NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#499 JANIS JOPLIN「PEARL」(CBS/SONY CSCS 6051)

2023-03-31 05:00:00 | Weblog
2023年3月31日(金)



#499 JANIS JOPLIN「PEARL」(CBS/SONY CSCS 6051)

米国の女性シンガー、ジャニス・ジョプリンの4枚目のアルバム。71年リリース。ポール・A・ロスチャイルドによるプロデュース。

エピソードにこと欠かないジャニスのラスト・レコーディングであるが、それらについて触れているとキリがない。今回はテーマを収録曲に絞って、書いてみたい。

オープニングの「ジャニスの祈り」はジャニス自身の作品。原題は「Move Over」。

ジャニスの代表曲とも言えるナンバー。ヘビーなビート、ブルーズィなメロディを持つナンバー。

この曲はさまざまなアーティストがカバーしているが、筆者的には72年発表の英国バンド、スレイド版が一番ソウルを感じさせる歌唱なので気に入っている。

ノディ・ホルダーの激しいシャウトは、生前のジャニスを彷彿とさせるものがあるのだ。

聴くたびに、ジャニスの心からの叫びにノック・アウトされてしまう名唱、そしてアルバム随一「ロック」を感じさせる一曲。

「クライ・ベイビー」は、スロー・テンポのソウル・バラード。ジェリー・ラゴヴォイ、バート・バーンズ、サム・ベルの作品。

ラゴヴォイは「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」「心のかけら」などのヒット曲で知られる白人ソング・ライダー。

この曲は、男性R&Bシンガー、ガーネット・ミムズ63年のヒットのカバー。

71年春にシングル・カットされ、全米42位を獲得している。

バックのフル・ティルト・ブギ・バンドも、ピアノ、オルガンのダブル・キーボードというサザン・ソウル色濃厚なバッキングで、ジャニスを盛り立てている。

とにかく、ジャニスの骨太でエモーショナルな歌唱が圧倒的のひとことだ。

「寂しく待つ私」はダン・ペン、スプーナー・オールダムの作品。

以前一度取り上げたこともある、ペン=オールダムのコンビはソウル、カントリーを問わず多くのヒット曲を書いている。

これはカバーものでなく、彼らに依頼して作られたナンバーのようだ。

かなわぬ愛に耐える女心を歌う、オルガンをフィーチャーしたゴスペル色の強いバラード。

ジワジワと情感の高まっていく歌いぶりが、まことに素晴らしい。

のち1999年にペン&オールダム自身によっでセルフ・カバーもされているので、興味のある方はぜひそちらもチェックしてみて。

「ハーフ・ムーン」はジョン・ホール、ジョアンナ・ホールの作品。ジョン・ホールはのちにオーリアンズで活躍するミュージシャン。

ファンキーなビートが印象的なナンバー。「下北のジャニス」の異名を持つ日本のシンガー、金子マリもレパートリーにしていた。

ジャニスとしてはクールなボーカル・スタイルの一曲。ハイトーンのシャウトに、ソウルを感じる。

「生きながらブルースに葬られ」は唯一のインストゥルメンタル・ナンバー。歌入れ当日にジャニスが亡くなったことにより、歌抜きで収録された。ニック・グレイヴナイツの作品。

のちにポール・バターフィールド率いるベター・デイズによりレコーディングされているので、歌詞はそちらで確かめてほしい。

あまりにも、ジャニス本人の人生とかぶる歌内容。そんな因縁の一曲を、ハードでノイジーなギターで弾き倒す。

いってみれば、彼らバック・バンドによるジャニスへの葬送曲だ。

米国南部の葬式のように、しんみりと送り出すのではなく、思い切り騒がしくしてやることが、死者への一番のはなむけになるのかも。

「マイ・ベイビー」は再びジェリー・ラゴヴォイ、そしてモルト・シューマンの作品。

ガーネット・ミムズにより初録音されてヒット。後期のヤードバーズもカバーしてライブで披露している。

このアルバムではさらにもう一曲、ラゴヴォイをカバーしており、ジャニスが彼の作品をいかに気に入っていたことがよく分かる。

ビッグ・ブラザー&ホールディング・カンパニー時代には「心のかけら」をカバーしていたことも思い出す。

生きること、恋することをたたえる讃歌。ポジティブな歌詞内容が心に刺さります。

「ミー・アンド・ボビー・マギー」はシンガーソングライター、クリス・クリストファーソン、フレッド・フォスターの作品。

アルバムリリースと同時期にシングル・カットされて全米1位の大ヒットとなる。

ちょっとユーモラスな、カントリー・タッチの曲が意外とジャニスにマッチしている。

作曲者のひとり、クリストファーソンもジャニスのヒットにより一躍注目されて、オリジナル・バージョンも合わせてヒット。

曲のキャッチーさと、ジャニスという歌い手のキャラクターが相まって、多くの人々に愛されるナンバーとなったと言える。

「ベンツが欲しい」は、ジャニスとボブ・ニューワースの作品。

アカペラと靴のタップ音だけが収録されているのは、仮歌の録音のみの段階でジャニスが亡くなったことによる。

そんな荒削りな音源ではあるものの、生の歌声ゆえにむしろ、原曲の本質をそのまま剥き出しにしているようだ。

恋人にメルセデス・ベンツを買って欲しいという気持ち、それは破天荒なロックスターとしてではなく、平凡な一市民としての幸福を実は望んでいた、ジャニスの潜在意識のあらわれではないかなと、筆者は愚考している。

「トラスト・ミー」はボビー・ウーマック、マイケル・マクリュアの作品。

ゴスペル感覚あふれるソウル・バラード。ウーマックはアコースティック・ギターでも参加している。

ジャニスのパッショネイトにして、細やかな表現が光るナンバー。聴いているうちに、涙が滲んできそう。

ラストの「愛は生きているうちに」はラゴヴォイとシューマンの作品。

これもカバー曲だ。男性ソウル・シンガー、ハワード・テイト67年のヒット。

ダイナミックなサウンドに乗って、自由自在に感情を解き放つジャニス。

シンガーとしての最高の境地に達した一曲である。

9週連続で全米1位の大ヒットという、レコードホルダーのアルバム。

ジャニス・ジョプリンの追悼盤という、特別な一枚ゆえのベストセラーといえなくもないが、それ抜きでも曲の出来ばえは、どれをとっても本当に素晴らしい。

ロック色よりはソウル色が強めで、それもモロ、南部のサウンド。

ゴスペルの本質をここまで理解して、しかも肉体での表現ができた白人シンガーはかつていただろうか。

たぶん、いない。

ジャニスのマスターピースとは、文句なしにこの「パール」のことである。

<独断評価>★★★★

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音盤日誌「一日一枚」#498 JAMES INGRAM「THE BEST OF JAMES INGRAM」(Warner Bros. 7599-26700-2)

