NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#198 山下達郎「シーズンズ・グリーティングス」(MOON AMCM-4180)

2022-05-31 05:00:00 | Weblog

2003年12月21日(日)



#198 山下達郎「シーズンズ・グリーティングス」(MOON AMCM-4180)

circustown.netによるディスク・データ

クリスマスも近いので、今回は「季節モノ」。山下達郎のクリスマス・アルバムである。93年リリース。

彼が83年にリリースしたシングル、「クリスマス・イブ」がいまだに売れ続けており、わが国における「ホワイト・クリスマス」並みのスタンダード・ナンバーになりつつある。

その英語詞版「CHRISTMAS EVE」、そしてア・カペラの「ホワイト・クリスマス」を中心に構成された、クリスマス・ソングの集大成盤がこれである。

多重録音によるア・カペラあり、オーケストラ&コーラスのゴージャスなバッキングによるものあり。いずれにせよ"凝り性"な彼の真骨頂がタンノウできます。

<筆者の私的ベスト4>

4位「SMOKE GETS IN YOUR EYES」

実はこれはクリスマスとは関係ないナンバーだが、出来がいいのでピックアップ。いうまでもなく、プラターズのビッグ・ヒット、「煙が目にしみる」である。

元々はジャズ作曲家、ジェローム・カーンが1933年に作った古~い曲。これを戦後プラターズがR&Bとして蘇らせ、さらに達郎が新しい衣を着せて歌い継いでいるのだ。70年の年月を越えて生き続ける、究極のスタンダード・ナンバー。

優雅なストリングス、ホーンの演奏に乗せて、いかにも心地よさげに、高らかに歌う達郎。

プラターズの絶唱にもひけをとらない、快唱であります。

3位「HAPPY HOLIDAY」

多重録音による、ドゥ・ワップ・コーラスが印象的なナンバー。58年、シェルズなる黒人コーラス・グループによるヒット、といっても日本ではほとんど知られていないが。

達郎はおなじみの「ON THE STREET CORNER」シリーズで、この手のコーラスにたびたびトライしているが、これもその延長線上のサウンド。

いかにも生きがよく、キャッチーなハーモニーに、心底ハッピーな気分になってしまう。

こういう「勢い」のある曲のほうが、シナを作って甘~く歌うタイプの曲よりも出来がいいと思ってしまうのは、筆者だけ?

2位「CHRISTMAS EVE」

これは「MELODIES」のオリジナルのバック・トラックを使い、アメリカのシンガー・ソングライター、アラン・オデイによる英語詞で歌うヴァージョン。オデイは「YOUR EYES」「BIG WAVE」なども作詞しており、達郎と係わりが深い。

原曲のイメージにほぼ近いドラマが展開される歌詞に、思わず落涙してしまうリスナーも少なからずいるだろう。かくいう筆者もそのクチ!?

クリスマスといえば楽しく、ハッピーな日、こういう一般的なイメージの逆をついて、大失恋、大悲劇の日にもしてしまった達郎。

日本では、クリスマスにデートできるひと、できないひとと、はっきり色分けされてしまう文化が、このヒット以来できてしまったような印象がある。(特にバブル期以降。)

なんだかな~。彼の曲も、功罪半ばという気がするね(笑)。大体、日本人はクリスマスという神聖な祭典を、何だと思ってんだ!

それはさておき(笑)、そういう悲しい、後ろ向きの内容の歌なれど、やっぱりいい曲だと思う。

アーティストは誰でも、「会心の一作」をものするために、ああでもない、こうでもないと試行錯誤を繰り返すものだろうが、これは「神が降りてきた」、そういう一曲だと思う。今後も、多くのひとびとに愛され続けていくことは、間違いないだろう。

1位「WHITE CHRISTMAS」

1位はやはり、これしかあるまい。数々のスタンダード曲をものした大作曲家、アーヴィング・バーリン、42年の作品。

第二次大戦中に書かれたこの一曲が、稀代のクルーナー、ビング・クロスビーという歌い手を得たことで、世界一売れたシングルとなったのである。

60年以上、米国内のみならず、世界中で歌いつがれているのだから、達郎の20年というロング・ヒットもまだまだスケールが小さい、小さいってことやね。

ヤマタツさんもまだ50そこそこだろうから、これからも30年、40年、よぼよぼのジイサンになるまで、「クリスマス・イブ」を歌い続けていって欲しいもんだ。「日本一のロング・ヒット」ぐらいには、認定されるかもね。

余談はともかく、このア・カペラ版「ホワイト・クリスマス」、その多重録音に対する凝りかたはハンパではない。

何十回も執拗にコーラスを重ねていくことで、この曲にクロスビー版とはまったく違った、聖歌のような厳かさを与えることに成功している。

音の求道者・山下達郎の、まさに面目躍如なトラックである。必聴。

他にもクリスマスがらみの、有名曲、シブめの曲、各種満載であります。ハッピーなクリスマスをお迎えのかたも、残念ながらそうでないかたも、BGMにぜひどうぞ。

<独断評価>★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#197 ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ「CRUSADE」(DERAM 820 537-2)

2022-05-30 05:00:00 | Weblog

2003年12月14日(日)




#197 ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ「CRUSADE」(DERAM 820 537-2)

ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ、67年のアルバム。以前取り上げた「A HARD ROAD」に続く4枚目にあたる。

本盤の目玉は、「A HARD ROAD」一枚に参加しただけで脱退してしまったピーター・グリーンに代わって、弱冠19才のミック・テイラーがリード・ギターを弾いていることだな、なんといっても。

数年後にはローリング・ストーンズのメンバーとして迎えられることになるテイラーの、初々しく、だがなかなか完成度の高いプレイを聴ける。

こりゃあブレイカーズ・ファンならずとも、気になるでんしょ?

<筆者の私的ベスト4>

4位「OH, PRETTY WOMAN」

これはもちろん、ロイ・オービソン…じゃなくってアルバート・キングでおなじみのナンバー。

キングの名盤、「BORN UNDER A BAD SIGN」ほかに収められている。

彼らは当然そのヴァージョンを元にプレイしているのだが、テイラーは実に見事にアルバート節を再現している。

レス・ポール(推定)で泣きのチョーキングを多用したプレイは、とても十代の若造とは思えないシブさ。

ま、早熟の天才ということでは、前任のクラプトン、グリーンもそうだったけどね。

そういったとてつもない才能のある若者を何人も見出した、メイオールの慧眼には恐れ入るばかりである。

当時のテイラーのプレイ・スタイルは、前任者のどちらかといえばクラプトンの方に近い。音色もフレーズも、知らずに聴けばクラプトンかと間違えそうなくらい似ている。

おそらく、ミック少年も数年間、クラプトンのコピーを必死にやっていたのだろう。それだけ、当時の英国のロック少年たちにとって、クラプトンは神のような存在だったということがわかるね。

3位「SNOWY WOOD」

これはインスト・ナンバー。メイオール、テイラーの共作。

「WITH ERIC CLAPTON」「A HARD ROAD」と、アルバムに必ず最低一曲はインスト物を入れるのが、バンドのならわしになっていたが、本盤でも二曲が収録されている。この「SNOWY WOOD」と「DRIVING SIDEWAY」である。

後者は「HIDE AWAY」や「THE STUMBLE」同様、彼らのフェイバリット、フレディ・キングのナンバー。のっけからフレキンばりのバリバリのソロを、テイラーは聴かせてくれるのだが、筆者はあえてオリジナル曲のほうを選んでみた。

「SNOWY WOOD」はキャッチーなテーマが実にイカしている、エイトビートのナンバー。オルガンをメイオールが弾いていたりして、どことなくMG'Sっぽい。ジョン・マクヴィのベース、キーフ・ハートリーのドラムスも実にノリがいい。

テーマ演奏に引き続いて、テイラーがソロを弾きまくる。これが何とも堂々たるプレイで、とても駆け出しの少年が弾いているとは思えん。

リズム感の確かさといい、フレーズのため方、メリハリのつけ方、もうどこのバンドでもプロとして通用するレベルにある。

だからこそ、老練なメイオールも迷うことなく大抜擢したんだろうな。

2位「THE DEATH OF J.B. LENOIR」

同年4月、37才の若さでこの世を去ったアメリカのブルースマン、J・B・ルノアーへの追悼歌。

ルノアーは、メイオールと個人的な親交もあったひとで、メイオールの切々とした歌いぶりに、その死を悼む気持ちがよく表われている。

ドスを効かせた低めの声で歌うタイプのブルースマンが多い中、ルノアーはハイ・トーンのヴォーカルを得意としていた。いわば異色のブルースマン。

メイオールも声が高く、似たタイプのシンガーなので、シンパシーは非常に強かったのだろうな。

ここでメイオールはピアノを弾く一方、ハープも吹いている。テイラーはバックに廻り、リップ・カントのバリトン・サックス・ソロがフィーチャーされる。

しみじみとした哀感が漂う佳曲。一度は、聴いてほしい。

1位「I CAN'T QUIT YOU BABY」

ブルース・ファンなら知らぬ者もない、オーティス・ラッシュの名曲。

ご本家ラッシュ以外では、ZEPのカヴァーがもっとも知られているが、ZEPのファーストに先立つこと一年半も前に、このブルースブレイカーズもレコーディングしておったのだよ。

メイオールの、おなじみのうわずり気味の高い声も、この曲にはけっこうマッチしている。ブラスをフィーチャーしたバック・サウンドも、正調ブルースという感じで実にカッコいい。

でも、それだけでは終わらない。フィードバックを効かせ、ナチュラル・ディストーションばりばり、エッジの立った音色のギターが絡む。これがなんとも挑発的。

ブルースという形式は遵守しているように見せかけて、掟破りの技をかけてくる。やるねえ。

まさにブルースを破壊(かつ創造)するブルース。これぞ、彼らの真骨頂だと思う。

当然ながらZEPも、このヴァージョンに大いにインスパイアされたこと、間違いあるまい。その成果がZEPファーストの、あの衝撃的なサウンドだと思う。

その後、テイラーは数枚のアルバムに参加し、ストーンズへと旅立って行くが、才能ゆたかな彼がバンドの音楽性をより充実させたのは間違いないだろう。それは、第二期ストーンズが音楽的にピークを迎えたことから見ても、納得いただけるのではないのかな。

寡黙だが、ギターを持たせれば誰よりも雄弁なプレイを聴かせる男、ミック・テイラーの原点を知ることの出来る一枚。

彼自身のオリジナリティを、十分に表現出来るまでには至っていないものの、19才でこれだけ弾けるヤツはそうおらんぞ。アンファン・テリブルとは、彼のことだな。必聴!

