NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#259 リッチー・ヴァレンス「LA BAMBA」(STARLITE CDS 51021)

2022-07-31 05:00:00 | Weblog

2005年2月5日(土)




#259 リッチー・ヴァレンス「LA BAMBA」(STARLITE CDS 51021)

夭折のロックンローラー、リッチー・ヴァレンスのコンピ盤。90年リリース。

41年LAに生まれたヴァレンスは、メキシコ人とインディアンの血を引いている。本名リチャード・ヴァンスウェイラ。

いわゆる「チカノ」である彼は、非アングロサクソン系の白人ロッカーのハシリ的な存在といえる。

デビュー・シングル「カモン・レッツ・ゴー」(58年)がスマッシュ・ヒット。続く「ドナ/ラ・バンバ」が両面ヒットして、人気を不動のものとする。

しかし、翌59年2月、バディ・ホリーらと共にツアー中、飛行機の墜落事故で急逝。なんと17才の若さであった。

本盤はそんな彼の、少数民族出身としての個性が発揮されたナンバーを20曲収録。彼のレコーディングした曲の大半がカヴァーされている。

同題映画の主題歌ともなった「ラ・バンバ」を聴けば、彼の音楽がいかにユニークな存在だったかがよくわかる。

ハイトーンで高らかに歌い上げるそのヴォーカル・スタイル、ラテン風リズム、あるいは非英語による歌詞。ロックンロールとラテン・ミュージックの見事な融合といえるだろう。

循環コードのシンプルな繰り返し、ストレートなビート。根っから陽性なそのサウンドは、現役のティーンエージャーならではのものだ。

「ドナ」や「イン・ア・ターキッシュ・タウン」「ウィ・ビロング・トゥゲザー」のようなバラードで見せるリリシズムもまたいい。そのなめらかな美声に、正統派ポップシンガーとしてのヴァレンスの顔を見出すことが出来るだろう。

だがやはり、彼の本領は「カモン・レッツ・ゴー」「ザッツ・マイ・リトル・スージー」「ドゥービー・ドゥービー・ワウ」のような、威勢のいいアップテンポのロックンロールだろうね。

筆者が個人的に気に入っているのは、アルバム最後の「ボニー・モロニー」だな。そう、ラリー・ウィリアムスの大ヒット曲のカヴァーだ。

白人のヴァレンスには、R&B臭がさほど感じられないが、この曲は別だな。うねるようなグルーヴが最高である。

バックもノリがすごくいい。特にブリブリにドライヴするベースとか。ジョニー・ウィンターのヴァージョンあたりと並んで好きである。

もし彼が(バディ・ホリーもそうだが)、事故に遭わず生き続けていれば、どれだけ名曲を送り出せたことだろう。想像もつかない。

返す返すも残念だが、彼の音楽はビートルズをはじめとする、後の多くのビート・グループ、ポップ・グループに有形無形の影響を与えているように思う。いまだって、彼の「遺伝子」は生き続けているのだ。

ティーンエージャーが、自らの生活実感をそのまま曲に書き、自らがギターを弾いて歌う。今日ならしごく当たり前のことだが、そういうスタイルは白人ではヴァレンスやホリーらによって、ようやく一般的なこととなったのだ。

偉大なる先駆者、リッチー・ヴァレンスの残した数少ない遺産。それらを聴くたびに、僕らはそこに、凝縮されたロックンロールの本質を感じることだろう。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#258 森高千里「DO THE BEST」(ワーナーミュージックジャパン/ONE UP MUSIC EPCA-7003)

2022-07-30 05:00:00 | Weblog

2005年2月4日(金)



#258 森高千里「DO THE BEST」(ワーナーミュージックジャパン/ONE UP MUSIC EPCA-7003)

森高千里のセカンド・ベスト盤。95年リリース。

結婚・出産のため音楽活動を停止していた森高千里だが、昨年から雑誌での露出を中心に、徐々にタレント業を再開している。

20才でブレイクと、アイドルとしては割りと遅咲きの彼女だったが、30才ころまでバリバリのアイドルをやっていたのだから、今考えてみるとスゴいひとであるね。

そんな森高の、90年のヒット「雨」以降のシングル及びアルバムでの人気曲を15曲収めている。

当盤の目玉はなんといっても、ミニモニ。のヒットでもおなじみの「ロックンロール県庁所在地'95」だろう。

オリジナルは92年「ペパーランド」に収録されていたのだが、これをなんと森高自身の演奏で再録音。

ドラム、ピアノ、リードギター、ワウ・ギター、そしてコーラスと、八面六臂の活躍である。

シンガーにして、マルチプレーヤー。こんなアイドル、彼女以前にはもちろん、以後もいないんじゃない?

もちろん、抜群に上手いとはいえないが、きちんとリズムをキープしているし、及第点の出来だと思う。

この「楽器を弾くアイドル(っぽいシンガー)」の路線は、現在では大塚愛、宇多田ヒカルあたりに継承されていると思うが、ひとつの楽器だけでなく、弦も鍵盤も打楽器もというのはハンパではないよね。

この「県庁所在地」以外にも、ミュージシャン森高の才能をうかがわせる曲が収録されている。たとえば「渡良瀬橋」。

昨年、松浦亜弥のカバーでヒットした曲だが、オリジナルは93年のリリース。あれから、もう10年以上経ってしまったんだね(遠い目)。

この曲ではおなじみのドラム、ピアノの他にリコーダーも吹いている。

あややの思い入れたっぷりの歌いぶりも悪くはなかったが、本家森高のさらっとした純アイドル風歌唱もいい。決して技巧的ではないが、心にしみるものがある。やっぱり、名曲だな。

「ハエ男」「ロックン・オムレツ」のようなロックンロール路線あり、「私がオバさんになっても」「気分爽快」「二人は恋人」のようなノリのいい曲あり、「雨」「風に吹かれて」「夏の日」「今日から」のようなしっとりしたバラードあり。選曲のバランスもいい。

作詞をすべて彼女が担当しているほか、「県庁所在地」「私の大事な人」では作曲にも挑戦している。これらも、彼女の凡百のアイドルとはひと味違ったセンスを感じさせる出来だ。後者のラテン感覚など、見事のひとこと。

声量不足でどこか拙いところはあるにせよ、天性のリズム感の良さ、歌詞の発想の面白さ、そういったところは他の追随を許さないものがある。

筆者は別に森高ヲタでも何でもないのだが、彼女のアイドルとしての資質は超Aクラスだったと思う。

さすがに現在は、アイドル歌手としての活動を再開するつもりはなさそうだが、何らかのかたちで創作活動を続けていって欲しいものだ。たとえば、後輩のアイドル・シンガーたちに曲を提供するとか。

世間的には、「オバさん」とよばれる年齢になってしまったが、このひとはいつまで経っても実年齢を感じさせないフワーッとした魅力がある。これもまた才能ってものだろう。

<独断評価>★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#257 ジェイク・H・コンセプション「J」(RVC/dear heart RAL-8807)

2022-07-29 05:00:00 | Weblog

2005年1月30日(日)



#257 ジェイク・H・コンセプション「J」(RVC/dear heart RAL-8807)

サックス奏者、ジェイク・H・コンセプションの初ソロ・アルバム。83年リリース。宮田茂樹プロデュース。

ジェイクはフィリピン生まれ。昭和30年代後半に来日、ビッグバンド・渡辺弘とスターダスターズに在籍後スタジオ・ワークに転じ、以来数十年、松任谷由実、中島みゆき、吉田拓郎をはじめとする日本のトップ・アーティストのバックをつとめて来た大ベテランである。

このアルバムは、そんな裏方一筋の彼としては珍しく、そのサックスと歌を全面的にフィーチャーした作りとなっている。

もともとがビッグバンド・ジャズ畑だっただけあって、彼のジャズ指向がはっきりと打ち出された選曲。ズージャ・ファンの筆者としても非常に気に入っている一枚である。

一曲目のジングル風ショート・アイテム、「[jei]」はインスト。多重録音によるサックス・アンサンブルが楽しめる。彼のオリジナル。

続く「THE OLD MUSIC MASTER」はかの「スターダスト」の作者、ホーギー・カーマイケルの作品。軽快にスウィングするラグタイム調のナンバー。聴こえてくるのびやかな歌声は、もちろんジェイク自身のそれ。これがなんともいい「味」を出している。上手いといえるかどうかは、この際置いといて。

