NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

#89 エイモス・ミルバーン「Chicken Shack Boogie」

2009-08-30 08:17:38 | Weblog
#89 エイモス・ミルバーン「Chicken Shack Boogie」(Chicken Shack Boogie Man/Proper)

ピアニスト/シンガー、エイモス・ミルバーンの代表的ヒットを。ローラ・アン・カラムとミルバーンの共作。

エイモス・ミルバーンは1927年、テキサス州ヒューストン生まれ。80年、52才で同じくヒューストンにて亡くなっている。

テキサス出身ながら、おもに西海岸で活躍。10代末にアラジンにて初録音、後にはキング、モータウンほかでも録音しているが、彼の全盛期はやはり、アラジン在籍時だろう。

アラジン時代(1946~57)、20代のミルバーンの人気はホント、すごかった。ビルボードR&Bチャートにたて続けにヒットを送りこみ、ナンバーワンを、4曲もモノにしている。

今でこそ、彼の名前はマニアしか知らないものになってしまったが、当時は黒人音楽界のスーパースターだったんである。

ナンバーワン・ヒットのひとつが、この「Chicken Shack Boogie」。アルバム・タイトルが示すように、彼の代名詞とすらいえるビッグ・ヒットだった。

まずは、聴いてみよう。軽快でドライブ感にあふれたブギ・ビートに乗せて、どこかとぼけた味わいのあるミルバーンのボーカル(歌というより、ほとんど語りですな、この曲の場合)、そして玉を転がすような流麗なピアノ・プレイが楽しめる。

バック陣の演奏も、実に達者だ。ソリッドなギター、ノリノリのベース&ドラム。これぞブギウギ!といいたくなる。

いつも満面の笑みを浮かべている彼の顔写真を見るとわかるように、とにかく底抜けに陽気なのですよ、ミルバーンの楽曲は。こういう曲を、酒とともに聴けば、一日の疲れなど一瞬に吹き飛ぶこと、うけあい。

このアルバムでいえば、「Roomin' House Boogie」も、やはり超ノリノリのブギでおすすめ。

また、彼は「酒飲みブルース」というジャンルの第一人者でもある。「Bad Bad Whisky」に代表される酒飲みブルースは、この1枚には2曲程度とあまり収録されていないが、上戸なひとにはこたえられない味わいがある。

強力無比のブギ・マン、エイモス・ミルバーンのビートは、永久に不滅であります。

#88 フレッド・マクダウェル「All the Way from East St. Louis」

2009-08-23 06:54:53 | Weblog
#88 ミシシッピ・フレッド・マクダウェル「All the Way from East St. Louis」(Mississippi Fred McDowell/Rounder)

ミシシッピ・フレッド・マクダウェル、62年録音、71年リリースのアルバムより、彼のオリジナルを。

ミシシッピ・フレッド・マクダウェルは1904年テネシー州ロスヴィル生まれ。72年に同州メンフィスにて68才で亡くなっている。

この人もまた、遅咲きブルースマンの典型だ。長年農夫としての生活を続けたのち、アラン・ロマックスにより見出され、50代半ばにしてようやくレコーディングのチャンスを得て、亡くなるまで10年あまりメジャー・シーンにて活躍したという、文字通りの老春派ミュージシャン。

基本は生ギター、スライドによる単身の弾き語りで、バックがついてもせいぜい一人。ごくごくシンプルな編成なのだが、そこから生み出されるグルーヴが、ハンパなくすごい。

まずは一曲聴いていただきたい。この「All the Way from East St. Louis」、最初から最後まで、延々とワンコード、ワンリフ、ワングルーヴで展開されるのである。

この曲によらず、ストーンズによるカバーで一躍知られるようになった「You Gotta Move」にせよ、「Highway 61」にせよ、彼のレパートリーの大半はワンコード、あるいはそのバリエーションといえる。

このスタイルは戦前のブッカ・ホワイトあたりの、カントリ-・ブルースの流れを引き継いだものだが、こんなブルースマン、60年代にもまだ生息していたんだから、ブルースの奥は深いねぇ。

このスタイルをさらに継承し電気化をほどこして世に広めたのが、以前取り上げたことのあるR・L・バーンサイドやジュニア・キンブロウらの、ファット・ポッサム系アーティストということになる。いわばヒル・カントリーの教祖的存在なのである、マクダウェル翁は。

見た目はいかにも田舎のおじいさんなのだが、その音楽は強力無比きわまりない。

その特徴的な塩辛声と、パーカッシヴなギター・プレイは、まさにリスナーの聴覚を幻惑させてやまないマジックに満ちている。

音の魔術師=ミシシッピ・フレッド・マクダウェルの生み出す、蟲惑的なビートに酔い痴れてくれ。

#87 リトル・ミルトン「A Juke Joint in My House」

2009-08-16 17:29:17 | Weblog
#87 リトル・ミルトン「A Juke Joint in My House」(Feel It/Malaco)

リトル・ミルトン、2001年のアルバムより、ラリー・アディスン、ジョージ・ジャクスンの作品を。

リトル・ミルトンというシンガー/ギタリスト、日本ではあまりファンが多くないようだが、聴かないというには実にもったいない、そんな魅力にあふれたひとだ。

60年代はチェッカーに在籍、71年から75年にはスタックスにて精力的な活動をしていた。約5年間で実に10枚のアルバムがある。

リトル・ミルトンことミルトン・キャンベルは、34年ミシシッピ州インバネス生まれ。2005年テネシー州メンフィスにて70才で亡くなっている。

このマラコでの録音は、晩年にさしかかってのものだが、全然衰えを感じさせぬ、まことにファンキーな歌声を聴くことが出来る。

歌に加え、ギターでも健在ぶりを示している。やはり、彼は自分がシンガーであると同時に、ギタリストであるという意識を強く持っていたようで、2005年のテラークにおける遺作「Think of Me」でも、ギターを抱えたジャケ写を撮らせている。