2023-03-30 05:00:00 | Weblog
2023年3月30日(木)



#498 JAMES INGRAM「THE BEST OF JAMES INGRAM/THE POWER OF GREAT MUSIC」(Warner Bros. 7599-26700-2)

米国のシンガー、ジェイムズ・イングラムのベスト・アルバム。91年リリース。クインシー・ジョーンズ、ピーター・アッシャー、トム・ベル、イングラム本人ほかによるプロデュース。

イングラムは52年オハイオ州生まれ。2019年に66歳の若さで亡くなっている。

彼についてはマイケル・ジャクソンの「スリラー」のときに少し触れておいたが、名プロデューサー、クインシー・ジョーンズに認められて世に出たシンガーだ。俗に「クインシーの秘蔵っ子」などと呼ばれているほど。

イングラムは70年代にLAに移住して音楽活動を始め、ボーカルのほか、キーボードもこなしていた。

レコード・デビューは81年のジョーンズのアルバム「愛のコリーダ(The Dude)」。

ここで3曲リード・ボーカルを取り、そのうち「Just Once」が全米17位のシングル・ヒットとなり、快調なスタートを切ったのである。

アルバムのオープニングは「Where Did My Heart Go?」。

91年の映画「シティ・スリッカーズ」のエンディング曲。マーク・シャーマンの作品。トム・ベルとイングラムによるプロデュース。

ヒットこそしなかったが、隠れた人気がある曲。そして、イングラム自身も気に入っているのだろう。

イングラムの高らかな歌唱と、ダイナミックなサウンドが耳に残るナンバー。

「How Do You Keep the Music Playing?」は83年、女性シンガー、パティ・オースティンとのデュエット曲。ジョーンズによるプロデュース。

もともとは82年の映画「結婚しない族(Best Friends)」の主題歌だった曲。ミシェル・ルグラン、バーグマン夫妻による作品。

イングラム同様、ジョーンズお気に入りのオースティンとのデュエット第2弾としてリリース、全米45位、R&Bチャート6位を獲得している。

少し地味だが、心にジワジワと沁みてくるバラード。

哀感に満ちたメロディを、オースティン、イングラム、ともにじっくりと歌いあげている。

「Just Once」は前述のように、イングラム81年のデビュー・ヒット。

バリー・マン、シンシア・ウェイルの作品。ジョーンズによるプロデュース。

メロディ、アレンジともに完璧といっていい構成の、バラード・ナンバー。

それを、持ち前の伸びやかな声で歌いきるイングラム。これでヒットしない方がおかしいぐらい。

日本の当時のTV番組「ベストヒットUSA」あたりでも、よく取り上げていたなぁ。

個人的には、同じ81年にこの曲をさっそくレパートリーにした、嘉門雄三こと桑田佳祐のVictor Wheelsライブバージョンが記憶に鮮明に残っている。

むしろ桑田バージョンでこの曲を知り、イングラムの名前を覚えたと言ってもいいかな。

「Somewhere Out There」はリンダ・ロンシュタットとのデュエット曲。

ジェイムズ・ホーナー、バリー・マン、シンシア・ウェイルの作品。ピーター・アッシャー、スティーヴ・タイレルによるプロデュース。

86年の映画「アメリカ物語」の主題歌。全米2位の大ヒットとなっただけでなく、グラミー賞最優秀楽曲賞も獲得している。

当時すでに大御所然としていたリンダの、透きとおるような歌声はもちろんパーフェクトだが、それを堅実なハーモニーでしっかりサポートするイングラムも見事だ。

バラードの名曲、デュエット曲のスタンダードとして、今もなお歌い継がれるのも当然だろう。

「I Don’t Have the Heart」は90年リリースのシングル。イングラムのソロとしては初の全米1位となった。

アラン・リッチ、ジャド・フリーマンの作品。トム・ベルとイングラムによるプロデュース。

デュエット相手やプロデューサーの威光に頼ることなく、この曲によりようやく自力で大ヒットを掴んだことで、イングラムも揺るぎない自信を獲得したことだろう。

衒いのないストレートな歌いぶりが、心にグッと来る一曲。メロディもいい。

「There’s No Easy Way」は84年リリースのシングル曲。バリー・マンの作品。ジョーンズによるプロデュース。

全米58位、R&Bチャート14位とセールス的にはやや地味だったが、ソウルフルな曲や歌は決して悪くない。

ただ、ソロデビューしてまもないこともあって、全米に彼の名前が浸透するにはまだ時間がかかったということか。

「Get Ready」は91年リリースのシングル。バリー・マン、イングラム、シンシア・ウェイルの作品。イングラムとマンによるプロデュース。

R&Bチャートで59位とヒットには至らなかったが、本人はお気に入りのようで本盤入りとなった。

ディープな雰囲気のソウル・バラード。イングラムのハイトーン・シャウト、マイケル・パウロのソプラノサックス・ソロが印象的だ。

「Baby, Come to Me」は82年リリースのシングル曲。パティ・オースティンとの初のデュエット曲。ロッド・テンパートンの作品。ジョーンズによるプロデュース。

全米1位、全英11位を獲得して、イングラムの名を一気に世界に知らしめたナンバー。落ち着いたムードのラブバラード。

すでにアルバムを何枚も出してヒットシンガーとなっていたオースティンを相手に、互角の歌いぶりを見せたことで、「あの歌の上手い男性シンガーは誰?」と注目を集めることとなる。

時はすでにミュージック・ビデオ時代。世界中に流れるMVから、そうやって次世代のスター・シンガーが生まれていったのだ。

「One Hundred Ways」は81年リリースのシングル。ケイティ・ウェイクフィールド、ベンジャミン・ライト、トニー・コールマンの作品。ジョーンズによるプロデュース。

アルバム「愛のコリーダ」からの第2弾シングル。全米14位、R&Bチャート10位を獲得している。スムースでセクシーなファルセット・ボイスが魅力なナンバー。

だがまだ、ジョーンズのネームバリューで売れていた頃なので、そのセールスもイングラム個人の実力とは言いづらい。

実際彼が、デュエットではないシングルで大ヒットを出すのは90年代に入ってからである。デビュー以降順風満帆に見えて、意外と苦労もあったのだ。

「Yah Mo B There」は83年リリースの、マイケル・マクドナルドとのデュエット曲。全米19位。イングラム、マクドナルド、テンパートン、ジョーンズの作品。ジョーンズによるプロデュース。