清水信之がアレンジ、松武秀樹によるコンピューター・プログラミング以外、楽器はすべて彼が演奏しているのも聴きどころ。チェット・アトキンス風のギターとか、なかなかイカしている。

三曲目は「HONG KONG BLUES」。これもホーギー・カーマイケルの作品。実にシブいところをついてきますな。フツー、カーマイケルといったら、「スターダスト」か「煙が目にしみる」ばかり取り上げられるものだが。ジェイクの小粋な趣味がうかがえます。

曲のほうは、タイトルでわかるように、チャイナ風のメロディ&アレンジを含んだチャールストン調ナンバー。歌もリラックスしていい感じですが、もちろん、ご本業のサックス演奏もソツなくキマっています。清水信之によるオリエンタルなアレンジもグー。

お次の「PURE IMAGINATION」、これはあまり知られていない曲ですが(正直筆者もこのジェイク版で初めて知りました)、アンソニー・ニューリー=レズリー・ブリカッス(ブリキュッスか?)のコンビによるナンバー。ルー・ロウルズも歌っているようですが、オリジナル・アーティストはよくわかりません(汗)。メロウなAORふうの曲調から察するに、たぶん70年代の曲でしょう。アレンジはガンさんこと佐藤博。

ジェイクの歌唱、サックスともに、まったりとしたこの曲にピタリとハマっている。ユーミンの一連のバラードあたりとも一脈通じるものがある。リズム隊の伊藤広規、青山純("達郎組"ですな)のプレイもいい。

A面ラストは、また曲調を一転、快活なムードのポップ・チューン「WITHOUT YOU」。曲を作ったのはリンジー・ディ・ポール。名前を聴いて、「ああ、あのヒトね」と思い当たった人、あなたは筆者同様、かなりいいトシです(笑)。

そう、70年代後半から80年代にかけ、「恋のウー・アイ・ドゥ」とか「シュガー・シャッフル」などのヒットを出し、小悪魔ふうのイメージで一世を風靡した美人女性シンガー、リンジーそのひとなのであります。

ここでのジェイクは、コケティッシュなリンジーとはまったくかけはなれた「のんきな父さん」みたいなほのぼのムードで歌ってますが、それもまた佳き哉、であります。松木恒秀によるジャズィなアレンジもごキゲン。

B面トップは「THAT OLD BLACK MAGIC」。ミュージカル史上、屈指のソング・ライティング・チームのひとつ、ハロルド・アーレン=ジョニー・マーサーのコンビによる作品。おどろおどしいタイトルとは裏腹に、アップテンポで快調に飛ばすナンバー。

アレンジ担当の佐藤博はこの古~いスタンダードナンバーを見事にリニューアル、70年代のエスター・フィリップスあたりを意識したかのような、ディスコなサウンドに仕上げている。これが実にカッコいい。

ジェイクも、いかにも気持ちよさげに歌い、サックスをブロウしまくっている。

続く「ガール・トーク」は、さまざまなシンガーがカヴァーしている、二ール・ヘフティ=ボビー・トゥループの作品。

筆者は個人的には、バディ・グレコ版がベストなのだが、このジェイク版もそれに続くくらいオキニである。

バディのように「雄弁」という感じでなく、いささかたどたどしいヴォーカルなのだが、不思議と心ひかれるものがある。

人と人との和を大事に、いい仕事を残してきた職人ならではの、素朴な「味」。結局、歌はそのひとの人間性なのだよな。

この一枚のハイライトともいえる次の曲「TONIGHT THE NIGHT」でも、そういうものを強く感じる。

ジェイク自身のオリジナル。松木恒秀がリズム部分、ジェイクがホーン部分をアレンジ。どことなく山下達郎を思わせる、ファンク・ジャズに仕上がっている。

超一流のミュージシャンをバックに起用、サウンド的には一分のスキなし。でも、ヴォーカルはなんとも人間味があふれている。

テクニックに走らず、ハートで歌う、それがジェイクの歌なのだ。

ラスト「J」はトップ・チューンの別ヴァージョン。こちらは長めの構成となっている。

すべて自身の演奏。ジェイクのマルチリード・プレイが堪能出来る一曲だ。

今は死語となってしまったが、和製ジャズ&ポップスを振り出しに、この国の歌謡曲、ニュー・ミュージック、シティ・ミュージックと呼ばれてきた音楽をその確かな実力で支えてきたのが、この好好爺然としたおじさん、ジェイク・H・コンセプション。

いまでも、しっかり現役で活躍しているそうだ。今日聴いたJ-POPナンバーのサックス演奏も、実は彼によるものかも知れないよ。

ジャズ、ポップスの永遠不滅のエッセンスを体現する男、ジェイク・H・コンセプション。

いまでは廃盤となってしまったこの一枚を聴き返すたびに、この国のミュージック・シーンがいかに彼に多くの恩恵を蒙ってきたか、強く感じる。

その飾り気のない歌にあふれる、「歌心」。彼のサックス演奏と同じくらい、筆者は好きである。

<独断評価>★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#256 ラリー・カールトン「エイト・タイムス・アップ」(ワーナー・パイオニア P-13012)

2022-07-28 05:02:00 | Weblog

2005年1月23日(月)



#256 ラリー・カールトン「エイト・タイムス・アップ」(ワーナー・パイオニア P-13012)

ラリー・カールトンのライブ盤。82年1月28日東京・郵便貯金ホールにて収録。

「夜の彷徨」(78年)のヒットで一躍、日本でもトップ・ギタリストとなったカールトンの、79年の「Mr.335ライヴ・イン・ジャパン」につぐセカンド・ライヴ・アルバム。

アルバム「ストライク・トワイス」「夢飛行」の曲を中心に、6曲を聞かせてくれる。

この一枚の売りはなんといっても、史上初のデジタル・マルチ録音に成功したライヴ盤だということだな。

実際、音質は極めてクリアでキメが細かく、カールトンらトップ・ミュージシャンの演奏をダイレクトに伝えてくれる。

一曲目「ストライク・トワイス」は81年リリースの同題のアルバムから。トロピカル感覚たっぷりの、アップテンポのナンバー。

「レディーズ・アンド・ジェントルマン、ミスター・サンサンゴ、ラリー・カールトン!!」というMCと共に登場したカールトンは、さっそく猛烈なスピードで複雑なパッセージを弾きまくり、オーディエンスを圧倒する。

彼の高速プレイをサポートするバック陣も実にノリがいい。エイブラハム・ラボリエル(b)、ジョン・フェラロ(ds)の超強力なリズム隊を中心にした最強メンバーばかりだから、当然か。

二曲目「サリュート」はラボリエルの作品。ミディアム・テンポの爽やかな曲調。

この曲でのカールトンのプレイも、まことにのびやか。愛器のサンバースト335が最高に艶っぽい、いい音を出している。

どうやったら、こんな滑らかなプレイが出来るのか、同じ楽器を弾く身としては、ただただうらやましいばかりナリ。

三曲目はアルバム「夢飛行(原題・SLEEPWALK)」(81年リリース)からのナンバー、「ブルース・バード」。

そのタイトルが示すように、ブルース・フィーリングにあふれた、スロー・ナンバー。

ここでのプレイがまたいい。明らかにカールトンは、その音楽的ルーツのひとつにブルースがあって、ときには隠し味的にプレイに織り込み、ときには前面にはっきりと押し出すなど、曲によって差はあるものの、彼の演奏がブルースなしでは絶対に生まれえなかったのは間違いなかろう。

何曲かの例外を除き、歌はほとんど歌わないカールトンではあるが、そのプレイこそは、まさにギターを駆使しての「歌」だと思う。とにかく、そのスリリングでエモーショナルな演奏は、黒人ブルースマンの歌にも決してヒケをとっていない。