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#196 V. A.「A TRIBUTE TO CURTIS MAYFIELD」(WARNER BROS. 9362-45500-2)

2022-05-29 05:09:00 | Weblog

2003年11月30日(日)



#196 V. A.「A TRIBUTE TO CURTIS MAYFIELD」(WARNER BROS. 9362-45500-2

2003年も残るところ、あとひと月ほど。時のたつのは早いのう。

で、年末とは何の関係もないのだが、たまにはトリビュートものも取り上げてみたい。

カーティス・メイフィールド。42年シカゴ生まれ、99年に57才の若さで亡くなるまで、インプレッションズ、そしてソロで独自のソウル・ワールドを生み続けた、シンガー/ギタリスト/コンポーザー。

彼の音楽は黒人・白人を問わず、多くのミュージシャンに強い影響を与え、日本でも山下達郎あたりをはじめとして、信奉者の多いミュージシャンズ・ミュージシャン。

そのわりには、あまり彼自身の音楽について語られることがないのが、残念なのだが。

このアルバムは、94年、カーティスの生前に作られた一枚。とにかく、参加ミュージシャンの豪華さでは、ピカイチ。さすが、カーティス・メイフィールド!と唸らせるものがある。

<筆者の私的ベスト4>

4位「PEOPLE GET READY」

ロッド・スチュアートのカヴァーによる、おなじみのナンバー。カーティスのソロでもインプレッションズでも録音されている。

ロッドが歌う「PEOPLE GET READY」といえば、ジェフ・ベックの「FLASH」に収録されたヴァージョンが知られているが、本盤のはそれとはまた別の録音。こちらはアンプラグド・ライヴ版である。

ロッドのハスキーな歌声が、カーティスのそれとは全く違った魅力を放つ。ストリングスを交えた、落ち着いた雰囲気のアコースティック・アレンジがいい感じだ。

盟友ロニー・ウッドのアコギ・ソロも、枯れた味わいがあってマルである。

3位「I'M SO PROUD」

これもまた、カーティスの十八番的ナンバー。ロックファンにも、BB&A、トッド・ラングレンのヴァージョンでおなじみであろう。

カヴァーするのは、何と50年代から活躍している、息の長いソウル・コーラス・グループ、アイズレー・ブラザーズ

インプレッションズをもしのぐ長寿グループの彼らが歌う「I'M SO PROUD」は、さすがの出来ばえ。

良質のシルクを思わせる、しなやかなロナルド・アイズレーの歌声、そしてまろやかなコーラス。絶品であります。

ゆったり、まったりとしたバック・サウンドも、楽曲に見事マッチしていてグー。

2位「WOMAN'S GOT SOUL」

カーティスよりはだいぶん年上のB・B・キングも本盤に参加、歌とギターを聴かせてくれる。

二人のやっている音楽の方向性は、さほど近いとはいえないが、共通するのはソウル、つまり「歌心」だな。

インプレッションズ時代からよく知られたこの曲を、BBは彼一流の歌心、力強い歌声で、見事に料理してみせてくれる。

カーティスは、従来のR&Bのように男女の色恋のみを歌のテーマとせず、常に社会的な視野に立った歌詞で音楽界をリードして来たひとだが、そういうところが社会派、BBの心をも捉えたのかも知れない。

金銀財宝にもまさるもの、それがソウル。まさに至言だ。

1位「I'M THE ONE WHO LOVES YOU」

はっきりいって、ベスト4の選に漏れたナンバーにも、出来のいいトラックは多い。グラディス・ナイトアレサ・フランクリンの歌のうまさはさすがだし、レニー・クラヴィッツナラダ・マイケル・ウォルデンの、ロック感覚を融合したヴォーカルも実にカッコいい。スティーヴィー・ウィンウッドも、もちろん文句なしの歌唱力だ。

あのエリック・クラプトンも、カーティス風のファルセット唱法に挑戦しているのが珍しい(ちょっと聴いた分には、エリック・カルメン風だったりする)。

カーティス本人やインプレッションズも登場して、ホント、豪華なラインナップだわ。

で、ベスト1を選ぶのも楽ではないのだが、やはり実力、そして貫禄でこのひとだろう。スティーヴィー・ワンダーである。

カーティスとならんで、70年代以降のソウル・ミュージックをリードして来た実力者。カーティスの8才年下にあたる。

十代より早熟の天才ぶりを発揮、すべての先輩アーティストたちをたちまち凌駕したスティーヴィーも、カーティスの先鋭的な音楽性には一目置いていたということか。

その歌いぶりは、本当に思い入れたっぷりという感じ。彼はこのナンバーを、女性へのラヴ・ソングとして歌うだけでなく、カーティス・メイフィールドに対する賛歌としても歌っているように感じられる。

全体に見ると、やはり、黒人アーティスト勢のほうが、カーティスの音楽への理解、愛情においてひと回り上のものがあるのは否めないが、白人アーティストもなかなかがんばっている(特にウィンウッドとフィル・コリンズ)。

「ソウル」を進化させた男、カーティス・メイフィールドの生み出したさまざまな音楽世界を知ることが出来る一枚。

今のミュージック・シーンが、いかに彼に多くを負うているかが、本盤を聴くとよくわかることだろう。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#195 INAZUMA SUPER SESSION「ABSOLUTE LIVE!!」(EPIC/SONY 328・H-132)

2022-05-28 05:07:00 | Weblog

2003年11月23日(日)



#195 INAZUMA SUPER SESSION「ABSOLUTE LIVE!!」(EPIC/SONY 328・H-132)

今日もまた、「知っとるけ~?」的一枚。87年5月、インクスティック芝浦ファクトリーにてのライヴ録音。

いまはなき、バブル期日本の象徴のようなライヴハウスのステージに立ったのは、ジャック・ブルース、アントン・フィア、そして鈴木賢司の三人。

となると、60年代最強のロック・トリオ、クリームを連想しないわけにいかないよね。

で、ライヴはもちろん、その期待におこたえしてクリームのレパートリーをメインに、ばっちりキメてくれている。

クリームあるいは、ジャック・ブルースのファンならずとも興味津々な一枚のはず。でも残念ながら、現在CDは廃盤、再発の予定もない。

中古店ではけっこう、いい値がついていそうだね。

<筆者の私的ベスト4>

4位「SITTIN' ON TOP OF THE WORLD」

今回、いわばクリームにおける「クラプトン役」を引き受けることになったのが、現在は息の長い英国のロック・バンド、シンプリー・レッドにて活躍中の鈴木賢司だ。

64年生まれの彼ももちろん、クリーム、エリック・クラプトンを聴いて育ったひとりで、当然倉布団爺の完コピなどお手のものだろうが、そこは若くとも日本を代表するプロの意地、絶対倉爺の通りには弾いていない。

倉爺の予定調和的なプレイなんざまったく知らねえよとばかり、ジミヘンも顔負けのエキセントリックで破壊的な音を聴かせてくれる。ええねえ。

日本において、唯一、チャーを越えられるギタリスト(と筆者はふんでいる)、鈴木賢司ならではの快演だ。

で、4位はこの曲。筆者もライヴでは定番にしている、ハウリン・ウルフ、クリームの代表的ナンバー。

ここでの、KENJI JAMMERこと鈴木の、ストラトの派手なアーミングを多用したプレイは、実にカッコいい。

また、クリームのオリジナル・ヴァージョンではフィーチャーされなかった、ジャック・ブルースのハープ演奏がまたいい。

彼のハープも、前回のキース・レルフ同様、なかなか聴かせるものがある。ブルーズィで濃い演奏がたっぷり楽しめる一曲。

3位「CROSSROADS」

アンコールの一曲目で演奏したのは、これ。誰もが期待していたクリーム・ナンバーだ。

ちょうど44才を迎えたばかりというブルース、22才の鈴木、30才のフィア、ロックの各世代が揃った感のある三人の演奏は、けっこうクリーム・ヴァージョンに忠実な演奏。

鈴木も珍しく、クラプトンのフレーズをまんまコピーして聴かせてくれる。ま、これも余興といったところだろうが、これがクラプトン以上にカッコよかったりする。

80年代以降の、いささか気の抜けた倉爺のプレイに比べると、なんとも「熱い!」のである。

リハなんか一回くらいしかやっていないのだろうが、まるでパーマネント・グループのように息のぴったり合った演奏。

さすが!やね。

ブルース、鈴木のラウドなプレイに負けず劣らず、フィア(当時ゴールデン・パラミノスに所属)のドラミングもパワフル。

ジンジャー・ベイカーのジャズ系なドラムとはまた違って、後続の純粋ロック世代らしく、ストレートに叩き出すビートがこれまた熱い。

ブルースも、クラプトンへの「意地」をモロに見せつけるかのように、ヴォーカルも相当気合いが入っている。

「オレこそが、クリームのフロントだったんだぜ!」みたいな。

2位「SUNSHINE OF YOUR LOVE」

筆者の趣味で、どうしてもクリーム・ナンバー続きになってしまうが、このライヴ、他には鈴木賢司のオリジナル「GENERATION BREAKDOWN」「A.P.K.」、ウェスト・ブルース&レイングの「OUT INTO THE FIELD」、ゴールデン・パラミノスの「WORKING HARADER」も演っていて、そちらもハードなプレイがなかなか捨てがたいので、よろしく。

さて、場内最高潮!てな感じのときに、タイムリーに始まったのは、やはりこれ。クリームの大ヒットナンバーだ。

観客もコーラスで加わって、おなじみのサビを大合唱。みんなが知っている曲は、やはり強いやね。

鈴木も、タッピングやアーミングを交えたフリーフォーム・ギターで、クラプトンとはまったく違った個性を見せつける。

でも「精神」においては、66年~68年ころの「ギター・フロンティア」としてのクラプトンを継いで、むしろ後のクラプトン以上にロックしている、そう思う。

後半のソロでも、ワウ・ペダルを駆使したプレイが、実に「ロック」なんだよなあ。

1位「SPOONFUL」

本ライヴのラストを飾る一曲。そう、かの名盤「WHEELS OF FIRE」での熱演が全世界のロック・ファンの度肝を抜いた、クリーム・ナンバーの再演だ。

こちらはクリーム版の16分45秒に比べればコンパクトだが、それでも正味10分におよぶ長尺。

例によって、ゴリゴリ、ブリブリのベースで自己主張しまくりのブルースに対して、一歩も引かず応戦するのはわれらが鈴木賢司。

ディストーションをバリバリにきかせた、これぞロックって感じのアグレッシヴな音は、聴いててまことに快感。

一方、ブルースのベース・プレイは、音もやたら歪んでいて荒っぽいし、耳ざわりな不協和音を使い過ぎだし、さほど好きではないのだが、迫力あるヴォーカルはけっこう好きだったりする。

「とにかくラウド、とにかくヘヴィー」、これが、ブルースの、そして彼に続く世代、鈴木やフィアのロックに関する「信条」なのだろうね。

そのへんは、素直に同調出来る。やっぱり、デカい音を出さなきゃ、ロックした気にはならないってもんだ。

世代を越えて、ロックを合言葉に、ひとつにまとまった三人。とにかくHOTとしかいいようがないゴキゲンな一枚。あなたは知っているかな?

