NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#106 ブラインド・フェイス「スーパー・ジャイアンツ・ブラインド・フェイス」(ポリドール POCP-2268)

2022-02-28 05:00:00 | Weblog

2002年6月2日(日)



#106 ブラインド・フェイス「スーパー・ジャイアンツ・ブラインド・フェイス」(ポリドール POCP-2268)

1.HAD TO CRY TODAY

2.CAN'T FIND MY WAY HOME

3.WELL ALL RIGHT

4.PRESENCE OF THE LORD

5.SEA OF JOY

6.DO WHAT YOU LIKE

7.EXCHANGE AND MART

8.SPENDING ALL MY DAYS

ここのところブルースが続いたので、ちょっと気分転換。

ブラインド・フェイス、最初にして最後のアルバム。69年リリース。

68年11月、かのエリック・クラプトンを擁していたバンド、クリームは解散したが、翌年クリームを母体に結成されたのがこのブラインド・フェイスである。

当時、いくつかの有名バンドの元メンバーから作られた、いわゆる「スーパー・グループ」がブームとなりつつあった。

元ハードのピーター・フランプトン、元スモール・フェイシズのスティーヴ・マリオットを中心にしたハンブル・パイしかり、元バーズのデイヴィッド・クロスビー、元バッファロー・スプリングフィールドのスティーヴ・スティルス、元ホリーズのグレアム・ナッシュによるCS&Nしかり。

このブラインド・フェイスも、そういったブームの流れの中にあった。デビューコンサートは、ロンドンのハイドパークで10万人の観客を前に行ったというし、このデビューアルバムのセールスも、すさまじかったらしい。

しかし、評価は必ずしも高くはなかった。当時の「ニューミュージック・マガジン(現ミュージック・マガジン)」のレビューとかを読むと、「CS&Nのアルバムを聞いたとき以上の物足りなさを感じた。」(福田一郎氏評)とある。リスナーの多くは、クリームをさらに超えるような、スリリングでハード、へヴィーな演奏を期待していたのだが、肩すかしをくらったのである。

要するに、周囲の「期待」が大き過ぎたといえる。

メンバーを見れば、まあ、それもしかたない。エリック・クラプトン、ジンジャー・ベイカーの元クリーム組に加え、当時メキメキを頭角をあらわしていたバンド、トラフィックの看板スターであったスティーヴィ・ウィンウッド、そしてその三人に比べればかなり小粒だが、ファミリーというバンドでマルチ・プレイヤーぶりを発揮していた実力派のリック・グレッチ。

このメンツでスゴいサウンドを期待をするなというのが、ムリというものだろう。

「ブラインド・フェイス(盲目的信頼)」というグループ名も、彼らが、自分たちへの周囲の過大な期待に対する皮肉として、つけたものらしい。

で、30年以上の歳月を経て、この話題作(問題作?)を再度検証してみる。

まずはウィンウッドのオリジナル、(1)から。ヴォーカルも、ウィンウッド。というより、このグループでは原則的に彼しかリードをとっていない(後で例外のトラックも出てくるが)。

クリーム時代には少し歌っていたクラプトンも、実力派シンガーとして十代のころから高い評価のあったウィンウッドの前では萎縮して、自分から歌いたいとは言えなかったようだ。

ゆったりした曲調、トラフィック的な雰囲気を多分にたたえたサウンド。そしてウィンウッドの見事な高音のシャウト。

クラプトンも間奏では弾きまくってはいるものの、主役はどう見てもウィンウッド、である。

(2)は、のちにクラプトンもコンサートではよく取上げるようになったウィンウッド作のナンバー。

繊細で美しいメロディが、なんとも印象的。やはり、ウィンウッドの歌のうまさはピカ一といえよう。そして、クラプトンのアコギによる好バッキングも光る。

クラプトンがステージで歌う際は、キーが高かったため、リードをイヴォンヌ・エリマンほかの女性シンガーに預け、自身はハーモニーをつけている。

(3)は、伝説のロックン・ローラー、バディ・ホリーの代表的ナンバー。オルガン、ピアノ、そしてヴォーカル&コーラスとウィンウッドが八面六臂の大活躍。

間奏のピアノ・ソロではジャズィな側面も見せ、このグループがハード・ロックのような方向を目指しているのではないことを感じさせる。こうなると、どうしても、クラプトンの影は薄くならざるをえない。

(4)はクラプトンが作り、ウィンウッドが歌ったナンバー。クラプトン自身も大変気に入り、後にはライヴで必ず自ら歌うまでになっている。

神への感謝の気持ちをこめて書かれた、スローテンポのおごそかなバラード・ナンバー。もちろん、ウィンウッドのソウルフルな歌いぶりはパーフェクトだ。

途中、テンポチェンジをして、クラプトンのワウ・ギターがフィーチャーされる。クラプトンのギターは意外に出番が少ないだけに、ファンとしては聴き逃せないところだ。

(5)は、再びウィンウッドの作品。これもなかなか「ウィンウッド節」のきいた、ソウル色豊かなナンバー。

こうやって見てくると、明らかにクリームよりは、トラフィックのカラーのほうが強いサウンドだといえそうだ。

この曲ではリック・グレッチのエレクトリック・ヴァイオリンのソロがメイン。ギターはいまひとつ表に出ず、リズムやリフ中心にとどまっている。

クリーム・ファンだったひとたちに、こういう非ハード・ロック的展開が不評だったのは、想像に難くない。

(6)は唯一、ジンジャー・ベイカーの作品。冒頭と終盤ではヴォーカルが聴かれるが、15分以上という長丁場の大半は、各プレイヤーのインプロヴィゼイション。

それも、ハード・ロックではなく、ジャズに近いアドリブ合戦。クラプトンの音も、明らかにクリーム時代のそれから変化を見せつつある。

クリーム後期から使いはじめたファイアーバードが、彼の当時のメインギターだったようだが、そのソリッドでクリーンなトーンキャラクターを生かすように弾いている。後のストラト路線への「過渡期」の音といえよう。

途中、中だるみっぽい展開もあり、また、混沌としたエンディングといい、果たしてLPの片面の大半を使ってやるようなことか?という疑問も出てこなくはないが、これはこれで彼らとしての「実験」であったのだろう。

実際、彼らは自らを「パーマネント・グループ」とはあまり認識していなかったそうだ。むしろ「スーパー・セッション」のような臨時編成のセッション、プロジェクト、そういう意識のほうが強かったらしい。

クリーム時代からもともと、クラプトンとベイカーは仲がよくなかったそうで、ウィンウッドがベイカーをメンバーとして希望しなかったらこのプロジェクトは成立しなかったという裏事情から考えても、ブラインド・フェイスがその後、正式な解散発表をすることなく空中分解を迎えたのは無理からぬことだったといえよう。

世間的には、全米ツアーを行い、スタジアムクラスの会場を毎回満杯にした(もちろん、クラプトンの人気によるもの)こととはうらはらに、グループの将来の「見取り図」はなにもなかったのである。

作り手の意識と、聴き手のそれとには、常にギャップがあるものだが、ここまで乖離しているケースも珍しい。

さて、最後の2曲はアルバム発表時には未収録だったトラック。

(7)は、ウィンウッド作のインスト・ナンバー。クラプトンのギターと、グレッチのエレキ・ヴァイオリンのからむリフが耳に残る。これも、いわゆるハード・ロック色はまったくなく、かといってブルースとも違う。むしろ、後のキング・クリムゾンのような「プログレ色」を感じさせて興味深い。

もちろん、クラプトンは年を追うごとに非インスト色を強め、以後その方向には、まったくいかなかったのだが。

(8)はある意味、「問題作」。なんでこんなテイクを収録したのか、さっぱりわからない。

ウィンウッドの作品なのだが、歌っているのはウィンウッドとはとても思えない。たぶんグレッチだと思うのだが、まるでアマチュアバンドのような(!)ヘタさ加減に笑ってしまう。おまけにバンド演奏も、タイトとはいいがたい適当なもの。

これって、シャレのつもり!?

まあ、オリジナル・イッシューから外して正解でした。

ということで、とてつもない「期待」を寄せられて出発したわりには、フツーのレベルの作品しか作れずに多くのファンの落胆をよんだというアルバムだったが、一曲一曲よく聴きこめば、大半は水準以上の出来ばえであるし、そう悪くもない。

とくに(2)や(4)は、後世にも残った名曲。(3)や(5)もよく出来ている。

ややウィンウッドが目立ち過ぎのきらいがあり、クラプトン・ファンには不満もあるだろうが、ウィンウッドの歌のうまさがこの一枚を救っているのも事実。

あなたも、たまにはライブラリーから引っぱり出して、聴いてみよう。

<独断評価>★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#105 ウィリー・メイボン&エディ・ボイド「メロウ&ビター・ブルース」(MCAビクター/Chess MVCM-22096)

2022-02-27 05:04:00 | Weblog

2002年5月26日(日)



ウィリー・メイボン&エディ・ボイド「メロウ&ビター・ブルース」(MCAビクター/Chess MVCM-22096)

1.I DON'T KNOW

2.I'M MAD

3.(I) GOT TO HAVE IT

4.BEGGAR OR BANDIT

5.LONELY BLUES

6.POISON IVY

7.HE LIED

8.SOMEDAY YOU WILL HAVE TO PLAY

9.SEVENTH SON

10.WHY DID IT HAPPEN TO ME

11.PICTURE IN THE FRAME

12.GOT LONESOME HERE

13.COOL KIND OF TREATMENT

14.24 HOURS

15.THIRD DEGREE

16.RATTIN' AND RUNNIN' ROUND

17.JUST A FOOL

18.NOTHING BUT TROUBLE

19.I GOT THE BLUES

20.DRIFTIN'

3連チャンでブルース。前回のフルスン同様、「チェスで100枚」がらみの一枚。

ウィリー・メイボンとエディ・ボイドという、ピアノ・ブルースの代表的シンガーふたり、おのおの10曲ずつをおさめたコンピレーション盤だ(日本独自企画)。

前半登場するのはウィリー・メイボン。

メイボンといえば「アイ・ドント・ノウ」、というくらい、ほとんどのブルースファンは条件反射的に思い出すわけだが、この数多くのカバー・ヴァージョンを持つナンバーは、1952年末からなんと8週連続、全米R&Bチャートで第一位を獲得する大ヒットになったそうだから、まさに彼の「名刺」がわりといってよい。

ちなみに、ジミー・ウィザースプーン、チャールズ・ブラウン、ウィルバート・ハリスンといったベテラン・シンガーや、近いところではブルース・ブラザーズがカバーしている。

その(1)を皮切りに、個性ゆたかなメイボン・ブルースがたっぷりたのしめる。

ジャケット写真をご覧になってもおわかりいただけるように(右側の男性)、ヒゲをたくわえ、タキシードのバッチリ似合う、なかなかの「オトコマエ」。

じゃあ、歌もルックス同様キザっぽいのかというと、案に相違して、意外にとぼけてユーモラスなものが多い。

日常生活で「なんでそうなるの!?」といいたくなるような、トホホなシチュエーションを笑いをまぶして巧みに歌う、そういうタイプ。

声もどことなく、見た目よりオジサン風のややハスキーな「老け声」。これがまた、実に「いい味」をかもし出しているのである。

ここで簡単にメイボンのプロフィールを記しておくと、25年テネシー州ハリウッド生まれ。シカゴに移って本格的にジャズ・ピアノを習う。大戦後ブルース・サークルとの付き合いが出来てからはブルースに傾倒、47年にバンドで初録音。

52年にシカゴのローカル・レーベル、パイロットで(1)を吹き込み、これがチェスに音源が売られ、またたく間に大ヒットとなった。

以後、順調にヒットを生み出していく。53年には(2)、(3)、(4)、54年には(5)、(6)(リーバー&ストーラー作、コースターズがヒットさせた曲とは同名異曲)、55年には(7)、(8)、(9)をレコーディングしている。

(6)あたりからは、チェスの顔役、ウィリー・ディクスンが深くかかわるようになる。

(6)ではバックでベースを演奏、(7)ではメイボンと掛け合いをやったり、(9)では曲までも提供している。

ディクスンはもともと、ビッグ・スリー・トリオというピアノ・ブルース系のコンボをやっていたぐらいのひとだから、メイボンのようなスタイル(バンドの基本形はギター抜きで、ピアノ、ベース、ドラムス&ホーン。)を好んでプロデュースしたがったのではなかろうか。

57年からは他レーベルに移っていたが、60年に再びチェスに復帰、(10)を吹き込んでいる。

これはやや時代を下っての録音だけに、そのバックのビートも現代風になっている。

でも、そのどこかトボケた味わいのある、独特なヴォーカル・スタイルに変わりはない。

かの大御所歌手レイ・チャールズも、50年代にはメイボンのピアノ・ブルースに強い影響を受けたという。

たとえばその「コール&レスポンス」の手法を巧みに導入して、さらに大衆受けするよう仕上げたのがレイのサウンドだということになるだろう。

10曲に共通して感じられるのは、とにかく歌が「陽気」であるということ。仕事やプライベートで、どんなトホホな状態にあっても、彼の歌を聴くと、「ま、いっか」という気分になってくるから、不思議である。