「ブルース・バード」を聴けば、そのことは皆さんにおわかりいただけるのでないかな。

後半のトップは「ブラック・アンド・ホワイト」。

テリー・トロッタのエレピ・ソロで始まるこの曲は、わりとジャズ・フレイバーの強い、速いテンポのナンバー。

途中から加わってくるカールトンのソロも、実にスピーディでテクニカルな印象。

「カーン河上流」は「夢飛行」収録の作品。ラテン風のリズムが、耳に心地よい。

ここでのプレイは、もうギター泣きまくりというか、泣かせまくりというか。ラリカル節の見本みたいな感じ。

ギターに続くハモンドのプレイも、高揚感があって素晴らしい。キーボードの二人も、ホントにピタリとツボを押さえた楽器の使いかたをしてるよなあ。

ラストは「ハウス・オン・ザ・ヒル」。ミディアム・テンポのナンバー。

トロッタのエレピをフィーチャーした前半に続き、カールトンのワウ・ペダルを使った迫力たっぷりの演奏が聴ける。

レパートリーは残念ながら近作中心で、「ルーム335」に代表される、旧譜でのおなじみのナンバーはやっていないのだが、それでも中身の濃さで十分楽しませてくれる一枚。デジタル技術ならではの、くっきりした音像はやはりスゴい。

最近では原点回帰ということだろうか、2004年の最新作「サファイア・ブルー」ではもっぱらブルースを演奏するなど、56歳にしてまだまだ意欲的な音作りを続けるラリー・カールトン。相変わらず、目が離せない。

来月には来日し、ブルーノート東京に出演、そのブルース曲を生で聴かせてくれるという。当然、筆者も観に行きまっせ。ラリカル版ブルース・ギター、今から、本当に楽しみである。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#255 アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ「モーニン」(キングレコード/BLUE NOTE GXF 3002)

2022-07-27 05:00:00 | Weblog

2005年1月10日(月)



#255 アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ「モーニン」(キングレコード/BLUE NOTE GXF 3002)

アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ、58年のアルバム。

この「モーニン」というタイトルで日本でもおなじみのアルバム、実はオリジナル・ジャケットにはグループ名があるのみで、何もタイトルが記されていない。「モーニン」という題のアルバムは68年に別に出ている。

だから「アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」というタイトルが正しいのだが、もう40年以上にわたってこのタイトルで通っているので、これでいかせていただく。

ピア二ストがホレス・シルヴァーからボビー・ティモンズに替わって初のレコーディング。他のメンバーは、リー・モーガン(tp)、ベニー・ゴルスン(ts)、ジミー・メリット(b)。

この五人の凄腕プレイヤーたちの演奏するタイトル・チューン「モーニン」がラジオで頻繁にかかるようになり、ジャズ・メッセンジャーズ(以降JMと略)の名は一躍メジャーなものとなる。また日本でも、61年の初来日以来、ファンキー・ジャズ・ブームを巻き起こしていく。

そういう意味でJMにとっては、ターニング・ポイントともいうべき重要な一枚なのだ。

さて、その「モーニン」なる曲は、ワーク・ソング風のブルース。ボビー・ティモンズのペンによる、ゴスペル色の強いナンバーだ。ミディアム・スローの力強いビートがまことに印象的。

演奏はテーマから始まり、モーガンのソロ→ゴルスンのソロ→ティモンズのソロ→メリットのソロと続いていく。いずれも非常に気合いの入った名演奏ばかり。

モーガンのブレイク破りのブローのインパクト、あるいはティモンズのグリッサンドの嵐やブロック・コード・ソロなど、何度聴いてもすごいの一言。

適当なやっつけ作業でなく、リハーサルを入念にやり、本番も満足のいくテイクが録れるまで何度でもやるブルーノートならではの「仕事」であるね。

10分近くという長さをまったく感じさせない、密度の濃い仕上がりに、脱帽である。

「アー・ユー・リアル」はゴルソンの作品。重厚な「モーニン」とは対照的な、ミディアム・テンポの軽快な曲調だ。

こちらはゴルスンのソロ→モーガンのソロ→ティモンズのソロ、そして各メンバーとブレイキーとのソロ交換と、それぞれのプレイヤーの「技」を思う存分堪能出来る。

続く「アロング・ケイム・ベティ」も、ゴルスンの作品。冒頭のテーマで、二管によるおなじみのゴルスン・ハーモニーが聴ける一曲。

60年代のライブでも頻繁に演奏されたナンバー。明るい曲調で快調にスウィングするさまが、なんともいい。

B面一曲目の「ドラム・サンダー組曲」はタイトル通りブレイキーのドラム・ソロをフィーチャーしたナンバー。ゴルスンの作品。

「ドラム・ロールをやらせたら世界一」とまで謳われたブレイキーの、パワーあふれるプレイを7分半にわたって楽しめる。彼の、しばしばナイアガラ瀑布に喩えられた熱演は、ハンパでなくすごい。

「ブルース・マーチ」は、この翌年にゴルスンがJMを脱退してアート・ファーマーらと共に結成する「ジャズテット」のファースト・アルバム「MEET THE JAZZTET」でも演奏されている、ブルース進行ながらもマーチの軽快なリズムを取り入れた、ハイテンションなナンバー。

ゴルスンの一分の隙もないアレンジと、各メンバーの気迫みなぎる演奏があいまって、最高の仕上がりだ。

ラストの「カム・レイン・オア・カム・シャイン」は、本アルバムで唯一、スタンダード・ナンバーを取り上げている。ハロルド・アーレン作曲。

テーマに続き、ティモンズのブロック・コードを多用したファンキーなソロ、ゴルスンのいぶし銀を思わせるブロー、華やかさではダントツのモーガンのソロ、そしてメリットの堅実なプレイ。こういう小唄風の曲にも、JMならではのダイナミズムが息づいている。

いまや五人のメンバーの大半は故人となり、JMの往年の演奏の素晴らしさは、音盤で偲ぶしかなくなってしまったが、今聴いても彼らのプレイは超人的だ。

繊細緻密なアレンジ、そして豪放なプレイ。並みのアーティストには望むべくもない、奇跡の融合がそこにある。

45年以上にわたり、聴く者の魂をゆすぶり続けてやまない、極上の演奏。ジャズというスタイルを取ってはいても、そこにはブルースの魂が強く感じられる一枚。聴かない手はないぜよ。

<独断評価>★★★★★


音盤日誌「一日一枚」#254 バディ・ガイ「I WAS WALKING THROUGH THE WOODS」(MAC/Chess CHD-9315)

2022-07-26 05:00:00 | Weblog

2005年1月9日(日)



#254 バディ・ガイ「I WAS WALKING THROUGH THE WOODS」(MAC/Chess CHD-9315)

バディ・ガイ、70年録音のアルバム。共演はジャック・マイヤーズ、オーティス・スパン、フレッド・ビロウほか。テナー&バリトン・サックスを基調とした野太くファンキーなサウンドをバックに、バディの歌とギターがハジけまくる一枚。盟友ジュニア・ウェルズもハープで3曲にゲスト参加。「STONE CRAZY」「FIRST TIME I MET THE BLUES」「LET ME LOVE YOU BABY」「MY TIME AFTER A WHILE」など、彼の代表曲といえる名演が目白押し。SGを弾くジャケ写も抜群にかっこよい。

<独断評価>★★★★★


音盤日誌「一日一枚」#253 ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK「THE COMMITMENTS」(MCA MCAD-10286)

2022-07-25 05:00:00 | Weblog

2005年1月4日(火)



#253 ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK「THE COMMITMENTS」(MCA MCAD-10286)

アラン・パーカー監督による91年公開のアイルランド映画、「ザ・コミットメンツ」のオリジナル・サウンドトラック盤。

映画のストーリーを簡単に言うと、アイルランドの首都ダブリンを舞台に、ソウル・ミュージックで一旗あげてやろうと集まった若者たち11人のバンド「ザ・コミットメンツ」をめぐる、涙と笑いの物語、といったところか。

くわしいことはビデオでも観ていただくとして、この映画、音楽がまことにイカしてるんで、本欄でピックアップしてみた。

有名シンガーなんて、ほとんど参加していない。オーディションにより選抜された、無名の俳優たちが歌っているのだが、みな十分プロとして通用するだけの力を持っているんである。

まず登場するのは、リードシンガーである、"デコ"役のアンドリュー・ストロング。

「ムスタング・サリー」「テイク・ミー・トゥ・ザ・リバー」を歌うのだが、彼の「塩辛声」が実にいい。

日本人のやっているブルースとか、ソウルとか、何物じゃあ?といいたくなるくらい、ハンパじゃないド迫力。

しかも、しかもである。この映画に出演した当時、彼はまだ十代だったというではないか!!