<独断評価>★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#194 ザ・ヤードバーズ「RARE CONCERTS 1965-1968」(SABAM BT 9302)

2022-05-27 05:34:00 | Weblog

2003年11月16日(日)



#194 ザ・ヤードバーズ「RARE CONCERTS 1965-1968」(SABAM BT 9302)

「The Eric Clapton ULTIMATE Discography」によるディスク・データ

ヤードバーズは、オリジナル・アルバム以外にも各種コンピ盤、プライベート盤が膨大に出ているアーティストであるが、これもその一枚。

でも、ただのコンピではない。ヤーディーズ・ファンでなくとも、ぜひチェックして欲しいアルバムである。

というのも、この盤の前半は、「幻のアルバム」とよばれた「Live Yardbirds Featuring Jimmy Page」の音源そのものなのだから。

71年、エピックはヤードバーズの元メンバーたちに断りなく、68年3月ニューヨークでのライヴ録音をレコード化してしまう。

当時ZEPを率いて活躍していたジミー・ペイジは、これを不当として発売差し止めの訴訟を起こし、勝訴したため、この一枚は幻のアルバムとなってしまう。

市場に出た数少ない商品は、バカ高い値段で取引きされ、それをコピーした粗悪なブート盤が長らく出回ることになる。

だが、2000年についにムーアランド・セイントなるレーベルから正規盤として復活、このベルギー盤もその流れを汲んでリリースされたものである。

よって、山野楽器のような大きなCDショップならたいてい入手可能なので、ぜひ店頭でチェックしてみて欲しい。

<筆者の私的ベスト4>

4位「WHITE SUMMER」

「リトル・ゲームス」にも収録されている、ペイジの作品。

ZEPの初期のライヴでも、彼のソロにより、必ずといっていいほど演奏された定番ナンバー。(ZEP時代には、ファースト・アルバム収録の曲「BLACK MOUNTAIN SIDE」とつなげて演奏されていた。)

メイン・ギターのテレキャスターを、いわゆるDADGADチューニングを施したダンエレクトロに持ち替えて弾くわけだが、後年のZEPによるロング・ヴァージョンにくらべると、かなりシンプルな構成だ。「リトル・ゲームス」でのアレンジをほぼそのまま踏襲しているといえる。

ブリティッシュ・トラッド、あるいはインド音楽に強く影響を受けた、そのユニークな音世界。67~68年当時としては、最先端のサウンドだったと思う。

最近では、「ヘタ」という評価がほぼ定着(?)してしまった地味頁翁だが、その時期にこれだけ弾けるギタリストがどれだけいただろうと問いたい。

オリジネーターとは、実に辛いものだ。常に後続のものにコピーされ、それ以上のテクニックを開発されてしまう「踏み台」の宿命から逃れられないのだから。

そりゃ、後発組は、楽だわな。先人が示してくれたお手本はそのまま真似ればいいのだから。

だが、その先人がオリジナルを生み出すのにどれだけ苦労したかを、少しは想像しないといかんよね。

3位「DAZED AND CONFUSED」

発売当初は「I'M CONFUSED」とクレジットされていたナンバー。もちろん、ZEPの定番曲「DAZED AND CONFUSED(幻惑されて)」とまったく同一である。ペイジもこのときすでに、バイオリン・ボウによるプレイに挑戦している。

とはいえ、ヴォーカルがプラントでなく、レルフであるというだけで、ZEP版とは相当イメージが違う。

どうもこの曲のキーはレルフには合っていないという感じで、歌はかなり不安定。(元々、あまり歌のうまい人ではないけどね。)

歌がイマイチな分、彼は得意のハープで補ってはいるのですが。

とはいえ、この曲の最大の売りはペイジのギターであるのは間違いなく、テレキャスで弾いているとは到底思えないファットな音を聴かせてくれる。

一般にテレキャスはハード・ロックにもっとも不向きなギターだと考えられているが、チューンナップのやり方、そしてアンプとのマッチングによってはここまで迫力ある、一種鬼気迫るサウンドを出せるのである。これは発見だな。

演奏時間は6分強、後のZEPの、延々20分以上にも及ぶロング・ヴァージョンに比べるとごくごくコンパクトだが、なかなか迫力のある演奏だ。

ドラムスのジム・マッカーティも、ボンゾのような超人的テクニシャンでこそないものの、ハード・ロックのドラマーとしても十分通用するだけのパワーを持っていたことが判る。

まだ荒削りだが、気合い十分な「幻惑されて」。ZEPとはまた違った味わいで面白い。

2位「I'M A MAN」

ライヴのラストを飾る、ヤーディーズの十八番的ナンバー。ボ・ディドリーの作品。

ここでの主役はなんといっても、全編ハープを吹きまくるレルフだ。

本当に彼のハープはうまい。筆者もハープ吹きのはしくれなわけだが、彼のプレイはお手本であり、目標でもある。

それに、彼の観客を引っ張るステージングにもなかなかのものがある。ヤーディーズはどちらかといえば男受けするタイプのバンドだと思うが、そんな中で、女性ファン獲得に貢献していたのがレルフなのだ。

この曲でも彼はかなり女性客をあおって、失神寸前の熱演で、黄色い歓声を浴びている。

それにペイジのサイケデリック・ギター、さらにはバイオリン奏法によるプレイも絡み、ライヴ会場の興奮は最高潮となる。演奏時間は11分半にも及ぶ。とにかく全編、「熱い」のひとこと!

ヤーディーズの見事なショーマンシップを知るには、この一曲を聴くのが一番だという気がするね。

1位「THE TRAIN KEPT A ROLLIN'」

ヤードバーズというと、どうしてもこのナンバー抜きで語るわけにはいくまい。ハード・ロックの始祖としての彼らの、象徴的一曲。

これがまた実にイカしている。ジェフ・ベック時代とは違い、リズム・ギターなしの4人のみでの演奏だが、とてもそうとは思えないくらい、ハードかつパワフルなプレイなんである。

まさに、ZEPサウンドを予感させる出来。

ベック脱退後、ペイジはあえてメンバー補充を行わず、68年夏の解散まで四人編成で通したわけだが、自分のギター一本だけでも十分カッコよくやっていけるという自信があればこそ、そういう判断をしたのだと思う。

それまで、クリームのような少数の例外はあったものの、一般にギター・バンドにおいてはリズム・ギター(ないしはそれに代わるコード楽器)は不可欠だと考えられていたから、これはコペルニクス的転回だったといえそうだ。

第5期ヤーディーズ、そしてZEP以降、ワンギター・バンドは当たり前のことになったが、当時としてはメチャ画期的なことなのだ。

このNYライヴ、音質的にはいまひとつなのだが、ハードロックの歴史において、きわめて重要な一枚だと思う。

なにせ、70年代の覇者、レッド・ツェッペリンのあのサウンドが、68年3月の時点において、かなりの完成度で準備されていた雄弁な証拠なのだから。

いささかラフではあるが、ひたすらパッショネイトな演奏、そして観客の熱烈な声援。これぞ、ロック!であります。

(なお、後半の8曲は、「I WISH YOU WOULD」がクラプトン時代(推定)のライヴ。これはギター・ソロもなく、ほとんどレルフの歌&ハープの独演会状態。残る7曲は以前当コーナーでも取り上げた「BBC SESSIONS」からの音源なので、あえてふれません。悪しからず。)

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#193 ウェスト・ロード・ブルーズバンド「BLUES POWER」(徳間ジャパン TKCA-71799)

2022-05-26 05:01:00 | Weblog

2003年11月9日(日)



#193 ウェスト・ロード・ブルーズバンド「BLUES POWER」(徳間ジャパン TKCA-71799)

ウェスト・ロード・ブルーズバンドの記念すべきデビュー盤。75年リリース。

このアルバムから、日本人によるブルースが本格的に始まった、そういっても過言ではない一枚である。

<筆者の私的ベスト4>

4位「AIN'T NOBODY'S BUSINESS IF I DO」

本作は基本的に本場のブルース曲のカヴァーばかりで占められている。それもモダン・ブルース系の曲もあれば、戦前から歌われているクラシックなブルースもあり、ヴァラエティに富んだ選曲となっている。

この曲は後者のタイプに属する一曲といえよう。

スローテンポでまったりと、ちょっとジャズィ。原曲(ベッシー・スミス)のイメージを壊さぬよう、いささか時代がかったアレンジになっている。

このモッタリとした曲、ホンマに20代なかばの若者たちがやっとるのかいな?といぶかしくなるくらい、老成した雰囲気がある。

当時のわが国のポップス・シーンが、フォークとハード・ロックにほぼ二分されていたことを考えると、恐るべき成熟度ですな。

WRBBのバンド・サウンドというよりは、ゲストの妹尾隆一郎(hca)、佐藤博(kb)らをフィーチャーした、「大人の音」という感じであります。

3位「FIRST TIME I MET THE BLUES」

一方こちらはモダン系を代表する一曲。

バディ・ガイの初期のナンバー(作者はリトル・ブラザー・モンゴメリー)のカヴァーである。

WRBBは、塩次伸二、山岸潤史(潤二)という、タイプの異なるふたりのギタリストを擁しているが、こちらは山岸をフィーチャー。

セミアコでBBふうの正統派スクゥィーズ・ギターが得意な塩次に対し、ストラトでよりロックっぽいアグレッシヴなプレイを聴かせる山岸だが、この28年前の初レコーディングから、相当完成度の高い、ハイ・レベルな演奏をしていたのがよくわかる。

やはり、何年にも及ぶライヴ活動で鍛え上げただけのことはあるね。

山岸のトリッキーでエッジのたったプレイの素晴らしさもさることながら、永井隆=ホトケ氏のややオーヴァーなヴォーカルもなかなかいい。

気合いが十二分に入っているといいますか、彼が執拗に連発する「アウ!」というシャウトを聴くだけで、総毛立つのであります。

ゲスト・プレイヤーの加勢に頼らず、ギター・バンドとしてのサウンドに徹しているのもいい。これが彼らの本来の音という気がする。

2位「TRAMP」

いうまでもなく、ローウェル・フルスンのヒット・チューン。

いかにも、ファンク系の音がお好きなホトケ氏らしい選曲だ。小堀正、松本照夫のリズム隊がノリノリで、なんともごキゲン。

短めだが山岸のギター・ソロもカッコいいし、佐藤博のオルガンもナイス。

このファンクなサウンドに、うまく乗っているのが、ホトケ氏のヴォーカル。

前出の「AIN'T NOBODY'S BUSINESS IF I DO」のようなバラードっぽい曲より出来がいい。

ここで筆者個人の意見をいわせてもらうと、ホトケ氏の声質は、正統派のブルース・チューンをじっくり、しっとり歌い上げるというよりは、こういう「ノリの良さ」で勝負する曲、聴き手をアジテートするような曲を歌うのに向いているような気がする。(ご本人の思惑は、また違うだろうけどね。)

