ。

「Last Call」は一聴して分かると思うが、明らかにロス版「ウォーク・ディス・ウェイ」。エアロスミスばりのギター・サウンドに乗せて、ラップしまくるロス。

ベタ過ぎて笑ってしまうが、これも先輩バンドへのオマージュなのだろう。

「The Dogtown Shuffle」はミドル・テンポのプギ・ナンバー。ノリのいいビートがなんとも心地よい。

「It’s Showtime!」はスーパー・アップテンポ、歌もギターもひたすら派手なお祭りロックナンバーだ。

これには「コテコテですがな」という、最上級の褒め文句を差し上げたい。   

ラストの「Drop in the Bucket」はとどめの一撃ともいうべきヘビー&ハードなナンバー。ロスとベッカーの共作。

ベッカーのトリッキーなギターが、これでもかと暴れまわり、聴き手を満足させる。

以上12曲。ダイヤモンド・デイヴの陽気で派手好きなキャラクターが全面にフィーチャーされ、それに負けじと新進ギタリストがアクロバティックなプレイで盛り上げる、サービス精神満点の一枚。

言ってみれば、それ以上でも、それ以下でもないけどね。

リスナーから求められるものをすべて披露してはいるが、何かしら新しい方向性を打ち出しているわけではないので、移り気なリスナーにはいずれあきられてしまいそう。そんなマンネリの予感はどうしても付きまとうのだ。

そういうわけで金太郎飴っぽさは否めないが、気分をアゲアゲにする曲が目いっぱい詰まっているので、とにかくストレス解消したいリスナーには、もってこいの一枚だろう。

ひとつだけ悲しく残念なことを付け加えると、ベッカーはこのアルバム制作中に難病「ALS」を発症してしまい、なんとかアルバムは完成したものの、コンサート・ツアーにも参加出来なかった。以後彼はロスのアルバム制作に携わっていない。

せっかくの将来有望な才能が、たった一枚で終わってしまったのは、惜しいとしか言いようがない。

不運の天才ギタリスト、ジェイソン・ベッカーのギター・プレイをフィーチャーした唯一の作品として、筆者は今後もこの「A LITTLE AIN’T ENOUGH」を、聴き続けていきたいと思っている。

<独断評価>★★★☆

音盤日誌「一日一枚」#462 THE STYLE COUNCIL「THE STYLE COUNCIL COLLECTION」(Polydor 529483-2)

2023-02-22 05:08:00 | Weblog
2023年2月22日(水)


#462 THE STYLE COUNCIL「THE STYLE COUNCIL COLLECTION」(Polydor 529483-2)

英語のポップ・ロック・バンド、ザ・スタイル・カウンシルのベスト盤。96年リリース。彼ら自身、ピーター・ウィルスンによるプロデュース。

ザ・スタイル・カウンシル(以下スタカン)はザ・ジャムのリーダー、ポール・ウェラーと、デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズのキーボード、ミック・タルボットのふたりが82年暮に結成したユニット。

これに当時ウェラーの恋人だったシンガー、ディー・C・リー、ドラムスのスティーブ・ホワイトが参加してパーマネント・メンバーとなった。

アルバム6枚をリリースして、90年に解散している。

そのサウンドはモータウン・ソウルに強い影響を受けた都会的で洒落たものであったが、成功はほぼ英国内でのものにとどまった。

【個人的ベスト9:第9位】

「ロング・ホット・サマー」

ファースト・アルバム「カフェ・ブリュ」の収録曲。3枚目のシングルでもある。シンセベースのビートが印象的なナンバー。同じフレーズの繰り返しにより、強力なグルーヴが生まれている。

【個人的ベスト9:第8位】

「ビッグ・ボス・グルーヴ」

6枚目のシングルのB面曲。セカンド・アルバムのデラックス・エディションにはライブ・バージョンも収められた。

聴いていると「ゲロンパ」のフレーズが出てくる。つまり、ビッグ・ボスとはジェームズ・ブラウンのこと。JBのソウルにインスパイアされた本曲は、スタカンの強いアメリカ志向を象徴している。間奏のハープのプレイがなんともイカしている。

【個人的ベスト9:第7位】

「ダウン・イン・ザ・シーン」

パリのセーヌ川の風景をモチーフにした、リズミカルなナンバー。セカンド・アルバム「アワ・フェィバリット・ショップ」収録曲。タルボットの流麗なピアノ、アコーディオンがフランスっぽいムードを、否が応でも盛り上げてくれる。

【個人的ベスト9:第6位】

「マイ・エヴァー・チェンジング・ムーズ」

軽快なビートのナンバー。ファースト・アルバム収録曲。5枚目のシングルともなっている。ホーンも加わって、気分もアガるナンバー。ホワイトのドラミングもいい。

【個人的ベスト9:第5位】

「ウィズ・エブリシング・トゥ・ルーズ」

ボサノヴァ・アレンジのナンバー。セカンド・アルバム収録曲。フルートやサックス、スキャットが効果的に使われている。ジャズィなセンス、ソウルなセンスが見事に融合した演奏だ。

【個人的ベスト9:第4位】

「ボーイ・フー・クライド・ウルフ」

狼少年の逸話がモチーフの、12枚目のシングルとなった曲。哀感のあるメロディを、張りのある声で歌い上げるウェラー。リーとのデュエット、スキャットもいい感じだ。

【個人的ベスト9:第3位】

「ユーアー・ザ・ベスト・シング」

ファースト・アルバム収録のフュージョン・ナンバー。6枚目のシングル曲でもある。アコギとパーカッション、ストリングスのアレンジがいい。サックス・ソロがさらにムードを高めるラヴソング。

【個人的ベスト9:第2位】

「マン・オブ・グレイト・プロミス」

セカンド・アルバム収録曲。スタカンらしさを代表するナンバーだと思う。力強いビート、ハーモニー、そして哀愁あふれるメロディ。彼らの魅力がすべて詰まっている。

【個人的ベスト9:第1位】

「ホームブレイカーズ」

これもまたスタカンを代表する一曲。セカンド・アルバムのオープニング・ナンバー。オルガン、ホーン、コーラスの使い方がこの上なくクールな一曲だ。ウェラーの泣きのギター・プレイもいい。

以上、筆者的に気に入った曲を挙げていくと、デビューからセカンド・アルバムまでの曲、つまり初期のスタカンに集中する結果となってしまった。

でも、それは筆者だけの好みでもないようで、後期のスタカン、特に5枚目のアルバム「コンフェッション・オブ・ア・ポップ・グループ」は本国でも評価が低く、スタカンの人気も低下してしまったという。

意表をつくアレンジが消えて、角が取れたサウンドになってしまったというか、ポップ・バンドとしての洗練を追求したあまり、初期のスタカンならではの個性を失ってしまった感はあるのだ、そのアルバムは。

どこか尖った「たくらみ」のようなものがあってこその、スタイル・カウンシル。

セカンド・アルバムまでの彼らは、マジで神サウンドだったと思う。

残念ながら、本国以外ではあまり火が付かなかったが、いま聴き直してみても、そのサウンド・マジックにはノック・アウトされてしまう。

音楽の違いの分かる人にこそ、おすすめしたい。

<独断評価>★★★★

音盤日誌「一日一枚」#461 山下達郎「ARTISAN(アルチザン)」(MMG/MOON AMCM-4100)