個人的には(6)や(10)あたりの、にぎやかなナンバーが好きだな。実に「お酒が美味しく飲める」音なんである。

さて、後半はエディ・ボイドで10曲。

アルバムのタイトルにあるように、メイボン=芳醇でよくこなれた味の「メロウ・ブルース」であるとするなら、ボイドはそれと好対照にこのうえなくにがい「ビター・ブルース」だということ。実に言いえて妙なタイトルだな。

メイボンにとっての「アイ・ドント・ノウ」に相当するボイドの曲といえば、さしずめ「ファイヴ・ロング・イヤーズ」だろう。

これまたマディ、BB、フレディ・キング、ジミー・リード、ヤードバーズ、クラプトンといった幅広いアーティストにカバーされている名曲だが、その内容はといえば、「辛苦」「辛酸」そのものという感じのへヴィーなもの。

5年間製鋼所での重労働に耐え、尽くし続けた恋人からあっさり裏切られ、憤懣やるかたない気持ちを吐露した歌詞は、作者ボイド自身の体験に基づくものだというから、実に「重い」。

ボイドは14年、ミシシッピ州クラークスデイル生まれ。比較的早く売れたメイボンとは対照的に、下積みの時期が長かった人で、メンフィスでバンド活動を始め、シカゴに移ったのが26才のころ。いくつかのレーベルでレコーディングを果たすも売れず、自費制作のために製鋼所で働き、37才のときようやく「ファイヴ・ロング・イヤーズ」をJ.O.B.レーベルからリリースして大ヒット。

こちらもR&Bチャート7週連続1位という、「アイ・ドント・ノウ」に負けないくらいのヒットとなっている。

以後もこういう「ビター」な曲調が、彼の持ち味となっていく。

53年にはチェスから(14)、(15)という、「ファイヴ~」に続く「数字シリーズ」を立て続けにトップ3ヒットとし、同年には(11)、(16)、(17)、(18)もレコーディングしている。

翌54年には(19)、(20)を録音。本盤はこの他、ブレイク以前の51年の録音(12)、52年の録音(13)も含んでいる。

エディ・ボイドのバンドは、メイボンのそれよりはもう少し一般的な編成で、必ずギターを加えており、ロックウッドJr.やリー・クーパーといった巧者が参加している。

彼らのジャズィでクールなプレイもまた聴きものだ。

エディのピアノをメインに、ギター、そしてテナーサックスが絡む重量感あふれるサウンドが、なかなかカッコいい。たとえば(20)とか。

ちょっと大人っぽいスウィンギーなサウンド、そして彼のやや神経質で、苦味ばしった歌声。いかにも「通好み」のブルースといえそうだ。

チェスを離れた後のボイドは、いくつものマイナー・レーベルを渡り歩くが、残念ながらヒットには恵まれず、60年代後半以降はフィンランドへ移住して、かの地でマイペースの活動を続けていたようである。

ほんの四、五年間しか「栄光の時代」は続かなかったわけだが、彼の作品「ファイヴ・ロング・イヤーズ」は、不朽のブルース・スタンダードとして、いまだに歌い継がれている。

それだけでも、彼の「艱難辛苦」は十分に報われたといえそうだ。

この10曲に、「ファイヴ・ロング・イヤーズ」(BSR37号付録CDに収録されている)をあわせて聴けば、「苦労人」ボイドのシブ~い魅力は堪能できるはず。

ギター系ブルースとはまた違った、モダンで都市的な感覚があふれているのが、ピアノ・ブルース。

この、それぞれにイカしたふたりをチェックしない手はないと思うよ。

<独断評価>★★★★


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音盤日誌「一日一枚」#104 ローウェル・フルスン「HUNG DOWN HEAD」(MCA/Chess CHD-9325)

2022-02-26 05:29:00 | Weblog

2002年5月19日(日)



ローウェル・フルスン「HUNG DOWN HEAD」(MCA/Chess CHD-9325)

1.THAT'S ALL RIGHT

2.I STILL LOVE YOU, BABY

3.RECONSIDER BABY

4.I WANT TO KNOW

5.LOW SOCIETY

6.CHECK YOURSELF

7.IT'A ALL YOUR FAULT BABY

8.DO ME RIGHT

9.TROUBLE, TROUBLE

10.HUNG DOWN HEAD

11.TOLLIN' BELLS

ローウェル・フルスン、チェス・レーベルでのアルバム。70年、「チェス・ヴィンテージ・シリーズ」のうちの一枚としてリリース。

ローウェル・フルスンといえばなんといっても大ヒット「トランプ」、ということで、彼のベストはケント在籍時代だという評価が定着しているが、それに先立つチェス時代にも、なかなかの名演を残している。

(1)はおなじみ、チェスの名セッション・ギタリストでもある、ジミー・ロジャーズのカバー。

ロジャーズ自身は50年にシングルでリリースしているが(アルバムでは70年リリースの「シカゴ・バウンド」に収録)、フルスンは57年にLAで録音。

その歌詞はといえば、自分への愛の冷めてしまった恋人への思いを切々と歌ったもの。

「もうオレを愛していないんだろう、でもそれでいいのさ」といいながらも、どこかまだ未練の残る微妙な男ごころを歌った佳曲だ。

これをフルスンは、やや繊細なロジャーズ版とはひと味違った、線の太い「おとなの」みれん節に仕上げている。

フルスンの魅力といえば、やはりそのヴォーカル。かのB・B・キングさえ一目置いていたという、説得力あふれる骨太、ときには「武骨」とさえも評されるその歌声、節回しは、ワンアンドオンリーな世界を持っている。

(2)以降でも、その「フルスン節」はいかんなく発揮される。

(2)はフルスン自身のオリジナル。55年の録音。

バックにはジャズィな演奏にも長けたエディ・チャンブリー(テナー・サックス、ダイナ・ワシントンの夫でもあった)らを従えた、威勢のいいナンバー。

こちらの曲も基本的には、「未練」な男の歌なのだが、あまりに歌が豪快なので、暗さがみじんも感じられない。

そのへんが、フルスンのフルスンたるゆえんか。

途中に聴かれる、彼のギター・ソロもなかなか味わい深い。

彼のギターはいわゆるテクニカルなプレイではないのだが、そのムダのない音選び、シンプルながらも有効打を常に出し続けるフレージングには、結構ファンが多いようだ。

(3)はエルヴィス・プレスリー、ボビー・ブランド、アイク&ティナ、リトル・ミルトンら多くのカバー・ヴァージョンを生んだ、不朽の名曲。もちろんフルスンのオリジナル。54年、ダラスにての録音。

「考え直しておくれ、ベイビー」と、つれない恋人に哀願する内容の歌だが、泣いてすがるようなミジメったらしい雰囲気はなく、どこか雄々しい風格さえある。それはもちろん、フルスンの歌いぶりによるものだ。

間奏における彼のギターと、ポール・ドレイクのピアノのインタープレイがなんともカッコいい。

いわゆるシカゴ・スタイルとはひと味違った、ジャズっぽく洗練されたサウンドがグー。

さて、(4)は60年LAにて録音されたオリジナル。LAやダラスといった、シカゴ以外での活動も多く、バックのメンバーも流動的なのが、彼が他のチェス・アーティストとは大きく異なる特徴だといえよう。

荒々しいシャウトから始まるこの曲は、武骨男フルスンの面目躍如とでもいうべきスロー・ブルース。

粘り強く、激しく叫ぶ彼のヴォーカルにノックアウトされること間違いなし。

(5)は自作のインスト・ナンバー。(4)同様、60年LAにての録音。

ミディアム・テンポのシャッフル。彼のソリッドでクールなギター・プレイが楽しめる。ホーン・セクションの分厚いサウンドもナイス。

(6)もオリジナル。55年LAにての録音とクレジットされているが、SKUNK Cさんによればシカゴ録音とのこと。

ジャズ風味のホーンをバックに、小粋にスウィングするヴォーカルを聴かせてくれるフルスン。

ギターやハープのサウンドがあくまでも基調のシカゴ・ブルースとはかなり異質の、ジャズィなブルース。

まあ、ブルースとジャズはもともと同じ根を持つ音楽なわけだから、そーいうカテゴライズ自体、あまり意味をなさないことなのだが。

歌詞は例によって「痴話喧嘩」というお決まりのパターンなのだが、これまでの曲がやや「懇願型」のそれであったのに対し、どちらかといえば相手にも反省をうながしているあたり、男っぽいといえなくもない。

続く(7)も、「こうなったのもおまえが悪い」と言い放ってしまうパターンの歌。56年シカゴにて録音のオリジナル。

自分の落ち度を自ら責めるブルースは「NOBODY'S FAULT BUT MINE」、「IT'S MY OWN FAULT, DARLIN」など、わりと定型としてあるが、これは異色の逆パターン。

さすが、オトコっぽさで売るブルースマン、フルスンですな。

サウンドはやはり、ジャズィなホーン・アレンジが特徴的。やや高音で勝負のシャープなヴォーカルが素晴らしい。

(8)はチェスの顔役、ウィリー・ディクスンの作品。ミディアム・ファストの軽快なナンバー。

ここでのギター・ソロも、典型的なフルスン・スタイル。ペナペナ気味のソリッドな音で、ほとんどチョーキングを使わずに、シンプルなフレーズを紡ぎ出している。

一聴するに格別「スゴい」と思わせるテクニックではないが、何度も聴き込んでいるうちに、その独特の枯れた味わいにハマる、そういうギター・プレイなのである。

(9)は55年シカゴでの録音のオリジナル。唸り、吼えるような彼のヴォーカル・スタイルが炸裂するナンバー。

腹の底からしぼり出すような歌声は、ほんと、圧巻です。そして、その硬質なギター・プレイもGOOD。

(10)は、時代は一番下って61年、シカゴでの録音。これまたホーン中心のバンドをバックに、J・ウィルスンとB・ロジャーズのコンビの作品を歌う。

ミディアム・スローのブルース。絶妙な抑揚、節回しのヴォーカルに、思わず「うまい!」と唸らされる。

そして、落ち着いたトーンのギター・ソロもまたシブい。

ラストは、本アルバム最大の聴きもの、なんと9分45秒におよぶ(11)である。

これもウィリー・ディクスンの作品。56年シカゴ録音。

50年代は、現在のように録音技術が発達していなかったから、当然レコードはすべて「一発録り」。

歌もバンド演奏も、すべて「いっせーの、せー」で同時に録音するしかなかった。

だから、満足のいく演奏を録音するためには、何度もテイクを重ねないといけない。

そういう、何度となく録音をやり直す風景を、そのまま収録していったのがこのトラックということである。

いろいろなミスや不本意な出来のテイクがあり、執拗に録音を重ねるさまには、鬼気迫るものがある。

暗く陰鬱な曲調もまた、それに一層拍車をかけている。

それぞれのテイクの歌いぶりの微妙な変化も、聴きどころ。今どきの「つぎはぎだらけレコーディング」には絶対ない、生なましい音の魅力を、堪能できる一曲だ。

以上、チェス・ブルースの「本流」とはちょっと違ったところにいるフルスンの、濃厚な世界がつまった一枚。

「トランプ」のリズミックでファンキーな世界とはまた違った魅力を、発見できるに違いない。

モノクロで大写しになったフルスンのジャケット写真からして、シブカッコいい一枚。

ぜひ、荒くれ男フルスンの、ストレートな歌声にハマって欲しい。

<独断評価>★★★★★


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音盤日誌「一日一枚」#103 バディ・ガイ「FEELS LIKE RAIN」(SILVERTONE 01241-41498-2)

2022-02-25 05:11:00 | Weblog

2002年5月12日(日)



バディ・ガイ「FEELS LIKE RAIN」(SILVERTONE 01241-41498-2

1.SHE'S A SUPERSTAR

2.I GO CRAZY

3.FEELS LIKE RAIN

4.SHE'S NINETEEN YEARS OLD

5.SOME KIND OF WONDERFUL

6.SUFFERIN' MIND

7.CHANGE IN THE WEATHER

8.I COULD CRY

9.MARY ANN

10.TROUBLE MAN

11.COUNTERY MAN

しばらくロックづいていたので、今日はブルースで。ブルカニでの来日も間近なバディ・ガイ、93年の作品。

バディ・ガイは90年代、シルヴァートーン・レーベルにスタジオ録音で4枚、ライヴ録音で1枚、計5枚のアルバムを残しているが、これは2枚目のスタジオ録音アルバム。

以前にこのコーナーで取上げた「SLIPPIN' IN」のひとつ前の作品にあたる。

彼はアルバムによって、ブルース寄りになったり、ロック寄りになったりと振り子運動のような変化を繰り返しているようだが、このアルバムでは、どちらかといえばロック寄りになっているので、ロック・ファンにも聴きやすい。

いきなりワウ・ギターの炸裂する(1)はバディのオリジナル。

SRVばりにハードにドライヴするブルース・ロックが実にカッコよい。

オレの彼女はプレイボーイ・マガジンにも登場するスーパースターだぜい!と見得を切る歌詞も、なかなかユーモラス。

続く(2)はおなじみジェームズ・ブラウンのナンバー。

tRICK bAGのホトケさんもお気に入りで、tbライヴの定番曲となっているし、古くはムーディ・ブルースもカバーしていたりする。

JBにまさるともおとらぬテンションの高さで熱唱するバディ。ギター以上に、ヴォーカルが熱い!