かっちりとした音程で歌うよりは、ちょっと崩し気味、ラフなスタイルで歌うほうが、よりホトケ氏らしいように思うのだが、いかがであろうか。

1位「IT'S MY OWN FAULT(TREAT ME THE WAY YOU WANNA DO)」

B・B・キングをトリビュートしたナンバー。

当然、フィーチャーされるのは、塩次伸二のギター。これが実にパーフェクトな出来。

ホント、泣きといい、タメといい、寸分の隙もないプレイである。特にブレイクからの展開は、鳥肌モノ。歌心も十分感じられて、申し分ないプレイだ。

それに比べると、ホトケ氏の歌はちょっと分が悪いかな。まだ、表現が青いといいますか、オリジナルのもつ「人生の重み」のようなものを、表現し切っているとはいえない。

24、5才の青年に、一度目の結婚に失敗し、二度目の結婚も、連日の地方公演によるすれ違い生活のため、破局に瀕しているという男の歌をうたえったって、そりゃあ無理だという気がする。

器楽の場合は、早熟の天才もそんなに珍しくはないが、歌の場合は「こころ」を表現するものだけに、若者が不自然に背伸びして歌ってみたところで、聴き手をたやすく感動させられるものではない。

やはり、等身大の自分、あるがままの自分をその歌に込めて、うたうしかないのだ。

そういう意味で、この曲はちょっと荷が勝ち過ぎですな。

もちろん、50代となり、人生経験を積んだ現在のホトケ氏ならば、この曲を十分歌いこなせるはずだ。

ぜひ、彼に再度録音していただきたいナンバーである。

WRBBのファースト・レコーディングは、いまひとつホトケ氏のヴォーカルが前面に出て来ず、他のメンバーのほぼパーフェクトなサウンドの中に埋もれてしまった感があるものの、とてもデビュー盤とは思えない完成度の高さである。

いわゆるQ盤により、いまだに多くの人、さまざまな世代のリスナーに、聴き継がれているというのも納得が行く。

ジャパニーズ・ブルースの原点。一度は聴いておきたい一枚だ。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#192 バターフィールド・ブルース・バンド「EAST-WEST」(ELEKTRA/ASYLUM 7315-2)

2022-05-25 05:15:00 | Weblog

2003年10月31日(土)



#192 バターフィールド・ブルース・バンド「EAST-WEST」(ELEKTRA/ASYLUM 7315-2)

バターフィールド・ブルース・バンドのセカンド・アルバム。66年リリース。

白人シンガー/ハーピスト、ポール・バターフィールド率いる6人組グループの、出世作となった一枚である。

メンバーに2名の黒人を含むとはいえ、彼らをホワイト・ブルース・バンドと呼ぶのは問題あるまい。

彼らの登場により、アメリカに本格的なホワイト・ブルースが根付いたからだ。

<筆者の私的ベスト4>

4位「WORK SONG」

ブルース・バンドと銘打ってはいたが、彼らは黒人のブルースに限らず、幅広いジャンルの曲を演奏していた。これもその一例だ。

ファンキーなプレイで人気の高かったアルト奏者、ジュリアン"キャノンボール"アダレイの作品。

黒人の労働歌をモチーフにしたこのジャズ・インスト・ナンバーを、彼らは実に多彩な切り口でアレンジしてみせる。

まずはマイク・ブルームフィールドのギター、続いてバターフィールドのハープ、マーク・ナフタリンのオルガン、そしてもうひとりのギター、エルヴィン・ビショップへとソロをつなげていく。

ブルース、ジャズ(ギターではオクターヴ奏法も見られる)、サイケデリックなロックが渾然一体となったサウンドが、なんとも圧倒的。

8分近くと長めの、インプロヴィゼーション、インタープレイを主体とした演奏だが、メンバー各人の高い演奏能力がそれを可能にしている。長丁場、決してダレたという印象はない。

「おれたちゃ、ブルースだけじゃないんだぜ、何だって出来るもんね」という意気込みが伝わってきそうである。

3位「WALKIN' BLUES」

こちらは、有名なブルース・ナンバー。ロバート・ジョンスンの作品だ。

オリジナルはもちろん弾き語りスタイルで、リズム・セクションを伴ってはいなかったが、こちらはジェローム・アーノルド(b)、ビリー・デイヴンポート(ds)の生み出す、ヘヴィーなビートにのって演奏するスタイル。これまた、カッコいい。

リード・ヴォーカルのバターフィールドも、黒人とはまた違った、独特の枯れた味わいのあるヴォーカル・スタイルがなかなかいい。

そしてもちろん、特筆すべきは彼のハープ・プレイだろう。

白人ミュージシャンとしては初めてシカゴのゲットーに入り、黒人たちの生のプレイから学んだだけあって、その艶のある音色は見事に"ブルース"を感じさせるものだ。

ちなみにバターフィールドは70年代、「ベター・デイズ」というバンドにおいてもこの曲を「NEW WALKIN' BLUES」なるタイトルで演奏している。アレンジ、テンポも微妙に違っているので、聴き比べてみるのも一興だろう。

2位「GET OUT OF MY LIFE, WOMAN」

ニューオーリンズの名プロデューサー、アレン・トゥーサンの作品。

歯切れのいいビートにのって、バターフィールドが思い切りシャウトする。聴く側も実に気持ちよい。

中間部、ナフタリンのころがるようなNO風ピアノ・ソロも、見事にキマっている。

またこの曲ではギターがバッキングに徹していて、前面には出てこないのだが、リズム・カッティングがカチッと決まっているので、地味という感じはしない。

ふたりもギタリストがいるので、ギター・バンドと把握されがちな彼らだが、決してゴリゴリ弾くだけでなく、全体の調和を考えた、「引き」のプレイをもきちんとマスターしているのは、さすがだと思う。

1位「EAST-WEST」

アルバム・タイトルともなっているナンバー。ブルームフィールドと、後に彼と「エレクトリック・フラッグ」なるバンドを結成することになる友人のシンガー、ニック・グレイヴナイツとの共作。

これがなんと、13分を越える超大作なんである。

タイトルが示すように、東洋的な音と西洋的な音との邂逅がテーマで、ブルースとかロックとかいった西洋の音楽ジャンルをいったん解体し、新たなサウンド作りに挑んだナンバーだといえそうだ。

まずは、ビショップのワンコード・ソロからスタート、最初はまだ普通のブルース・ギター風だ。

これを引き継いで、バターフィールドがソロ。ふだんの彼のプレイに比べて、ブルース色が稀薄という印象がある。

そして、三番手のブルームフィールドのソロからは、明らかに東洋的な音階へとシフト。

瞑想的なフレーズを延々と紡ぎ出していくさまからは、いつもの彼の、どっぷりとブルースに染まったプレイなど想像もつかない。

とはいえ、随所にファンキーなフレーズも溶かし込まれており、東洋へのエキゾチシズム一辺倒というわけでもない。

そしてハイライトは、バターフィールドとビショップのツイン・ギターの絡み。もう、「圧巻」のひとこと。

13分という長さを意識させることなく、一気に聴かせてしまうのだ。

やはりそれは、プレイヤーたちの並々ならぬテクニック、そして緊密、周到に練られたアレンジ、これが揃ってこそであろう。

「青は藍より出でて藍より青し」という譬えがあるが、ブルースをベースにしながらも、より多彩なイメージを持ったサウンドを創出したのが、このバターフィールド・ブルース・バンドだと思う。

まさに、ブルースを越えた、スーパー・ブルース。

この「EAST-WEST」という曲は、「ラーガ・ロック」という東洋風ロックの、流行の火付け役ともなったという。

それはとりもなおさず、この曲で展開されたサウンドが、いかに当時のリスナーやミュージシャンたちに強烈なショックを与えたかという証左ではなかろうか。

単なる黒人ブルースの模倣、亜流を越えて、白人ならではのオリジナルなサウンドを生み出した"創造力"、これこそが彼らの面目なのだといえるだろう。

<独断評価>★★★★★


音盤日誌「一日一枚」#191 オールマン・ブラザーズ・バンド「EAT A PEACH」(Polydor POCP-1907)

2022-05-24 04:59:00 | Weblog

2003年10月19日(日)



#191 オールマン・ブラザーズ・バンド「EAT A PEACH」(Polydor POCP-1907)

オールマン・ブラザーズ・バンド、72年リリースのアルバム。アナログLPでは2枚組だった。

アメリカ本国の「偉大なギタリスト」投票では、ジミ・ヘンドリクスについで2位の栄誉を勝ち取った、デュアン(デュエイン)・オールマン。ジミと並ぶ「夭折の天才」といえそうだ。

その彼の死後、追悼盤として発表されたのが、この一枚。新メンバーでのスタジオ録音のほか、デュアンの生前のライヴ録音も含まれている。

彼らのアルバムには、以前このコーナーで紹介した「AT FILMORE EAST」のほか、「IDLEWILD SOUTH」「BROTHERS AND SISTERS」など名盤が多いが、本盤もそれにまさるとも劣らぬ傑作だと思う。

<筆者の私的ベスト3>

3位「MOUNTAIN JAM」

フィルモア・イーストにおけるライヴ録音。英国のシンガー、ドノヴァンの曲を、彼ら流にアレンジしたもの。

何たってすごいのが、演奏時間。33分15秒だぜ!