2023-02-21 06:23:00 | Weblog
2023年2月21日(火)


#461 山下達郎「ARTISAN(アルチザン)」(MMG/MOON AMCM-4100)

ミュージシャン、山下達郎の10枚目のスタジオ・アルバム。91年リリース。山下自身によるプロデュース。

アルバム・タイトルのアルチザンとは「職人」のこと。

アーティストと呼ばれるよりは、職人と呼ばれたいという山下の思いが、その言葉に込められている。

「アトムの子」はオープニングにふさわしい、活気あふれるジャングル・ビートのナンバーだ。子供の心をいつまでも忘れない、すべての大人たちに捧げる名曲。

「さよなら夏の日」は山下の思春期の記憶をモチーフにしたバラード・ナンバー。ブラック・ミュージックをベースにしたそのメロディには、エヴァグリーンな輝きがある。すべての楽器を山下が演奏している。

「ターナーの汽罐車 -Turner’s Steamroller-」は英国の画家、ジョゼフ・ターナーの絵画をモチーフにしている。男女の恋愛心理の微妙なずれが歌われている、静かなるロックンロール。

「片想い」は過去の日の報われない恋をうたうバラード・ナンバー。山下のファルセット・ボイスがなんとも切ない。すべての楽器を彼が演奏。

「Tokyo ‘s A Lonely Town」は一転、すべて英語で歌詞が書かれた賑やかなビート・ナンバー。トレイドウインズの「ニューヨークは淋しい町 」のカバーでもある。いわば替え歌。

田舎育ちの米国人が東京にやって来たらどう感じるか、がテーマ。東京育ちの山下の、洒落っ気が歌詞にあふれている。

「飛遊人 -Human-」はピアノをフィーチャーした短いバラード。山下の多重録音によるコーラスが、圧倒的な迫力だ。

「Splendor」はそれにすぐ続く、スケールの大きいバラード・ロック。

バンド・サウンド、3人の男女コーラスをバックに、時空を越える愛を歌う山下。

かつての日常的なラヴソングから、物語や伝説の世界へ。変容を感じる一曲だ。

「Mighty Smile(魔法の微笑み)」はモータウン・ソウルを強く意識したナンバー。ポジティブなムードの作詞は竹内まりや夫人によるもの。彼女はコーラスでも参加している。

構成はパーフェクト。安心安全のナンバーって感じ。

「“Queen Of Hype” Blues」はファンク・チューン。

山下はたいていアルバム中に一曲はこういうボーカルをオフ気味にした、演奏中心のファンキーなナンバーを入れて来る。

彼に取ってはそれも大切な「息抜き」の時間なのだろうなと思う。山下がすべての楽器を担当。

「Endless Game」はTVドラマ「誘惑」の主題歌ともなったバラード・ナンバー。

山下にしては珍しい、マイナー調のメロディで苦い思いを歌い上げている。粉川忠範のトロンボーン・ソロが深い哀感を醸し出している。

ラストの「Groovin’」は米国のバンド、ヤング・ラスカルズ67年のヒットのカバー。山下にとってビーチボーイズと並ぶアイドル、ラスカルズ前期の代表曲だ。

南国の、のどかで脳天気な雰囲気が、いかにもタツロー・ワールドなんだよなぁ。

こうやって見て来ると、本当に粒揃いの11曲だ。

ひとつも捨て曲はなく、それぞれが替えの効かない独自のポジション、カラーを持っている。

何も足す必要がないし、何も引いてはいけない。

そう言う、黄金の配置がなされていて、まさに職人の仕事だ。

だが、しかし、なのだ。

筆者にとっては、この「アルチザン」は「FOR YOU」や「MELODIES」ほどの愛聴盤には、けっしてならなかった。

どの曲を聴いても「FUTARI」「YOUR EYES」「悲しみのJODY」「メリー・ゴー・ラウンド」といった曲に対するような愛着は感じられない。

ただ「いい曲だな」「いい仕事しているな」という冷静な感想しか沸き起こってこないのだ。

なぜだろう、と考えてみた。

恋愛も成就してリア充な山下の書いた歌詞だから、失恋ソングにリアリティが感じられない、だからか?

でも、そうではないことはすぐに分かる。「FOR YOU」も「MELODIES」も、すでに山下が竹内まりやと結婚して充実した生活を送るようになってから生み出された作品なのだから。

つまり、作り手の山下側の問題ではなく、受け手の筆者側の問題だった。

82、83年ごろは、筆者が自分の恋愛問題で一番悩み、苦しんでいた時期だった。

だから、山下の作る曲、ことに失恋、苦しい恋を歌った諸作品が自分の恋愛と完全にシンクロしているように思えたのだろう。

つまりポピュラー・ソングの名作は、実はリスナーとの「共作」でもあるのだ。

リスナー側が持つ熱い思いが、その曲を不朽の名曲へと高めていくのである。

「アルチザン」は見事な作品だが、91年の時点で自分の恋愛、そして青春との折り合いをつけてしまった筆者にとっては、ウェルメイドなポップス以上のものにはならなかった。

多くのひとびとはある時期に、ポピュラー・ソングをひとまず「卒業」していく。

本盤は筆者にとって、そういう「卒業証書」なのかもしれない。

<独断評価>★★★★

音盤日誌「一日一枚」#460 ERIC CLAPTON AND FRIENDS「BRITISH BLUES HEROES」(Wise Buy WB 869262)

2023-02-20 05:12:00 | Weblog
2023年2月20日(月)


#460 ERIC CLAPTON AND FRIENDS「BRITISH BLUES HEROES」(Wise Buy WB 869262)

ブリティッシュ・ブルースのコンピレーション盤。原盤はイミディエイトのブルース・エニタイム・シリーズ。

60年代、英国では一大ブルース・ブームが起き、エリック・クラプトン、ジョン・メイオールをはじめとするさまざまなミュージシャンが、こぞって米国黒人のブルースをトリビュートしていた。そのような熱いシーンを垣間見ることが出来る一枚だ。

「オン・トップ・オブ・ザ・ワールド」はジョン・メイオール&ブルースブレイカーズによる演奏。66年のシングル。メイオールの作品。

クレジットはないのだが、レコーディング時期から考えてリード・ギターはクラプトンで間違いないだろう。

当時は先端的だったであろうフィードバック・プレイが、耳に残る一曲。

メイオールというブルース・スクールの校長のもとで、どれだけ多くのミュージシャンが世に出たかを考えると、彼こそはブリティッシュ・ブルースの最重要人物だと言えるだろう。

「サムワン・トゥ・ラヴ・ミー」はT. S. マクフィーの演奏。ここで「誰?」と思われた方も多いだろうが、実は彼、先日本欄で取り上げたジョン・リー・フッカーのアルバムでバックをつとめた、グラウンドホッグスのリーダー、トニー・マクフィーの別名なのだ。