(3)は一転、カントリー・ロック調のおだやかなバラード。

それもそのはず、白人カントリー・ロック歌手、ジョン・ハイアットの代表曲なのだ。これまたしっとり感がいい。

(4)は大先輩マディ・ウォーターズのカバー。歌もふくめ、ほぼ忠実にマディ・サウンドを再現しているのが、モノマネが好きなバディらしい(笑)。

でも、モノマネにしてもよく出来ている。マディ御大のほうのヴァージョンは「ライヴ・アット・ミスター・ケリーズ」などで聴けるから、お持ちのかたは聴きくらべてみては。

(5)はゲスト・ヴォーカルにポール・ロジャーズを迎えてのナンバー。オリジナルはR&Bシンガー、ジョン・エリスン率いるソウル・ブラザー・シックス。

でも、皆さんには、グランド・ファンクのヒット曲として記憶されているだろうな。

さすが、ポールの歌はノリがよくて、危なげがない。バディも負けじと歌う。

以前レビューしたポールのアルバム「マディ・ウォーター・ブルース」ではバディがギターでゲスト参加していたから、これはその「お返し」といったところか。

(6)はエディ・ジョーンズ、すなわちギター・スリムのオリジナル。

スペシャルティの名盤「ザ・シングス・ザット・アイ・ユースト・トゥ・ドゥ」にも収録されていた、隠れた名曲だ。

ここでバディは、ギター・スリム独特のチョーキングしないギター・サウンドをトリビュートしつつ、哀感あふれるヴォーカルを聴かせてくれる。

(7)は元CCRのジョン・フォガティのオリジナル。彼のソロ・アルバム「アイ・オブ・ザ・ゾンビー」に収録されていたナンバーをカバー。

フォガティのロカビリー調の曲も、不思議とバディにフィットする。選曲の妙だな。

アルバムの前半はかなりロックっぽいというか、ポップな選曲だったが、後半は少しブルース色が強くなる。

(8)はバディのかつての相方、ジュニア・ウェルズのナンバー。この曲ではジョン・メイオールがリード・ヴォーカルとピアノでゲスト参加。

メイオール自身、すでにアルバム「ウェイクアップ・コール」でカバーしていたくらいお気に入りの曲を、ここでも熱唱。

このメイオールの歌は、従来の「メイオール節」的な臭みがあまりなく、枯れた味わいがあってわりといい感じだ。

もちろん、バディの歌とギターも、熟練の技を感じさせる上々の出来。

ちなみにメイオールは、当時シルヴァートーンのレーベル・メイト同士だったという縁での参加である。

(9)は大御所レイ・チャールズの十八番をカバー。ニューオーリンズ風味の味付け、ホーン・セクションをうまく使い、リズム・チェンジなどに凝ったサウンドが聴きごたえ十分。

ちなみにピアノは元リトル・フィートのビル・ペインなので、アレンジ的には彼が一役かっているのかも知れない。

(10)はマーヴィン・ゲイのオリジナル。こういう本格派ソウル・シンガーの曲に大真面目に取り組むあたり、バディの音楽の多様性、引き出しの多さを感じる。

確かにそのファルセット気味のヴォーカルは、マーヴィンに似過ぎ(笑)。でも、単なるモノマネに終わらせずに、自分自身の芸の幅を広げていこうという「気概」が感じられる。

ラストの(10)は再び、バディ自身のオリジナル。タイトルには「カントリー・マン」とあるが、カントリー・ロックではなく純正品のブルース。

ミディアム・テンポの力強いビートに乗り、ワウ全開で愛器ストラトキャスターを泣かせまくる。その粘っこさはとても当時50代なかばとは思えない。

ジミヘンが死んでも、SRVが亡くなっても、オレがいるぜ!!という感じで、ギターも歌も、とにかくハイ・テンション。

時代とともに進化するブルースマン、バディ・ガイの勇姿そのもののような一曲。

以上、ブルースも、非ブルースも、絶妙な割合いでブレンドされ、聴きやすい一枚。でも決して、ヤワな音ではない。筋金入りのサウンドが詰まっている。

来日公演をひかえ、ぜひ事前にチェックしておきたい一枚といえよう。おススメです。

<独断評価>★★★★


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音盤日誌「一日一枚」#102 ハンブル・パイ「パフォーマンス~ロッキン・ザ・フィルモア」(ポニーキャニオン/A&M D32Y3577)

2022-02-24 05:02:00 | Weblog

2002年5月5日(日)



ハンブル・パイ「パフォーマンス~ロッキン・ザ・フィルモア」(ポニーキャニオン/A&M D32Y3577)

1.FOUR DAY CREEP

2.I'M READY

3.STONE COLD FEVER

4.I WALK ON GILDED SPLINTERS

5.ROLLIN' STONE

6.HALLELUJAH (I LOVE HER SO)

7.I DON'T NEED NO DOCTOR

ロックバンドを続けていくこと、これは本当にむずかしい。

メンバー4人なり、5人なりの音楽的な指向性が完全に一致することは稀であるし、その才能・技量のレベルもまちまちである場合が多い。

全員が一丸となって、あるひとつの目標をめざすということは、容易ではない。

これがプロのバンドとなると、さらにもうひとつの難題、「売れなければいけない」が覆いかぶさってくる。

ロックバンドが歩むのは、まさにイバラの道であることよ。

…てなことをつらつらと思いつつ、このアルバムを聴いてみた。

パイ71年の作品。彼らの初めてのライヴ・アルバム。彼ら自身によるプロデュース。

69年にデビューした彼ら、途中所属レーベルの倒産というアクシデントを経ながらも、コンスタントに4枚のスタジオ録音のアルバムをリリース、人気も上昇気流にのっていた。

そこで初めてのライヴ盤、しかも初めての2枚組(LP)でリリースとなったわけだが、これが前4作を上回る実に素晴らしい出来となった。

(1)は女性R&Bシンガー、アイダ・コックスの自作ナンバー。

ヴォーカルの第一声は、ベースのグレッグ。これがなかなかドスがきいていてカッコよい。

歌い手としてほとんど注目されることのないグレッグだが、「へ~結構やるじゃん!」という感じ。

そして2コーラス目は、ピーターも負けじと声を張り上げて歌う。もちろんスティーヴも。

第一期パイは、ドラムスのジェリーを除く3人いずれもが歌うスタイルが特徴であったといえそう。

(第二期では、ほぼスティーヴのワンマンショーと化して、コーラスも黒人女性グループが受け持つようになるわけだが。)

サウンドはとにかく、へヴィーでハード。ステージであるフィルモア・イースト狭しと響き渡る、大轟音である。

オープニング・ナンバーに引き続き始まるのは、(2)。

タイトルでお察しいただけるように、ウィリー・ディクスン作、マディ・ウォーターズの代表的ナンバーなのだが、パイはこれを自分たち流のメロディとアレンジに完全に置き換え、まったく違ったイメージに再構成している。

あくまでもヘヴィー&ハードなロックとして。

リズムの重心の低さがなんとも快感なサウンド。もう、2R(曲)目にして、聴く者をノックアウトしてしまうようなへヴィー級パンチだ。

スティーヴの強靭無比なシャウト、ピーターの変幻自在なギターソロも、もちろん聴きモノ。8分を超える熱演。

(3)は、同年発表の4枚目のアルバム「ロック・オン」に収録されていたナンバー。メンバー全員の共作。

4人合わせて○○レンジャー!ではないが、4人のパワーが合体してフルに発揮された曲で、とにかく演奏も歌も熱い!のひとこと。

タイトルや歌詞に、いかにも黒人ブルースのモロな影響を感じる。もちろん、スティーヴの手によるものなのだろう。

途中のピーターのソロに、どこか非ブルース的な(ジャズに近い)スケールが出てくるのだが、確かにこのライヴでのピーターの立ち位置は「微妙」なところにある。

ハードでヘヴィーなサウンドにいまひとつ乗り切れてないというか。他の3人ほどはブルースにのめり込めてないというか。

歌のほうも究極のシャウター、スティーヴの陰に完全に隠れてしまっているし、「シャイン・オン」のような、どちらかといえばポップな自らの作品は演奏曲から外されてしまっている。

結局、黙々とギターを弾くしかないわけで、どこか「居心地が悪い」ことが見て取れる。

その印象通り、実際、ピーターは本作をもってパイを脱退してしまう。

ステージを重ねるうちに、パイのウケどころがブルージーでソウルフルなサウンドにあるということが見えてきた時点で、もうこれ以上自分がいても仕方がないと判断したのであろう。

やはり、バンドは難しい。

(4)はアルバム中最長の力編。なにせ23分以上、LP盤片面まるまるが一曲である。

興味深いのが、古いブルースやオリジナルではなく、同時代のアメリカ人アーティスト、ドクター・ジョンことマック・レベナックの作品のカバーであること。

この長尺だと普通、演奏する側もテンションが落ちたり、聴いている側もあきてきたりしそうなものだが、緩急自在、見事な構成力、歌唱力、演奏力により乗り切っている。

ピーターとスティーヴのツイン・リードも、カッコよいし、スティーヴの達者なハープ・プレイもまたよい。

まあ、当時はこういう長い曲が流行っていたこともあるのだが。

(5)では再び、マディ・ウォーターズの名曲、ストーズの名の由来ともなったナンバーをカバー。

とはいえ、彼らのこと、当然ほとんど原型をとどめないまでに、別モノのナンバーに消化している。

メロディはいうにおよばず、歌詞もかなりの部分がアドリブのようだ。

「ROLLIN' STONE」のフレーズを借りた、まったく新しいナンバーというべきか。

こちらも16分以上の熱ーい演奏が延々と続く。もちろんハイライトは、スティーヴと観客との「コール&レスポンス」。

さて、ステージもいよいよクライマックスへと突入。最後の(6)と(7)はいずれも、かのレイ・チャールズの作品。

ピーターもご愛嬌のヴォーカルを聴かせる(6)は、レイ56年の大ヒット。

サウンドはもちろん、パイ流のヘヴィーな味付けになっておりますです、ハイ。

(7)はレイ66年のヒットのカバー。これがまた、ホンマにレイの曲かいな?というくらい、究極のハード・ロックに仕上がっております。

当アルバム発表に先行してアメリカでシングル・カット、かの国での初ヒットともなった曲である。

やはり、このむせるようなブルース・フィーリングがアメちゃん達にはウケたんでしょうな。

以降の、彼らの快進撃の突破口となった一曲、一度チェックしてみる価値はあり。

以上、彼らのサウンドの魅力がギュッと凝縮された一枚。CD化により購入しやすくなったのもグー。

私見では、クリームやオールマンズのそれに匹敵する名ライヴ盤だと思う。

第一期パイの打立てた金字塔、ここにあり!です。

<独断評価>★★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#101 V.A.「NIGHT OF THE GUITAR (LIVE!)」(ビクター音楽産業 VDP-1468)

2022-02-23 05:05:00 | Weblog

2002年4月28日(日)



V.A.「NIGHT OF THE GUITAR (LIVE!)」(ビクター音楽産業 VDP-1468)

1.DR.BROWN I PRESUME(PETE HAYCOCK)

2.THE IDLER(STEVE HUNTER)

3.LUCIENNE(PETE HAYCOCK)

4.GROOVE THING(RANDY CALIFORNIA)

5.HEY JOE(RANDY CALIFORNIA)

6.LOVE ME TWO TIMES(ROBBY KRIEGER)

7.THE KING WILL COME(WISHBONE ASH)

8.THEME FROM AN IMAGINARY WESTERN(LESLIE WEST)

9.NEVER IN MY LIFE(LESLIE WEST)

10.CLAP MEDLEY(STEVE HOWE)

11.WURM(STEVE HOWE)

12.NO LIMIT(ALVIN LEE)

13.AIN'T NOTHIN' SHAKIN'(ALVIN LEE)

14.ALL ALONG THW WATCHTOWER(ALL ARTISTS)

今日の一枚はライヴもの。89年録音、翌年リリース。マーティン・ターナーによるプロデュース。

以前、ウィッシュボーン・アッシュの「NOUVEAU CALLS」や、オムニバス盤「GUITAR SPEAK III」を取上げたが、これもそれらと同様、IRSレーベルの総帥、マイルス・コープランドの企画によるもの。

ざっとラインナップを見ていただければおわかりいただけると思うが、70年代以降英米ロックの第一線で活躍しているギタリスト全員集合!という感じの、ギターヲタクには感涙モノのライヴ盤なのだ。

1988年11月20日から26日までに、全英7か所で公演した模様からピックアップ。

トップ・バッターのピート・ヘイコックといえば、「誰、それ?」といわれそうだが、クライマックス・シカゴのギタリストといえばピンと来るのでは?