これで無名だったというのなら、アイルランドにはどれだけ才能あふれる若者がウヨウヨしているのか。底知れず、恐ろしい。そう、しみじみ思ったね。

続くは、女性シンガーふたりによる「チェイン・オブ・フールズ」。説明するまでもない、アレサ・フランクリンの名曲だ。

歌うは金髪のイメルダ役のアンジェリン・ボールと、ブルネットのナタリー役のマリア・ドイル。

その貫禄あふれる歌いぶりたるや、音で聴いただけでは、うら若い白人女性だとは絶対わからないと思うよ。

そして、このバンドというか、映画の素晴らしいところは、前出の3曲みたいな有名なナンバーだけでなく、知る人ぞ知る、みたいな隠れた名曲を、さりげなく織り込んでいるところだ。

そのひとつが次の「ザ・ダーク・エンド・オブ・ザ・ストリート」。歌うはアンドリュー・ストロング。

チップス・モーマンとダン・ペンのコンビによるこの畢生のメロディを、コミットメンツは90年代に見事に甦らせてくれた。

ここではストロングが実にしっとりとした歌を聴かせる。彼はシャウト一辺倒かと思いきや、そういう一面もあるんだね、さすがである。

アンジェリン・ボールの歌う、アン・ピーブルスのカバー「アイ・キャント・スタンド・ザ・レイン」もいい。ハンブル・パイのアルバムの時にも紹介したけど、この曲はホント、名曲だよな。

圧巻なのは「トライ・ア・リトル・テンダーネス」。これはスゴいよ。全身の血が沸騰しそうなシャウト。映画を観ずに、このCDだけを聴いたとしても、それは伝わってくるだろう。

オーティス・レディングの白人版カバーとしては、スリー・ドッグ・ナイトのコリー・ウェルズと並ぶ出来だと断言してしまおう。

この他も、ソウル・ファンなら「う~ん」と唸ること間違いなしのナンバーが目白押しだ。

これまたモーマン=ペン・コンビの「ドゥ・ライト・ウーマン、ドゥ・ライト・マン」、オーティスの「ミスター・ピティフル」、アレサでおなじみの「アイ・ネヴァー・ラヴド・ア・マン」、ウィルスン・ピケットの「イン・ザ・ミッドナイト・アワー」、「バイ・バイ・ベイビー」(同名異曲が多いナンバーだが、これはモータウンの代表的女性シンガー、メアリー・ウェルズ版)、どれもこれも涙ちょちょ切れものですな。

そしてラストの「スリップ・アウェイ」。これはクラレンス・カーターの歌で知られている曲だが、バンドの仕掛人ジミー役のロバート・アトキンスの声が、ストロングとは対照的に甘~い感じで、なかなかグー。

ビデオ、あるいはCDのジャケット写真を観るに、11人のメンバーは若干一名(ジョーイ役のジョニー・マーフィ)を除いて、いわゆる芸能人っぽい雰囲気などまるでない、フツーの人々。

街中でいくらでも見かける、アンちゃん、ネーちゃんタイプなんであるが、それがいかにもザ・コミットメンツらしさだとも思う。

華やかさではゲイノージンにはとてもかなわない一般ピープルが、実質本位の音で勝負出来るのが、ソウル・ミュージック。まさに、ダブリンの底辺に暮す若者たちにとって、希望を与えてくれる音なのだ。

架空の存在なれど、これくらいイカした音楽を生み出せるバンドは、本場アメリカにだってそうありゃしない。

バックの演奏も、タイトにきまっていて、素晴らしいのひとこと。こういう音を、われわれも作れたら、最高なんだがな。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#252 ピチカート・ファイヴ「PIZZICATO V in the Audrey Hepburn Complex」(NON-STANDARD 12NS-1003)

2022-07-24 05:00:00 | Weblog

2004年12月19日(日)



#252 ピチカート・ファイヴ「PIZZICATO V in the Audrey Hepburn Complex」(NON-STANDARD 12NS-1003)

ピチカート・ファイヴのデビュー盤(12インチシングル)。85年5月リリース。細野晴臣プロデュース。

84年結成だから、もう20年選手ってことか。筆者は何故かデビュー当時から彼らを知っていたのだが、歳月のたつのは早いもんだ。

当時のメンバーは小西康陽(B,Kb,Vo)、高浪敬太郎(G,Kb,Vo)、鴨宮諒(Kb)、佐々木麻美子(Vo)の4人。

彼らがブレイクするのは、3代目ヴォーカル・野宮真貴が加入してからだが、無名時代もけっこうユニークで面白い音を出してた。

本当に久しぶりに聴き直してみて思ったのは、シブヤ系音楽の開祖とか後に呼ばれことになる彼らも、当初は「テクノポップ」バンドだったのね~ということ。

「オードリー・ヘップバーン・コンプレックス」とか「59番街橋の歌(フィーリン・グルーヴィー)」(S&Gでおなじみのあの曲ね)とか聴いてみても、バックのサウンドはまさにYMOからの延長線上にある。

ベースはシンセによるテクノ・サウンド。その上に生ピアノやウクレレ、コーラス等の凝ったアレンジが加わって、彼ら独自の音世界が生み出されている。

これに麻美子の、か細いヘタウマ(というかヘタヘタ?)ヴォーカルが乗っかり、気分は何とも「アート&モード」。

一般受けの要素はないけど、アルバムジャケットの表裏のデザインとか、昔の洋画のお洒落なセンスがぷんぷんしていて、いわゆる高感度な人々の支持は高かった。

かくいう筆者も、他人には推薦せずに密かにこういうレコードを愛聴していたわけで、いま考えてみると、ちょっとキモかった?

まさに当時の「旬」の音だったわけで、今聴くとかなり違和感を禁じえない。この手の「お洒落系」の音は、質実剛健系の音とは対照的に、モロ歳月を感じてしまいますな。

とはいえ、現在は著名なれど当時アマチュアに毛が生えたくらいのアーティストであった小西康陽、高浪敬太郎らが、その頃から高いセンスを感じさせる作品作りをしていた、これが本盤の聴きどころでありましょう。

ところで、小西康陽といえば、近年はアイドル・シンガーのプロデュースにもけっこう力を入れていて、一番最近では小倉優子の新曲「オンナのコ オトコのコ」を手がけている。これがなかなか面白い。

彼女のヘタヘタ系ヴォーカルをうまくカヴァーするように、語りっぽいメロディに仕上げている。これって、フレンチ・ポップスの手法だよな。佐々木麻美子以来、小西康陽は歌が下手な女性シンガーと妙に相性がいい(笑)。一度聴いてみそ。

<独断評価>★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#251 エリック・クラプトン「461オーシャン・ブールヴァード」(POLYDOR POCP-2275)

2022-07-23 05:00:00 | Weblog

2004年12月12日(日)



#251 エリック・クラプトン「461オーシャン・ブールヴァード」(POLYDOR POCP-2275)

エリック・クラプトン、74年のアルバム。トム・ダウドによるプロデュース。

なんだかんだいっても、ロック史をこの一枚抜きで語るわけにはいかない、そういうアルバムだろう。

デレク&ドミノス解散後約3年間、ECは音楽活動をほぼ中断していた。

皆さんもご存じのように、その間ずっと、重度のドラッグ中毒との闘いを続けていたのである。

74年4月、ついに彼は音楽活動へのカムバックを決意する。そして、8月にこのアルバムをリリースし、不死鳥のように甦る。

出来ばえは、本当に見事なものだった。過去の自分をいったん捨て、新しいECのサウンドを打ち立てたのである。

たとえば、EC初の全米ナンバーワンヒットとなった「I SHOT THE SHERIFF」。ボブ・マーリィ&ザ・ウェイラーズをカヴァーしたこのナンバーは、かつてのタイトなECサウンドからは想像もつかない、ゆるやかでメロウなヨコノリの音だ。