曲はシカゴ・ブルースのハーピストとして知られるスヌーキー・プライヤーのカバー。ツービートのブルース。

マクフィーのエッジの立ったギター・プレイが実にカッコいい。

「アイ・キャント・クイット・ユー・ベイビー」はサヴォイ・ブラウン・ブルース・バンドによる演奏。

英国ではフリートウッド・マック、チキン・シャックとともに三大ブルース・バンドと呼ばれたのがサヴォイ・ブラウン。それの前身にあたる。

67年のレコードデビュー当初は、黒人ミュージシャンを2人含んでいたという。それもあってか、ピアノやハープなどかなり黒っぽい音である。

リーダー、キム・シモンズのシブめの歌、ギターが聴きもの。

「ドラッギン・マイ・テイル」はエリック・クラプトンとジミー・ペイジの演奏。ふたりのオリジナルのスロー・ブルース。

レコーディング時期はクラプトンがクリームに参加する前くらいか。ペイジはスタジオ・ミュージシャンとして売れっ子だった時代だ。

ここでは、おもにクラプトンのギターをフィーチャー。バックにはピアノやハープなども入っている。

演奏の出来映えは…まぁ、及第点ってところか。

ECということで、過大な期待はしない方がいいかも(笑)。

「ディーリング・ウィズ・ザ・デヴィル」はダーマ・ブルース・バンドによる演奏。サニーボーイ・ウィリアムスン一世の作品のカバー。

ダーマ・ブルース・バンドはピアノ、ハープ、ギターの3人によるトリオ。黒人ブルースのマニアのような連中で、69年に一枚だけアルバムを残している。

ウィリー・ディクスンのビッグ・スリー・トリオのような古き良きサウンド。中でもハープがいい味を出している。

ブリティッシュ・ブルースというとどうしてもギターがメインというイメージが強いが、こういう地道なブルース探求をする人たちもいたのだなぁと再認識。

「フーズ・ノッキング」はジェレミー・スペンサーによる歌で、彼のオリジナル。

スペンサーといえば言うまでもなく、フリートウッド・マックのオリジナル・メンバーにして、スライド・ギターの名手。ここではギターは弾かず、ピアノと歌を聴かせてくれる。

激しいシャウトと、転がるようなピアノ。

スライド・ギターばかりクローズアップされがちなスペンサーの、マック参加以前の別の顔を見ることが出来る一曲。

「ネクスト・マイルストーン」はアルバート・リーの演奏。彼自身とトニー・コルトンの作品。

リーもそのアメリカナイズされたプレイスタイルのため、つい忘れがちだが英国人である。60年代から数多くのバンドで名演を残して来た。ECバンドでの活躍は皆さんもご存知だろう。

共作者のコルトンとはヘッズ・ハンド・アンド・フィートでのバンド仲間である。

ここではゆったりとしたテンポで歌を披露し、味わい深いギター・ソロを聴かせる。

超スピード・プレイだけがアルバート・リーじゃないってことだな。

「フレイト・ローダー」は再びクラプトンとペイジによる演奏。彼らのオリジナルのスロー・ブルース。

クラプトンがリード、ペイジがリズム。

ここのプレイも、けっして悪くはないがベストともいえない、ちょっと微妙なレベル。

「ルック・ダウン・アット・マイ・ウーマン」はジェレミー・スペンサーの演奏。彼のオリジナル・ブルース。

ここでも彼はピアノの弾き語りを聴かせる。ギタリストであることを忘れてしまうくらい、見事なピアノ・マンぶりである。

「ロール・エム・ピート」はダーマ・ブルース・バンドによる演奏。オリジナルは38年にピアニストのビート・ジョンスンが作り、ビッグ・ジョー・ターナーの歌でレコード化した。ある意味、ロックンロールの始祖のような曲だ。

この曲を彼らはスキッフル風のアレンジでいなたくキメてくれる。

ブルース・ロックとはまったく違ったアプローチでも、本物のブルースは生み出せるのだ。

「チョーカー」は三たび登場のクラプトン・アンド・ペイジ。彼らのオリジナルの、アップ・テンポのブルース。

ようやく調子が出てきて、いい感じに盛り上がったのもつかの間、すぐにフェイドアウトしてしまう。まことに残念。

「トゥルー・ブルー」はサヴォイ・ブラウン・ブルース・バンドによる演奏。メンフィス・スリムの作品。

アンプリファイド・ハープをフィーチャーした、スロー・ブルースのインスト・ナンバー。

ハープとピアノとギターのプレイが溶け合って、ディープなムードを作り上げている。見事だ。

「ホエン・ユー・ゴット・ア・グッド・フレンド」はT. S. マクフィーの演奏。ロバート・ジョンスンの作品。

後にクラプトンによるカバー・バージョンでよく知られるようになったナンバーだが、マクフィーも早い時期にしっかりカバーしておりました。

しっとりとした歌声が、ECに負けず劣らずいい感じである。

ラストの「マン・オブ・ザ・ワールド」はフリートウッド・マックによる演奏。ピーター・グリーンの作品。69年リリースのシングル。

後には世界的なポップ・ロック・バンドになったマックの、ブルース・バンド時代の名演だ。

グリーンの歌、ギターの素晴らしさはもとより、その高い作曲能力をひしひしと感じるナンバー。

ブルースをベースとして、自分たちなりの新たな音楽を作り出したグリーニーには、神ががったものを感じる。

米国の伝説のヒーロー、ブルースマンに憧れた英国の若者たちも、次代のミュージック・ヒーローとなっていく。

ある者はその忠実なトリビュートというかたちで。またある者はそれにインスパイアされたオリジナル作品というかたちで。

そんな新たな伝説が生まれていく過程を、この一枚に聴き取っていただきたい。

<独断評価>★★★☆

音盤日誌「一日一枚」#459 THE DOOBIE BROTHERS「ミニット・バイ・ミニット」(ワーナーパイオニア Warner Bros. 20P2-2011)

2023-02-19 06:05:00 | Weblog
2023年2月19日(日)


#459 THE DOOBIE BROTHERS「ミニット・バイ・ミニット」(ワーナーパイオニア Warner Bros. 20P2-2011)

米国のロック・バンド、ザ・ドゥービー・ブラザーズの8枚目のアルバム。78年リリース。テッド・テンプルマンによるプロデュース。

ドゥービーズといえば「ロング・トレイン・ランニング」「リッスン・トゥ・ザ・ミュージック」「チャイナ・グローブ」あたりが代表曲だが、それらはマイケル・マクドナルドが75年に途中参加する以前のレパートリーで、その頃はトム・ジョンストンが主にフロントをつとめていた。

しかし、ジョンストンは77年のアルバム「運命の掟」でのレコーディングがバンドでの最後の活動となった。

そのアルバムでは曲の提供もせずに、ひとの曲をただ歌うだけであったし、ツアーにも参加しなかった。

マクドナルドの参加と、そのことによるバンドの音楽路線の変更を、こころよく受け入れられなくなっていたのだろう、結局この「ミニット・バイ・ミニット」を制作する前に正式に脱退を表明したのである。

初期からドゥービーズを応援していたファンたちにとっては、非常に悔しい事態であった。

とは言え、バンドとジョンストンとの関係は完全に切れてしまったわけではなく、このアルバムでも一曲だけ、ゲストボーカルという扱いで参加している。残念ながら曲は他人の作品なのだが。