かつてはブルース色の濃かったピートのプレイだが、オリジナルのインスト、(1)はアップテンポで、かなりフュージョンしている。

さえわたる華麗なピッキング。どこか、日本の高中正義に通じるところのあるサウンドだ。

続くスティーヴ・ハンターは、アメリカ人ギタリスト。アリス・クーパーにも在籍していたことのあるハードロッカーだ。現在はソロで活動している。

ピートのサポートを得て演奏するオリジナル・インスト・ナンバー、(2)は重厚なビートのロック。

鋭角的でブルージーな「泣き」のギターがなかなかよろしゅおます。

(3)では再びピート・ヘイコックがリードをとり、スティーヴはバックにまわる。

レゲエ・ビートでホンワカとした雰囲気のオリジナル。ピートのレイジーでのびやかなフレーズもまた佳き哉。

(4)をひっさげ登場するのは、ランディ・カリフォルニア。通好みの息の長いロック・バンド「スピリット」(このグループ名をご存じのあなたは、相当年季の入ったロックマニアのはず)のリーダー。

彼はアメリカ出身だが、結構イギリスでのウケがよいようだ。スティーヴと共演したこのオリジナル曲では、エフェクトをビシバシと使ったトリッキーでワイルドなギター・プレイのほか、達者なヴォーカルも聴かせてくれる。

ランディでもう一曲。おなじみのジミヘン・ナンバー、(5)を。

この選曲、実はランディが生前のジミヘンと、一時同じバンドでプレイしていたことによるとか。

亡きジミに捧げる、エコーを多用したエフェクティヴなギター・プレイがまことに見事。

お次はロビー・クリーガーによる、(6)。もちろん、あの伝説的グループ「ドアーズ」のギタリスト。

ドアーズ解散後も地道に音楽活動を続け、現在に至っている。

ここではスティーヴをバックに加え、ドアーズ時代の曲を演奏。自らリード・ヴォーカルもとっている。

ブルース・オリエンテッドなギタリスト達とはひと味違う、宙を舞うようなフリー・フォームのギターが、なかなか個性的。

さて、このIRSレーベルの企画において欠かせないのが、代表曲(7)で登場するウィッシュボーン・アッシュだ。

なにせ彼らは、IRSのギター・インスト企画の第一号アーティスト。

名盤「アーガス」、「ライヴ・デイト」などで何度もレコーディングしてきたナンバーを、若干速めのテンポで熱演。

オリジナル・メンバー、アンディ・パウエル、テッド・ターナーのスペーシーなギター・プレイはもちろん健在。さすがトップ・バンドの風格だ。

またまた懐かしさに涙チョチョ切れなのが、レスリー・ウェスト。

いうまでもなく、英米混成のハードロック・バンド「マウンテン」のギタリストだった「巨漢」。

でも現在では、糖尿病を患い、別人のようにガリガリに痩せてしまったが。

まずはマウンテン時代の代表的ヒット(8)を演奏。歌ももちろん披露。

音のほうはといえば、変わりないファットなサウンドを聴かせてくれる。

一聴して彼と判る、派手なディストーション・ギターが実にカッチョよろしい。

続く(9)も、マウンテン時代のナンバー。イントロでは「SLEEPWALK」という有名なインスト曲をうまく交えつつ、これまたヘヴィーに決めてくれる。

(10)では、イエスの看板ギタリスト、スティーヴ・ハウも登場。

イエス以外にもさまざまなグループで八面六臂の活躍を続けている。GTRもそのひとつで、(10)はそのレパートリー。

おなじみの、彼ならではの繊細かつブライトな響きが印象的なインスト。

続く(11)ではハウとヘイコックの共演により、イエスの3rd「イエス・アルバム」からの一曲を。

メランコリックなリフの執拗な繰り返しにより、聴衆をスティーヴ・ハウ・ワールドへとグイグイ引き込んでいく。いやー、圧巻です。

ステージもいよいよ佳境というところで登場するのが、アルヴィン・リー。

元祖速弾きギタリストの誉れ高い彼も、今やベテラン中のベテラン。

テン・イヤーズ・アフターを再結成する一方、ソロでも活動を続けるなど、常に話題にはこと欠かないひとだ。

まずは、「GUITAR SPEAK」シリーズで発表したオリジナル、(12)を演奏。

得意技の、スキャット+ギターによるダブル攻撃なども折り込みつつ、相変わらずの超高速フレーズを連発。

彼の出現後、多くの速弾きギタリストが登場したが、やはり「ご本家」の存在感はスゴい。

もう、ウマイとかヘタとかそういうレベルを超越した「カンロク」ですな。

二曲目の(13)は、TYA時代によく演奏していたR&Bナンバー。

もちろん、派手な泣きのギターが全開。とにかく、このひとのプレイは「やるならとことん」が身上。

われわれの世代はかつて、映画「ウッドストック」での彼のプレイに度肝を抜かれたものだが、超ベテランになってなお、アルヴィンのショーマンシップはいよいよお盛んのようだ。

このライヴはビデオでも発売されているようだから、ぜひそちらもチェックしてみたいもんだ。

さて、いよいよラスト・ナンバー。これまでの出演者が一同に会しての、豪華セッション。演奏するは、ボブ・ディラン作の(14)。

ランディが歌い、ロビー、スティーヴ・ハウ、アンディがソロをとる。息もぴったり、ど迫力のプレイの連続に涙、涙、涙。

やっぱり、ギターこそはロック也、と痛感した一枚。

そのプレイにはさまざまなスタイルがあるが、最後はやはり「ロック魂(スピリット)」という一点で、すべては集約されるのだなあと感じた次第。

チェックして、絶対ソンはないと思うよ。

<独断評価>★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#100 エリック・クラプトン「TIMEPIECES VOL.II・ 'LIVE' IN THE SVENTIES」(Polydor 811 835-2)

2022-02-22 05:54:00 | Weblog

2002年4月21日(日)



エリック・クラプトン「TIMEPIECES VOL.II・ 'LIVE' IN THE SVENTIES」(Polydor 811 835-2)

1.TULSA TIME

2.KNOCKIN' ON HEAVEN'S DOOR

3.IF I DON'T BE THERE BY MORNING

4.RAMBLING ON MY MIND

5.PRESENCE OF THE LORD

6.CAN'T FIND MY WAY HOME

7.SMILE

8.BLUES POWER

さて今日は、昨日聴いたクラプトンのベスト盤「TIME PIECES」の続編にあたる一枚。83年リリース。

副題通り、70年代の彼のライヴ録音を、既発表・未発表とりまぜて8曲収録してある。

前回同様、時代順に見ていくことにしよう。

まずは71年、デレク&ザ・ドミノス時代、フィルモア・イーストにおける録音。

セカンド・アルバム「LIVE AT THE FILLMORE」にも収録された(5)は、もちろんブラインド・フェイスのナンバーで、クラプトン自身のオリジナル。

ブラインド・フェイスのアルバムではスティーヴィ・ウィンウッドがもっぱら歌っていて、クラプトンに「出番」はなかったのだが、ここではその溜飲を下げるかのように、自ら熱唱している。

ゴスペルの雰囲気が濃厚に漂う荘重なナンバーを、思い入れをこめて歌うクラプトン。若干声が枯れぎみながら、説得力は十分ある。

74年に録音されたのは(6)と(7)。バック・バンドは「461~」でのメンバーにマーシー・レヴィが加わったラインナップ。

(6)はこれまたブラインド・フェイス時代の曲。ウィンウッドの作品。

イヴォンヌ・エリマンの力強い歌、そして、クラプトンの息のぴったり合ったバック・ヴォーカルが聴ける。

彼の歌声は、本家ウィンウッドに声域・声量ではもちろん劣るものの、「歌心」ではまさるとも劣らぬものを持っているなと感じる。

なお、過去のアルバムでは「E.C. WAS HERE」に収録されている。

(7)は珍しく、チャーリー・チャップリン主演映画の主題歌のカバー。後に彼は、非ロック、非ブルース路線を強めることとなり、昨年の来日ライヴで披露した「虹の彼方に」のようなスタンダードも歌うようになるが、その「兆し」を感じさせる一曲。

何となく頼りなげな歌いぶりではあるが、これはこれで微笑ましい。

なお、(7)はこのアルバムで初収録されたトラックである。

79年12月には、日本武道館公演を録音、「JUST ONE NIGHT」なる二枚組アルバムとしてリリース。

その公演からは、(1)、(2)、(3)、(4)、(8)の5曲を収録。

メンバーは「BACKLESS」までのバックを一新、英国人ミュージシャンで集められている。

リードギターは名手、アルバート・リー。これにクリス・ステイトン(kb)、デイヴ・マーキー(b)、ヘンリー・スピネッティ(ds)の、いずれ劣らぬ実力派が加わっている。

(1)はカントリー・シンガー、ドン・ウィリアムズの片腕、ギタリストであるダニー・フラワーズの作品。

アルバム「BACKLESS」に収録された、威勢のいいナンバー。クラプトンのスライド・プレイが生き生きとしていていい。

(2)は唯一、「JUST ONE NIGHT」には未収録だったレア・トラック。

クラプトンは原作者のボブ・ディランとも共演したこともあり、このディランから拝領したナンバーは、80年代以降のクラプトンの路線を、ある意味で決定したような気がするが、いかがであろうか。

ことに「ワンダフル・トゥナイト」「チェンジ・ザ・ワールド」のようなバラードに、その影響が強く感じられるように思う。

(3)はこれもディラン(およびヘレナ・スプリングス)による、書き下ろしの作品。「BACKLESS」に収められている。

歌うは、クラプトンとアルバート・リー。ギターソロもリーがとる。

このカントリー風のプレイがまた、実に巧いのだ。ヘタすると主役を食っちゃってるかなというくらい(笑)。

たしかにクラプトンに比べると、音数が多く、華麗なことこの上ないギター。で、クラプトンのギターを期待してやって来た客は肩すかしをくらうことになる。

でも、あえてソロをバックに譲るクラプトンの姿勢に、ヴォーカルに全力投球しようという「意気込み」のようなものを感じるのである。

(4)はブルースブレイカーズ時代から、少しずつアレンジを変えながら演奏し続けている、定番中の定番曲。もちろん、ロバート・ジョンスンの作品だ。

ここでは「E.C. WAS HERE」ヴァージョンより少しだけテンポを上げて演奏。おなじみの連続転調がカッコよろしい。

いかにもストラト(もち、ブラッキーでしょうな)といった感じのソリッドな音が、聴きものである。

9分近い長尺なれど、「HAVE YOU EVER LOVED A WOMAN」を折り込むなど、スリリングな展開で聴くものを飽きさせないのは、さすが!の一言。

(8)は、アルバム「ERIC CLAPTON」に収録されていた、レオン・ラッセルとの共作によるナンバー。

こちらも、長らくステージでの定番となっていた曲で、観客のウケもサイコーだったとか。

ここでのリーはピアノを担当。ファンキーなビートを従えて、縦横無尽にプレイされるクラプトンのワウ・ギターが貫禄を感じさせる。

さて、以上の選曲、いろいろ反論はあるかと思う。

筆者的には、「JUST ONE NIGHT」からよりは「E.C. WAS HERE」からもう少し入れたほうがいいんでないの~?という思いは強い。

特に、「FURTHER ON UP THE ROAD」はハズして欲しくなかったなぁ…。

などなど、セレクションにはいささかイチャモンをつけたくなるが、まあ、コンピ盤にそういう不満はつきもの。

結局、自分自身で作るのが一番というわけだが、このアルバム、未発表の2曲、ことに(2)だけを聴くために買っても損はないと思う。

ぜひ、名曲「天国の扉」ライヴ・ヴァージョンを、あなたのECライヴ・コンピレーションに加えていただきたい。

<独断評価>★★★★


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音盤日誌「一日一枚」#99 エリック・クラプトン「TIMEPIECES」(Polydor 800 014-2)

2022-02-21 05:13:00 | Weblog

2002年4月20日(土)



エリック・クラプトン「TIMEPIECES」(Polydor 800 014-2)

1.I SHOT THE SHERIFF

2.AFTER MIDNIGHT

3.KNOCKIN' ON HEAVEN'S DOOR

4.WONDERFUL TONIGHT

5.LAYLA

6.COCAINE

7.LAY DOWN SALLY

8.WILLIE AND THE HAND JIVE

9.PROMISES

10.SWING LOW, SWEET CHARIOT

11.LET IT GROW

本HPの掲示板でもなにかと話題になることの多い、エリック・クラプトン。今日はそんな彼の、何種類も出ているベスト盤のうちのひとつ。82年リリース。

70年発表のファースト・ソロ・アルバム「ERIC CLAPTON」から、78年の「BACKLESS」にいたるまでの、70年代のECの軌跡がたどれる一枚だ。

「ERIC CLAPTON」からは、(2)の1曲。ごぞんじ、名シンガー・ソングライター、J・J・ケールの作品。ノリのいいアップテンポのナンバー。

同じく70年に結成したデレク&ザ・ドミノスのファーストにして、ロック史上不朽の名盤の誉れ高い「LAYLA AND OTHER ASSORTED LOVE SONGS」からは、もちろんタイトル曲の(5)。