元ドゥービー・ブラザーズのマクドナルドは82年よりソロ活動を開始、この曲でグラミー賞最優秀R&Bパフォーマンス賞を獲得する。

聴いてみれば分かると思うが、この曲の主役は完全にマクドナルドであり、イングラムはあくまでもそのサポート役という感じだ。

これはいたしかたない。マクドナルドの声の個性が強すぎて、イングラムのように「誰にでも合わせられる」タイプの声をどうしても「食って」しまうのだ。

なおこの曲は、2008年のアルバム「Stand」で再びマクドナルドと共にレコーディングしている。

「Remember the Dream」はステファニー・タイレル、ジョー・サンプル、スティーヴ・タイレルの作品。91年リリース。シングル・バージョンと、このアルバム・バージョンの2種がある。

大コーラス隊をバックに従えた、ゴスペル風味のナンバー。イングラムの熱い歌心が、全編ににじみ出ている。

思わず希望が湧き起こるような、ポジティブな曲調が素晴らしい。アメリカ人にとって「夢」は、なくてはならないものなのだなと感じる。

ラストの「Whatever We Imagine」は83年リリースのデビュー・アルバム「It’s Your Night」収録曲。デイヴィッド・フォスター、ポール・ゴードン、ジェレミー・ラボックの作品。ジョーンズによるプロデュース。

ゆったりとしたビートの、バラード・ナンバー。白人リスナーにもすんなりと受け入れられそうなAORに仕上がっている。

ここで見せる新人離れしたたくみなボーカル・テクニック、そしてフィーリングはどうだろう。大物感がハンパないぜ。

ジェイムズ・イングラムというアーティストは、キャリアに比して寡作で、生涯に出したアルバムはわずかに5枚だけである。

それでもひとつひとつの曲に、彼の人並みはずれたすぐれた才能が満ちあふれている。

どのようなタイプの曲でも、自分なりに歌いこなしてしまう才能は、たった一枚のアルバムでも十分に知ることが出来る。

そのパワーあふれる歌声は、いつの時代の人々にも強く響くに違いない。

<独断評価>★★★★

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音盤日誌「一日一枚」#497 FOURPLAY「HEARTFELT」(BMG Music/Bluebird 09026-63916-2)

2023-03-29 05:00:00 | Weblog
2023年3月29日(水)



#497 FOURPLAY「HEARTFELT」(BMG Music/Bluebird 09026-63916-2)

米国のフュージョン・バンド、フォープレイの7枚目のスタジオ・アルバム。2002年リリース。彼ら自身、ハービー・メイソン・ジュニア(1曲のみ)によるプロデュース。

フォープレイは90年結成の、4人編成バンド。

メンバーはキーボードのボブ・ジェームス、ベースのネイザン・イースト、ドラムスのハービー・メイソン、そしてギターが当初はリー・リトナーであったが、97年にラリー・カールトンに交代している。

本盤は、カールトン加入後としては4枚目にあたるアルバムだ。

オープニングの「Galaxia」はメンバー4人の作品。

ジェームスのピアノがテーマを奏で、他の3人がそれにつき従う。

この曲でイーストはベースをつま弾きながら、たくみなスキャット・ボーカルを聴かせる。

さすが、エリック・クラプトンのバンドでコーラスも担当しているだけあって、歌の方もなかなかイケる口である。

静かなムードの中に、躍動感を感じさせるナンバーである。

バックのシンセ・サウンドは、ケン・フリーマンのプログラミングによるものだ。

「That’s the Time」はメイソンの作品。

心がはずむようなファンク・ビートを叩き出すメイソンに、明るく軽いトーンの、エレクトリック・ピアノとギターが絡む。

例えるならば日曜日の午前中のような、安らぎに満ちたサウンドを持つナンバーだ。

「Break I Out」はメンバー4人の作品。アクセントの効いたエイトビート・ナンバー。

ギターとピアノがテーマを紡ぎ出す。「ゆらぎ」を感じさせるメロディ・ラインがいい。

カールトンは前半でオクターブ奏法でジェントルな雰囲気を出したかと思えば、後半はワウ・ペダルでファンキーなプレイを聴かせたりもする。

「Rollin’」はカールトンの作品。

ゆったりとしたラテン風味のファンク・ナンバー。

ピアノとギターでテーマを弾いたのち、カールトンは抑えめのソリッドなトーンでソロをとっていく。

ダンスにも、ぴったりな曲だな。

似たような雰囲気のインストが続いて、聴く方も少しダレてきた頃合いに、ちょっとした気分転換をってことか、1曲ボーカル・チューンが入る。

「Let’s Make Love」はR&Bシンガー、ベイビーフェイスとイーストの作品。プロデュースはメイソンの息子、ハービー・メイソン・ジュニア。

ジュニアがベイビーフェイスの担当プロデューサーをつとめていたことから実現した、異次元のコラボレーションだ。

ベイビーフェイスのセクシーなファルセット・ボイスにからむバックボーカルは、ルドン・ビショップ。

そしてベースでサポートする、もうひとりの作曲者イースト。

彼らシンガーたちの歌心が、この佳曲を生んだと言える。

この上なくスウィートな歌と極上のサウンド。まさしく、世界一ゴージャスなコラボであるな。

「Heartfelt」はジェームスの作品。

ピアノとアコースティック・ギターが奏でる、静謐な世界。

終盤にいたるまで、4人の情感に満ちた細やかな演奏が続いていく。

タイトル通り、心に沁みわたる曲だ。

「Tally Ho!」はジェームスとメイソンの作品。

リズミックなファンク・ジャズ・ナンバー。「Birdland」にちょい似たテーマがキャッチーで覚えやすい。

ピアノ・ソロに続いては、ギター・ソロ。ともにいい感じだ。正調ジャズの趣きがある演奏だ。

もち、リズム隊のふたりのフォロー体制も万全で、メロディ楽器とのインタープレイも鮮やかだ。

「Cafe l’Amour」はメンバー4人の作品。

彼らの高度な演奏技術が最大限に発揮された、メロウなファンク・ナンバー。

カールトンがスピーディにテーマを弾き、ジェームスの奔放なシンセ・ソロへ繋げる。

後半のカールトンの、ファンキーなソロも出色だ。

一方、リズム・セクションのふたりの、怒涛のグルーヴもまた聴きどころである。

「Ju-Ju」はメイソンの作品。

R&Bテイストの強いメロディ・ラインを持つナンバー。シンセも、いかにもホーンライクな使い方をしている。この曲のみ、プログラミングはクリスチャン・セイラー。

そういう曲調ゆえにか、カールトンのギターもハイテンションで、ブルース全開である。やっぱこれですよ、カールトンは!