また後にジョンストンはフェアウェル・ツアーでも参加している。

「ヒア・トゥ・ラヴ・ユー」はマクドナルド作、リード・ボーカルのナンバー。バックの女性コーラスは、ローズマリー・バトラー。

彼のピアノ、ホーンをフィーチャーした、ファンキーなAORナンバー。いかにも都会的な音だ。

ここにはかつての汗臭い、土臭いドゥービーズは、どこにもいない。

「ホワット・ア・フール・ビリーヴス」は同じくマクドナルドと、ケニー・ロギンスの共作によるナンバー。

翌年シングル・カットされて、4年ぶりに全米1位の大ヒットとなった。マクドナルドの代表曲としてよく知られている。また、共作者のロギンス版もレコーディングされている。

このメガヒットによりドゥービーズは、マクドナルドがフロントマンのグループへと、イメージが一気に塗り替えられたといっていい。

ファルセット・ボイスが特徴的な、マクドナルドの泣き節が全開の一曲。

一度聴くと耳にこびりつく曲のリズムも、他のアーティストにずいぶん真似されたという記憶がある。

「ミニット・バイ・ミニット」は三たびマクドナルドの作品(レスター・エイブラムスとの共作)。フュージョン色の強いナンバー。

ヘレン・レディ、ピーボ・ブライソン、テンプテーションズなど何人ものシンガーにカバーされただけでなく、ラリー・カールトンやスタンリー・クラークのようなインスト・カバーもある名曲。

たたみかけるリズムが、実に心地よい。

「ディペンディン・オン・ユー」はパット・シモンズとマクドナルドの共作。ボーカルもふたりが担当していて、バトラーもコーラスで加わっている。

ロックというよりは明らかにソウル寄りのノリ。シモンズのボーカルも黒っぽい。

「轍を見つめて」はジョンストンがゲスト・ボーカルをつとめるロック色の強いナンバー。シモンズ、ジェフ・バクスター、マイケル・エバートの共作。

ジョンストンの熱いシャウトを聴くと、昔ながらのロックなドゥービーズを感じる。これをもっと聴きたかったなぁ。

「オープン・ユア・アイズ」はマクドナルド、エイブラムス、パトリック・ヘンダーソンの共作。

これもコーラスを強調した、都会的なフュージョン・サウンドだ。

「スウィート・フィーリン」はシモンズ、プロデューサーのテッド・テンプルマンの共作。シモンズのデュエットの相手はニコレット・ラーソンだ。

シモンズの曲としてはかなりAOR寄りな作風で、ちょっとスティーリー・ダンにも通じる雰囲気がある。

「スティーマー・レイン・ブレークダウン」はアルバム唯一のインストゥルメンタル・ナンバー。シモンズの作品。

いかにも彼が好きそうな、ブルーグラス・フレーバーがあふれるカントリー・ロックに仕上がっている。ペダルスティールを弾いているのはバクスター。

これこそが、本来のドゥービーズって音じゃないかな。

「ユー・ネヴァー・チェンジ」もシモンズの作品。こちらはシモンズとマクドナルドのデュオ・ボーカルという新基軸のナンバー。

でも、ドゥービーズらしいサウンドかどうかと問うなら、答えは残念ながら「ノー」だなぁ。

ラストの「ハウ・ドゥ・ザ・フールズ・サーヴァイヴ?」はマクドナルドと女性ソングライター、キャロル・ベイヤー・セイガーの共作。

フュージョン色の強いナンバー。後半のソリッドでファンクなギターはバクスターが弾いている。これがなんともクールだ。

だが、彼もこのアルバムを最後に、ドゥービーズを離れることになる。また、ドラムスのジョン・ハートマンも脱退を表明する。

AORへの本格的なシフトチェンジ、メンバーの交代、セールスアップなど、いろいろな意味でドゥービーズの「ターニング・ポイント」となったアルバムがこの「ミニット・バイ・ミニット」。

音楽的にはマクドナルドとシモンズの双頭体制が決定的となり、ドゥービーズはこのふたりのバランスの上にしばらくは続いていく。

しかし、80年代に入り、各メンバーのソロ活動が活発となり、バンドとして続けていくことが難しくなる。

リーダーであるシモンズは82年に解散を宣言、大々的なフェアウェル・ツアーを行なって、バンドの歴史に終止符を打ったのだった。

その後、ドゥービーズはマクドナルド抜きで89年に再結成する。

以後は現在に至るまで、アルバムのリリースこそ大幅にペースダウンしたものの、地道に活動を続けている。かつてバンドを離れていったジョンストン、ハートマンも復帰している。

結局、マクドナルドの参加が、元からのバンドメンバーの結束を乱してしまったということなのか。

セールスは上向きになったものの、一部メンバーの趣味嗜好があまりにも生かされてしまい、バンドの本来の持ち味が次第に失われてしまったのだろう。

バンドの結束力と、売れる音楽。

このふたつのバランスを保つことが、いかにも難しいことを感じさせる一枚である。

<独断評価>★★★★

音盤日誌「一日一枚」#458 CROSBY, STILLS, NASH & YOUNG「4 WAY STREET」(Atlantic 7-82408-2)

2023-02-18 06:08:00 | Weblog
2023年2月18日(土)


#458 CROSBY, STILLS, NASH & YOUNG「4 WAY STREET」(Atlantic 7-82408-2)

フォークロック・バンド、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング(以下CSNY)のライブ・アルバム。71年リリース。彼ら自身によるプロデュース。NY、LA、シカゴ録音。

先日デイヴィッド・クロスビーが81歳で亡くなったというニュースが伝わり、「そうか、彼らもそんな年齢になったのか」と、歳月の経過を身を持って感じた。

70年代初頭、CSNYの音楽を日常的に聴いていた当時の中学生、つまり筆者も、いまや65歳である。

筆者の思春期、そばに女子はまったくいなかったが(男子校というのが致命的だった)、常に彼らの音楽はそばにあったものだ。

筆者が中学3年から4年間参加した、学校のフォークとロックの同好会でも、CSNYやその各メンバーのソロ曲は同好会のメンバー全員が愛唱していた。まさに思春期の伴侶だった。

そんなわけで、今回はいつものような細かな説明はすべてすっ飛ばして、もっぱら個人的な思い入れを書かせていただく。

レコードは「組曲:青い眼のジュディ」の終盤から始まる。この曲は同好会のシマムラ君、イクノ君、スミタ君が完全コピーして、文化祭のステージで大ウケしていたことを思い出す。

ガロという日本のグループも同曲をコピーしてよく演奏していたものだが、その影響もあったのだろう。

よくあのギターとコーラスを高校生が再現出来たものだ。才能と情熱、両方がないと難しい。

3曲目の「ティーチ・ユア・チルドレン」は、CSNYの代表的なヒット曲だ。

71年の英国映画「小さな恋のメロディ」のエンディングで使われて、青春ソングのスタンダードになった。

この曲が筆者の参加した同好会のテーマ・ソングでもあった。高校3年の文化祭、ラスト・ステージのフィナーレでメンバー全員で合唱したのを覚えている。これぞ青春の一コマだな。