これは後にも何度かリヴァイヴァル・ヒットしたという、きわめつけのロック・スタンダード。

クラプトンの激情ほとばしるようなヴォーカルが、出色のできだ。

しばらくドラッグ漬けとなり、実質引退状態だった彼が、ようやく復帰した74年のアルバム「461 OCEAN BOULEVARD」からは、大ヒット曲(1)、カバーものの(8)、そしてオリジナルの(11)、計3曲。

(1)はボブ・マーレィ&ザ・ウェイラーズがオリジナル。レゲェというジャマイカ音楽を、一躍世界中にひろめる契機となった1曲だ。

(8)はジョニー・オーティスの作品。クラプトンはこれをモダンなビートで見事、70年代によみがえらせた。

(11)は、クラプトンがアメリカ音楽に開眼、次第にアコースティックな傾向を強めるようになったのがよくわかる作品。

「461~」以降、彼は再びコンスタントにアルバムを発表するようになる。「THERE'S ONE IN EVERY CROWD(安息の地を求めて)」は75年の作品。

商業的にはあまり成功したとはいえない一枚だが、隠れた名演もいくつか含んでおり、本アルバム収録の(10)はその代表。

トラディショナルな黒人霊歌、つまりゴスペルをレゲェ・ビートでリニューアルした、クラプトンならではのアイデアが光る。

イヴォンヌ・エリマン、マーシー・レヴィというふたりの強力な女声コーラスを従え、心にしみる名曲に仕上がった。

同年には、ボブ・ディランの名曲をカバーしたシングルもリリース。(3)である。

このベスト盤で初めてアルバムに収録。シングル盤による入手が困難となった現在、このアルバムでチェックする価値は十分あるだろう。

その年にはライヴの名盤「E.C. WAS HERE」、翌76年には「NO REASON TO CRY」もリリースしているが、そのへんは飛ばして、77年リリースのヒット・アルバム「SLOW HAND」へ。

そこからは(4)、(6)、(7)の三大ヒットを収録。道理で売れたわけだな(笑)。

(4)はオリジナルのバラードで、彼のベスト・ヒットのひとつ。ウェディング・ソングとしての人気も絶大だ。

こういう非ブルース的な歌のヒットにより、彼のネームは世界的なものとなった。

(6)は(2)同様、J・J・ケールの作品。他人のいい曲を探し出してきてカバー、しっかり自分の十八番にしてしまうあたりが、クラプトンの商売上手なところ。

(7)はそのケールの影響のもとに書かれた作品。マーシー・レヴィ、ギターのジョージ・テリーとの共作。

いわゆる「レイドバック」した、カントリー風サウンド、そして枯れたギタープレイが印象的。従来のようにバリバリ弾きまくるのではなく、「味わい」で勝負するギタリストに脱皮したといえる。

78年には「BACKLESS」を発表。前作ほどの精彩は感じられないアルバムだったが、ここからは(9)を収録。

(7)の延長線上にある、カントリー・サウンド。クラプトンがドブロ・ギターを弾いているのが聴きものだ。

以上、7枚のアルバムからの11曲。まだまだほかにいい曲あったんじゃないの!?というツッコミは十分入れられるだろう。

あるいは、逆に「これはいらないんじゃないの?」というご意見もいろいろ出そうだな。

が、まあ、「理想のコンピ盤」はクラプトン・ファンの皆さんひとりひとりに作っていただくことにして、これだけの多彩なヒット曲群を長年にわたって生み出してきた、クラプトンの才能を素直に賛美しようではないの。

ただ、ギターが上手いというだけでは、ここまで数多くの曲をヒットさせることは絶対ムリ。

ヘタウマとか何とかいわれようが、彼の歌にはえもいわれぬ「味」があり、人々の心を捉えて離さない「サムシング」がある。

70年代、それは彼のヴォーカル、演奏にもっとも脂がのっていた時期。

ぜひもう一度彼のアルバムを引っぱり出して聴き、あなた自身のベスト・セレクションを作ってみてはいかがでしょう?

<独断評価>★★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#98 ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ「A HARD ROAD」(LONDON 820 474-2)

2022-02-20 05:01:00 | Weblog

2002年4月14日(日)



ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ「A HARD ROAD」(LONDON 820 474-2)

1.A HARD ROAD

2.IT'S OVER

3.YOU DON'T LOVE ME

4.THE STUMBLE

5.ANOTHER KINDA LOVE

6.HIT THE HIGHWAY

7.LEAPIMG CHRISTINE

8.DUST MY BLUES

9.THERE'S ALWAYS WORK

10.THE SAME WAY

11.THE SUPER-NATURAL

12.TOP OF THE HILL

13.SOMEDAY AFTER A WHILE(YOU'LL BE SORRY)

14.LIVING ALONE

ジョン・メイオール率いるブルースブレイカーズ、67年リリースのアルバム。

当時のメンバーは彼のほか、ピーター・グリーン(g)、ジョン・マクヴィー(b)、エインズリー・ダンバー(ds)。

クラプトンに代わって参入したグリーンの、初お目見え盤ということになる。

タイトル曲(1)はメイオールの作品。彼のおなじみの「泣き節」が印象的なピアノ・ブルース。

筆者的には、この「うわずった声」がちょっと苦手なんで、今ひとつ好みではない。彼のピアノはいい味を出していると思うが。

(2)は同じくメイオールのオリジナル。彼のオルガン、ハープをフィーチャーしたシャッフル。

ま、可もなく不可もなくといった出来。ここまではギターはほとんど前面に出てこない。

(3)はウィリー・コブス作のアップ・テンポのブルース。前にメイオールのコンピ盤を取上げたときにも書いたが、オールマンズがこのアレンジをまんま使ってしまったという、いわくつきの曲。グリーンの弾くリフが、なかなかイカしている。

(4)はフレディ・キング作の、グリーンのギターをフィーチャーしたインスト。クラプトン参加のアルバムにおける「ハイダウェイ」的ポジションのナンバー。

ここでのグリーンのプレイは若さとガッツにあふれ、、ECのそれと優るとも劣らぬ出来。ブルース・ギターを弾く者ならぜひ使いたくなる、おいしいリック満載である。コピーに最適。

(5)は、ホーン・セクションも加えた、重厚なブルース。メイオールの代表作品のひとつといえよう。

聴きものは、なんといっても、へヴィーなビートに載って展開される、グリーンの泣きのギター。

激情ほとばしるプレイは、すべてのギタリスト必聴だ。

(6)はメイオールの多重録音ヴォーカルによる、ピアノ・ブルース。メイオールのオリジナル。

「泣き節」の二乗は、ちょっとトゥー・マッチな印象あり。これも、筆者的にはパス。

(7)もメイオールの作品。彼のハープとオルガンを全面にフィーチャー。ホーンも加えて、分厚い音作りをしている。

こちらのヴォーカルも多重録音のようだが、(6)に比べれば、まだあっさりした感じで聴きやすい。

(8)はおなじみのブルース・クラシック。でもタイトルが「ブルーム」ではなく「ブルース」であることからわかるように、ロバジョンというよりは、エルモア・ジェイムズのヴァージョンがお手本。

当然、メイオールのエルモアばりのスライド・ギター、そして迫力に満ちたヴォーカルが聴ける。これは結構いけます。

(9)はオリジナルのインスト。ハープと、ハミング(というかグロウル、唸りというべきか?)を絡めた、短いナンバー。ちょっと息抜きしてみました、という印象。

(10)はグリーンの作品。ミディアム・スローなブルース。枯れた味わいのあるヴォーカルも、彼によるもの。

おなじみの、レス・ポールから紡ぎ出される艶のあるトーンが、グー。短めながら、いいソロだ。

(11)はコンピ盤にも登場していた、グリーン作のインスト。「フリートウッド・マック」にそのままつながって行く、マイナー・ブルース全開のサウンドだ。

エコーを効果的に利かせたギターがたまらなく官能的。身もだえしそう(笑)。とにかく名曲にして、名演。

(12)はメイオール作の、ミディアム・テンポのブルース。

彼のピアノに、グリーンの切れ味鋭いギターが絡む。歌のほうは「泣き節」の多重録音なので、いまイチ。

(13)はこれまたフレディ・キング作の、R&Bバラード・ナンバー。

ゆったりとしたテンポで、歌い上げるメイオール、そしてフレキンばりにギターを派手にスクウィーズさせ、泣かせまくるグリーン。

ギターは100点満点。うーむ、もう少し歌がうまければねーとは思うが、あまりひとのことは言えない(笑)。

(14)はメイオールの作品。ミディアム・ファスト・テンポのブルース。

ここではスライド・ギターを弾きつつ、ハープを聴かせるメイオール。

他の曲ではオルガン、ピアノ等も弾いているし、そして作曲&アレンジも。まさに八面六臂の活躍ぶり。

歌はともかく、他の楽器は実に巧みに弾きこなすひとだなーと思う。

しかしながら本作では、主役をグリーンに見事に食われている。やはり、グリーンのプレイは天才のそれ以外のなにものでもない。

フレージング、トーン、そして何よりも天性のブルース・フィーリング。完璧の一語。

アルバムも、明らかに、メイオール主導のトラックと、グリーン主導のトラックではカラーが違う。そして、出来ばえも。

酷な言い方だが、グリーン主導のトラックのほうが、断然出来がいい。これでは、どちらがリーダーだか、って感じ。

当然ながら両雄は相並び立たず、早い時期にグリーンはメイオールのもとを巣立ち、自分が主導するバンドを結成することとななる。

ピーター・グリーンのほんの短い在籍期間中に作られた当アルバムは、天才グリーンの足跡を知る上で欠かせない一枚だ。

<独断評価>★★★★



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音盤日誌「一日一枚」#97 レーナード・スキナード「ONE MORE FOR FROM THE ROAD」(MCA MCAD-6897)

2022-02-19 05:16:00 | Weblog

2002年4月11日(木)



レーナード・スキナード「ONE MORE FOR FROM THE ROAD」(MCA MCAD-6897)

1.WORKIN' FOR MCA

2.I AIN'T THE ONE

3.SEARCHING

4.TUESDAY'S GONE

5.SATURDAY NIGHT SPECIAL

6.WHISKEY ROCK-A-ROLLER

7.SWEET HOME ALABAMA

8.GIMME THREE STEPS

9.CALL ME THE BREEZE

10.THE NEEDLE AND THE SPOON

11.CROSSROADS

12.FREE BIRD

レーナード・スキナード、77年リリースのライヴ盤。

通算5作目にあたる本アルバムは、前のスタジオ盤4枚の集大成とでもいうべき、名曲・佳曲ぞろいの内容になっている。

(1)は彼らの代表的ヒット。名盤の誉れ高いセカンド・アルバム「SECOND HELPING」からのセレクション。

この演奏が、スタジオ版をさらにうわまわる名演だ。

ロッシントン、ゲインズ、コリンズのトリプル・リードの息もぴったり、リズム隊のグルーヴもタイトこのうえなく、カンペキなアンサンブルを聴かせてくれる。

(1)が終わるや、間髪を入れず演奏される(2)は、73年発表のファースト・アルバム「PRONOUNCED LEH-NERD SKIN-NORD」からのナンバー。これまた、へヴィーなリズム、一糸乱れぬギター・アンサンブルが素晴らしい。

(3)は76年リリースの4作目のアルバム、「GIMME BACK MY BULLETS」から。CSN&Yにも通ずる味わいのある、どこかレイジーでソウルフルな、典型的サザン・ロック。

(4)は、一転、哀感にみちたスローバラード。ファースト・アルバム収録のナンバー。

コーラス隊を従え、カントリー・フレイバーあふれるヴォーカルを聴かせるロニー。ビリー・パウエルのピアノ、サム・マクファーソンのハープがさらにムードを盛り上げる。

(5)は75年リリースのサード・アルバム「NUTHIN' FANCY」から。レーナード・スキナードの名を世に広めた有名曲といえよう。ハード、へヴィー。でも決してマッシー(ぐちゃぐちゃ)にはならず、澄み切ったアンサンブルを誇る彼らの、本領発揮な一曲。

コーラスでもなかなか息の合ったところを聴くことが出来る。

(6)は、同じくサード・アルバムからの選曲。タイトル通り、なんとも軽快なアップテンポのロックン・ロール。トリプル・ギターもますます冴えわたる一曲。

(7)はセカンド・アルバムからの、大ヒット・チューン。これぞレーナード・スキナード!という感じの、いなたくもカッコいいサウンド。ピアノ、コーラス、そしてソリッドなギター・ソロ。いずれも出色の出来。

ブルースをもう一方のコアに持ちながらも、やはり彼らの表看板は「カントリー」。アメリカの地方部の土臭さこそが魅力なのだ。

(8)はファースト・アルバムから、ミディアム・テンポのロック・ナンバー。ステディなビートが心地よい。リック・デリンジャーの「UNCOMPLICATED」にも通ずる、理屈抜きに楽しいサウンド。

どんなテンポの曲をやっても彼らの演奏は荒っぽくならず、実にキメが細かい。この曲などは、あらゆるバンドのお手本になるような、完成度の高いビート、そしてギター・アンサンブルだ。

お次の(9)はセカンド・アルバム収録の、J・J・ケールの作品。アルバムとはまたひと味違ったライヴ向きのワイルドなアレンジ。でもコーラスはスタジオ版同様、バッチリと決まっている。