そう、ここからECの「レイドバック」な音は本格的に始まったといってよい。

バック・サウンドはデレク&ドミノスを想起させるトップ・チューン「MOTHRLESS CHILDREN」にしても、その歌いぶりは何とも力みがなく、自然体。かつて、自分の力量を越えて無理にシャウトしようとしていたECからは、明らかに一皮剥けたという印象がある。

そう、ECが「ヴォーカリスト」として、初めて己れの力量を客観的に把握し、その長所を生かした歌をうたえるようになったのがこの一枚からではなかろうか。

酒やドラッグに溺れ、親友から奥さんを奪うような「やんちゃ」を繰り返して来た彼も、ようやく「矩(のり)」をこえずに生きられるようになったということか。ときにEC29歳。

ECの新しい世界は、他の曲でも随所に見出すことが出来る。たとえば「GET READY」。

クラプトンのオリジナル曲とはいえ、リズム・アプローチはいかにもボブ・マーリィらレゲェ・アーティスト達の影響を感じさせ、ものすごく新鮮だ。アジア系女性シンガー、イヴォンヌ・エリマンとの歌での絡みも、ねちっこくイカしている。

何曲か収録されている、ブルース・スタンダードのカヴァーは、ECが従来からやって来たことではあるが、こちらも少しテイストというかリズム・アレンジが変化しているように思う。

たとえば「WILLIE AND THE HAND JIVE」。ジョニー・オーティスで知られるこのナンバーも、知らずに聴けば過去の曲とは思えないだろう。

なんだかのどかで、南方の島っぽい音なんである。ギターはおさえめにリズム・カッティングに徹し、キーボードを前面に押し出したアレンジ、ゆるめのビートが、そういう気分にさせるのだろう。

たとえていうなら、以前のクラプトンは寒風吹きすさぶシカゴにいたとすれば、この一枚での彼は、常夏のキングストンまで一気に移動して来たというところ。

当盤を実際にレコーディングしている場所も、フロリダ州マイアミだった。これは彼の気分、そして音に少なからず影響を与えたといえそう。

「I CAN'T HOLD OUT」は、スライド・ギターの神様ことエルモア・ジェイムズのナンバー。これまたルースでダウン・トゥ・アースなノリが印象的。

ECはスライド・ソロも披露。テンポはスローなのに、何ともスピード感に満ちている。さすがこちらもギターの神。

「STEADY ROLLIN' MAN」はECお気に入りのロバート・ジョンスン作のブルース。こちらは、ブルースというよりは、ファンクなアレンジでモダンな味わいに仕上がっている。完全に彼流に消化されているのが、お見事。

一方、フォーキーな曲、アコースティックなバラード系のナンバーにも佳曲多し。「GIVE ME STRENGTH」しかり、「PLEASE BE WITH ME」しかり、「LET IT GROW」しかり。いずれも美しいメロディを、力みのないナイーブな歌声で聴かせてくれる。

これらの作品群が、パティ・ボイドとの恋から生み出されたものであろうことは、想像に難くない。

ラストは「MAINLINE FLORIDA」で締めくくり。ロックっぽい、メリハリある演奏とコーラスが◎。

彼が過去やって来たブルースでもなく、ブルース・ロックでもなく、ハード・ロックでもない、「ECのロック」がここにはある。

迷い多き巨人ECが、試行錯誤の末に、ついに自分の進むべき道を見出した一枚、ということでこの「461~」というアルバムの意味はとてつもなく大きい。

ECにとって、そしてロックという音楽にとって「格別」の一枚。必聴です。

<独断評価>★★★★★


音盤日誌「一日一枚」#250 デヴィッド・ボウイ「レッツ・ダンス」(東芝EMI EYS-81580)

2022-07-22 05:09:00 | Weblog

2004年11月28日(日)



#250 デヴィッド・ボウイ「レッツ・ダンス」(東芝EMI EYS-81580)

デヴィッド・ボウイ、83年のアルバム。ボウイとナイル・ロジャーズの共同プロデュース。

67年、デラム・レコードからデビューして以来、第一線を走り続けているボウイだが、ひとつのスタイルにとどまらず常に変容を続けているのが彼の特徴だと思う。

もし彼のサウンドが、初期のグラム・ロック・スタイルのままだったら、70年代の後半には消えてしまっていたに違いない。

幅の広いサウンド・メイキングにより、不死鳥のように何度も甦って来た男、それがデヴィッド・ボウイだと思う。

そんな中でも、中期(80年代)を代表するアルバムだと思うのが、これ。

当時飛ぶ鳥を落とす勢いのプロデューサー、ナイル・ロジャーズを迎え、ロック、ファンク、ポップといったジャンルに縛られない闊達な音を生み出すことに成功している。

聴きどころといえば、まずはスマッシュ・ヒットともなったアルバム・タイトル・チューン、「レッツ・ダンス」だろう。

これがまた、当時最高潮に盛り上がっていたディスコ・シーンを敏感に察知した、ひたすらダンサブルな音。

それも、かなり生音重視のアレンジだ。シンセサイザーをあえて使わず、生のブラス・セクション、あるいはビートルズばりの強力なコーラスを前面に押し出している。

プロデューサーのナイル・ロジャーズはこのアルバムの音を「モダン・ビッグバンド・ロック」と呼んでいたそうだが、ナットクのネーミングだと思う。

シンセなしでは夜も日も明けぬニューウェーブ系の音作りとは一線を画していて、アメリカ市場にもすんなり受け入れられそうな、王道路線。

デヴィッド・ボウイというミュージシャン、ただのすかした伊達男ではない。非常にビジネス・センスもあることがこれでよくわかる。

そう、「売れてナンボ」がこの世界。常にヴィジュアル面ではトリッキーな戦術で世間の注目を集める一方、音のほうでは基本を絶対外さない手堅い作り方をする。これ最強。

刺激的なギター・カッティングとパワフルなドラムスの連打で始まり、ボウイのサックス・ソロがフィーチャーされる「モダン・ラヴ」、オリエンタル趣味を露骨に打ち出した、畏友イギー・ポップとの共作の再演「チャイナ・ガール」、ファルセット・ヴォイスが特徴的なビート・ナンバー「ウィズアウト・ユー」と、A面の他の曲も粒揃い。ことにオマー・ハキム、トニー・トンプソンのダブル・ドラマーが叩き出すビートは強力無比のひとこと。

B面もまったくハズレ曲なし。

重厚なビートに乗せたアンニュイなボウイ節が全開なのは「リコシェ」。英国のグループ、メトロのピーター・ゴッドウィン、ダンカン・ブラウンの作品をカバーした「クリミナル・ワールド」は、対照的にファルセット中心の軽い歌いぶり。ボウイとドイツ人プロデューサー、ジョルジオ・モロダーとの共作「キャット・ピープル」では、へヴィーなリズムとボウイの激しいシャウトがなんとも印象的。ラストの「シェイク・イット」はこの一枚では珍しくシンセ中心のアレンジで、妙にポップな感じのナンバー。ま、これもボウイらしさのひとつの表れだが。

一曲を除けば全体に重心が低めというか、地に足がついた音作りなので、20年以上たった現在聴いてもまったく違和感がないのがスゴい。

いわゆるお洒落系、流行りもの系の音って、ふつうは後で聴くと、ものすごく恥ずかしく思えるものが多いんだけどね。

このアルバムを発表した83年、ボウイは大島渚監督作品「戦場のメリークリスマス」にも出演。その特異なる演技で世間を大いに唸らせている。まさに中期ボウイの当たり年。

この2年後には、ミック・ジャガーと共演、「ダンシング・イン・ザ・ストリート」を歌うなど、ホント、ノリに乗っていた感がある。

ボウイって、いわゆる「上手い」シンガーではないんだけど、容姿とかも含めてワン・アンド・オンリーな個性の持ち主だと思う。常に世間の期待以上のものを見せてくれるということでは、稀有なポップ・スターだな。