現在のCDなら収録も全然楽勝の長さだが、アナログLPの時代に、よくそれだけのロング・トラックをレコード化したもんだ。

それだけでも、脱帽もの。

で、中身のほうも、もちろん素晴らしい。全編インストゥルメンタルなのだが、聴く者をまったくあきさせない、緩急、変化に富んだ構成になっている。

まずは早いビートながら、わりとゆったりとした雰囲気で、デュアンとディッキーがツイン・リードでテーマを演奏。

それから、ギター→キーボード→ギターという風に各メンバーにソロを回していくのだが、いずれもスピード感があふれるプレイでなんともごキゲンだ。

それを支えるリズム隊のプレイも、またすさまじい。よくこれだけ、早いテンポの演奏をだれることなく長時間にわたって続けられるものだ。感服のひとこと。

この曲、ソロ演奏の基本はアドリブなのだが、ときにはツイン・リードを聴かせるなど、かなり入念にアレンジをしてあり、それがこの長丁場、聴き手をダレさせずに引っ張れる秘密なのだろう。

個々人のテクニック&パワー、そして、見事な楽曲構成力、このふたつのどちらが欠けても、この難曲を演奏しきることは不可能だったはず。

さすが、最強のライヴ・バンド、オールマンズである。

曲は後半、ミドル・テンポ、さらにスローへ変化。まったりとした、ソウルフルなギター・ソロが展開されていく。

ヴォーカルこそ入っていないもの、十分に「歌って」いるギター、実にいい感じだ。

最後は、ティンパ二も加わって、にぎやかに大団円。もう、おなかいっぱいになりました(笑)。

彼らの引き出しの多さ、リズム感覚の豊かさをまざまざと見せつけらた一曲でありました。

2位「TROUBLE NO MORE」

これも、フィルモア・イーストでのライヴ。曲はもちろん、マディ・ウォーターズの作品。

アップテンポで快調に飛ばすブルース・ナンバー。全編にデュアンのスライドをフィーチャー。

中間部ソロでは、ディッキーも負けじとギターを泣かせる。そして、もちろん、デュアンも。

六人のメンバーが一体となった、圧倒的なグルーヴ。3分台のコンパクトな曲なれど、実に聴かせます。

こういう、かっちりしたリフでのせる曲も、本当に上手いんだよなあ、オールマンズって。

1位「ONE WAY OUT」

さて、1位はこれ。これまた、フィルモア・イーストでのライヴ録音。

曲は、サニーボーイ・ウィリアムスンIIでおなじみのナンバー。彼のアルバム「REAL FOLK BLUES」「ONE WAY OUT」ほかに収録されている。

この演奏が最高にカッコいい。のっけから、デュアンのスライド・ギターが耳に突き刺さり、ハイ・テンションなビートにのせて、このうえなくスリリングなプレイが展開される。

グレッグのソウルフルなヴォーカルが、緊迫感あふれた曲調に見事マッチングしている。ディッキーのソロも、艶のあるのびやかなトーンがナイス。

そして、何といってもデュアンのソロ。音色といい、フレージングといい、もう、完璧のひとこと。

ま、説明するより、聴いていただくのが一番なのだが。

エンディングがまたイカしている。バンドをやるなら、一度はこんなふうにキメてみたい、そんな感じのエンディング。

…というわけで、結局、デュアンの参加した曲ばかりになってしまった(笑)。

新メンバーによる演奏も悪くはないのだが、やはり、デュアン存命時のサウンドには、いまひとつ及ばないという気がするな、筆者の個人的好みでは。

それは彼のギター・テクニックうんぬんというよりは、彼の黒人・白人を超えた独自の「音楽性」によるものが大きいと思う。

黒人のブルースを素材にしながらも、独自のロックなグルーヴを溶かし込んだサウンド。似たようなことをやるバンドはいっぱいあるが、やはり、彼らはワン・アンド・オンリーな存在だ。

稀代のロックバンド、オールマンズの魅力を約70分にわたってたっぷり楽しめる一枚。一聴の価値あり、です。

<独断評価>★★★★★


音盤日誌「一日一枚」#190 クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング「DEJA VU」(MMG/Atlantic 20P2-2355)

2022-05-23 05:07:00 | Weblog

2003年10月12日(日)



#190 クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング「DEJA VU」(MMG/Atlantic 20P2-2355)

CSN&Y、70年リリースのアルバム。前年の「CROSBY, STILLS & NASH」に続く、ニール・ヤング正式加入後初のアルバム。

アメリカのみならず、日本でも大ヒットしたこのアルバム、筆者も中2の頃カセットで購入、テープが擦り切れるまで聴いたものだ。現在ではこうして、CDに買い換えて聴き続けている。

発表して33年もの歳月が経過したわけだが、いまだに聴く度に新鮮な感動をもたらしてくれる。これぞ、名盤中の名盤といえよう。

<筆者の私的ベスト3>

3位「TEACH YOUR CHILDREN」

某キントト映画のサントラで使われたこともあって、スマッシュ・ヒットしたシングル曲。グレアム・ナッシュの作品。

CSN&Yの大きな魅力のひとつである、カントリー、フォーキーな面を前面に押し出した曲調。

クロスビー、スティルス、ヤングの弾くアコギに、ジェリー・ガルシアの達者なペダル・スティールが絡み、いかにも陽性なサウンドに仕上がっている。

そしてもちろん、メンバー四人の強力なコーラスが、この曲の決め手。

ナッシュがほどよく甘い声で歌う主旋律、それをそれぞれ声質の異なった三人がサポート。実に見事なハーモニーだ。

筆者の所属していた、中学・高校のフォークソング・サークルでは、この曲がコンサートの締め括り、メンバー全員で歌う定番曲だったのを思い出す。

これもまた、筆者にとっての「青春の一曲」なのだったなと、いまにして思うのである。

2位「WOODSTOCK」

「TEACH~」がCSN&Yのフォーキーな面の代表曲であるなら、この「WOODSTOCK」はロックな面のそれといえるだろう。これまたシングル・カットされ、ヒットしている。

作者は女性シンガー・ソングライターのジョニ・ミッチェル。知っている人は知っているだろうが、彼女はCSN&Yのメンバーとゆかりが深く、一時はクロスビー、のちにはナッシュの恋人でもあった。

CSN&Yは、前年8月15日~17日に開催された「WOODSTOCK MUSIC & ART FAIR」に出演し(レコードにはCS&Nとしかクレジットされていないが、実はヤングも参加していた)、後日、同フェスティバルの記録映画の主題曲をレコーディングすることになる。それがこの「WOODSTOCK」というわけだ。

ジョニ・ミッチェル自身のヴァージョンが、わりとまったりとしたバラード調なのに比べて、CSN&Y版のアレンジは結構ハードで、音もライヴっぽく録れている。

スティルスとおぼしきギター・ソロも、かなりトリッキーな感じ。

その、骨太でハードなサウンドの上に、四声のハモりがバッチリ決まっているのだから、最強のひとこと。

当時、「ビートルズを超えたスーパー・グループ」という風評があったのも、十分うなずけるだろう。

だが惜しいことに、四人の人間関係がなかなかうまく行かず、数年でグループは空中分解してしまう。

その後、何度も復活しては活動休止を繰り返して、現在に至っているのだが、やはり一番の「旬」は、この第一期だったことは万人が認めるだろうね。

何より、声が若々しく、パワーに満ちあふれている。これぞ、ロックですな。

1位「CARRY ON」

このアルバム、もう、名曲揃いなので、実は全曲に満点をつけたい気分なのだが、そのなかでもよりすぐりの一曲といえば、これじゃないかな?

え、ちょっと意外だったって?

たしかに、シングル向けのキャッチーな曲とはいいがたいのだが、筆者の考える「もっともCSN&Yらしい一曲」なのである。

アコギだけで始まるあのアップテンポのイントロを、一番最初に聴いたときのショックには、物凄いものがあった。

アコースティック・ギターはある意味、エレクトリック・ギター以上の衝撃をもたらすのだなと、その時初めて感じたのである。

そして、それに続くあの見事なコーラス。もう、完全にノック・アウトされちまったものだ。

ハードなシャウト以上の「音圧」が、彼らのハモりにはあるんだよなぁ。

さて、このちょっと風変わりな組曲風のナンバーを書いたのは、スティルス。前半では、スティルスの物憂いフレーズが印象的なギターをフィーチャー。

ブレイク後は、ラテン風ビートにチェンジ、オルガンをフィーチャーしたサイケ調サウンドが続いていく。このあたりも、実に新鮮な展開だった。

アコギ・サウンドと、エレクトリック・サウンドが、違和感なく融合している音、これぞ彼らのオリジナリティだと思いますね。

他の曲にはあえてふれないが、どれをとっても超一級の出来ばえ。四人四様の強烈な個性が組み合わさることで起きた、驚異的な「化学反応」がこの一枚。

聴く者すべてを魅了するにちがいない。絶対のお薦めです。

<独断評価>★★★★★


2022年11月24日(木)(再投稿)

クロスビー、スティルス、ナッシュ・アンド・ヤングのファースト・アルバム。70年リリース。

筆者としては、中学生になって自分の小遣いで買った3枚目か4枚目かに当たるレコードだ。

こういう表現をするといささか恥ずかしいのだが、自分にとって「青春の一枚」的なアルバムなんである、これは。

なんていうか、甘酸っぱく、ひたすら愛おしい一枚。

その理由は、おそらく筆者と同世代のかたがたなら、すんなりと納得いただけるのではなかろうか。

まだ、女の子と付き合ったこともない、ウブな中坊の少年にとって、このCSNYのフレッシュなサウンドは、青春の甘さ、苦さ、期待感、失望、そして喜びといった諸要素をすべて包含しているように見えたからだ。(遠い目)

前書きが長くなった。本題に入ろう。

前年の69年に鮮烈なデビューを果たしたCSNは、サウンド面の強化、よりロック的なアプローチのため、増員を試みる。

その結果、メンバーのひとりスティルスの、過去のバンドメイトであったニール・ヤングが加入することになる。

そして、この名アルバムがリリースされることになるわけだ。

前作のアコースティック・ギター中心のサウンドから大きく変化して、ロック・バンド的な音が大きく加味され、本作によりCSNYは70年代を代表する「スーパー・グループ」としての評価を確立するに至る。

ウッドストック・フェスティバルに出演したことにより生まれた「ウッドストック」を初めとして「ティーチ・ユア・チルドレン」などのヒット曲もここから生まれた。

固定ファンだけでなく、一般リスナーにもそのグループ名が広く知られるようになったのは、本アルバムあってのことだろう。

CSNYイコール、最強のハーモニー、コーラスを誇るバンドというイメージが、一般的にも定着した。

ただ、ここでひとつ強調しておきたいことがある。

ニール・ヤングという新メンバーはあくまでもギタリスト、そしてソングライターとして呼ばれたのであって、「ハーモニー・パート要員」「コーラス要員」として招聘されたのではなかった、という事実だ。

それは、各曲のパーソネルをよくよく確認することで、はっきり判る。

ニール・ヤングが歌を担当するのは、あくまでも彼が作った曲のリード・ボーカルにおいてのみなのである。

もちろん、他の三人はバック・ボーカルに入るので、結果的には四声になるのだが、ヤング以外のメンバーがリード・ボーカルを取る曲では、ヤングは歌うことはない。三声がギリ限界なのだ。

ボーカルにおいては、CSNYは必ずしも「一枚岩」ではなかったのだと言える。

そのあたりの微妙なバランス加減、ヤングが孤立しやすい構造的問題が、結局、のちのちヤングがグループを出たり入ったりする現象につながっていったのだろう、と筆者は推測している。

ヤングの意識としてはパーマネント・グループに加入したという意識はほとんどなく、頼まれたからとりあえず助っ人として参加してみた、というのが実情なのではなかろうか。

とはいえ、ヤングの参加により、バンド・サウンドが大きく進化したという功績に変わりはない。

サウンドのバラエティはメンバー四人がそれぞれ作った曲を持ち寄り、それぞれがリード・ボーカルを取ることで生み出され、アルバムに豊穣な実りをもたらした。

「カット・マイ・ヘア」で意外とソウルフルな歌声を披露し、「デジャ・ヴ」で独自の内省的な世界を見せるクロスビー。「ティーチ・ユア・チルドレン」「僕達の家」でひたすら優しい音を奏でるナッシュ。「ヘルプレス」「カントリー・ガール」で抒情的なメランコリーな歌を聴かせるヤング。そして骨太なロック・ギター(「キャリー・オン」)と繊細なアコースティック・サウンド(「4+20」)両方で至芸を聴かせるスティルス。

