#194 チャールズ・ブラウン&エイモス・ミルバーン「I Want To Go Home」(ACE)
ともにブルースシンガー兼ピアニストである、チャールズ・ブラウンとエイモス・ミルバーンによるデュエット曲。ブラウン=ミルバーンの共作。
59年にエースよりリリースされたシングル。日本ではほとんど知られることのない曲だが、実はポピュラー音楽史上、大変重要な曲なのだ。
まずは一聴願いたい。ね、ピンときたでしょ?
ブラック・ミュージック、いやポップス系の音楽を聴かれるかたなら、まず100%おわかりになると思うが、そう、かのサム・クックの名曲、「Bring It On Home To Me」の原曲ともいうべきナンバーなんである。
両者を聴きくらべてみると、若干のフレージングの違いこそあれ、コードやメロディの大半(おもに前半)は、この元ネタに忠実であることがわかる。一番大きな違いは、歌詞がまるごと新作であることと、テンポが大幅に違い、元曲がスローであるのに対し、クックのはミディアムであることだろうか。
デュエットする二人のアダルトな雰囲気もあいまってか「I Want To Go Home」は非常にまったり、しみじみとした「望郷の歌」になっている。それに対し「Bring It On Home To Me」は、失恋というテーマを前面に押し出した歌に仕上がっている。
クックは元歌のブルースっぽさを極力おさえて、歯切れのよい歌い口により、いかにもソウルフルな歌へと生まれ変わらせている。これぞ、ミスター・ソウルの面目躍如といったところか。
ブルースが「おっさん」の歌なら、ソウルは若さ、血気にあふれた「あんちゃん」の歌。その躍動的なリズム感で、過去のブラック系ミュージシャンをすべてけちらし、あれよあれよという間にスターダムにのし上がったのも、むべなるかな。
ブラウン、ミルバーン、あるいはファッツ・ドミノのようにピアノを弾きながら歌うスタイルでなく、また多くのブルースマンのようにギターを弾きながらでもなく、スタンダップで身振り手振りも自在な歌唱スタイルをとった彼こそ、60年代、つまりテレビの時代をリードするスターたりえたのだ。
ブルース、R&Bの時代から、ソウルの時代へ。その立役者だったサム・クックも、まったくゼロの状態から新しいサウンドを、魔法のようにひねり出したわけではない。
過去のブルース、R&B、ゴスペル、そういった自分がリスペクトしてきたものをベースに、新しい発想で新しいアレンジを加えて生み出されたもの、それが60年代のソウル・ミュージックなのだ。
まさに結節点の時代にリリースされた名曲、「I Want To Go Home」。クックとはひと味もふた味も違った、「おとな」の音を楽しんでみてほしい。
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