カールトンのブルース・ギター・プレイを好む者としては、ようやく出てきたフレーズに感涙にむせんでいる。

「Goin’ Back Home」はカールトンとイーストの作品。

カールトンのアコースティック・ギターとジェームスのエレクトリック・ピアノが生み出す、リラックスした雰囲気がナイスなマイナー・バラード。

一部コーラスに歌詞がついているが、歌いやすそうなメロディなので、全部に歌詞をつけてボーカル・チューンにしてもイケそうである。

この曲でもカールトンのプレイはブルース色が強く、後半のジェームスのピアノ・ソロが普通にジャズィなのとは好対照で面白い。

それぞれの音楽的バックグラウンドの違いってことなんだろうな。

「Karma」はメンバー4人の作品。

リズミカルなファンク・ナンバー。テーマをピアノとエレクトリック・ギターで弾いた後は、アコギに持ち替えたカールトンがソロ。

ピアノ・ソロが引き継ぎ、再びテーマへ。

後半、イーストがお得意のスキャット&ベースでノリまくる。これがなんとも圧巻である。

「Making Up」はイーストの作品。

スロー・テンポのバラード。カールトンがメロディを弾き、時折りジェームスがピアノでフォローする。

ボーカル・チューンとして書かれた曲だと言われてもまったく違和感がないくらい、スムーズで歌心にあふれたメロディと曲構成。

ネイザン・イーストのコンポーザーぶり、お見事である。

この一枚、商業的に特別売れたアルバムではないし、他のアルバムより飛び抜けた名曲が収録されているわけでもないが、筆者的にはけっこう好きである。

フォープレイの各メンバーが、自らの持つ演奏力、作曲力、アレンジ力を生かして、やりたいことをやっている、そんな印象がある。

つまり、自らを楽しませている。

音楽って、それでもう十分なんじゃないの、そういう気がします。

<独断評価>★★★☆

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音盤日誌「一日一枚」#496 MR. BIG「MR. BIG」(Atlantic 7 81990-2)

2023-03-28 05:00:00 | Weblog
2023年3月28日(火)



#496 MR. BIG「MR. BIG」(Atlantic 7 81990-2)

米国のロック・バンド、ミスター・ビッグのデビュー・アルバム。89年リリース。ケヴィン・エルソンによるプロデュース。

ミスター・ビッグは88年結成の4人編成。ボーカル、ギター、ベース、ドラムスの、典型的なフォー・ピース・バンドである。

彼らはいくつかのプロバンドで活躍していたプレイヤーやソロのシンガーが集まったバンドなので、80年代のスーパー・グループとも言える。デビュー盤とは思えない、新人らしからぬ演奏レベルの高さも納得である。

セールス的には全米46位と、まずまずの好スタートであった。日本ではオリコン22位。

オープニングの「アディクテッド・トゥ・ザット・ラッシュ」は、メンバーのビリー・シーン、ポール・ギルバート、パット・トーピーの作品。

ギルバートのアクロバティックなギター・プレイから始まる、アップテンポのロック・ナンバー。のっけから飛ばしまくる4人。

ミスター・ビッグのウリは、なんといってもギルバートの超絶技巧ギターだろうな。

ハード・ロックは70年代後半、ヴァン・ヘイレンの登場によって、ギター・テクニックの大革命が起き、エディ(・ヴァン・ヘイレン)以前・以降とまで言われるようになった。

ヴァン・ヘイレン以降デビューするハード・ロック・バンドは、ハードルが一気に上がり、エディ並みのテクを当然のように求められることとなった。

ギルバートはそんな中でも、エディに匹敵する実力を持つギタリストとして注目されたひとりだ。

この曲一曲だけでも、そのスゴさは十分分かるだろう。全世界のギター・キッズは、ヴァン・ヘイレンのデビュー盤を初めて聴いた時以来のショックを受けていたはず。

オーケー、つかみは万全だ。

「ワインド・ミー・アップ」はボーカルのエリック・マーティン、ギルバート、トーピーの作品。

アップ・テンポからミディアム、さらにアップにテンポ・チェンジする構成が実にカッコいい、ロック・ナンバー。

ここでも暴れまくるギルバートのギターだが、これにがっぷり四つで組むのが、マーティンのボーカル。

もともとソロでプロ活動をしていたぐらいなので、その実力は証明済みだ。ハイトーンもシャウトも、自由自在。

ミスター・ビッグというスーパー・バンドに加入することで、その幅広いジャンルをカバーできるボーカルにさらに磨きがかかった。

そして、ミスター・ビッグのスゴいところは、こんな実力派のボーカリストを擁しながらも、他のメンバーもちゃんと歌えることなのだ。

バックのパワフルなコーラスは、マーティンの多重録音…なんてことは一切なくて、他のメンバーがしっかりと歌っている。

そして曲によっては、他のメンバー3人がソロ・パートを持つこともある。

演奏に限らずボーカル・パートにも、メンバー全員が参加する体制。

歌はボーカリストまかせ、そんなバンドがかつては多かったことを考えれば、ものすごい進歩だ。80年代、ハード・ロックはボーカル面でも大きく進化したのだ。

「マーシリス」はマーティン、ギルバート、トロピーの作品。

ハードなギター・リフが特徴的なミディアム・テンポのナンバー。彼らもおそらく強く意識したであろう先輩バンド、エアロスミスの影響がリフの組み立て方にあらわれている。

ソロ・ギターのはっちゃけ方も、ジョー・ペリーに通じるものがあるな。

70年代の先輩バンドのカッコいいところは、遠慮せずに巧みに取り入れる。それも80年代バンドのスタイルなのだろう。

「ハッド・イナフ」はベースのシーンの作品。スロー・テンポのメロウなバラード・ナンバー。

ここまでハードなナンバー3連発で来たので、息抜きというかチェンジアップの一曲。

シーンはどうしても立役者ギルバートの陰に隠れがちだが、そのベース・テクニックはギルバートに引けを取らず凄まじい。

スピード、音数で言えば、世界でも五指に入るベースの弾き手ではないだろうか。

しかし、ミュージシャンとしての実力は、そういう演奏面だけではない。作曲力、アレンジ力にも大きく現われてくる。

この曲はシーンのコンポーザーとしての力量を示す、好例だと思う。

静かに始まり、徐々に盛り上げていくメロディ・センスはなかなかのものだ。

「動」のみならず、こういう「静」のタイプの曲でも、ミスター・ビッグはその威力を発揮する。

のちの人気曲「トゥー・ビー・ウィズ・ユー」もその流れにあると言えるだろう。

「ブレイム・イット・オン・マイ・ユース」はマーティン、ギルバート、シーンの作品。

再びハードなサウンドの、ミディアム・テンポのナンバー。ヘビーなギター・プレイと、パワフルなコーラスが見事にマッチしている。

「テイク・ア・ウォーク」はマーティン、ギルバート、シーンの作品。

またもエアロ風味のハード・ロック・ナンバー。えげつないまでのシャウトも、どことなくタイラーっぽい。

都会人にも野性を呼び起こすような、ひたすら熱いサウンド。これぞメタル!