四人の実力がフルに発揮された「デジャ・ヴ」こそは、当時よく聞かれた「ロックの金字塔」という呼び名に恥ずかしくない一枚だと思う。


音盤日誌「一日一枚」#189 嘉門雄三 & VICTOR WHEELS「LIVE!」(ビクター音楽産業 VFX-1001)

2022-05-22 05:07:00 | Weblog

2003年10月5日(日)



#189 嘉門雄三 & VICTOR WHEELS「LIVE!」(ビクター音楽産業 VFX-1001)

嘉門雄三 & VICTOR WHEELSによる最初にして最後のアルバム。ライヴ盤(CD未発売)。

嘉門雄三とはもちろん、サザンオールスターズの桑田佳祐の変名。英語の「C'MON」と加山雄三から名づけたのであろう。

桑田は本業のSASとは別に、息抜き・お遊びとして、企画ものを時々やりたがるひとだが、これはそのハシリといえそう。

81年3月、桑田とその周辺の有志で、SASゆかりの渋谷のライヴハウス「エッグマン」にてシークレット・ギグを二日間にわたって行ったのがきっかけで、このライヴ盤を出そうということになった。

同年12月11・12日、同じくエッグマンにて録音。

中身は一曲(A-2)を除いて、すべて英米のアーティストのカヴァー。もう完全に趣味の世界(笑)。ま、お遊びだからしかたないか。

<筆者の私的ベスト3>

3位「BLUES MEDLEY~BLUES POWER」

このライヴのメンバーは、SASからはベースの関口和之のみ。他は、斎藤誠(g)、国本佳宏(Key)、今野多久郎(per)、宮田茂男(ds)という顔ぶれ。

斎藤は、SASを生んだ青山学院大学の音楽サークル「BETTER DAYS」での、桑田の後輩にあたるギタリスト/シンガー。このアルバム発表後、ソロ・デビューも果たしている。国本はSASのアルバムでもおなじみのキーボーディスト/アレンジャ-。今野はのちにKUWATA BANDにも参加しているパーカッショ二スト。宮田も、BETTER DAYSに参加していたドラマーだ。

さて、3位はブルース・メドレーというよりは、クラプトン・メドレーといった方がいいかな。

このライヴではふだんのプロ活動では直接聴くことの出来ない、桑田の音楽趣味がモロに出ていて面白いが、このメドレーがまさにそう。

まずは、おなじみの「WORRIED LIFE BLUES」から。

転調して「RAMBLIN' ON MY MIND」、さらには「HAVE YOU EVER LOVED A WOMAN」へ。斎藤のギター・ソロが、なかなかカッチョえーです。

途中、いきなり放送禁止用語を叫び、観客にも叫ばせるという一幕がある。必ず笑いを取らないと気のすまない、桑田らしい演出やね~。英詞の歌でも、決してマジ一本やりではないのだ。

最後は「BLUES POWER」へとなだれこむ。もう、客席も大騒ぎ状態。

多少馴れ合いの感はありますが、少人数のライヴハウスならではの、密なコミュニケーションが感じられますな。

2位「SAY GOOD-BYE TO HOLLYWOOD」

このバンド、このライヴのテーマは、海のむこうの音楽にどれだけ肉薄出来るか、そういうことだと思いますが、答えはちょっとビミョ-です。

もしこれを、アメリカの白人、あるいは黒人が先入観なしに音源だけ聴かされたら、果たして「えー感じやん」というだろうか。かなり疑問です。

桑田はもちろん、日本ではトップ・アーティストと呼んでいいと思いますが、向こうに行ったら、そんなこと全く関係ないですからね。

ロックとかポップスとかいった音楽は、人種・民族を越えて受容・理解されるものではありますが、その作り手は、(多少の例外はあるにせよ)おそらく特定の人種・民族に限定されざるをえないでしょう。

何故なら、ロック、ポップス、ブルースといった「詞(ことば)」を伴うジャンルの音楽は、作り手の「言語生活」と深~くかかわっているからです。どんなに他民族がうまく模倣したつもりでも、オリジネーター達にとっては奇妙な「まがい物」にしか見えないものなのです。

たとえば紅毛碧眼の白人が、日本の民謡に魅惑されて、どれだけたくみにそれを歌ったとしても、われわれはそれを容易に自分たちの同胞が歌っている民謡とは同じようには思えないでしょう。せいぜい「キワモノ」扱いするのがオチです。

それと同じことで、いくら桑田が歌唱力があり、黒人なみの太い声を持っていたところで、彼がコテコテの日本人としての言語生活を送っていた以上、アメリカに渡って向こうで「まっとうな」ロック・シンガーとして認められるとはとても思えないのです。

彼自身、そのことはよくわかっていて、あえてアメリカ進出などという愚行はとらないのだと思います。それが賢明というものです。

さて、2位はといえば、このビリー・ジョエルのカヴァーですかな。

本盤ではジョエルでもう一曲「YOU MAY BE RIGHT」もやっているのですが、こちらのほうが歌の出来がいいかな。

桑田の歌唱力がいかんなく発揮されているナンバー。桑田というと「低音、巻き舌」というイメージが強いが、ちょっと苦しそうに高音をふりしぼるようにして出す感じも、実は悪くない。

中間部の斎藤のソロもグー。バックのコーラスも綺麗に決まっている。

若干ラフな印象はいなめない演奏ではあるが、「勢い」を評価したい一曲であります。

1位「REGGAE MAN」

結局、1位は並み居るカヴァー曲を押さえて、彼のオリジナルでありました(笑)。

まさに「ごくろうさま」って感じですが、やはり英語の歌詞の曲に比べると、ミョーな力みがなくて、自然なのが一番の理由です。

歌詞もこちらにすんなりと伝わって来ますし、やっぱり日本人は日本語で勝負するのが一番のようで。

桑田夫人の原坊もヴォーカルで参加。そしてMCのスネークマンこと小林克也も、嘉門=桑田との絡みで客席をわかせてくれる、実に楽しい一曲。

「完成度」ということでいえば、歌、演奏ともにだいぶん難はあるのだが、桑田をはじめ、メンバーはまだ二十代なかば、全体に若々しいパワーが漲っているので、それでよしとしよう。

なんてったって、ロックは「若さ」と「パワー」の音楽だからね。

<独断評価>★★★


音盤日誌「一日一枚」#188 山下達郎「GO AHEAD!」(RCA/RVC RVL8037)

2022-05-21 05:05:00 | Weblog

2003年9月28日(日)



#188 山下達郎「GO AHEAD!」(RCA/RVC RVL8037)

山下達郎、RVCにおける四枚目(スタジオ録音としては三枚目)のアルバム。79年リリース。

75年、シュガー・ベイブでデビュー以来、着実に実力をたくわえ、すでにクロウト筋には高い評価を獲得していた達郎の、メジャー・ブレイクのきっかけとなった一枚といえよう。

<筆者の私的ベスト3>

3位「PAPER DOLL」

個人的なことを書いてしまうと、筆者が達郎のナンバーでは初めて、「うむ、おぬし、やるな!」と思った曲。

抑えのきいたカッティングが印象的なギターに乗せて、これまた極力抑えた「泣き」のヴォーカルを聴くことが出来るのだが、この表現力がスゴい。

とても、二十代半ばの若造の歌とは思えないものがあった(リリース当時、達郎26才)。

彼は、世間的なイメージでは、高らかに歌い上げる「歌唱力」のひとと思われているようだが、彼自身、自らの声について言及しているように、決して「太い」声の持ち主ではない。

むしろ、その線の細い声を生かした、「抑制」のきいた表現にこそ、彼の本領があると思うのだが、いかがであろうか。

「PAPER DOLL」での歌唱は、まさに彼ならではのオリジナルな表現だと思う。

「circustown.net」でも指摘されているが、カーティス・メイフィールドあたりのソウル・ミュージックを、相当研究した上に生み出されたサウンドにも注目。

ソリッドでファンキーなギター・ソロ(達郎本人?)が実にカッコいいし、田中章弘のベースもいい。

日本におけるファンク・ミュージックのパイオニア、山下達郎の面目躍如な一曲だと思う。

2位「BOMBER」

これまた、ゴリゴリにファンクな一曲。

田中章弘のチョッパー・ベースが暴れまくり、椎名和夫のギターが火を吹く、スーパー・プレミアム・ファンク・チューン。

もちろん、彼のヴォーカルも鋭い切れ味を見せている。決して周りの凄まじいサウンドにひけをとっていない。

この曲、A面2曲目の「LET'S DANCE BABY」とのカップリングによりシングル・カットされたが、甘ったる~い「LET'S DANCE BABY」よりよほどカッコいいということで、コアなファンにはこちらの方が断然好評だったようだ。

この後も達郎は、アルバム中に必ず一曲は、こういうハードコアなファンク・ナンバーを入れていくことになる。

なにせ、彼の守備範囲は広かったからねえ。ビーチ・ボーイズからP-ファンクまで研究していたアーティストなんて、他にはおらなんだわ(笑)。

いまの達郎はこういう曲を書くとはとても思えないが、若者の暴力衝動、破壊衝動が見事に昇華された、名曲だと思う。

今聴いても、ホント、新鮮でショッキングな曲作りであります。

1位「2000t OF RAIN」

またまた個人的な思い入れを書いてしまうと、筆者にとっての「青春の一曲」なんだな、これが。

この曲、最近、リミックス・ヴァージョンによりリヴァイヴァル・ヒットとなったのだが、ひさしぶりに聴いたときには、自分が二十代だったころの思い出がじんわりとこみ上げて来てしまった。

筆者は24才から約9年間、港区芝に住んでいた関係で、遊ぶ場所は主に六本木だったのだが、夜中に歩いて帰宅する道すがら、東京タワーを必ず仰ぎ見ることになった。

その時、この曲の一節、「道のむこう そびえ立つタワー/もうすぐ空へ 届くだろう」を思い出し、いつも口ずさんでいたものだ。

相手になかなか思いが伝わらず、女性にフラれてばかりいた頃の筆者の、思い出そのものの一曲なのだ。

改めてこの曲をじっくりと聴いてみると、当時すでにフィル・スペクターばりの、完璧なサウンド作りをしていたことがよくわかる。ストリングス、コーラスの配し方、一分の隙もない。