このライブでもリードボーカルのナッシュが「一緒に歌ってくれ」と聴衆に呼びかけ、会場は大合唱となる。実にいいムードだ。

「トライアド」「リー・ショア」はクロスビーのソロ曲。彼の独特の作曲センスが、ともによく表れている。内省的な曲調で、心にジワっと沁みてくる。

後者では、ナッシュがコーラスで加わり、息の合ったハーモニーを聴かせてくれる。

6曲目の「シカゴ」はピアノを弾きつつグレアム・ナッシュが歌うナンバー。クロスビーがコーラスでサポート。

これはナッシュとしては珍しいシングル曲。内容はラブソングの多い彼の他の作品とは異なり、硬派のプロテスト・ソング。けっこうヒットしたのを覚えている。

「ロック・バンドの『シカゴ』と紛らわしいじゃん!」というツッコミを入れたのも懐かしい思い出(笑)。

コンサートの前半(ディスクの1枚目)は、リズム・セクションを加えない、完全にCSNYのメンバーだけでの歌と演奏。

だから、ロック・コンサートのライブ盤とはとても思えないくらい「静か」な1枚でもある。観客の反応も、ダイレクトに伝わってくる。

メンバーそれぞれをフィーチャーしたかたちで、ステージは進む。ソロの弾き語りだったり、他のメンバーがサポートに入ったり。基本的には1、2人の編成だ。

クロスビー、ナッシュのソロ曲の後は、ニール・ヤングが登場する。

彼はすでに何枚ものソロ・アルバムを発表しており、CSNYにも最後に参加したので、彼のときだけ少し雰囲気が違うような気がする。

ソロ・アーティスト然としているといいますか。曲も多くはソロ・アルバムから。

「カウガール・イン・ザ・サウンド」は同好会のトップ・ギタリスト、ヤマジ君がアコギでよく弾き語りをしていたなぁ。哀感あふれる曲調がいい感じだった。

彼はその後、中央官庁のお役人になってしまって、以前会った時は「ギターはすっかり忘れてしまったよ」とボヤいていたが、定年を迎えてたまにはギターを弾いたりしているのだろうか。

ヤングの次はスティーヴ・スティルス。ピアノの弾き語りで「49のバイバイズ/アメリカズ・チルドレン」を歌う。

これが実にカッコいい。ゴスペルなノリでバッファローの「フォー・ホワット」の一節なども折り込みつつ、激しいボーカルを聴かせる。それまで静かだった会場も、次第に熱気を帯びていく。

そしてヒット・ナンバーの「愛への讃歌」。この曲では他のメンバーも参加して、ノリノリのハーモニーを聴かせてくれる。

LPの1枚目はこれで終了なのだが、CDは追加トラックがある。

ナッシュが歌う「キング・マイダス」は彼のホリーズ時代の作品(クラーク、ヒックスとの共作)。こういうあまり知られていない佳曲をやってくれると嬉しい。元曲を聴いてみたくなる。

「ブラック・クイーン」はスティルスのソロ・ナンバー。ブルースに強く影響を受けたそのアコギ演奏は、圧倒的な迫力のひと言。

「ザ・ローナー~シナモン・ガール~ダウン・バイ・ザ・リヴァー」はヤングによるロング・メドレー。

ギターのイントロや最初のフレーズが出てきた時の聴衆の反応が、さすが人気シンガーと思わせる盛り上がりがある。

各メンバーでいちばん人気があるのは、実はヤングなのかもしれない。

ディスクの2枚目はバンド・スタイルによる演奏。ベースはカルヴィン・サミュエルズ、ドラムスはジョニー・バルバータ。

後半でも各メンバーの作品を取り上げていく。ナッシュの「プリ・ロード・ダウン」、そしてクロスビーの「ロング・タイム・ゴーン」。

いずれもCSNとしてのデビュー盤に収められた良曲だ。特に後者はドキュメンタリー映画「ウッドストック」でも、ステージ設営シーンで使われていて、印象に残っている人も多いだろう。

続くのはヤング作曲の2曲。「サザン・マン」と「オハイオ」。前者はソロ・アルバムから、後者はCSNYのシングル曲。

「サザン・マン」は13分以上にわたる、ヤングとスティルスのギター・バトルがまことに圧巻だ。

この2曲を聴くと思い出すのは、中学2年の終わりごろ行った、初めてのロック・コンサートでもあるクリーデンス・クリアウォーター・リバイバル公演のOAである。

先ほども言及したガロが、サポート・メンバーのベース・小原礼、ドラムス・高橋幸宏を従えてこの2曲を最後に連続で演奏したのだ。

その演奏の見事さに、日本でもこんな英米バンドにタメを張れるミュージシャンがいるんだと感動したものだ。

その高橋氏も、先日亡くなられてしまった。

いま筆者は自分の青春が、いっぺんに消えてなくなったような寂寥感を味わっている。

CSNYのコンサートのハイ・ライトはスティルス作の、これも13分以上におよぶ大曲「キャリー・オン」。

スティルスとヤングの壮絶なギター・ソロで、おなかいっぱいになれる。

ラストは4人のメンバーのみで「自由の値」を歌う。

これはヤングもコーラスに参加しているナンバー。

CSNYの黄金期のハーモニーが、この短い1曲に凝縮されていると思う。

懐かしさ、青春の苦さ、楽しさ、その他諸々の思いを喚起してくれる1枚。

あなたにも多分、この「4ウェイ・ストリート」にまつわる思い出がいっぱいあるに違いない。

そう。これこそが卒業アルバムのような1枚。

<独断評価>★★★★

音盤日誌「一日一枚」#457 THE DOORS「GREATEST HITS」(Elektra 7559-61860-2)

2023-02-17 05:00:00 | Weblog
2023年2月17日(金)


#457 THE DOORS「GREATEST HITS」(Elektra 7559-61860-2)

米国のロック・バンド、ザ・ドアーズのベスト・アルバム。95年リリース。ポール・A・ロスチャイルドほかによるプロデュース。

ドアーズは65年LAにて結成。当初はベースも含めた5人編成だったがすぐに4人となり、67年レコード・デビュー。

ボーカルのジム・モリソンの強烈な個性、そして他のメンバーの圧倒的な演奏力により、一世を風靡した。71年にモリソンがなくなり、翌年解散となる。

「ハロー・アイ・ラヴ・ユー」は68年のシングル。全米1位のヒット。メンバー全員の作品。サード・アルバム「太陽を待ちながら」からのカット。

メロディがキンクスの「オール・オブ・ザ・ナイト」に酷似していることはよく知られているが、キンクス側が寛容だったため、訴訟にならずに済んでいる。

アレンジ的にはクリーム風のサイケデリック・ロックなのがその時代っぽい。

「ハートに火をつけて」は67年、2枚目のシングルとしてリリースされ、全米1位の大ヒットとなり、ドアーズの名を一躍世界に広めた。ファースト・アルバム「ハートに火をつけて」からのカット。

他の曲同様メンバー全員の作品となっているが、作詞はギターのロビー・クリーガーが大半をやり、作曲はクリーガーとキーボードのレイ・マンザレクが主に担当している。

マンザレクのオルガン・ソロによるイントロがクール。ロック史にも残していいアレンジだと思う。

長いオルガンとギターのソロの末に再びこのフレーズが出て来る瞬間は、鳥肌ものである。

「まぼろしの世界(People are Strange)」は67年リリースのセカンド・アルバム「まぼろしの世界(Strange Days)」からのシングル・カット。