「ビッグ・ラヴ」はマーティンの作品。

ゆったりとしたテンポのロック・ナンバー。マーティンの表現力豊かな歌声を、全面にフィーチャーしている。

そのシャウトに名シンガー、ポール・ロジャースの面影を感じるのは、筆者だけであろうか。

「ハウ・キャン・ユー・ドゥ・ホワット・ユー・ドゥ」はマーティン、ジャーニーのキーボード、ジョナサン・ケインの作品。

アップ・テンポのロック・ナンバー。ギルバートが緩急自在のプレイで活躍する。

ジャーニーはハード・ロックとバラードを融合させて70〜80年代に大成功をおさめたバンドだが、ミスター・ビッグはその路線のサウンドを引き継いで、90年代に開花させたといえるだろう。

「エニシング・フォー・ユー」はマーティン、ギルバート、シーンの作品。

のちに日本限定のシングル「ジャスト・テイク・マイ・ハート」(92年リリース)のカップリング曲となったバラード・ナンバー。

力強いマーティンのボーカル、ギター・アルペジオの美しい響きが印象的なラヴソング。

最愛のひとに歌えば、彼女のハートをわし掴みにすること間違いなしのナンバーだ。

個人的には、アルバムで一番気に入っております。

「ロックン・ロール・オーヴァー」はマーティンの作品。

彼の作曲センスが光る、ロックンロール・ナンバー。陰と陽、メジャーとマイナーの織り交ぜ方が実に上手い。

ギルバートの高速プレイも、絶好調である。

ラストの「30デイズ・イン・ザ・ホール」はアルバム唯一のライブ録音。

みなさんご存じの英国バンド、ハンブル・パイ72年のナンバー。スティーヴ・マリオットの作品。

この曲を、冒頭のアカペラ・コーラスから完全にカバーしているのには、驚く。

それも、マーティン以外のメンバーも大声を出して見事なハーモニーを決めているのだから、二度ビックリ。

彼らは演奏だけでなく、歌、コーラスにおいてもパーフェクションを目指すプロ集団なんだということが、よく分かる。

そのことを示すためもあって、通例デビューするバンドがまずやらないライブ収録を、わざわざしたのだろう。

すげープロ根性である。脱帽。

この曲はおそらくアンコールで演奏されたものだろうが、彼らはこれだけでなく、さまざまなロック・クラシックをアンコール・ナンバーとしている。

例えばチャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」、ファッツ・ドミノの「エイント・ザット・ア・シェイム」、デイヴィッド・ボウイの「サフラジェット・シティ」、ストーンズの「ブラウン・シュガー」などなど。

先輩バンドへのリスペクトを、ストレートに表現するミスター・ビッグ、カッケー!

考えてみれば、ミスター・ビッグというバンド名も、彼らが強くリスペクトするバンド、フリーの曲から来ているもの。

多くの先輩バンドのエッセンスを取り入れる一方で、彼ら独自のセンスを加味して、ワンランク上のサウンドを目指すミスター・ビッグ。

生まれた時から、超ビッグ。そんな彼らの大物ぶりを、デビュー盤でチェックしてみよう。

<独断評価>★★★☆

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音盤日誌「一日一枚」#495 STEELY DAN「TWO AGAINST NATURE」(BMG/Giant BVCG-21003)

2023-03-27 05:30:00 | Weblog
2023年3月27日(月)



#495 STEELY DAN「TWO AGAINST NATURE」(BMG/Giant BVCG-21003)

米国のロック・バンド、スティーリー・ダンの8枚目のスタジオ・アルバム。2000年リリース。ドナルド・フェイゲン、ウォルター・ベッカーによるプロデュース。

80年リリースの「ガウチョ」以来、20年ぶりにレコーディングされて大いに話題となった一枚。全米6位のヒットとなり、グラミー賞でも4部門で受賞と高い評価を得ている。

80年代はドラッグ中毒の治療のためしばらく音楽界から遠ざかっていたベッカーが、再びフェイゲンと合流したのは93年。

フェイゲンの2枚目のソロ・アルバム「カマキリアド」を録音するにあたり、プロデュースをベッカーに依頼したことが端緒となって、スティーリー・ダンとしての活動が再開した。

まずは同年にライブ・ツアーを行い、96年にも再びツアーを行う。そして2000年、いよいよこのアルバムを制作することになる。

オープニングの「ガスライティング・アビー」はフェイゲンとベッカーの共作(以下同様)。

軽快なビートで、聴き覚えのあるいつものスティーリー・サウンドが始まる。フェイゲンのクールなボーカルに、女声コーラスが絡んでいく。

パーソネルはボーカル、キーボードのフェイゲン、ギターのベッカーのほか、ベースのトム・バーニー、ドラムスのリッキー・ローソン、そしてトランペットのマイケル・レオンハート、テナーのクリス・ポッターをはじめとするホーン・セクションだ。

後半のポッターのテナー・ソロは、ズージャそのもの。

フェイゲンのジャズ趣味がそのまんま出ている演出だなと、聴くこちらも思わず笑いがこぼれてしまう。

「ホワット・ア・シェイム・アバウト・ミー」はマーサ&ヴァンデラスの64年のヒット「ダンシング・イン・ザ・ストリート」の冒頭のメロディを引用したと思われるナンバー。

でも、複雑なコード・チェンジを繰り返すおかげで、曲全体の雰囲気はまるで別物だけどね。

歌詞ももちろん、スティーリー・ダン流の皮肉に満ちたもの。明るいだけのポップスにはなりようがない。

バックのドラムスはマイケル・ホワイト、ベースとギターはベッカー。

ベッカーのギター・ソロがファンキーでなかなかシブいのである、この曲は。

アルバムタイトル曲の「トゥー・アゲインスト・ネイチャー」は、セカンド・ライン風のアクセントの強いビートのナンバー。

パーカッションも2名加わって、実に賑やかなサウンドだ。

この曲もやはり、ジャズィな混み入ったコード進行を取り入れていて、単なるR&Bチューンとはひと味もふた味も違った、スティーリー・ダンならではのスタイルになっている。