観ている者を釘づけにする「魅力(チャーム)」を持っているということでは、たぶん、ポップス史上ベスト5に入るような気がする。筆者にとってみれば、自分は逆立ちしても絶対なれないタイプのミュージシャン。実は密かに憧れとります(笑)。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#249 メル・トーメ「ニューヨークの休日」(ワーナーパイオニア SD 8091)

2022-07-21 05:00:00 | Weblog

2004年11月14日(日)



#249 メル・トーメ「ニューヨークの休日」(ワーナーパイオニア SD 8091)

日曜日の朝に聴くのにうってつけの一枚。ベテラン・ジャズシンガー、メル・トーメのアルバム、63年リリース。

トーメは、同年公開の米映画「SUNDAY IN NEWYORK(邦題・ニューヨークの休日)」の主題歌を歌ったのだが、それがきっかけでこの一枚が生まれた。ニューヨークにまつわる曲ばかり、13曲を集めて歌ったのである。

これがまた名曲&名唱ぞろい。名盤の多いトーメのレコードの中でも、出色の出来だと思う。

トップはもちろん、「ニューヨークの休日」の主題歌。ピーター・ネロ作曲。

いかにも休日っぽい、リラックスした雰囲気で歌われる、ミディアム・テンポのスウィンギーなナンバー。

トーメのなめらかなヴェルヴェット・ボイスは、本盤でも、もちろん絶好調である。

続く「ニューヨークの秋」はミュージカル作曲家、ヴァーノン・デューク34年作のバラード。

しっとりとしたメロディ、そして大都会NYCの美しい風景をリリカルに描写した歌詞。

文句なしの名曲だといえるだろう。

「バードランドの子守歌」はジャズ・ピアニスト、ジョージ・シアリングの代表作。

もちろん、有名なNYCのジャズ・クラブ「バードランド」にちなんだバラード。

トーメはかつて56年にもこの曲を録音しているので、再演ということになる。

この曲のアレンジがまた素晴らしい。名バンド・リーダー、ショーティ・ロジャーズによるものだが、ピアノ、フルート、ヴァイブのユニゾンによる絡みが何とも耳に心地よいのだ。

むろん、トーメの広い声域、ゆたかな表現力を生かした歌唱も◎だ。

「ブロードウェイ」はスウィング・ジャズの定番ナンバー。カウント・ベイシー、レスター・ヤング、スタン・ゲッツらの演奏でおなじみである。

トーメはこの曲を、持ち前の抜群のリズム感で歌いこなしている。

「ブルックリン・ブリッジ」は、フランク・シナトラ主演の映画「下町天国」(47年)の主題歌。

ニューヨークの下町、ブルックリンのムードがぷんぷんとする、いなせな歌唱を楽しむべし。

A面最後の「レット・ミー・オフ・アップタウン」はジーン・クルーパ楽団でヒットしたスウィンギーなナンバー。

間奏部の、トーメのスキャットとバンドの掛け合いが実にカッコいい。必聴なり。

一転、ぐっと落ち着いたムードで始まるブルーズィな曲は「42番街」。

おなじみ、劇場の多いNYC42丁目(東京でいえば日比谷あたりか?)の雰囲気を濃厚にかもし出している。

バックのストリングスのやるせない調べが、何ともいえずいい。

「ニューヨークの舗道」は、なんと1894年に作られたという、アルバム中最も古いナンバー。

しかもNYCの市歌にもなっているという、NYソングの最右翼的存在。

この何ともオールド・ファッションなメロディを、モダンな感覚で自分流に料理してさらりと歌い上げてしまうトーメ。

さすが、歌手の中の歌手だけあります。

「ハーレム・ノクターン」はサム・テイラーによる演奏でおなじみだが、元をたどれば戦前のジャズ・ナンバー。

ハーレムの独特のたたずまいを音だけで表現した佳曲を、白人のトーメがブルーズィに歌う。これまた一興である。

「ニューヨーク・ニューヨーク」はシナトラによる同名異曲があるので勘違いしやすいが、古いほうの「ニューヨーク・ニューヨーク」。映画「踊る大紐育」(49年)の主題歌である。

軽快にスウィングしまくるトーメ。聴いてくるこちらも、実に気持ちいい。

「嘆きのブロードウェイ」は1910年代の曲。ミディアム・スローのバラード。

この曲もショーティ・ロジャーズの、ピアノ&ヴァイブの響きを生かしたアレンジがまことに秀逸。

古いナンバーも、アレンジ次第では見事に甦る好例だといえよう。

「マンハッタン」は、ジャズ史上屈指のソングライティング・チーム、ロジャーズ&ハートの代表曲。

あまたあるニューヨークをテーマにした歌曲の中でも、トップクラスの出来といえよう。

以前このコーナーで取り上げたブロッサム・ディアリーの、まったりとした歌唱も筆者は気に入っているが、トーメの歯切れのいい歌いぶりも捨て難い。

イントロから繰りひろげられる、ストリングス+コンボのちょっと凝ったアレンジ(ディック・ハザードによる)も、聴きもののひとつだ。

ラスト・ナンバーは「マイ・タイム・オブ・デイ」というタイトルのバラード。これもNYCを舞台にしたミュージカル映画のナンバーだそうだ。

一巻のしめくくりにふさわしい、しっとりとした歌唱。お見事!の一言である。

最高の楽曲、最高の歌唱、そして最高のアレンジ。何とも贅沢な音のフルコース。何度味わっても厭きない一枚とは、こういうのをいうのだろう。絶対のおすすめです。

<独断評価>★★★★★


音盤日誌「一日一枚」#248 BEAT CLUB ALL STARS「BEAT CLUB ALL STARS」(Yotsuba Records BCS-OM001)

2022-07-20 05:00:00 | Weblog

2004年11月7日(日)



#248 BEAT CLUB ALL STARS「BEAT CLUB ALL STARS」(Yotsuba Records BCS-OM001)

栃木県宇都宮市にある、ライブハウスを兼ねたスタジオ、「BEAT CLUB STUDIO」。そこに集うミュージシャンたちの集団「BEAT CLUB ALL STARS」がリリースしたオムニバス・アルバム。インディーズレーベル「Yotsuba Records」より本年リリース。

実はこの一枚、知人のhisaeさんからありがたくも頂戴したのだが、一度聴いてみて、そのクォリティの高さにビックリしてしまった。

もう、この中からすぐにメジャー・シーンに躍り出てもおかしくないレベルのアーティストが何組もいるのだよ。

いずれのアーティストも、基本的にはアコースティックギターをフィーチャーしたサウンドなのだが、フォーク、ボサノバ、フュージョン、ブルースなど極めてバラエティに富んでいてあきさせない。

ショート・ジングル「BEAT CLUB STUDIO」で登場するのはトリオ編成のJamsbee

2曲目の「Cafe Deja Vu」は英語詞による、フォーキーなバラード。

リードヴォーカル・上原誠のせつない歌声、廉慎介のハモりが、いい雰囲気を出してる。ギター2本、べースによるアンサンブルも綺麗にまとまっている。

どこか往年のグループ、BREADを想起させる音。筆者のふだん聴いている音楽とはまるきり方向性が違うが、その高い音楽性には素直に賞賛の辞を寄せたい。

続くはソロシンガー・屋代篤司による「エッセンス」。

ふだんはアコギでの弾き語りスタイルのようだが、本盤ではドラムスも加えたメリハリある演奏をバックに、ハイトーンでのヴォーカルを聴かせる。

本人の多重録音によるハーモニーも、なかなか素晴らしい。

2曲目の「熱風」は、ファンク風味のナンバー。ハードにドライヴするアコギ・サウンドを聴かせる。

この曲も、屋代の張りのある硬質な歌声がなんともいい。

ただ、比較的複雑なコード進行にもかかわらず、アレンジがコードカッティング一辺倒なので、いささか違和感がある。編曲にもうひとつ工夫があればさらに良し。

次に登場するのは、ギター、あるいはピアノで弾き語りというスタイルの小川健。曲は「リーフ」と「君に届けたいフレーズ」。かな~り甘口の声なので、筆者的にはちと苦手(笑)。