ビリーのノリノリのピアノ・ソロ、そして三人のギタリストの足並み揃ったプレイ。素晴らしいの一言。

彼らのスゴいところは、スタジオ録音で残したベスト・レベルの演奏を、ライヴでも常にそのまま再現できた、という点だろう。

(10)もセカンドから。(7)同様、循環コードを基調にしながらも、こちらはどちらかといえばブルース色が濃い。

ギター・ソロのラインに、彼らが黒人音楽から強く受けたインスピレーションを感じ取ることが出来る。

続く(11)も、彼らがブルースから受けたなみなみならぬ影響をうかがえるナンバー。

もちろん、あのロバート・ジョンスンの名曲。アレンジは、クリームの有名なライヴ・ヴァージョンを、テンポも含めてほとんどまるまる拝借しているのが微笑ましいが。

それにしても、ギターの三人の、パーフェクトなまでの息の合い方には、舌を巻くばかりだ。

ラストの(12)は、ファースト・アルバムからの、彼らのシンボルともいうべき最重要曲だ。アレン・コリンズとロニー・ヴァン・ザントが生み出した、畢生の名曲。

11分半にもおよぶ、超熱演。スローで始まり、テンポを上げつつ次第に盛り上がって行く。最後には全員のパワーが一体となって、凄まじいまでのクライマックスを迎える。

聴く者すべてに感動を呼び起こさずにはいられない、入魂の一曲。これだけを聴くために、この一枚を買っても惜しくはない名演だ。

残念ながら作曲者のふたりとも、もはやこの世にはいないが、彼らの魂はこの一曲がある限り、永遠に生き、飛翔し続けるに違いない。

その音楽的なパワー、テクニック、そしてハート。すべてにおいて、驚嘆すべきライヴ。

名エンジニアでもある、トム・ダウドのプロデュースにより、彼の手がけたクリーム「WHEELS OF FIRE」と並んで、この一枚はライヴ盤における不滅の金字塔となった。

ロック・ミュージックの達成した、不倒記録がここにはある。聴かないという手はない、そう思うよ。

<独断評価>★★★★★


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音盤日誌「一日一枚」#96 V.A.(マディ・ウォーターズほか)「FATHERS AND SONS」(MCA/Chess CHD-92522)

2022-02-18 05:00:00 | Weblog

2002年4月9日(火)



V.A.(マディ・ウォーターズほか)「FATHERS AND SONS」(MCA/Chess CHD-92522)

(1)ALL ABOARD

(2)MEAN DISPOSITION

(3)BLOW WIND BLOW

(4)CAN'T LOSE WHAT YOU AIN'T NEVER HAD

(5)WALKIN' THRU THE PARK

(6)FORTY DAYS AND FORTY NIGHTS

(7)STANDIN' ROUND CRYIN'

(8)I'M READY

(9)TWENTY FOUR HOURS

(10)SUGAR SWEET

(11)LONG DISTANCE CALL

(12)BABY PLEASE DON'T GO

(13)HONEY BEE

(14)THE SAME THING

(15)GOT MY MOJO WORKING,Part One

(16)GOT MY MOJO WORKING,Part Two

69年リリース。アナログ盤では二枚組だったものを一枚にまとめたCDだ。

「ファザーズ」とはマディ・ウォーターズとその盟友、オーティス・スパンのこと。「サンズ」とは、彼らに大きな影響を受けた、マイケル・ブルームフィールド、ポール・バターフィールド、ドナルド・ダック・ダン、サム・レイ、バディ・マイルズといったロック・ミュージシャン達のこと。

言ってみれば、ブルース版「スーパー・セッション」なのだが、俄かごしらえのバンドにしてはなかなか素晴らしいアンサンブルを聴かせてくれる一枚だ。

まずは、マディのオリジナル、アップ・テンポで「ミステリー・トレイン」にちょい似の(1)から。

バターフィールドとジェフ・カープのツイン・ハープが聴きもの。グイグイと飛ばし、最初から全員がやる気十二分なのが伝わってくる。

以降、しばらくマディの作品が続く。(2)はスロー・ブルース。おなじみ、マディのスライド・ギターが唸りを上げ、オーティス・スパンのピアノがレイジーなムードを盛り上げる。

(3)はミディアム・テンポのシャッフル。ブルームフィールドのソリッドなギターに、バターフィールドのハープがからむ。実にブルーズなフンイキだ。

(4)はミディアム・スローのブルース。マディのヴォーカルにぴったりと寄り添うように弾かれる、ブルームフィールドのギター。ソロでは、激しくスクウィーズ。これがなかなか小味でナイスだ。

(5)は再び速いテンポでのシャッフル。猛スピードのイントロからのテンポ・チェンジがビシッと決まって、なかなかカッコいい。ハープ、ギターの熱演も光る。

(6)はバーニー・ロス作。ヘヴィーなサウンドのスロー・ブルース。こういう曲ではもちろん、バターフィールドの粘っこくパワフルなハープは欠かせない。

(7)もスローでマディ作。マディのドスの効いたヴォーカルの本領発揮な一曲。泣きのスライドも炸裂。

軽快なテンポの(8)は何べんとなくレコーディングされた超定番曲。力強いダンのベース・ランニングがいい感じだ。

(9)は「ファイヴ・ロング・イヤーズ」「サード・ディグリーズ」といったヘヴィーな内容の、そして何故か「数字」にこだわったピアノ・ブルースでおなじみの、エディ・ボイドの作品。

こういう曲でのスパンのプレイはさすがだ。他の曲では控え目な彼も、グッと前面に出て、味わい深いソロを聴かせてくれる。よっ、名人!!

(10)は、マディ作のアップ・テンポのナンバー。バターフィールドのハープをフィーチャー。

以上10曲は、アナログ盤では一枚目。以下の6曲は二枚目に相当し、こちらは同じセッション・バンドによるライヴ録音である。

このライヴが実に名演である。特に(11)は、「ベスト・オブ・マディ・ウォーターズ」にも収録されている有名曲だが、聴いていると鳥肌が立ちそうな歌、そして演奏だ。これに何も感じなかったら、ブルースを聴くのをやめたほうがいいかも(笑)。

とりわけ、マディのスライド・ギター、貫禄たっぷりのヴォーカルにはシビレる。これがブルースでんがな。

(12)は、以前ごI紹介した「アット・ニューポート」でもやっていたナンバー。元々は作者不詳のトラディショナル、ビッグ・ジョー・ウィリアムズの名演で知られるが、マディによってすっかり彼のオリジナルと化したナンバー。

これまた、ニューポート出場時より、ひと回りスケールの大きくなったマディの歌声が聴ける。

ちょっとラフでぶっきらぼうな持ち味はあいかわらずだが。

ここで聴かれるブルームフィールドのギターの音色が、実に艶やかでいい。

スロー・テンポの(13)は、(11)同様、「ベスト・オブ~」収録。スライドも、ハープも、泣きまくるディープな味わいのナンバー。これまた、マディ・サウンドの真骨頂を発揮。

(14)は、淡々としたビート、おさえめの表現の中にも燃えさかる激情を秘めた、120%ブルースな一曲。ブルース界のゴッドファーザー、ウィリー・ディクスンの作品。

いやー、カッコ良すぎ!!

そして、ステージは当然、あの「必殺」の一曲へとなだれ込む。

そう、いわずと知れた(15)だ。この曲に対する観客の反応が、ニューポートの時に比べても、さらに凄まじい。

もう、大波が押し寄せてくるような、拍手・歓声の嵐、嵐、嵐。

一回だけでは観客は満足しきれず、再び呼び出されたマディは、またも(16)を繰り返す。

さらに観客の熱気は高まり、会場は興奮の坩堝と化す。いやー、スゴいっす。

とにかく、バックの演奏の出来ばえといい、マディの気合いの入り方といい、単なる「企画モノ」の域を超え、彼の代表作といってさしつかえない一枚。

録音も、当時最新のロックなセンスでなされているので、ロックファンが聴いても、違和感なくとけ込める。

バックメンバーのモダンさと、マディのブルースマン魂がムリなく融合した、傑作。

ロックとブルースの橋渡しに尽力した巨人、マディ・ウォーターズの足跡、貴方もぜひたどってみて欲しい。

<独断評価>★★★★


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音盤日誌「一日一枚」#95 クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル「BAYOU COUNTRY」(FANTASY FCD -4513-2)

2022-02-17 05:06:00 | Weblog

2002年4月7日(日)



クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル「BAYOU COUNTRY」(FANTASY FCD -4513-2)

(1)BORN ON THE BAYOU

(2)BOOTLEG

(3)GRAVEYARD TRAIN

(4)GOOD GOLLY MISS MOLLY

(5)PENTHOUSE PAUPER

(6)PROUD MARY

(7)KEEP ON CHOOGLIN'

さて、新年度に入ったので、このコーナーもこれまでと少し違ったスタイルでやってみたい。

従来は週に1回更新、1~2枚を取上げていたが、今後は週3回(月・水・金)更新を目指して行きたいと思う。

さて第一弾はこれ。CCRのセカンド・アルバム、69年1月リリース。

最近の筆者は、アルバムを既にお皿(LP)で持っていてもCDで買い直すというパターンが多いのだが、これもまたその手の1枚。

個人的には5枚目の「COSMO'S FACTORY」に次いで好きなアルバムでもある。

当時彼らは昇り調子で、出す曲出す曲すべて両面ヒット、アルバムも年に2枚(!)くらいのペースで平気でリリースしていた。

それこそ今年の阪神タイガースを思わせる(!?)「破竹の勢い」が感じられる1枚なんである。

さて、彼らの代表的ヒットシングル(6)とそのB面(1)をフィーチャーしたこのアルバム、当時ポップスのLPは普通10~12曲くらい収められているのに7曲と少なく、購入した当初「なんか割高だな~」と子供心(当時筆者は中1)に感じた記憶がある。

もちろん(6)はヒット曲の王道通り、3分少々なのだが、8分前後と当時としては異様なまでの長尺な2曲、(3)と(7)があるために、7曲というごく少ない曲数になっているのだ。

ポップスのヒット曲の長さは平均3分前後、という時代に、これはかなり挑戦的な試みだったといえそうだ。

曲調も、ヒット曲の(6)の路線が中心かと思って買うと、全然ハズレ。

(6)のような、健康的で明るいカントリー・タッチの曲は他にほとんどなく、基本的にはドス黒いブルース・R&B路線なのだ。

(1)はタイトル通り、南部サウンドへの志向をはっきりと打ち出した一曲。

重たく、うねりのあるビート、アンプでトレモロのかかったギター・サウンドが印象的。

そして、なんといってもジョン・フォガティの迫力あるシャウトに圧倒される。この人、ホントに白人?と誰もが驚愕したあの「濃い」歌声である。まさにサザン・ソウルな声。

でも彼ら、実は本拠地L.A.を一歩も出たことがなしにこの曲を作ったというから、可笑しい。

(2)は(1)よりは少し軽め、ロカビリー調のギター・サウンド。でもヴォーカルはロカビリーというよりは、見事にブラック・ミュージックのそれ。

(3)はその無気味なタイトルから察することが出来るように、とにかくドス黒い、100%ブルーズィな一曲。

これを聴いた筆者は、なんか子供が聴いてはいけないものを聴いてしまった(笑)、そんな印象を受けた。

かなり重心の低いビート、気だるさをたたえたギター、そして極めつけは地獄の底から響いてくるかのような、ハープの音色。

ブルース・ハープなるものを、このアルバムを初めてじっくり聴いたという記憶がある。

"厨房"にはキツ過ぎる刺激。そのせいで、今の筆者があるのかもしれん(笑)。

(4)は一転、アップテンポのロックン・ロール。おなじみリトル・リチャードの自作ヒット。

このヴォーカルもスゴい「エグさ」だ。ある意味、黒人以上に黒人的とゆーか。

エルヴィス的な白人向けにリファインしたロックン・ロールではなく、原酒そのもの、という感じのR&B。

(5)はヘヴィーで粘りのあるリズムが印象的な、ブルース・ナンバー。

これもまた、名唱&名演。ことにピンと張りつめたような、高音のギター・ソロがいい。

一般に、ジョン・フォガティの才能はヴォーカリスト、コンポーザーとしてのそればかり評価されているが、ギタリストとしても、もっとクローズアップされていいのではないかと筆者は思っている。

エリック・クラプトン的な「巧さ」とはまた違った、アメリカン・ミュージックのエッセンスを熟知した「旨さ」のギターという意味で、彼もなかなかの名手である。

ぜひ、アルバムならではの熱演、聴いてみてほしい。

(6)は説明不要の大ヒット。ちなみに、タイトルのプラウド・メアリーとは人名にあらず、ミシシッピ川を上り下りする蒸気船の名前とのこと。

なんとも、のどかな発想の一曲。ジョン自身は意外にラヴ・ソング的なものは自分で書いておらず、こういう「非色恋」的な世界を描く方がお得意のようだ。

(7)は、(3)と双璧を成す、壮絶なロング・ナンバー。

シンプルなビートに乗せて、ワン・コードで延々と展開される、これぞ「ブルーズ」という世界。ジョンお得意のハープも堪能できる。

ライヴでも必ず、ハイライトとして長時間演奏された名曲だ。

(6)のようにメロディアスではないし、決してとっつきやすいとはいえないが、これもまたCCRの魅力の一端である濃厚な世界。

"厨房"がいきなり聴くのはきついかも知れないが、それでも何回か聴けば聴くほど、「味」は出てくる。

CCRのアルバムは、他にも名盤ぞろいではあるが、その独特の「臭み」をトータルにまとめあげたということでは、この「BAYOU COUNTRY」は白眉なのではないかと、筆者的には思っている。