ドラムスはキース・カーロック、ベースとギターはベッカー、ギターにもうひとりジョン・ヘリントン、ヴィブラフォンにスティーヴ・シャピロ。

ベッカーのギター・ソロ、それに続くサックス・ソロがこの曲のもつ熱狂的なムードを高めている。

「ジェイニー・ランナウェイ」はミディアム・テンポのエイト・ビート・ナンバー。

ドラムスはルロイ・クラウデン、ベースとギターはベッカー。

二度にわたるアルトのソロはポッター。アルトを吹かせてもなかなかイケます、この魔法使いは。

表向きはフツーのR&Bナンバーに見せかけても、細部はやはり、彼ら独自の音で満ちている。

ちょっと皮肉っぽいノスタルジックな歌詞。ひねったコード遣い。それにハマると、確実にクセになってしまう。

まるでドラッグのように、聴き手を依存症にさせる音楽なのだ。

「オールモスト・ゴシック」は、メロディが美しい、静かなムードのジャズィ・ナンバー。

ドラムスはクラウデン、ベースはベッカー、ギターはヒュー・マクラッケン、アコギはヘリントン。

ミュートした小粋なトランペット・ソロはレオンハートによるもの。彼はいくつかの曲でホーン・アレンジも担当しており、時にはエレクトリック・ピアノも弾いている。

謎めいた気まぐれな女に翻弄されるさまを書いた歌詞が、いかにもスティーリー・ダンらしい。

「ジャック・オブ・スピード」は、ホーン・サウンドを効かせたファンキーなナンバー。

ドラムスはホワイト、ベースとギターはベッカー、パーカッションにベーシストのウィル・リーも加わっている。

この曲のベッカーのギター・ソロもいい。淡々とした展開なのだが、一音一音に感情がしっかりと込められている。

「カズン・デュプリー」は、速めのテンポのロック・ナンバー。

ドラムスはクラウデン、ベースとギターはベッカー、リズムギターはヘリントン。

軽快なビートに乗せて繰り広げられるのは、フェイゲン流の世界一クールなロックンロール。

けっして熱くはならない、でも聴き手を不思議とウキウキとさせるサウンドだ。

いとこ同士の恋愛(?)を歌ったその歌詞内容もちょっと変態っぽく、なかなかユーモラスなので、ぜひじかに聴いて確認してみてほしい。

「ネガティヴ・ガール」は、コード進行の凝ったファンク・ナンバー。

ドラムスはヴィニー・カリウタ、ベースはバーニー、ギターはディーン・パークスとボール・ジャクソン・ジュニア、ヴァイブはデイヴ・シェンク。

「引きこもりのメンヘラ」という最近では珍しくないタイプの女性を、20年以上も前にテーマにした歌詞が面白い。こういうテーマで曲を書ける作家はなかなかいないよな。

繊細にして緻密な構成は、さすがスティーリー・ダンである。

ラストの「ウエスト・オブ・ハリウッド」はアップ・テンポのビート・ナンバー。

ドラムスはサニー・エモリー、ベースはバーニー、ギターはベッカーとヘリントン。

フェイゲンはオルガンを弾きながら、虚飾の都ハリウッドに棲む人々の意味深なストーリーを、ソフトなタッチで歌う。

再び披露される、ポッターの長いテナー・ソロ。

これがコード・チェンジの連続で、実にスリリングだ。まるで映画のサスペンス・シーンに流れる音楽のよう。

ポップ・チューンの体裁を取っていても、完全にジャズだなと感じさせる一曲だ。

以上9曲、どれが特に印象的な曲というわけではないが、すべてがトップ・バンド、スティーリー・ダンとして十分なクオリティを満たしている。

ボーカル、コーラス、ソロ・プレイ、リズム、ホーンアレンジ、どれをとっても一流の出来ばえ。

シングル・ヒットを出すような曲がなくても、この出来ならば買うというリスナーが多いだろう。

流行というよりは、不易というスタイル。

それでも十分勝負ができる彼らこそ、本物中のホンモノなのであろう。

<独断評価>★★★★

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音盤日誌「一日一枚」#494 THE CRUSADERS「STREET LIFE」(ユニバーサル ミュージック/MCA UCCU-5089)

2023-03-26 05:04:00 | Weblog
2023年3月26日(日)



#494 THE CRUSADERS「STREET LIFE」(ユニバーサル ミュージック/MCA UCCU-5089)

米国のフュージョン・バンド、ザ・クルセイダーズのスタジオ・アルバム。79年リリース。バンドメンバー、ウィルトン・フェルダー、スティックス・フーパー、ジョー・サンプルによるプロデュース。

クルセイダーズは高校時代からの仲間4人によるジャズ・バンドとしてスタート、61年にジャズ・クルセイダーズとしてレコード・デビュー、71年に現バンド名に改称して以来、フュージョン・バンドとして活動を続けていた。

現在オリジナル・メンバーとしては、ひとりフーパーのみが存命である。

彼らの商業的な成功の頂点にあたるのが、この「ストリート・ライフ」を発表した頃だ。アルバムは全米18位(ソウル、ジャズ・チャートでは1位)、タイトル・チューンは全米36位(ソウル・チャートでは17位)というヒットを記録したのである。

オープニングの「ストリート・ライフ」はサンプル、ウィル・ジェニングスの作品。アルバム・バージョンは11分18秒におよぶ大曲である。

アルバムでは唯一ボーカルをフィーチャーしたナンバーであり、76年にデビューした黒人女性シンガー、ランディ・クロフォードがゲスト参加している。

繊細なヴィブラートと、思い切りのいいシャウトが、ともに彼女の持ち技だ。テクニカルであり、一方、エモーショナルでもある実力派。

彼女の印象的な歌声により、この曲がスマッシュ・ヒットとなったのは間違いない。

その功績により、翌年にはクルセイダーズが彼女のアルバム「Now We May Begin」をプロデュース、ヒットするというオマケまで付いている。

ギターは3人。アーサー・アダムス、ローランド・バティスタ、ビリー・ロジャースである。アダムスはブルース系ギタリスト、バティスタは元アース・ウィンド&ファイアのファンク系ギタリスト、ロジャースは元ジャズ・クルセイダーズのギタリスト。

タイプの違うギタリストを3人も使うという、極めて贅沢な布陣なのである。

ベースはフェルダーが兼任。ゲスト・ベーシストが入る3曲以外はすべて彼が担当している。ほんと器用なひとだね。

ホーンは八管と、アルバム随一の強力な体制。テナーのフェルダーに加えて、トランペットはロバート・O・ブライアント・シニアとオスカー・ブラッシアー、テナーはブライアントの息子ジュニア、アルトはジェローム・リチャードソン、バリトンはビル・グリーン、テナー・トロンボーンはガーネット・ブラウン、バス・トロンボーンはモーリス・スピアーズ。

ゴージャスなホーン・サウンドが、女声ボーカルと並ぶこの曲の魅力の中心であることは間違いない。

ストリングスとホーンのアレンジは、サンプルが担当(他曲も同様)。この曲の深い味わいは、サンプルの手柄によるところ大だろう。キーボード同様、彼のアレンジ能力は素晴らしい。

ことにギターとストリングスの合わせ技は、クリティカル・ヒット(必殺技)だな。当時の日本でもさっそく高中正義が自分のアルバムに取り入れていたりする。

まぁ、フュージョン界最高峰のバンドなんだから、新作が出るとすぐに多くの後輩たちに真似されるのもしかたがない(笑)。

「マイ・レディ」はフェルダーの作品。

フェルダーのテナーを全面にフィーチャーした、ダンサブルなファンク・チューン。

ギターはバリー・フィナティとポール・ジャクソン・ジュニア。フィナティは白人ジャズ・ギタリスト、ジャクソンはフュージョン・ギタリスト。ともにファンキーなバッキングでこの曲を支えている。