やはり、達郎の才能はタダモノじゃない。

その後彼は多くのヒットを飛ばし、名実ともにわが国のトップ・アーティストとなっていくのだが、次第にその音楽からは、「青春」の混沌、モヤモヤとしたものは消えていく。

それはまあ、いたしかたないことかも知れない。

実生活の彼は、結婚もし、子供も生まれ、家庭人としてごく常識的な生き方をせざるをえなかったのだから。

おのずとそれは、作品内容にも影響を及ぼし、青春期の狂おしいパッションといったものは次第に影をひそめていくことになる。

それゆえ、筆者は、まだそれが現実のものとして、作品中に渦巻いていた本盤を愛するのだ。

若者の孤独でやるせない気持ちを、見事な曲として紡ぎ出した当時の彼の才能は、いつの時代にも鮮やかな感動を呼び起こしてくれる。

「青春の一枚」、それはとりもなおさず「永遠の一枚」でもあるのだと、筆者は思っている。

<独断評価>★★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#187 デューク・ジョーダン「ブルー・デューク」(BMGビクター BVCJ-5020)

2022-05-20 05:00:00 | Weblog

2003年9月21日(日)



#187 デューク・ジョーダン「ブルー・デューク」(BMGビクター BVCJ-5020)

ビ・バップ期より息長く活動しているジャズ・ピア二スト、デューク・ジョーダン率いるトリオのアルバム。83年リリース、オランダ録音。

ジョーダンは22年生まれなので、彼が61才のときの作品ということになる。

<筆者の私的ベスト3>

3位「C JAM BLUES」

筆者がデューク・ジョーダンの存在を知って、もう30年近くになる。

中学・高校の同級に、若いくせに大変ジャズに詳しい男がいた。それもそのはず、彼のオヤジさんが長年ジャズ・レコードを収集していて、彼の家には何千枚もジャズのLPがあったのだ。

その彼が、一番入れ込んでいたアーティストがデューク・ジョーダンで、その影響で筆者もジョーダンに興味を持つようになった。と、こういうわけだ。

デューク・ジョーダンについて、その略歴を書いていくだけでも、相当字数を食いそうなので、ここでは簡単にふれるだけにしておこう。

60年、フランス映画「危険な関係」のために書いた「NO PROBLEM(危険な関係のブルース)」で一躍作曲家としても認められたが、第一線での派手な活動を嫌い、おもにヨーロッパで地道な演奏活動を続けるベテラン・ピアニスト。

チャーリー・パーカー・クィンテット、ジャズ・メッセンジャーズの一員だった時期もある。

そのプレイは、派手な技巧を前面に押し出したものではないが、味わいの深さ、ブルーズィな感覚においてはジャズ界屈指の名ピアニストといえよう。

さて、3位の曲はおなじみのエリントン・ナンバー。

すべてのジャズ・ピアニストたちにとって、「父」ともいうべき存在であるエリントンへの敬意を表して、取り上げたのだろう。

というのは、このアルバムには、彼自身のオリジナルで「FROM DUKE TO DUKE」というナンバーを録音しているのだが、この後のほうのデュークとは、エリントンに他ならないであろうから。

演奏のほうはといえば、ハリー・エメリーのベースがおなじみのリフを弾いてスタート。ジョーダンが抑制のとれたソロを4コーラスほど弾く。

続いて、ジェームズ・マーティンのドラム・ソロ。再びジョーダン、そしてエメリーのソロ。

最後はふたたび、エメリーがリフを弾いて、静かにエンディング。

若干控えめで、いわゆるホットな演奏という感じではないが、各人の職人技が十分に楽しめる。

2位「JOR DU」

「NO PROBLEM」と並んで知られる彼の代表曲。54年のアルバム「JOR DU」で発表して以来、何度となく演奏している。

おのおののヴァージョンが、そのまま、彼のプレイ・スタイルの歴史ともいえそうだ。

「JOR DU」という曲名は、ジョーダンの略称「DU JOR」をさかさまにしたものらしいが、まさに名刺代わりの一曲。マイナーのメロディが実に美しく、一回聴いたら忘れられない、強い印象を残すナンバーだ。

本アルバムの「JOR DU」は、自分よりだいぶん年若いエメリー、マーティンをバックに、トリオ編成で演奏される。

彼のリーダー・アルバムは、大半がホーンレスのトリオ編成によるもので、これが一番、彼にしっくりくるスタイルなのだろう。

本ヴァージョンは4分ちょうどと、コンパクトではあるが、内容の濃い演奏になっている。

ジョーダンが弾くイントロ、そしてテーマでスタート。

そのままジャーダンのソロに突入、スウィング感あふれる演奏が展開される。

どこか、バド・パウエルを連想させる、深くブルーズィな響きに、名人のたくみを感じずにはいられない。

決して「饒舌」ではなく、必要最小限の音なのだが、それでも確実に「自分」を語っている。

演奏はふたたびテーマに戻り、そのまま終了。

ジョーダンにつかず離れずでサポートするふたりのミュージシャンも、実に堅実でいいプレイを聴かせてくれるのだな、これが。

1位「NO PROBLEM」

なんのかんのいっても、ジョーダンの代名詞的ナンバー。スタジオ、ライヴを問わず、何回もレコーディングしており、彼にとっても愛着の深い一曲であることは間違いあるまい。

エメリーのベースに導かれて、ボッサ・ビートでテーマ演奏が始まる。途中、フォービートにチェンジしながらも、比較的ゆったりとしたリズムでプレイを続けていく。

サントラ盤の、速いテンポで、ホーンも入れた派手なアレンジのヴァージョンとは、実に対照的だ。

が、本ヴァージョンの、どこか倦怠感の漂う演奏も悪くない。

その根底にあるのは、やはり「ブルース」。マイナー調のメロディが、鬱で、やるせない気分を見事に表現している。

ジョーダンの、一音一音、丁寧に紡ぎ出されていくようなソロも素晴らしいし、エメリーの粘りのあるベース・ライン、マーティンの手堅いドラム・ワークもマル。

ヨーロッパのどこかの小都市の、こじんまりとしたジャズ・カフェあたりで聴いているような気分だ。

ピアノ・トリオならではの良さがよく出た、小味な一枚。休日の午後、コーヒーなどと一緒に、ぜひどうぞ。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#186 ハンク・モブレー「SOUL STATION」(BLUE NOTE CDP 7 46528 2)

2022-05-19 06:19:00 | Weblog

2003年9月12日(土)



#186 ハンク・モブレー「SOUL STATION」(BLUE NOTE CDP 7 46528 2)

ハード・バップ系のテナー奏者、ハンク・モブレーのアルバム。60年リリース。

ハンク・モブレーは、知名度はいまイチなれど、実力派のテナーマン。自ら率いるコンボのほか、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズにも一時参加していたことがある。

リーダー・アルバムは、ブルーノート・レーベルを中心に30枚以上。代表作は「ディッピン」「ロール・コール」そしてこの「ソウル・ステーション」など。

残念ながら、70年以降はほとんど作品を残しておらず、86年に55才の若さでこの世を去っている。

彼はジャズの「イノベーター」とよばれるような(たとえばジョン・コルトレーンのような)存在では決してなかったが、確かな技術と豊かなフィーリングを持った、職人肌のジャズマンだったと思う。

この終生「第二走者グループ」で終わったテナーマンを、筆者はけっこう気に入っている。

<筆者の私的ベスト3>

3位「IF I SHOULD LOSE YOU」

ジャズファンなら知らぬ者のない、スタンダード中のスタンダード。ロビン=レインジャー・コンビの作品。

ヴォーカルでいえばフランク・シナトラ、インストでいえばチャーリー・パーカーあたりが代表的なヴァージョンだろうが、このモブレー版もなかなかいい。

本盤のレコーディング・メンバーはカルテット編成。モブレーの他は、ウィントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・ブレイキー(ds)という、ブルーノート・オールスターズともいうべき豪華な面々。

それぞれがリーダー格ともいえる、このスゴい人々をバックにつけても、モブレーはのびのびとマイ・ペースで吹いているように思える。

特に「おっ」と思ったのは、自分のリーダー作ではすさまじいまでのドラミングを聴かせるブレイキーが、本盤ではひたすらバッキングに徹していること。過去にジャズ・メッセンジャーズで一緒にやっていただけあって、今回は見事にモブレーを「立てる」ような気遣いをしているのですな。さすが。

まずは、モブレーがテーマを吹き、イン・テンポで彼のアドリブ・ソロへ。

力みのない、のびのびとした彼のソロが2コーラス続き、それを引き継いで、ケリーのソロがワン・コーラス。

再び、テーマに戻って終了。

モブレーは、コアなモダン・ジャズ・ファンからは、そのどこか朴訥というか、ボソボソッとしたソフトな音色があまり好まれていないようだが、筆者的にはけっこう好きだな。

人間だって、いつもトンガった感じのひとより、あたりのやわらかな、素朴なひとの方が、接していてホッとするでしょ? それと同じです。

エッジの立った音もいいのですが、いつもそればっかり聴いていると疲れる。これがホンネかな。

2位「REMEMBER」

ジャズ史上屈指の名作曲家、アーヴィング・バーリンの作品。

このだいぶんオールド・ファッションなスタンダード・ナンバーを、実にカッコいいハード・バップにアレンジして聴かせてくれる。

まずはモブレーがテーマをゆっくりと吹き初め、次第にテンポを上げていく。

いかにも気持ちよさそうに、自然体で演奏しているのがよくわかる。流れるようなフレージングが、聴く者の耳にも心地よい。

それをサポートするリズム隊の演奏も、文句なし。とくに、早世のベーシスト、チェンバースのプレイは最高の「ノリ」である。

モブレーのソロに続いて、ケリー、そしてチェンバースが短めのソロを決め、テーマに戻って終わる。

あえてダラダラと長いソロでつなげず、コンパクトにまとめたのがマル。やはり、本作のリーダー、モブレーをうまく立てた作りになっている。

1位「SOUL STATION」

2、3位はスタンダード曲になってしまったが、もちろんモブレー自身のオリジナルにもいい曲がある。

なかでも、このタイトル・チューンでもある「SOUL STATION」は一番の出来ばえだと思う。

収録曲の中では一番長く、9分あまり。まずは、ケリーのピアノに導かれて、モブレーがブルース風のテーマを吹く。

このメロディが実にファンキーなんだわ。さすが、ジャズ・メッセンジャーズのメンバーだっただけのことはある。

モブレーがそのままアドリブに突入、心のおもむくままにロング・ソロを吹き上げる。いかにもブルーズィなフレーズの連続がうれしい。

続いてケリーのソロ。これもまたごキゲン。おなじみのクールなトーンで、バッチリとアドリブをキメてくれる。

そして、チェンバースのソロが続く。これがまたグーでございます。

テーマに戻り(何故かドラム・ソロはない)、派手な雰囲気で盛り上げて、ジ・エンド。

この曲は、何度聴いても、あきるということがない。モブレーのコンポーザーとしての才能も感じさせるナンバーだ。

ベストな選曲に、ベストな演奏に、ベストな録音。いろんな意味で、モブレーのベストな時期を伝える一枚。

モダン・ジャズだとか、ハード・バップだとかいうくくりとは関係なしに、音楽好きなひとにはぜひ一度聴いてみていただきたいものです。

音楽とは何か、気持ちよい演奏とは何かが、明快にわかりますから。

<独断評価>★★★★★


音盤日誌「一日一枚」#185 ハウリン・ウルフ「MOANIN' IN THE MOONLIGHT」(MCA/Chess CH-9195)