さほどヒットしなかったが、哀愁感漂うメロディがいい。

「ラヴ・ミー・トゥー・タイムズ」もセカンド・アルバムからカットされたシングル。

全体に聴かれるブルースっぽいノリは、ドアーズの本来の性格、ブルース・バンドを匂わせているね。

「ライダーズ・オン・ザ・ストーム」は71年リリースの6thアルバム「L.A. ウーマン」の最終曲。シングル化はされていない。

7分以上にわたる大曲で、その不吉な歌詞内容からモリソンの死を暗示しているとまでいわれているが、歌のモデルはビリー・クックという実在の犯罪者なんだそうだ。

ザ・ドアーズは、単なる「セックス、ドラッグ、ロックンロール!」なバカバンドではなく、文学的、哲学的なテーマを常に模索していた。

そのバンド名自体、英国の作家オルダス・ハクスリーの「知覚の扉(The Doors of Perception)」から来ているぐらいだしね。

そういう背景を知った上でドアーズの音楽を聴くと、また違ったものが見えてくるだろう。

「ブレイク・オン・スルー」は67年リリースのデビュー・シングル。ヒットには至らなかったが、ドアーズの革新性を象徴する名曲だと思う。

暴力的な手段によってでもこの世界をぶち破り、違う世界へと突き抜ける。

野獣じみたパワーに満ち溢れた、モリソンのシャウトが耳に突き刺さるナンバー。

「ロードハウス・ブルース」は、70年のアルバム「モリソン・ホテル」からのナンバー。ライブ録音。

ライブ・バンド、ブルース・バンドとしての原点にかえったサウンドだ。

オーディエンスとの直接のやりとりを楽しむモリソンが、リラックスしていてナイス。

「タッチ・ミー」は69年のアルバム「ソフト・パレード」からのシングル。全米3位。

ストリングスやブラスも加わり、えらくポップな仕上がりになっているが、ドアーズの本来の良さはあまり感じやるない。なんか、スコット・エンゲルみたいな路線だ。

やはり、彼らの魅力はバンド・サウンドにあるのだ。ただの売れ線ポップスをやるようになったら聴く気にならないなぁ。

「L.A. ウーマン」は同名アルバムより。シングル化はされていない。

それまでのドアーズでは少なかったアンプ・テンポのロック・ナンバー。

モリソンのボーカル・スタイルも年齢と共に徐々に変化して、枯れたブルースマンな雰囲気が増しているように思う。

「ラヴ・ハー・マッドリー」は当初「あの娘に狂って」という邦題がついていたナンバー。今じゃそういう表現はヤバいから変わったみたいだけど。同じく「L.A. ウーマン」からのシングル。

以前のジャズィでプログレッシブなサウンドは影を潜めて、オーソドックスなロックになっている。

この曲もブルースへの回帰がはっきりと見て取れるナンバーだ。

「ザ・ゴースト・ソング」は78年のアルバム「アメリカン・プレイヤー」からの一曲。

当然ながらモリソンは生きてはいないわけで、これは残る3人のメンバーが再び集結して、生前のモリソンが自作詩を朗読したのに合わせて演奏したアルバムだ。

もともとドアーズは、モリソンが書いていた詩を他のメンバーに語って聞かせたところからスタートしたそうだから、これこそがバンドの原点なのかもしれない。

アルバムの他のナンバーには、相当エロティックな内容のものもあるそうだ。

かつての音からだいぶん変化して、時代を反映したフュージョン・サウンドになった新ドアーズにも注目である。

ラストの「ジ・エンド」は79年の映画「地獄の黙示録」の冒頭シーンで使用されたことで再び注目が集まった大曲。デビュー・アルバムの最後に収録。

エディプス王の悲劇を題材にしたといわれる歌詞は、ことに後半が難解で、いまだに決定的な解釈はないようだ。

そしてそのライブ・パフォーマンスもまるで巫覡、シャーマンの儀式のように、異常なまでの興奮・陶酔をもたらすものだったそうだ。

ドアーズを象徴するこの曲に目をつけたコッポラ監督はスゲーなと思う。

「地獄の黙示録」に登場する人々の狂気は、見事にこの「ジ・エンド」とシンクロしているのだ。

モリソンの生涯を描いた映画「ドアーズ」も作られて、バンドの足跡そのものがレジェンドとなったザ・ドアーズ。

人生を通常の何倍ものスピードで駆け抜けてしまったジム・モリソン。

そしてその天才性に引き寄せられた、3人のミュージシャンたち。

彼らが共に過ごした何年間かに匹敵する、濃い時間を体験したアーティストは、そういるものではない。

ザ・ドアーズは、ワン・アンド・オンリーなバンドとして、ロック・ファンの記憶に永遠に刻み込まれるに違いない。

<独断評価>★★★★

音盤日誌「一日一枚」#456 BRYAN ADAMS「LIVE! LIVE! LIVE!」(ポニーキャニオン/A&M POCY-10080)

2023-02-16 05:16:00 | Weblog
2023年2月16日(木)


#456 BRYAN ADAMS「LIVE! LIVE! LIVE!」(ポニーキャニオン/A&M POCY-10080)

カナダのミュージシャン、ブライアン・アダムスのライブ・アルバム。88年リリース。アダムス自身によるプロデュース。

84年のアルバム「レックレス」で全世界的にブレイクしたアダムスの初ライブ・レコーディング。

ベルギーのヴェルヒターにおけるロック・フェスティバルでの16曲と、日本・東京での1曲を収録。

【個人的ベスト6:6位】

「ヘヴン」

「レックレス」収録、シングル・カットもされたバラード・ロック・ナンバー。もともとは83年に映画のサウンド・トラックとして作られたが、シングルとして初の全米1位を獲得した記念すべき曲だ。

キーボードとギターをフィーチャーしたドラマティックなサウンドには、アダムスがOAとして競演したこともあるジャーニーの、「時への誓い」からの強い影響が感じられる。

日本のアーティストにも、ジャーニーやアダムスのこういうアレンジにインスパイアされている人がほんと多いよね。

もはや、バラードなロックの定番スタイルとなった感があります。

【個人的ベスト6:5位】

「カッツ・ライク・ア・ナイフ」

アダムスの出世作、83年のアルバム「カッツ・ライク・ア・ナイフ」からのシングル・ヒット。

徐々に盛り上がっていくバラード・ナンバー。 

オーディエンスも掛け声を発しているうちに自然に歌に参加していき、最後は大合唱となる。

こういう、「観衆はライブのもう一つの主役」という演出が、コンサートをさらに盛り上げるのだ。そのへん、よく分かっていらっしゃる。

アダムスの曲が、男女を問わず一緒に歌いやすいメロディを持つということも、大きいね。

【個人的ベスト6:第4位】

「イッツ・オンリー・ラヴ」

コンサートでは2曲目に演奏される、「レックレス」からティナ・ターナーと共演しているバージョンがシングル・カットされてヒットした。

覚えやすいイントロやリフ、ダンサブルでノリのいいビート、派手なギター・プレイ。もう、ウケ以外の要素がありません。

このライブでは、バンドメンバーと共にシャウトしまくるアダムスの歌声が堪能できる。

アダムスの少しハスキーでパワフルな声が、セクシー極まりない。

【個人的ベスト6:第3位】

「ハーツ・オン・ファイヤー」

「レックレス」に続く87年のアルバム「イントゥ・ザ・ファイヤー」を代表する、ミディアム・テンポのハード・ロック・ナンバー。

ガンガン飛ばすというよりは、粘り腰で迫って来る感じが実にいいんだよなぁ。

本盤ではデイヴ・テイラーのベースソロがちょこっと入っているくらいで比較的コンパクトにまとまっているが、他のライブではアダムスとギタリスト、キース・スコットが延々とギター・バトルになることも多いとか。そちらのバージョンもぜひ聴いてみたいものである。