サビのパートのバックに流れる混声コーラスは、フランスの、ルイとモニークのアルデベール夫妻のデュエットによるもの。

彼らはジャズ・コーラス・グループのダブル・シックス・オブ・パリのメンバーだった。このコーラスが、なんともエレガントな雰囲気を、曲に加味している。

「ロデオ・ドライヴ」はサンプルの作品。アップテンポでノリのいい、フュージョン・ジャズ・ナンバー。副題の「ハイ・ステッピン」も、納得のテンションである。

ロデオ・ドライヴとはアルバム・ジャケット写真を撮影したロサンゼルス・ビバリーヒルズの大通りのこと。

この街がもたらしたインスピレーションにより、本アルバムは生み出されたということだろうな。

この曲の陰の主役はベースのアルフォンソ・ジョンソンだ。彼はいうまでもなく、元ウェザー・リポートのベーシスト(二代目)。

その躍動感あふれるベースは、陽気な曲調ともマッチしている。フレットレス・ベースならではのアタック音が耳に心地よい。

ホーンは四管体制。フェルダーのテナー、ブラッシアーのトランペット、ブラウンのテナー・トロンボーン、スピアーズのバス・トロンボーン。

分厚いサウンドをバックに、気持ちよさげに吹くフェルダー。後を引き継ぐフィナテイのギター・ソロ、サンプルのローズ・ソロも快調だ。

「夜のカーニバル」はフェルダーの作品。タイトルが示唆するように、サンバ・ビートのナンバー。

ギターは4人体制と超豪華。大ベテランのデイヴィッド・T・ウォーカーを筆頭に、アダムス、バティスタ、そしてフィナティだ。

ギター・ソロを弾くのはフィナティ。そのジャズを基本としながらも、ファンクやブルースのエッセンスも加味したスリリングなプレイは、なかなかにイカしている。当バンドのかつてのメンバー、ラリー・カールトンにも通じるセンスがある。

ベースはジェイムズ・ジェマーソン・ジュニア。モータウンきっての名ベーシストの息子が、弱冠22歳での参加である。

ベテランたちに交じって臆することなく、スラップをきかせた堅実なプレイでサウンドをかためている。

「ハスラー」はフーパーの作品。

ミディアム・テンポのビートを効かせた、ファンク・ナンバー。

ギターはフィナティとジャクソン。フィナティがソロを担当している。ソリッドでファンキーなフレーズがグッド。

彼がこのアルバムでは、主席ギタリストという扱いなんだろうな。

フェルダーはここではテナーをアルトに持ち替えてプレイ。テーマ部分では、多重録音でサウンドに厚みを持たせている。

もちろん、作曲者であるフーパーのツボを押さえたタイトなドラミングも、文句なしにカッコいい。

ラストの「ナイト・フェイセズ」はサンプルの作品。

ダンサブルなビートを持つ、しっとりとした雰囲気のナンバー。

フェルダーはここでもアルトで吹いている。テーマ演奏に続いては、サンプルのローズによるソロ。再びフェルダーにソロが戻り、さらにサンプルへ…。

そんなループで、このナンバーはどこまでも続いていく。まるで終わらぬ夜のように。

で、この曲でも実は一番活躍しているのが、ベースのジョンソンだ。自由自在にうねるようなベース・ラインが、聴くものに大きな快感をもたらしてくれる。

このアルバムで大成功を収めた後のクルセイダーズは、しばらく繁栄期が続くものの、80年代後半以降、流行音楽を生み出すグループとしては、徐々に表舞台から消える道をたどることになる。

フュージョン、ファンク・ジャズ、あるいはディスコ、ダンス・ミュージックといったものが次第にあきられて、時代の主流から外れていったということだな。

栄枯盛衰は世の常だから、それは仕方がない。

だが、そういった流行が過ぎ去った後も、クルセイダーズ・サウンドはポピュラー・ミュージックの核にしっかりと根付いている。

いってみれば、70年代以後のポピュラー・ミュージック全ての教科書のような存在になったのが、ザ・クルセイダーズ。

どの世代の人々も、彼らのプレイを聴き、真似ることで、ビート・ミュージックのスタンダードを知ることが出来る。

「ストリート・ライフ」が、いつ聴いても新鮮な感動を与えてくれるのは、そういうことなのだ。

<独断評価>★★★★☆

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音盤日誌「一日一枚」#493 OTIS RUSH「RIGHT PLACE, WRONG TIME」(P-VINE PCD93234)

2023-03-25 05:10:00 | Weblog
2023年3月25日(土)



#493 OTIS RUSH「RIGHT PLACE, WRONG TIME」(P-VINE PCD93234)

米国のブルース・ミュージシャン、オーティス・ラッシュのスタジオ・アルバム。76年リリース。ニック・グレイヴナイツ、ラッシュ自身によるプロデュース。

オーティス・ラッシュは69年に「MOURNING IN THE MORNING」という、初の本格的(過去音源の寄せ集めでないという意味の)スタジオ・アルバムをアトランティック傘下のコティリオン・レーベルからリリースして新しい境地を見せた。

R&Bの聖地マッスルショールズで、現地のミュージシャン、例えばデュアン・オールマン、ジミー・ジョンソン、ジェリー・ジェモット、ロジャー・ホーキンス、バリー・ベケットといったメンバーとともにレコーディングしたのだ。

先日取り上げた、ウィルソン・ピケットのアルバム「ヘイ・ジュード」の制作陣とも、ほぼ共通のメンツである。

その時のプロデューサーが、エレクトリック・フラッグなどのバンドで作曲の腕を発揮した白人シンガー/ギタリスト、ニック・グレイヴナイツだった。

ラッシュは71年に再びグレイヴナイツをプロデューサーに迎えて、アルバム制作に入る。

収録場所はサンフランシスコ。現地のスタジオ・ミュージシャンたちをバックにレコーディングされた。

そして2月に本盤の収録が完了したのだが、そのリリースが行われることはなかった。

もともと大手レーベル、キャピトルに本盤を出してもらう算段で制作したにもかかわらず、完成音源に対してキャピトル側から「ノー」を突きつけられてしまったのだ。

その理由は、わからないでもない。メジャーを標榜するキャピトル社からしたら、「こんなんじゃ、全米規模で売れるわけがないから、うちから出す意味がない。ローカル・レーベルからでも出しとけ」ってことなのだろう。