2022-05-18 05:16:00 | Weblog

2003年9月10日(水)



#185 ハウリン・ウルフ「MOANIN' IN THE MOONLIGHT」(MCA/Chess CH-9195)

ハウリン・ウルフのチェスにおけるデビュー・アルバム。62年リリース。

シングルの寄せ集めによる作品ということでは、以前取り上げた「ロッキン・チェア・アルバム」と同様だ。

レコーディングの年代は、51年から59年までと、かなり広がりがある。

<ギターのカッコよさで選ぶベスト3>

3位「SMOKESTACK LIGHTNIN'」

ウルフといえば、その相棒ギタリストはもちろん、ヒューバート・サムリン。このアルバムでも、初期(51年)の2曲と、56年7月録音の1曲を除く9曲で登場、その華麗なプレイを聴かせてくれる。

この曲は56年1月の録音。ウルフの作品。

サムリンと、初期ウルフ・バンドで活躍していたウィリー・ジョンスンがギター。

クラプトン在籍時の第二期ヤードバーズがカヴァーしたことであまりに有名なナンバーだが、オリジナルもなかなかごキゲン。

延々と繰り返されるワンコードのシンプルなリフはあまりに強烈。これが、ヤードバーズ→ニュー・ヤードバーズ→レッド・ツェペリンという流れの中で、「ハウ・メニー・モア・タイムズ」というオリジナル曲へ昇華していったと言えるだろう。

さて、この曲でのサムリンのプレイはといえば、ソロをウルフのハーモニカにもっぱら預けて、リフを繰り返しているに過ぎないのだが、そのソリッドな音色がなんともカッコいい。

ソロを弾かずに、きっちり自己主張が出来るギタリストなんて、そうざらにいるもんじゃない。サムリンは、そのタイプの数少ないひとりだね。

彼の奏法の特徴は、なるべく単音、使ったとしても2音程度に抑えて(つまりコード奏法はほとんど使わない)、一音一音を出来るだけクリアに出しているところだと思う。

そのへんは、ウィリー・ジョンスンがソロを弾く「HOW MANY MORE YEARS」とこの曲を聴きくらべてみると、歴然だろう。

もう、響きからしてまるで違う。中低音を効かせたジョンスンのギターに比べ、サムリンのそれはあくまでトレブリーで、刃物のように鋭い。この音がレスポールから出ているとは、なんとも不思議だよね。

2位「FORTY FOUR」

54年の録音。ウルフの作品。彼の比較的初期のヒットといえそう。

このアルバム中ではちょっと異色の、遅めのシャッフル。

たとえていうなら「KILLING FLOOR」や「SHAKE FOR ME」あたりの曲を、半分の速さにした感じの、粘りのあるビートだ。

メロディ・ラインは「ROLLIN' AND TUMBLIN'」に通ずるものがある。

この曲でもサムリンはほとんど、ソロらしいソロはとっていない。たとえていえば、ジョディ・ウィリアムズとふたりで、ダブル・リズムギターを弾いているという感じだが、延々と繰り返されるリフがけっこういいんだわ。

彼のギターは、そのライトな音色のおかげもあってか、歌のウラでずっと弾きっぱなしでも、しつこく感じられることがない。

あのコテコテの、ウルフのヴォーカルに重なっても、サウンドがクドくならない。これは、われわれが考えている以上の「離れ業」なのではなかろうか。

ジミー・ペイジの「ZEPマジック」に匹敵しているというべきか。いやいや、ペイジが彼らのサウンドから学んで、真似したのだといったほうが正しかろう。ZEPだけではない。ストーンズもそうだ。

おおかたのブルースマンは、シンガーとギタリストを兼務しているが、そのため、そのブルースマンひとりの個性が前面に押し出されてしまい、結果、よく言えば「濃い」、悪く言えば「くどい」「アクの強い」サウンドになりがちだ。

ウルフとサムリンの場合は、ふたつのパートを「完全分業」することによって、独自のクールなサウンド・バランスを保つことに成功している。

ふたりの対照的なキャラも相まって、実に絶妙なコントラストを織りなしているのだな、これが。

1位「I'M LEAVING YOU」

59年の録音。ウルフの作品。ギターはサムリンとL・D・マギー。

このアルバム中では珍しく、わりとまとまったサムリンのソロが聴ける一曲。コピーに向いているかも知れない。

サムリンといえば、人を驚かすような、突飛なフレーズが多いという印象が強いが、この曲でのソロはわりと常識的なラインだ。

おなじみの、高音を強調した、ややリバーブのかかった音で、これぞシカゴ・ブルース!というソロを聴かせてくれる。

ウルフの歌のバックでもずっとオブリを入れているので、3分ちょうどというコンパクトさにしては、結構聴きごたえあり、です。

このアルバム、どちらかといえば暗い曲調のものが多いし、後代のロック・ミュージシャンにカヴァーされた有名曲もあまり収録されておらず、いまひとつジミな印象なのだが、聴けば聴くほど味が出てくる、という感じだ。

人間の奥深いところにある「本性」をえぐり出して歌ってみせるのが、ウルフの真骨頂だと筆者は思うが、このアルバムのテーマ・チューンともいえる「MOANIN' AT MIDNIGHT」や「MOANIN' FOR MY BABY」を聴くと、まさにそれを感じる。

思わず、ゾクッと来まっせ。

<独断評価>★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#184 リック・デリンジャー「ALL AMERICAN BOY」(BLUE SKY ZK 32481)

2022-05-17 05:01:00 | Weblog

2003年9月7日(日)



#184 リック・デリンジャー「ALL AMERICAN BOY」(BLUE SKY ZK 32481)

リック・デリンジャーの初ソロ・アルバム、74年リリース。

マッコイズ、ジョニー・ウィンター・アンド、エドガー・ウィンター・グループ等を経て、ブルースカイ・レーベルからソロ・デビュー。リックの記念すべき一枚である。

<筆者の私的ベスト4>

4位「UNCOMPLICATED」

タイトルからして「単純明快」だわね。こみいったことはいらねーぜ!とばかりに、軽快なビートに乗せてキャッチーなロックン・ロールを歌い、弾きまくるリック。

そーゆー脳天気なところ、突き抜けた明るさが、筆者もけっこう気に入っている。

十代のころは、ブリティッシュ・ロックの重く、暗~い世界にハマっており、アメリカン・ロックはさほど好きでなかった筆者ではあったが、リックの音は例外的に「カッコいいな~」と思っていた。何でだろ。

いま思うに、この曲のように、余分な音を極力削ぎ落として、ごくごくシンプルにまとめたバンド・サウンドだったから、ということになるのだろうか。

ジョー・ウォルシュもゲストで参加、リック同様、ソリッドでごきげんなギター・プレイを聴かせてくれる。

とにかくシンプル、そしてパワフル。思わず体が動き出すこと、請け合いである。

3位「JUMP, JUMP, JUMP」

このタイトルだから、さしずめ激しいジャンプ・ナンバーかと思いきや、見事に予想は裏切られる。

エドガー・ウィンターのピアノに乗せて奏でられる、メロウでメランコリックなスロー・バラードなんである。

サックス・ソロもまじえて、しっとりとしたジャズィなムードで迫る。たまにはこういうのも、オツでんな~。

リックの、幅広い音楽性を証明する、よきサンプルといえそうだ。

2位「TEENAGE LOVE AFFAIR」

再びポップなロックンロール・ナンバーを。「UNCOMPLICATED」もそうだったが、この曲もその後ライヴでの定番曲になっており、「デリンジャー」というバンド名義でもライヴ録音を残している。

みょうに甲高いヴォーカルがなんとも印象的。シンプルで覚えやすいリフレイン、ひたすらノリのよいサウンドは、まさにリックの表看板だな。

またギター・ソロでは、当時流行のヴォイス・モジュレーターを使用しているのがミソ。

1位「ROCK AND ROLL HOOCHIE KOO」

1位となると、やはりこのトップ・チューンしかないだろう。リックといえば、この曲!というぐらい、おなじみのロックンロール・ナンバーだ。

そもそもこの曲はジョニー・ウィンター・アンドのデビュー・アルバム(70年)で初お目見え、エドガー・ウィンターズ・ホワイト・トラッシュのライヴ盤「ロードワーク」(72年)でも演奏するなど、リック自身、たいそう思い入れがあるようだ。

ソロ・デビュー盤でもトップに持っていたあたりに、「これがオレの看板」という意気込みが感じられるね。

で、その出来ばえも、もちろん素晴らしい。

リックはヴォーカル、ギター、ベース、タンバリンの四役をこなすという熱の入れよう。もちろん、イカしたソロもたっぷり聴かせる。

実にハードなサウンドだけど、ライト。けっしてヘヴィーじゃないので、聴いててもたれない。そのへん、実に絶妙なんだわ。

アメリカン・ハードロックの粋、ここにあり、ですな。

他の曲にも、なかなか面白いものが多い。さすが満を持して制作されたデビュー・アルバムだと思う。

たとえば、インストの「JOY RIDE」からシームレスに続く「TEENAGE QUEEN」では、12弦アコギやストリングスも交えて、大人っぽいバラードを聴かせてくれる。

また、「CHEAP TEQUILA」は、リック自身がペダル・スティール、デイヴィッド・ブロンバーグがドブロを弾く、もろカントリー調のナンバー。

「HOLD」や「THE AIRPORT GIVETH」はピアノ・サウンドといい、メロディ・ラインといい、キャロル・キング、ビリー・ジョエル、トッド・ラングレンにも通ずるものがある、MOR系ナンバー。やかましく騒ぐだけがリックではないのだ。

他にもトロピカル・ムードの「IT'S RAINING」、スピーディなアコギやシタールでフュージョン風演奏を聴かせる「TIME WARP」なんてのもあって、興味深い。

そういう風にやたら引き出しの多いリックだが、でもやはり、彼の基本はネアカなロックンロール。

彼が、頭のてっぺんから抜けるような声で「OK!!!」と叫ぶだけで、もう十分。

血わき肉躍る、最高にスリリングなロックを、約束してくれる。

ということで、30年の歳月などおかまいなしに、今もホットな一枚。ジャケットもご機嫌。

ひとつだけ欲を言えば、ブルース調の曲が一曲は欲しかったけどね。

<独断評価>★★★★