他の曲でも(例えば「ラン・トゥ・ユー」)ツイン・リードをやったりしていることから分かるように、アダムスとスコットはリズムとリードに完全に分業しているのでなく、ギターの実力も互角なのだと思う。ただギターをお飾りで持っているだけの、どこかのアイドル・シンガーとは違うのだよ。

【個人的ベスト6:第2位】

「想い出のサマー」

「レックレス」からのシングル・ヒット。全米5位となり、アルバムのセールス拡大に寄与したナンバー。

原題は「Summer of ‘69」。1969年にはアダムスはまだ10歳だったから、その頃の想い出というよりは、青春すなわちS◯Xを象徴する、ちょい意味深な数字として使ったらしい。

そういえば「おもいでの夏(Summer of ‘42)」という青春映画が昔あったが、それを少し意識しているのかもしれない。

ロックスターを目指して頑張って来たが、今ひとつ手ごたえがつかめず、もう夢を諦めて地道に生きようかなと迷っていた頃を歌詞にしたという。

この曲はイントロが始まると、アダムスは自分で歌わずに、オーディエンスにマイクを向け、彼らに歌わせる。

異国のオーディエンスも、曲をしっかりマスターしていて、彼の代わりにボーカルをつとめてくれる。

この曲に、絶大な人気があればこそのことだよな。アーティスト冥利に尽きるってヤツだ。

筆者も、聴衆に自分の曲を一緒に歌ってもらうのは究極の憧れである。

【個人的ベスト6:第1位】

「サムバディ」

「レックレス」からのシングル・ヒット。全米11位を獲得している。コンサートではラストを飾る人気ナンバー。

「みんなオレたちと一緒に歌ってくれ」とアダムスが前置きして始まる。

「I Need Somebody」の大コーラスが巻き起こり、コンサート会場は興奮のるつぼと化す。

怒涛のアンコールへとつながっていく、最高のフィナーレだ。

単に歌って聴かせるだけでなく、数千人のオーディエンスと心でつながることができる。それがライブ・コンサート。

生国カナダでも、アメリカでもなく、ヨーロッパや日本でこれだけの観衆をわかせることが出来たのは、ブライアン・アダムスにとってもこの上なく幸せな体験だったろう。

彼の生の歌声、その魅力をとくと味わってほしい。

<独断評価>★★★

音盤日誌「一日一枚」#455 川本真琴「川本真琴」(SONY RECORDS SRCL 3946)

2023-02-15 05:36:00 | Weblog
2023年2月15日(水)


#455 川本真琴「川本真琴」(SONY RECORDS SRCL 3946)

女性シンガーソングライター、川本真琴のデビュー・アルバム。97年リリース。石川鉄男、岡本靖幸によるプロデュース。

川本は74年福井生まれ。96年、シングル「愛の才能」でデビューし、30万枚を超えるヒットに。セカンド・シングル「DNA」もヒット。

そして翌年当盤がいきなりオリコン1位、ミリオンセラーとなり、一躍時の人となる。

その後、アルバム収録曲「1/2」がアニメ「るろうに剣心」のOPとして採用され、73万枚超えの大ヒット。

デビュー盤にてハット・トリックを決めることとなった。

ボーイッシュなルックスとは裏腹に、かなり高めの、いわゆるアニメ声で歌うという意表を突いたキャラクターで、唯一無二の存在となった。

そんな飛ぶ鳥を落とす時期の川本を、チェックしてみる。

メイン・プロデューサーの石川鉄男は、知名度こそイマイチだが、シンセサイザー・プレイヤー、そしてアレンジャーとして数多くのアーティストをバックアップしてきた人。

例えば渡辺美里、佐野元春、大江千里、大沢誉志幸、山下達郎、そして岡村靖幸。

そんな彼が目指したのは、ポップでありながら十分にロック・ビートにあふれたサウンドだった。

「10分前」はエスニック音楽風のバック演奏に乗り、川本の奔放なメロディ・センスが炸裂するナンバー。

PVでの彼女のイメージのせいか、川本はギター少女と思われがちだが、元々はピアノのひとなんだそうだ。

あの空を飛び回るような、自由過ぎるメロディ・ラインは、ピアノから生まれてきたのだと思うと、すとんと腑に落ちるね。

「愛の才能」は作曲・プロデュースがあの岡村靖幸ということで話題を呼んだナンバー。当時岡村はほぼ活動休止状態であったので、「岡村ちゃん復活!」というセンセーションを巻き起こしている。

その後、岡村は自身の活動を本格的に再開しているから、川本とのコラボはそのきっかけになったともいえる。

アコースティックおよびエレクトリック・ギターは岡村自身がプレイしている。ベースは有賀啓雄、ドラムスは山木秀夫。

早口で歌詞を詰め込みまくる「真琴節」がここでも全開で、聴くものを引き込む。韻を踏んだ歌詞も、ソウルフル。

黒人シンガー、プリンスを思わせる展開もあり、岡村ちゃんの洒落っ気を感じる。

そして、なんといっても、20代女子のホンネを吐露した川本の歌詞がいい。女性リスナーにも支持が高いのも納得。

「STONE」はロックバンド、SPARKS GO GOをバックに迎えたナンバー。

ヴァン・ヘイレンばりのハード・ロック・サウンドに、アニメ声が乗っかるという、トンデモなマッチング。でも、まったくミスマッチ感はない。

むしろ、これぞポップだ! そしてロックだ!