でも、声質といい、純愛路線の歌詞といい、ポップな曲調といい、いかにも女性にはウケそうだな。守備範囲外なので(笑)、コメントはこのへんで勘弁。

四番手はCliche ♭5(クリシェ・フラット・ファイブ)という、女性シンガーnaomi.kをフィーチャーした2人組のユニット。

サウンド指向の強い、いかにも都会的で洗練された音を聴かせる。お洒落系といいますか。

ヴォーカルが中島美嘉風、ボサノバ調の「影」はことにカッコいい。でもバラードナンバー、「星を数えてる」はちょっとありきたりな曲調かな。何となく今井美樹みたいだし。

筆者的には、彼らに正統派バラード路線よりは、カッとんだお洒落系を歩んで行ってほしいと思うとります。

さて、お次に登場するのはひでぼうず。もちろん、当サイトでもおなじみの、ひであきさんとBoseさん、あのお二人である。

本盤ではべースを加えた編成で、ハードでファンキーな演奏を聴かせてくれる。

インストゥルメンタル・ナンバー、「コブラツイスト(Thousand earthworms feel so good)」は、インプロヴィゼーション炸裂、いかにもフュージョンな一曲。

副題からわかるように、かなりエロティックな含みをもった曲で、なんと、あのhisaeさんやみぎねじさんの色っぽいヴォイスも聴けます。要チェキ!ですぞ。

もう一曲は「Breath」。こちらはヴァイオリンを加え、リラックスした雰囲気のバラード。ヴァイオリンに合わせた歌が聴けますが、このヴォーカルはみぎねじさん。

アコースティック・ギターの美しい響きを最大限に生かした演奏。テクニックには定評のあるこのデュオ、さすがに安心して聴けますな。

続くはえだ たかし。彼もふだんはギターで弾き語りというスタイルのひと。

一曲目の「One Night Blues」は、彼がソロと並行してやっているユニット「みじぇっと」の相方、いしかわ☆さちよとデュエットしたアコギ・ブルース。

この、いしかわ嬢の声が、筆者的にはツボにハマってしまった。ちょっぴりハスキーな泣き節。一度聴いたら忘れられない。

彼女のCDだったら、絶対買って聴くんじゃないかな。ライブでもぜひ一度観てみたい人です。

えだ たかしでもう一曲。こちらはバンド編成での「Fly High!」。清涼感のあるアップテンポのナンバー。

ハイトーンでの歌唱にちょっと不安定なところがあるので、そんへんが彼の今後の課題かな。

そして、超個性派シンガー登場。Mint. 1/2(ミントにぶんのいち)である。アコギとカズーでカントリー調の「電車にゆられて」のようなトッポい曲を歌ったかと思えば、竪琴を達者に弾きながらメロディアスなバラード「感謝のテーマ」をキメたりもする。

ステージでのパフォーマンス、MCも抜群に面白いそうで、ローカルでは既に有名人的存在。

そのうち、メジャーシーンでいつのまにやら活躍してた、なんてなことになりそうな人だね。

最後はふたたびJamsbeeがスタジオライブで登場。歌うは「餃子ブルース」。

この曲はNESTの公開セッション、寿家さんのオフ会でも、ひであきさんらが披露していたので、すでにご存じのかたも多いだろう。

オリジナルはこのJamsbee。とはいえ、もうこの「BEAT CLUB STUDIO」に集う人々にとっては共有財産みたいな愛唱歌になっている。

実際、このテイクでも、オーディエンスとの大合唱になり、盛り上がりまくる。

歌詞は毎回アドリブでいろいろと変わるそうで、そのへんがいかにもブルースっぽくていい。

Jamsbeeの、フォーク路線とはまた違った別の、ブルーズィでファンキーな魅力があふれた一曲である。

以上、さまざまなスタイルのオリジナル・ナンバーがテンコ盛り、約60分、フルに楽しめるので、興味をお持ちになった方は、ぜひ、上記のサイトにアクセスして欲しい。

筆者的には「ひでぼうず」と「えだ たかし&いしかわ☆さちよ」が今もパワープレイ中。

実にナイスな音盤。hisaeさんには、感謝しかない。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#247 松岡直也「PLAY 4 YOU」(ワーナー・パイオニア WPCL-186)

2022-07-19 05:00:00 | Weblog

2004年10月24日(日)



#247 松岡直也「PLAY 4 YOU」(ワーナー・パイオニア WPCL-186)

37年生まれのベテラン・ピアニスト、松岡直也が率いるカルテットによるライヴ盤。89年12月録音、90年リリース。

その顔ぶれがスゴい。べース・高橋ゲタ夫、パーカッション・ペッカー、ドラムス・村上秀一。これぞ本邦最強のカルテット。

一般にジャズ系のノン・ヴォーカル音楽って、長時間聴くのはしんどいもんだが、彼らぐらいテクと、ノリと、センスがあるメンツなら、全くあきさせるというがない。

演奏ナンバーは、当時大ヒットした夏ものアルバムの曲を中心に、全15曲。松岡お得意のラテン・テイスト全開である。

1曲目の「A SEASON OF LOVE」、続く「ISLAND A GO-GO」はまさにその典型。

「ISLAND~」では、ゲタ夫のパティトゥッチばりの超絶6弦べース・ソロが聴きもの。

3曲目の「GRAVY WALTZ」では一転、めちゃファンキーなジャズ・ワルツを。レイ・ブラウンの作品。

メリハリの利いた松岡のタッチは、やはり絶品。

「SUNSPOT DANCE」はピアノ・ソロでしっとりとしたバラードを。哀愁に満ちたメロディがいい。

続く「NONO」も、ピアノ・ソロによる小品。会場内は静まりかえって、彼の世界にひたる。

そして、ソロの最後はエリントン・ナンバー「DO NOTHIN' TILL YOU HEAR FROM ME」を。

松岡の原点は、やっぱりこういう折り目正しくスウィンギーでパーカッシヴな音なんだなと実感。

再びコンボ演奏に戻り、オリジナルの「MYSTERY OF GALLEON」を。松岡のピアノは実によく歌う。

負けじと張り切った演奏を繰りひろげるリズム隊もいい。打楽器が2人というのは、圧倒的な迫力だな。

コンボ演奏は静謐な雰囲気の「AIRY」、ラテン色満開な「CUBAN FANTASY」と続く。

再度のピアノ・ソロ「LONG FOR THE EAST」(これって結構ヒットしていたな)を振り出しに、ステージは終盤へ。

ラテンビートからフォービートへのスイッチが印象的な「NIGHT SONG」、ここでのポンタの暴れぶりは聴きもの。

「TANGO RENGUE~TANGO ROSES~」はタイトルが示すように、サンバにタンゴのビートを融合させた超ラテンなナンバー。ここでのリズム隊のノリも、常軌を逸している(笑)。チック・コリア・バンドも真っ青。

しかしなんといっても、圧巻なのは7分半近いガレスピー・ナンバー「MANTECA」。ビ・バップであり、ラテンであり、ファンクであり、要するにワールドワイドなビート・ミュージック。生身の人間が演奏する、最もホットな音。

こんなスゴい演奏を聴かされると、大抵のポピュラー・ミュージックが甘ったるい、生ぬるい音に聴こえてしまう。罪作りだな(笑)。

アンコールに応えて、松岡のソロでまず一曲。おなじみのヒット・ナンバー「THE SEPTEMBER WIND」を。

いやー、ピアノの調べが心にしみますな。

ラスト・ナンバーは「ANDALUSIA」は、松岡の十八番的フレーズがテンコ盛りのナンバー。もちろん、チック・コリアの「SPAIN」をモロに意識してますが。中間部のソロなんてまさにそう。