ぜひ一日に10回くらいリピートして、その、「くさやの干物」的魅力にハマっていただきたい。

〈独断評価〉★★★★☆(5段階評価。☆はおまけ)





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音盤日誌「一日一枚」#94 ラリー・カールトン「夜の彷徨(さまよい)」(ワーナー WPCR-758)

2022-02-16 05:10:00 | Weblog

2002年3月31日(日)



ラリー・カールトン「夜の彷徨(さまよい)」(ワーナー WPCR-758)

(1)ROOM335(ルーム335)

(2)WHERE DID YOU COME FROM(彼女はミステリー)

(3)NITE CRAWLER(ナイト・クロウラー)

(4)POINT IT UP(ポイント・イット・アップ)

(5)RIO SAMBA(リオのサンバ)

(6)I APOLPGIZE(恋のあやまち)

(7)DON'T GIVE IT UP(希望の光)

(8)(IT WAS) ONLY YESTERDAY(昨日の夢)

今日の一枚はこれ。ギタリスト、ラリー・カールトンのソロ・デビュー・アルバム。78年リリース。

この4月22日~27日には、来日公演をブルーノート東京で行うという、ラリー・カールトン。

クルセイダーズのギタリストとしてデビューして30年、この手のフュージョン系ギタリストではすっかりベテランの部類に入ってしまった。

デビューの頃にはふわふわのロング・ヘアーと甘いマスクが売りで「フュージョン界のプリンス」と呼ばれていた彼も、今や「ジョン・マルコヴィッチのそっくりさん」と言われているとか、いないとか…。

それはさておき、このデビュー・アルバム、78年の日本において、フュージョン系アルバムでは最も売れた一枚であった。

CD化されたものをひさしぶりに聴いても、それは十分ナットクがいく。

まずは「ミスター335」との異名をとる彼の、「名刺」といってもよいナンバー、(1)からスタート。もちろん、自作のインストゥルメンタル。

タイトルは彼の自家用スタジオの名前からとったというが、もちろん、それも彼愛用のセミホロウギター、ギブソンES335から来ている。

サンバーストでブロック・インレイの、この335から紡ぎ出される音、これが実にいい。

エコーなどエフェクト処理はされているものの、基本的にはナチュラルな音で、伸びやか、しかもツヤがある。

このアルバムがきっかけで、一時日本でも335の売れ行きが急増したというぐらいだ。

流麗なストリング・アレンジを交えた、軽快なリズムに乗り、全面にフィーチャーされる彼のソロ。

同時期、スティーリー・ダンのアルバム「AJA(彩)」でも客演していた彼の、派手なチョーキングも交えた、ロック感覚あふれるギター・テクニックは、当時のギター少年たちをみな虜にしたというのも、うなずける。

スピーディ、スリリング、でもバランス感覚も抜群と、文句なしのプレイである。

(2)は歌もので、ラリーがソフトなヴォーカルを披露。バック・コーラスで参加している、ウィリアム・スミッティ・スミスの作品。

ちょっとアンニュイでミステリアスな雰囲気の、ボサノヴァ・テイストのナンバー。

多重録音による、ツインリードがなんともカッコよい。

(3)は、クルセイダーズでのレパートリーでもあった曲の再演。ラリーの作品。

もちろんここでは、彼のギター(ツイン)を前面に押し出したアレンジになっている。

ゆったりとしたリズムで、夏の夜の気だるさを思わせる曲調。

スピーディな曲だけでなく、タメを必要とする曲でも、ラリーは実に達者なプレイを聴かせてくれる。

そして、裏方ながらなかなかいいプレイをしているのが、キーボードのグレッグ・マシスン。

ラリーのライヴ・バンドにも参加することになる、LAで活躍するスタジオ・ミュージシャンだ。

また、ファンキーで強靭なリズムを生み出しているのは、ベースのエイブラハム・ラボリエルとドラムのジェフ・ポーカロ。

エイブはブラジル出身の黒人ベーシスト。ジェフはもちろん、有名なポーカロ兄弟のひとりで、ロックバンド「TOTO」のドラマーとしてもおなじみのプレイヤー。

これにパーカッションのポリーニョ・ダ・コスタが加わる。彼も、ブラジル出身の実力派スタジオ・ミュージシャン。

こういった強者が揃ったおかげで、サウンドは実に多彩で、ジャズ、フュージョン、ラテン、ブラジリアンミュージック、ロックなどさまざまな音の万華鏡を見るかのようだ。

(4)は一転、アップ・テンポの16ビート・ナンバーへ。ラリーのオリジナル。

ここでは水を得た魚のように、バリバリ、ゴリゴリ弾きまくるラリー。ロック・ギタリストも顔負けだ。

でも、これ見よがしの速弾きではなく、きちんと自分の音楽世界を構築しようという、計算がきちんとなされたプレイだと思う。

ロック系のギタリストにありがちな、手くせギターではなく、全体の構成をじっくり考えて練りこまれたソロ。

だから、何回繰り返し聴いても、あきが来ない。これはスゴいことだと思う。

(5)も彼の作品。タイトル通り、ラリーのブラジル音楽への志向が感じられる、一曲。

サンバのサウンドに、彼の歌ごころあふれるギター・ソロがからむ。

マシスンのキーボード・ソロに続く、ラボリエルの本場仕込みのベース・ソロもごキゲン。思わず、体が動き出しそう。

(6)は、(2)同様、ウィリアム・スミスが作曲した、歌もの。

なんともホンワカしたノリのラリーのヴォーカル(どことなく、マイケル・フランクス風)とは対照的に、サウンドはかなりテンションが高く、思い切り泣きまくるラリーのギターが聴きもの。

(7)は、ふたたびアップ・テンポで、変則的なブルース進行のナンバーを。ラリーの作品。

ここでも気合いの入った、スピーディなギター・ソロが全面に展開される。

転調につぐ転調のアレンジが、実にカッコいい。マシスンのオルガン・ソロもグー。

さて、最後はしっとりと、スロウ・バラード(8)を。これもラリーの作品。

静かに始まり、次第に盛り上がって行く、泣きのギター・プレイ。

これぞ、ジェフ・ベックの「悲しみの恋人たち」と双璧を成す、ギターによるロック・バラードの名作だ。

全編、一分の隙もない完璧なアレンジ、計算しつくされたソロ、しかもダイナミックさは決して失わないヴィヴィッドな演奏。さらにいえば、録音技術も最高レベルにある。

ラフな作りのロックにもそれなりの魅力はあるが、やはりこの完成度の高いサウンドの前には、かすんでしまうだろう。

デジタル導入以前の時期の録音ではあるが、CDでもそのサウンドの素晴らしさはよくわかる。

ブルーズィにしてメロウ、パワフルにしてセンシティヴなラリーのギター・サウンドは、無敵だ。ロック・ファン、フュージョン・ファン、いずれにもおススメ。

若さに溢れたパッショネイトな一枚。聴くべし。


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音盤日誌「一日一枚」#93 ダン・ペン・アンド・スプーナー・オールダム「ライヴ~モーメンツ・フロム・ディス・シアター」(MSI MSIF3661)

2022-02-15 06:26:00 | Weblog

2002年3月23日(土)



ダン・ペン・アンド・スプーナー・オールダム「ライヴ~モーメンツ・フロム・ディス・シアター」(MSI MSIF3661)

(1)I'M YOUR PAPPET

(2)SWEET INSPIRATION

(3)CRY LIKE A BABY

(4)DO RIGHT WOMAN, DO RIGHT MAN

(5)I MET HER IN CHURCH

(6)LONELY WOMEN MAKE GOOD LOVERS

(7)IT TEARS ME UP

(8)THE DARK END OF THE STREET

(9)YOU LEFT THE WATER RUNNING

(10)OUT OF LEFT FIELD

(11)MEMPHIS WOMEN AND CHICKEN

(12)A WOMEN LEFT LONELY

(13)I'M LIVING GOOD

(14)OL' FOLKS

サザン・ソウルの名ソングライターにして自らも歌う白人アーティスト、ダン・ペンと、60年代より長らく彼とコンビで曲作りをしてきたスプーナー・オールダムのふたりによるライヴ盤。98年英国ロンドンほかにおける録音、99年リリース。

先日、当HP掲示板の常連、Dr.Toriさんより推薦いただいた一枚なのだが、この金曜日に神保町の中古CD屋で発見・購入し、さっそく聴いてみた。これが、実にイケるのである。

ダン・ペンというひとは41年アラバマの生まれで、今年61歳。最初は自分自身のグループを作り歌っていたが、60年代中期、地元マッスル・ショールズでスタジオ・ミュージシャンとなり、ソングライターとしてのキャリアもスタートさせる。

のちにメンフィスへ移り、ボックス・トップス(白人バンド。「あの娘のレター」のヒットで有名)やジェイムズ・カー、パーシー・スレッジらサザン・ソウル系の歌手に曲を提供し、いくつかのヒットを飛ばしたことで、一躍名を高めることとなる。

73年には自身のファースト・ソロ・アルバムを発表、以後、寡作ながらも何枚かをリリース、また、他のアーティストのレコーディングに数多く参加している。

一方、スプーナー・オールダムは43年、同じくアラバマ出身。キーボードを得意とし、ダン同様、マッスル・ショールズのスタジオ・ミュージシャンとなる。

パーシー・スレッジのヒット「男が女を愛する時」のバックは彼だというから、思いあたるひとも多いだろう。

彼もまた寡作ながら、70~80年代にリーダー・アルバムをリリース、もちろん、他の歌手のバックには数限りなく登場している。

ステージは、そんなふたりが書き、ジェイムズ&ボビー・ピューリファイがヒットさせた(1)からスタート。

オリジナルよりはむしろ、ディオンヌ・ワーウィック、サム・アンド・デイヴ、エルトン・ジョン、アーマ・トーマスといったカヴァー・ヴァージョンのほうが有名かも知れない。

ゆったりとしたテンポの、おだやかな曲調のバラード。アコースティック・ギターを弾きつつ歌うダン・ペンのヴォーカルは、少し低めの落ち着いた声質で、しかも温かさに満ちている。

なんとも心なごむ雰囲気で始まるのだ。曲が終わると、ダンが自らそして相棒を紹介。

間髪を入れず次の曲、ふたりが書き、スウィート・インスピレーションズがヒットさせた(2)へ。

そう、グループ名をそのまま曲にしてしまったのだ(あるいは、逆か?)。ソウルフルなフレーバーを持つ名曲。

相棒のスプーナーがつけるハーモニーがまたいい。実にピッタリと息が合っている。付き合いが長いだけあるな。

この曲もまた、そうそうたる顔ぶれがカヴァーしている。ざっとあげただけでも、リタ・クーリッジ、キング・カーティス、ルーサー・イングラム、ダスティ・スプリングフィールド、シュープリームス、テンプテーションズ、プラターズ、エトセトラ、エトセトラ。

これだけ、白人黒人に関係なく支持されているコンポーザーも、そうはいまい。

(3)はふたりがボックス・トップスのために書いた曲。ブルーアイド・ソウルの典型のようなナンバー。

この曲も幅広いアーティストに支持されている。レスリー・ゴーア、ぺトゥラ・クラーク、アーサー・アレクサンダーにキム・カーンズ。なんと、ヴェンチャ―ズまでもがカヴァーしているのが可笑しい。

(4)はダン・ペンと、もうひとりの盟友、チップス・モーマンの共作。ダン・ペンの数多い作品の中でも、有名度では一、二を争う代表曲だ。オリジナルは女王、アレサ・フランクリン。

なんたって、カヴァー数が断トツである。ディオンヌ・ワーウィック、バーバラ・マンドレル、シェール、エッタ・ジェイムズ、エスター・フィリップス、ブレンダ・リー、ジョーン・バエズ、マーヴァ・ライト、フィービ・スノウ等々、実力派女性歌手全員集合!のおもむきがあるな。

男性陣ではウィリー・ネルソン、ジョニー・アダムズ、ウィリアム・ベルなどなど。メシオ・パーカー、さらには映画「おれたちザ・コミットメンツ」で、主人公のバンド、ザ・コミットメンツがカヴァーしていたなんて、変わりダネもある。

とにかく人気ナンバーワンのナンバーだが、それもなるほどなと思える、実にしっとりとした雰囲気の名ソウル・バラードである。

(5)は、これまたボックス・トップスのためにペン&オールダムが書いたナンバー。

軽快なビートにのって陽気に歌われる、愛の賛歌。彼らのネアカな持ち味がよく出ている。コーラスをまた、本当に気持ちよさそうに歌っているのがグー。

(6)はカントリー・フレーバーあふれるバラード。これは唯一、ペンの作品ではなく、オールダムとカントリー歌手、フレディ・ウェラーの共作。ウェラー自身も録音しているが、一般によく知られているのはボブ・ルーマンによるヴァージョンだろう。