「DNA」はサンバ・ビートにアレンジされたナンバー。

明るく、ダンサブルでポップな曲調。完璧なサビ。

シングル・ヒットしないほうがおかしいくらいの出来ばえだ。

「EDGE」はピアノをフィーチャーした、英国バンド、クイーンを意識しまくりのナンバー。

ブライアン・メイそっくりのギター・サウンドは、名手佐橋佳幸によるもの。再現度たけーな。

ダークでメンヘラなムードが、アルバム中では異彩を放っている、ゴシック・ロック。

「タイムマシーン」は、歌詞が切ないバラード・ナンバー。

大人っぽいフュージョン・サウンド。歌い方も、いつもの黄色い声を抑えてしっとりとした感じ。

これもまた、川本真琴の世界なのだ。

「やきそばパン」は歌詞がひたすらユーモラスな、ビート・ナンバー。

サイケデリックなギター・サウンドが60年代後半のムードだ。

「LOVE&LUNA」はその「やきそばパン」からシームレスにつながるソウル・ナンバー。

この曲、なんとドノヴァンの「サンシャイン・スーパーマン」をまんま引用したメロディから始まるのだ。

「そんな曲まで知ってたの、お嬢さん?!」と思わず問い詰めたくなる。

おまけにバックのフルートは、まるでハービー・マン。完全に60年代ソウルのノリ。

おっさんリスナーをもニヤリとさせるアレンジ、ナイス過ぎます。

「ひまわり」はフォーク・ロックなナンバー。転調を巧みに使った構成は、きちんと作曲を学んだ者ならではのワザだなと思う。

単に思いつきだけでは、ひとつの曲としてこうもうまくまとまらない。感性と技術、両方を持つ川本にして初めて成しうるものだ。

ラストはビッグ・ヒット「1/2」で締め。

この曲、キャッチーなフィル・スペクター的なサビばかりがクローズアップされがちだが、そこに至るまでの複雑なメロディ・ラインも実にスゴいのだ。

よくこんな音選びが出来るもんだなと思うけれど、それ以上にスゴいのは、そんな奇抜なメロディを現場でパーフェクトに歌ってみせる、彼女の歌唱力なのだろうな。

終盤のファンクな展開も、なかなかカッコいい。

若いにもかかわらず、音楽の引き出しはとてつもなく多い川本と、年長の手だれのミュージシャンたちが組んで生み出したポップ・ワールド。

ずば抜けた才能というのは、いつ、どこから現れてくるか、わからない。

でも、本当の本物が出てくれば、同じく才能を持つ人たちがその才能を必ず察知して、高みに引き上げてくれるものだ。

川本真琴も、岡村靖幸、石川鉄男という強力なサポーターを得て、その才能を開花させることが出来た。

この一枚を聴くと、才能を見いだす「伯楽」の存在がいかに重要であるかが、よく分かる。

<独断評価>★★★☆

音盤日誌「一日一枚」#454 奥田民生「29」(SONY RECORDS SRCL 3134)

2023-02-14 05:28:00 | Weblog
2023年2月14日(火)


#454 奥田民生「29」(SONY RECORDS SRCL 3134)

ミュージシャン、奥田民生のソロデビュー・アルバム。95年リリース。奥田、ジョー・ブレイニーによるプロデュース。

奥田といえばユニコーンのフロントマンとして、87年のレコードデビュー以来、35年以上にわたり第一線で活躍しているアーティストだが、そのキャリアに反して不思議と大家(たいか)感のない、「永遠の若造」ってイメージがある。

まぁそれは彼の容姿とか、キャラクターによるところが大きいのだろう。

いい意味で肩の力が抜けている人で、それが彼の最大の魅力でもある。

ユニコーンは過去一度、解散している。ドラマーにしてリーダーである川西幸一が音楽性のズレを理由に脱退し、彼抜きでなんとかアルバムを一枚リリースしたものの、バンド存続のモティベーションを失い、解散のやむなきに至ったのが93年9月。

その後、奥田は半年休暇を取って充電。翌94年10月、シングル「愛のために」をリリース。

これが初のミリオンセラーとなり、ソロ活動への起爆剤となった。

渡米して現地ミュージシャンたちと共にニューヨークでレコーディング、日本での録音も合わせて、95年3月にこの「29」が完成した。

タイトルは、アルバム完成時の奥田の年齢から取られている。29歳のオレの記録、ってことだな。

参加ミュージシャンは、NY組(10曲)はドラムスのスティーヴ・ジョーダン、ベースのチャーリー・ドレイトン、ギターのワディ・ワクテル、キーボードのバーニー・ウォーレルなど。東京組はベースの山中真一、キーボードの藤井理央、ドラムスの河合マイケル、そして川西幸一、ベースの坂巻晋、パーカッションの笹本希絵 (いずれもVANILLA)。

サウンド的にはロック系の曲が過半数、フォーク系の曲がその残りというところか。もちろん、そのミックス的なものもある。 

印象に残ったナンバーから、挙げてみよう。

まずは先行シングルの「愛のために」。

筆者もカラオケで何度となく歌った曲。歯切れのいいギター・サウンドのロック・ナンバーだ。

歌詞内容は酒場でくだまいて国防論議をふっかけて来るオッサンと主人公とのやり取りのようだが、そこにさほど思想性はない。むしろ、国防論議を茶化しているとも言える。

要は「愛」がテーマで「人は愛のために死ねる(か?)」がポイントなのだろう。

この曲はやはり、ドラムスが最大の聴きどころだと思う。川西の音は、いつ聴いてもスゲーなと思う。

実際、ユニコーンが登場した時は驚いたものだ。日本のポップスなど経ずに最初から洋楽ばかり聴いて育った世代は、こんなドラムが叩けるんだって。

長らく日本人のドタドタしたプレイを聴き慣れていた筆者には目からウロコ、いや耳からウロコでしたわ。

そんなドラマーを最初からバックにして歌えた奥田が、心底うらやましい。

「息子(アルバム ヴァージョン)」は「愛のために」に続いてシングル・カットされている。これはシングルよりは長めのヴァージョン。

フォークを基調にしたサウンド。ワクテルのスライド・ギターがなんともいえずカッコよろしい。

歌詞には、奥田の実生活が反映されているのだろう。童顔の奥田も家庭を持ち子を成すことで、かつての自分の自由で気ままな世界とはまた別の、人生の真実を見出しているのに違いない。

「674」はまったりとしたフォーク・サウンドとは裏腹の、愛という名の狂気を感じさせる歌詞が実にエグい。まるでサザン・ロックのような深く激しいサウンドの「ハネムーン」も、相当歌詞はイッちゃっている。

日常の中に潜む狂気、これがこのアルバムを彩り、ありきたりのポップスとはまったく別のものにしているのだ。

当時の流行音楽は「がんばれば、うまくいく」「一途な愛を応援します」みたいなウソくさいメッセージを持つものが多かったなかで、奥田のようなちょっとハスに構えた歌詞は珍しかった。

変化球を交えつつ、奥田はこの一枚で自分のやりたいことを好きにやっている、そんな印象だ。

「ルート2」のような故郷広島をテーマにしたハードなギター・ロック、「これは歌だ」の二転三転するサイケデリックなサウンド。この辺りはロックな奥田が全開で、バックのミュージシャンたちも伸び伸びとプレイしているのがよく分かる。

アレンジをあらかじめかっちりと決めずに、その場のノリで決めていくやり方が、功を奏していると思う。

アレレと思ったのはジャズィなナンバー、「女になりたい」。奇妙な歌詞もさることながら、その歌声がまったく奥田に聴こえない。単体で聴かされたら、別人の曲としか思えないのだ。

なんとこれは「笑顔を保ったまま歌い切る」とい実験で出来上がった曲だというのだ。このジョークっぽい曲作りは、奥田ならではの洒落だな。

脳天気さの中に失恋を匂わせるフォーク・ロック・ナンバー「愛するひとよ」、「息子」同様家族をテーマにした「30才」、軽快なロックンロール・サウンドと軽佻浮薄な歌詞が特徴的な「BEEF」、どれも奥田ワールドの一側面である。

大人だけど、大人になりきっていないアラサーにしか書けない曲、それが「29」には詰まっている。

フォークとソウル・バラードの融合ともいえる「人間」、愛とは何ぞやという根源的な問題にカジュアルに迫るロック・ナンバー「奥田民生愛のテーマ」。

共にタイトルは大仰だが、本人はけっこうマジに歌詞を書いている。

答えなんて見つからない。でも、問い続け、考え続けることこそオレの音楽なのだと、奥田はいいたげである。

その後ユニコーンは2008年に復活、現在も活動中であるが、それと並行して奥田はソロ活動も続け、現在に至るまで18枚のシングル、12枚のアルバムを出している。

彼の尽きることのないクリエイティヴィティを、この一枚だけでも十分感じ取ることが出来る。

すべての人生経験が、歌を生み出す原動力なのだ。

<独断評価>★★★