ただ、ふたりを並べて論ずるのはちょっと的外れかも知れません。松岡のコリアとの大きな違いは、アーティストである前にアーティザンであることって気がします。

昔のハコバン時代の経験ゆえのものか、サービス精神がやたら旺盛で、お客に喜んでもらえるなら何だってやってしまう。彼については、そういう感じがします。

けど、筆者的には、そういうところも含めて、彼はいいミュージシャンだと思います。ゴタクを並べるより、まず現場でいい音を出す、これ以上に強力なものはないのですから。

「なんだ、流行歌の作曲家じゃんかよ~」なんていわずに、彼のプレイに虚心に耳を傾けてみて欲しいもんです。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#246 NOBUYUKI, PONTA UNIT(清水信之&村上秀一)「THE RHYTHM BOXER」(MIDI MIS-503)

2022-07-18 05:10:00 | Weblog

2004年10月23日(土)



#246 NOBUYUKI, PONTA UNIT(清水信之&村上秀一)「THE RHYTHM BOXER」(MIDI MIS-503)

「NOBUYUKI, PONTA UNIT」こと清水信之と村上秀一による12インチ・シングル、85年リリース。

日本のポップスの中にもいくつかの流れがあるが、YMOに代表されるYENレーベルを源とした、インストゥルメンタル主体の音楽、これも無視しがたい大きな勢力をなしている。

ふだんはスタジオ・ミュージシャンとしてシンガー・ソングライターやアイドル歌謡なぞのバッキングをする一方、独創的な音楽をそういったインディーズ風味のレーベルから出す。日本特有の現象でしたな。

RVC傘下のMIDIレーベルもその流れを汲むもので、YENが85年に終焉を迎えた後は、その手の音楽をもっぱら手がけてきている。

この「信之=ポンタ・ユニット」もそのひとつ。

売れっ子スタジオ・ミュージシャンの東西横綱的なふたり(彼らの関わったレコーディングの延べ曲数は万単位にもなるだろう)が送り出す音楽、これが刺激的でないわけがない。

A1のタイトル・チューンはふたりに加え、当時人気のシンガー・亀井登志夫がヴォーカル、YMOでもおなじみ、詩人兼画家のクリス・モズデルがラップで参加。

亀井はデヴィッド・ボウイばりの無機質な歌声を聴かせてくれる。

アルバムの帯に「ポップ・ゲリラ」と謳っているが、大方の予想に反したポップではじけた音が面白い。どことなく、ウルトラヴォックスっぽい。

ポンタのドラムを除くすべての楽器を清水信之がやっているのも聴きどころ。このひとは、ホント、オールラウンド・プレイヤーだね。

B1「DIGI-VOO」には、今をときめく佐橋佳幸がギターで、ミカンちゃんこと新居昭乃とペッカーがヴォーカルで参加。

最初のうちには、わりと普通なアメリカン・ロック風の曲かいな~と思っていたら、途中モダンジャズっぽい展開になったりして、そのへんは、やはりこのふたりならではですね。

B2「THE RHYTHM BOXER II」は、A1の別アレンジによるテイク。アレンジのせいで、全く違う曲に聴こえる。

アンビエント風味の、ゆったりとした雰囲気。でも、リズムはバッチリ。

特に後半部のポンタの躍動感に溢れたドラム・ソロ、これは聴かせます。まさに「リズム・ボクサー」のタイトルにふさわしいプレイ。

いわゆる「王道」の歌ものばかり聴いていないで、たまには、こういうふうにインスト系に「寄り道」をするのもいいもんだ。耳の、そして頭のリフレッシュになりまっせ。

<独断評価>★★★


音盤日誌「一日一枚」#245 大滝詠一「EACH TIME」(CBSソニー 28KH 1460)

2022-07-17 05:00:00 | Weblog

2004年10月11日(月)



#245 大滝詠一「EACH TIME」(CBSソニー 28KH 1460)

大滝詠一のオリジナルアルバム、84年リリース。のちに2曲が追加された「Complete EACH TIME」がリリースされている(86年)。

思えば、この一枚からまる20年、大滝詠一はまったくオリジナルアルバムを出していないのだった。嗚呼。

その間出した新曲は、85年の「フィヨルドの少女」、97年の「幸せな結末」、03年の「恋するふたり」の3枚のシングルのみ。何という寡作ぶり。

大滝先生、それでも別に食べるのに困っているわけではないからいいのだろうが、優雅な生活にもほどがある(笑)。

さて、ひさしぶりに聴いてみた本盤、20年の歳月などものともせず、エクセレントな出来である。

全9曲、すべて松本隆と大瀧詠一(ソングライターとしてはこの表記ね)の黄金のコンビによる。

タイトルを見ていただければすぐにおわかりいただけると思うが、全曲「季節感」「色彩感」「リゾート感覚」「ノスタルジックなアイテム」を満載した「松本隆ワールド」全開なのである。もう、一分の隙もない。

いってみれば、ポップ・ソングにこれ以上のものを要求しようのない完成度。

サウンドの方ももちろん、完璧のひとこと。大滝自身のアレンジに加え、ストリングス・アレンジは当時最も売れっ子だった井上鑑。

大滝ポップスにとって最も重要な「空気感」を見事に作り上げている。

バック・ミュージシャンも、ハンパでない豪華な顔ぶれ。上原裕、林立夫、青山純、長岡道夫、鈴木茂、村松邦男、徳武弘文、吉川忠英、安田裕美、石川鷹彦、笛吹利明、難波弘之、国吉良一、松武秀樹、斎藤ノブ…。

もう、贅沢すぎる布陣ですな。

最高のスタッフを惜しげもなく使い、レコーディング、ミキシングにもたっぷりと時間を取り(一年以上かけている)、完成された本作の出来が悪いわけがない。

まずはトップの「魔法の瞳」。コニー・フランシスの「可愛いベイビー」をほうふつとさせるノスタルジックなナンバー。

相変わらずのソフト&テンダーな歌声。もう、いきなりのナイアガラ・ワールドで、リスナーはハートを鷲づかみにされるという寸法だ。

「夏のペーパーバック」は、ナイアガラ定番のビーチサイド・ソング。一聴懐メロふうなれど、隠し味的なシンセ・アレンジが80年代ならではの趣向だね。ジェイク・コンセプションのサックス・ソロがいい感じ。

「木の葉のスケッチ」も、アレンジの凝りかたがハンパじゃない。リズム、ホーン、ストリングスが幾層もの音の壁を作り上げ、いわくいい難い音世界を創出している。ここまで来ると、「流行音楽」なんてチープなものを軽く越えちまってるね。

「恋のナックルボール」は、大滝先生お気に入り、バディ・ホリー+ドゥワップ・コーラスの合体サウンド。

最後はチアー・ボーイズの声援まで加わって、実に威勢がいい。

「銀色のジェット」は一転、しっとりとしたバラード。ストリングスの甘美な調べ、まさにナイアガラ・サウンドの極致なり。

「1969年のドラッグレース」はセカンド・ラインとホット・ロッドの融合。多重録音によるひとりコーラスが聴きもの。

「ガラス壜の中の船」はちょっとメランコリックなバラード。せつない松本の歌詞が、心にしみる。

「ペパーミント・ブルー」は、これぞ大滝、これぞナイアガラ!というべきナンバー。

フィル・スペクターのサウンド・コピーから出発しながらも、いつのまにかそれ以上の完成度を獲得してしまった。そんな感じのパーフェクトな音作り。脱帽である。

「レイクサイド ストーリー」は冬がテーマのナンバー。マイナーで始まり、メジャーに転調するあたりの絶妙な盛り上がり方は、まさに職人芸。

究極の寡作派アーティザン、大滝詠一は、今後もこの調子で忘れられそうになった頃、たまに編集盤を出し、ごくたまにシングルを出し、そしてもしかしたらもう一枚くらいはオリジナル・アルバムを出すのかもしれない。

期待をせずに気長に構えていたら、そのうちものすごい大傑作をリリースしてくれる可能性はあるだろう。

それまで僕たちはこの「イーチ・タイム」や「ロン・バケ」といった傑作を聴いていればいい。

それくらい、これらのアルバムの出来はスゴい。ジャパニーズ・ポップスの最高到達点、そう言っても過言ではないだろう。

<独断評価>★★★★★