どこかで一度は聴いたことのある、優しげなメロディ。70年代の(元)FENのカントリー番組ではよくかかっていたなぁ。

ここではオールダムがリードをとり、ペンがハモをつけているのに注目したい。オールダムのほのぼの系の歌声にもなかなか味わいがある。

(7)は再び彼らコンビの作品に戻る。オリジナルはパーシー・スレッジ。

スロウ・テンポでじっくりと歌い上げる悲しい恋のバラード。

他の男のもとへと去って行った恋人への、はりさけそうな想いを歌って、多くのひとの共感をかちえた佳曲だ。

スレッジ以外には、ジョニー・アダムズ、ボックス・トップス、サム&デイヴらソウル勢ほか、エルヴィス・コステロもカヴァーしているから、ロック・ファンにも意外に知られているかも知れない。

(8)は(4)同様、カヴァー数の多さでは横綱級の名曲だ。これまた、どこか物憂げな雰囲気。禁じられた恋を歌った、しっとりとしたソウル・バラード。

オリジナルはジェイムズ・カー。で、この曲に惚れ込んだアーティストは数知れず。

パーシー・スレッジ、ジョー・テックス、ドリー・パートン、アレサ・フランクリン、フライング・ブリトゥ・ブラザーズ、ライ・クーダー、クリス・スペディング、グラム・パーソンズ、リー・ヘイズルウッド、リチャード・トンプソン、アーティ・ホワイト、ゲイリー・スチュアート、パット・ケリー、グレッグ・オールマン、ドロシー・ムーア、ピーター・グリーン・スプリンター・グループ、そしてザ・コミットメンツ。あー、キリがない(笑)。

とにかくこれだけ多数の、しかもスゴい実力派にばかりカヴァーされれば、作曲家冥利につきるというものだろう。

ま、それだけ原曲に魅力があるってことの証明ですな。いくら頼んだって駄曲じゃ、こんなひとたちには歌ってもらえませんって。

(9)は一転、楽しげな調子のナンバー。でも実は恋人にふられて目の前マックラ、という男を歌った曲なんである。ちなみに、リック・ホール(マッスル・ショールズのスタジオのオーナー)らとの共作。

その陽気なカントリー調のメロディが、悲しみをいっそう浮きぼりにする。ダン・ペンのお得意なパターンといえるかも知れない。

ソウル・バラードを数多く生み出した彼ではあるが、やはり白人。そのサウンドの根底には、「カントリー」という白人音楽がしっかりと流れているように思った。

ちなみに、オリジナルのビリー・ヤングのほかは、サム&デイヴ、フライング・ブリトゥ・ブラザーズ、アメイジング・リズム・エイシズ、ヒューイ・ルイス、ブッカー・T&MG'Sと、ロック勢にもなかなか支持率が高い曲である。

(10)はまたペン/オールダム・コンビによる、パーシー・スレッジのヒット。スロウなテンポで歌い上げられる、これはどちらかといえばハッピーな、恋愛賛歌。

ダン・ペンのディープな歌いぶり、そしてオールダムとのハモりに、思わず感涙を流しそうな出来ばえ。

カヴァー例としては、アル・クーパー、ハンク・ウィリアムス・ジュニア、ヘレン・ワトソンなどがある。

(11)は珍しくロックン・ロール、ブルース・テイストの一曲。

チャック・ベリーの「メンフィス」を下敷きに、「メンフィス女はサイコー!」とブチあげる、ダン・ペンにしては異色の、男臭いロック・ナンバー。ダニー・フリッツ、ゲイリー・ニコルソンとの共作。

ニワトリの鳴き声をたくみに交えたりして、ユーモアたっぷりの仕上がりになっている。カヴァーは少ないが、ティム・ブリッグス、T・グラハム・ブラウン、ダイナトーンズによるヴァージョンがある。

(12)は再びペン/オールダムの作品。孤独に生きる女を歌ったバラード。

オリジナルの、ジャニス・ジョプリンによるソウルフルな名唱があまりに有名だが、ダン・ペン本人の、枯れた味わいの歌も捨てがたい。

この曲はやはり女性歌手の支持度が高く、リタ・クーリッジ、マギー・ベル、アーマ・トーマス、そしてパティ・ペイジまでもがカヴァーしている。

一方、男性歌手もスコット・ウォーカー、チャーリー・リッチ、ロジャー・トロイらがカヴァー。

彼らの作る曲は、どれも、シンガー自身に「歌いたい」と思わせるパワーに満ちているのだろう。

(13)はふたりの共作、オヴェイションズがオリジナル。

愛があれば多少お金がなくたって幸せに生きていけるという、典型的なほのぼの系バラード。やはり、こういう曲でこそ彼らの本領は発揮されるという感じだ。

ラストの(14)は、よくジャズ・ミュージシャンが演奏する同名の曲とは別の、ふたりのオリジナル。

でもその曲想は共通していて、故郷に住む、愛すべき素朴なひとびとを歌ったもの。

優しさ、温かさ、懐かしさにあふれた、「ダン&スプーナー・ワールド」そのもののようないい曲だ。

まだカヴァーされていない新曲のようだが、もちろん誰かがこの曲に惚れ込んで、レコーディングする日は遠くあるまい。

というか、筆者も、なんだか歌ってみたくなってしまった(笑)。そのくらい、彼らの曲には、深~い魅力がある。

一枚を聴き終えると、なんともいえない「幸福感」にひたれるのが、この「ライヴ~モーメンツ・フロム・ディス・シアター」。

そんなアルバム、そうあるものではない。

まだ、お聴きでない貴方、ぜひ一聴をおすすめしたい。至福のひとときが、味わえますゾ。


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音盤日誌「一日一枚」#92 リチャード・P・ボウルズ「ACCESS DENIED」(GROWLIN BARE GB106)

2022-02-14 05:11:00 | Weblog

2002年3月17日(日)



リチャード・P・ボウルズ「ACCESS DENIED」(GROWLIN BARE GB106)

(1)AIN'T GOT THE TIME

(2)THERE'S A PARTY GOING ON

(3)DOWN ON THE BAYOU

(4)IF YOU HAVEN'T PLAYED IN TEXAS(YOU HAVEN'T PLAYED THE BLUES)

(5)SHE'S NOT YOU

(6)HIGHWAY 61

(7)KEEP ON FLAPPIN' YOUR JOES

(8)UP ON CROWLEY'S RIDGE

(9)TELL ME WHAT YOU LOVE ME

(10)RIDIN' WITH THE KING

(11)A ROSE IS A ROSE

(12)OMAHA RISIN'

さて、今日は「ミスティック・シティ・マントラ」に続くザ・ソウルズの新作。

愛用のオヴェイションのギター・ケースを携えたボウルズ自身が、「故障中」の男性トイレの前で「参った」という表情をしているジャケットがユーモラスな本作、前作は「都市のブルース(憂鬱)」をテーマにした少し重めのコンセプト・アルバムだったのとは対照的に、もっと軽めのノリに仕上がっている。

ここでちょっと、リチャード・P・ボウルズについて、その経歴を紹介しておきたい。



ボウルズは52年4月14日生まれだから、今年50歳。(写真左)

オハイオ州コロンバスに生まれ、以来ずっとそこを離れずにいたが、95年にコロラドに移っている。

9歳にしてギターを始め、10代にして「モズビーズ・レイダーズ」なるプロのバンドに参加、18歳で地元の高校を卒業。

以後、コロンバスを拠点に、さまざまな都市でライヴ活動を行うようになる。

85年には地元の店「ドルフィン・ラウンジ」で、月曜日にブルース・ジャム・セッションを主宰するようになる。

現在のバンド「ザ・ソウルズ」を結成する前には、「アンダーグラウンド・アトモスフィア」「「バックスキン」「シュガー・アンド・スパイス」「スチュードベイカーズ」「パラダイス・アイランド」といった地元バンドで活躍している。

その実力のほどは、B・B・キング、ウェイロン・ジェニングス、ケニー・ロジャース、マーサ&バンデラス、チャイ・ライツ、オハイオ・エクスプレス、ウルフマン・ジャック、ドクター・フックといった、ジャンルを超えたさまざまな大物アーティストのオープニング・アクトに出演してきた経歴からも、十分うかがえるだろう。

いってみれば、アメリカのローカル・アーティストの一典型。

メジャー・レーベルからこそデビューしてはいないが、ローカル・レーベルから何枚もアルバムを出し、地元ではなかなかの人気をほこっているのである。

これまでにリリースしたアルバムは「WHITE MEN'S BURDEN」(88年)、「FINAL PAGES」(94年)、「PIECES FROM ECLIPSE」(98年)など。

なかには「ミスティック~」のように、かなりコンセプトに凝ったり哲学的な歌詞のものがあったりと、従来の「わかりやすい」ブルースとは一線を画していたりするが、この「アクセス・ディナイド」は比較的ポップな内容だといえそうだ。

まず(1)はファンク・ブルース。「ミスティック~」でもよく聴かれた、エッジ感のあるギター・トーンが楽しめる。

もちろん、彼のソウルフルな歌声も。

(2)はアップテンポのブルース。ギターはクリーン・トーンで、こちらは黒人ブルース度は高め。80%くらいか?

パワフルなスライド・ギターで始まる(3)は、逆に白人ロック度80%くらいのナンバー。

ドゥービーズか?とまごうばかりの、正調アメリカン・ロック。

アーシーな世界を歌った歌詞もごキゲンだし、メンバーのひとり、パトリック・マクラフリンのスライド・ギターの粘っこい音もカッコいい。

かと思えば、スロウ・ブルースの(4)では黒人ブルース度全開、オーティス・ラッシュばりの歌声を聴かせてくれる。

ギターのほうは、テキサス・ブルースマンの代表、SRVが乗り移ったかのようなエネルギッシュなプレイ。弾きまくりとはこのことである。

「テキサスでプレイしなきゃ、ブルースをプレイしたっていえねえぜ」と大見得をきってくれる。いやー、実に痛快。

(5)も、ミディアムスローのブルース。黒く濃い路線が続く。この曲もヴォーカルの出来がなかなかよい。

マット・ショッツによるテナー・サックスが、サウンドにさらに厚みとブルーズィな雰囲気を加えていて、ナイス。

(6)は、もちろんボブ・ディランの曲とは全然関係ない、マイナー・ブルース。リフがなにやらヴェンチャーズ・ライクなサウンド。

ご丁寧にトレモロやらテケテケ音(!)まで入ってますが、色モノふうには聴こえないのがフシギ。

(7)は女性シンガー、ベティ・ローデンの歌をフィーチャーしたナンバー。

白人シンガーなのであろうが、彼女の歌がソウルフルでなかなか聴かせる。

ボウルズはお得意のマウスハープでバックアップ。このアルバムではいちばん素朴な味わいのある一曲だ。

(8)はふたたびパトリックのスライド・ギターを前面に押し出した、ロックな一曲。

ボウルズが詩を朗読し、バックに男女のコーラスを配し、ユニークな音の実験を試みている。

(9)ではふたたびブルース路線で勝負。ウォーキング・ベース、ピアノ、ハモンド・オルガンのノリのいいサウンド。

「愛しているといってくれ」とストレートに求愛する定番系ソング。ソリッドでシャープなギターの音がいい。

(10)は図太いギターの音がウリの、テキサス系ブルース・ロックな一曲。マイナーの泣き節が文字通り、泣かせます。

ちなみに、同じタイトルの曲がエリック・クラプトンとB・B・キングの共演盤にあるが、まるで別の曲なので、念のため。

(11)は、他とはかなり趣きを異にする、しっとりとしたバラード。ジャズィーなサックス・ソロをフィーチャーし、大人向けのメロウな音作りをしている。

ブルースやロックの枠にしばられず、多様な曲作りをするボウルズの「新境地」といえそうだ。

ラストの(12)は、しめくくりにふさわしく、快調なロックン・ロール。

旅先の土地の名を歌に折り込む。各地を演奏して回る彼らしいナンバーではなかろうか。

さて、こうやって通して聴いてみると、前作でもかなり「音のゴッタ煮」的な性格は見られたが、本作ではさらにその傾向は進んでいるように感じられる。

(3)のような白人ならではのロック、(8)や(11)のような明らかな非ブルース路線の一方で、(2)や(4)や(7)などでは、あくまでもブルースにこだわる姿勢も捨ててはいない。

オール・アメリカン・ミュージックをカバーするということでは、CCRの精神的継承者ともいえそうな「ザ・ソウルズ」。

彼らがこれだけの実力を持ちながら、いまだに全国区登場をしていないというのも、スゴいことだ。

改めて、アメリカのプロ・ミュージシャンの「層の厚さ」を感じる。

地方に行けば、このくらいの実力を持ったローカル・ミュージシャンがゴロゴロしているわけだから。

いやー、本場恐るべし。

とにかく、聴き応え満点の二枚。「アメリカ」な音が、めいっぱい楽しめる。

素晴らしいお土産をくださった海老原康弘さん、本当にありがとうございました!


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