ミルトンにとっても、やっぱり、ギターこそは生涯の伴侶なんだなぁ。

その昔は、発売されて間もないギブソン・フライングVを愛用していて、その写真は以前に「一日一枚」で取り上げたサン・レーベルのコンピ盤「Blue Flames」にも載っていた。

それを見るに、筆者にも劣らぬ、相当なギター偏愛者ではなかったかと思う(笑)。

まあそれはともかく、彼の個性とは、ブルースという旧世代の黒人音楽と、ソウル、さらにはファンクという新世代のそれとを、見事に混ぜ合わせたブレンダーぶりにあると思うね。

ノリはソウル。でもフレージングなど表現にはかなりブルース的な要素が含まれており、彼の本来の出自を感じさせる。その骨組みはコンテンポラリーなものでありながら、ガチなブルース・ファンにもすっと入っていける。いわば、現在のブルース・ミュージックの基礎を築いた先駆者だ。

21世紀初頭のこの曲でも、その姿勢は一貫して変わっていないと思う。

粘りのあるボーカル、アルバート・キングにも通じるところのある、ファンキーなギター・フレーズ。これぞ、ミルトン節である。

老いてなお情熱を忘れぬ、ブルース・マスターの好演。聴くべし!

#86 リロイ・カー「How Long-How Long Blues」

2009-08-09 10:07:00 | Weblog
#86 リロイ・カー「How Long-How Long Blues」(Whiskey Is My Habit, Women Is All I Crave: The Best of Leroy Carr/Columbia-Legacy)

第二次大戦前のブルース・シンガー/ピアニスト、リロイ・カーの代表的ナンバー。彼自身の作品。

リロイ・カーは1905年、テネシー州ナッシュビル生まれ。35年にインディアナ州インディアナポリスで、30才の若さで亡くなっている。

非常に古い時代のシンガーであるにもかかわらず、彼の名前がいまだに残っているのは、「Blues Before Sunrise」や、この「How Long-How Long Blues」といった、何人ものシンガーたちによって歌い継がれてきた佳曲をものしていたことによるのだろう。

とはいえ、クラプトンによるその2曲のカバー・バージョンを聴くことはあっても、原曲に触れる機会はめったにないと思う。

このアルバムは上記2曲はもちろん「Mean Mistreater Blues」「Muddy Water」といった代表曲を40曲も収録しており、リロイの歌・ピアノの魅力を存分に満喫できるのでおススメである。

リロイの歌声は、どちらかといえば線が細く、迫力というよりは、きめこまやかな情感表現で聴かせるタイプ。

自身の達者なピアノに乗せて、訥々と歌い聴かせる。ギタリスト系のブルースマンにはない、もうひとつのブルースの世界がある。

ブルースの電気化が始まる前(1928年~35年)の録音なので、すべてアコースティック楽器での演奏。オールド・タイミーな雰囲気がぷんぷんとしとります。

もともと、ブルースはこういう感触の音楽だったんですけどね。戦前と戦後では、ホント、別物になってしまったといえます。

ゆったりとしたテンポにのせて演奏される、癒し系ともいえるブルース。なんとも、粋であります。

名手、スクラッパー・ブラックウェルの好サポートも印象的な一曲。ぜひ、何度も聴いて、独自の世界を堪能してほしいです。

#85 ココ・テイラー「I Cried Like a Baby」

2009-08-02 08:22:26 | Weblog
#85 ココ・テイラー「I Cried Like a Baby」(Queen of the Blues/Alligator)

今年の6月3日、73才で亡くなった女性ブルース・シンガー、ココ・テイラーの75年のアルバムより。ナッピー・ブラウン、ポール・デイヴィッドの作品。

ココ・テイラーといえば、とにかくその男勝りの豪快な歌唱で知られる人。「女傑」という呼び名が、彼女ほどハマる人はいないね。

60年代~70年代前半はおもにチェスにて活躍。ブルース界のボス、ウィリー・ディクスンの肝煎りによりデビューし、女性版ハウリン・ウルフのような強烈なキャラクターで、他のブルース・ウーマンたちを圧倒した。

代表曲はディクスン作の「Wang Dang Doodle」。これは60年代を通しての、チェス・レーベルの最大級ヒットとなった。

一度聴くと忘れられないワイルドなシャウト。およそ力のセーブなんてありえない、120%直球勝負の歌声だった。

75年からはアリゲーターに移籍。32年に渡って、地道にアルバムを発表し続けた。遺作は2007年の「Old School」。70代になるまで、ずっと第一線で歌い続けたのは、見事というほかない。

「I Cried Like a Baby」は、彼女が一番脂が乗っていた頃、40才になった年の録音。

アルバム・タイトルの「Queen of the Blues」を名乗っても恥ずかしくないくらい、確たる地位を築いた彼女の、会心の一曲といえる。

とにかく、聴いてみて欲しい。バックの堂々たるサウンドを全て圧倒して余りある、文句なしの咆哮(うたごえ)を。

そして、野獣のような歌声の中にもしっかりと感じられる、きめ細やかな感情表現を。

まさに赤ん坊のように泣き叫ぶココには、ブルースという最もプリミティヴな音楽がふさわしい。

さようならブルース・クイーン、ココ。僕らは、あんたの全身ブルースな生きざまを決して忘れない。その歌声とともに。