前作のイマイチなセールスから判断しても、それは無理からぬことと言えた。

結果、この音源はお蔵入りとなり、5年後の76年にようやくインディーズのブルフロッグ・レコードからリリースされて、日の目を見たのだった。

オープニングの「Tore Up」はラルフ・バスとアイク・ターナーの作品。バスはエッタ・ジェイムズ、サム・クック、ジェイムズ・ブラウンなどのプロデューサー、A&Rマンだ。

アップ・テンポのシャッフル・ナンバー。フレディ・キングの「I’m Tore Down」と好一対を成す曲想だ。

この曲は、なんといってもラッシュのキレッキレのギター・ソロがスゴい。聴き手の側もテンションが上がりまくる一曲だ。

アルバムタイトル・チューンの「Right Place, Wrong Time」はラッシュの作品。スロー・ブルース・ナンバー。

この曲は個人的に極めてポイントが高い。ラッシュのスロー・ ブルースとしては、「Gambler’s Blues」と並んで白眉と言えるのではなかろうか。

ピアノ、そしてホーンのアレンジが、ほんに秀逸。12小節ブルースのターンアラウンド部分を、ありがちなパターンではなく、より緊張感のあるオリジナル・パターンに変えている。

そして、全編で泣きまくるラッシュのソリッドなギターが最高に素晴らしい。百点満点をあげたい。

エンディングに至るまで、一分の隙もない構成だ。

「Easy Go」はラッシュの作品。ウォーキング・テンポのインストゥルメンタル・ナンバー。

スクウィーズ・スタイルで自由奔放に弾きまくり、お得意のフレーズを連発するラッシュ。ファンにはたまらない一曲といえるだろう。

「Three Times a Fool」はラッシュの作品。57年リリースのシングル「She’s A Good’un」のB面だった。

つまり旧作の、14年ぶりの再録となる一曲。

オリジナル・バージョンではテンションの高いギター・プレイを前面に押し出していたが、こちらは少し肩の力を抜いた感じがある。ボーカルもまた、然り。

ピアノやホーン・アレンジも、わりとあっさりとしている。ブルースというよりはポップ・チューンになっているのだ。

この曲については、コブラ時代の緊迫感あるバージョンの方が好みだな、うん。

「Rainy Night in Georgia」は白人シンガー、トニー・ジョー・ホワイトの作品。67年に書かれ、70年にソウルシンガー、ブルック・ベントンの歌でヒットしている。

非ブルース系の流行曲のカバーは、ラッシュとしては極めて珍しい。本アルバムをメジャーで売るための配慮だったのだろうな。

ここではラッシュがギターは控えめにして、ひたすら歌に入魂しているのがよく分かる。

オリジナル・バージョン同様、しみじみとした情感を伝えるその歌声は、シンガーとしても一流であることの証明だろう。

「Natural Ball」はアルバート・キングの作品。アップ・テンポのナンバー。

チェス時代に一枚のアルバムにキングとともに収められたことがあるくらいなので、ラッシュにとってキングは大先輩とはいえ、常に意識していた存在だったに違いない。

スタックスで大活躍し、またフィルモアで白人客をも集めるキングの様子を横目で見て、「俺もああなりたい」と憧れていたはずだ。

目標とする先輩の代表曲を速いテンポで歌いこなし、ギターもバリバリと弾くラッシュ。まことにカッコいい。

「I Wonder Why」はメル・ロンドンの作品。

ロンドンは50〜60年代のシカゴ・ブルースにおける重要なソングライター/プロデューサーのひとりで、ハウリン・ウルフ、マディ・ウォーターズ、エルモア・ジェイムズ、ジュニア・ウェルズらに楽曲を提供している。

この曲はフレディ・キングが69年のアルバム「My Feeling for the Blues」でやっているので、それを相当意識しての選曲と思われる。

ただし、ラッシュ版では歌詞抜きのインスト。全編、彼のギターがフィーチャーされる。メロディアスで、歌心に溢れたソロの連続である。

その音色の艶っぽさは、さすがナンバーワン・ブルースギタリストである。ギタリストならコピーしたくなること間違いなしの名演。

「Your Turn to Cry」はジル・ケイプル、ディアドリック・マローンの作品。マローンはドン・ロビーの通名で知られるレコード会社オーナー、プロデューサー。デューク・レコードでのジュニア・パーカー、ボビー・ブランドらのプロデュースが有名だ。

自らの代表曲「I Can’t Quit You Baby」によく似た構成を持つ、スロー・ブルース。

女に泣かされ続けてきた男が、別れぎわに最後に放つひとこと。歌詞がブルースの一典型のようなナンバーだ。

歌もギターも哀感に満ちていて、いかにもラッシュらしい演奏。

「Lonely Man」はリトル・ミルトンことミルトン・キャンベル、ボブ・ライオンズの作品。

ミルトンもまた、ラッシュとお互いに刺激し合う存在のシンガー/ギタリスト。ミルトン側もラッシュの「I Can’t Quit You Baby」を主要なレパートリーにしていたりする。

この曲はアップ・テンポのツー・ビート・ナンバー。スピーディに歌い、弾くラッシュに男っぽさを感じずにいられない。

ラストの「Take a Look Behind」は再び、ラッシュの作品。スロー・ブルース・ナンバー。

物憂げなギター・ソロがフィーチャーされたこの曲も、出来は悪くはないんだが、前出の「Right Place, Wrong Time」あたりと比べてしまうと、どうしても聴き劣りしてしまう。

地味に聴こえるのは、アレンジの差が大きいかな。ホーンをもう少し前に出したほうが、聴きごたえがあったかも。

ロック全盛の時代に、こういう地味で古風なサウンドではインパクト不足で勝ち目はないな。

いかに黒人ブルース・ミュージシャンが再注目され始めた時代とはいえ、白人へのアピールのための演出がうまく出来なかったラッシュは、せっかくの傑作を認められず、しばらく低迷を続けることになる。

ラッシュの人気がようやく上向きになるのは、70年代前半で一度ジャンキーになりかけたエリック・クラプトンがなんとかカムバック、彼が神のようにリスペクトするオーティス・ラッシュの曲を、アルバムやライブで頻繁に取り上げるようになってからである。

天才ブルースマンにも、不遇の時代はあった。このアルバムが、まさにその時期の作品だ。

5年遅れとはいえ、この充実した内容のレコードが埋もれずに済んだことを素直に喜びたい。

何曲かはラッシュの代表的パフォーマンスというべき名演奏も含まれており、ブルースファンの記憶にいつまでも残る一枚だと思う。

<独断評価>★★★★

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音盤日誌「一日一枚」#492 LITTLE WALTER「THE BEST OF LITTLE WALTER」(MCA/Chess CHD-9192)

2023-03-24 05:00:00 | Weblog
2023年3月24日(金)



#492 LITTLE WALTER「THE BEST OF LITTLE WALTER」(MCA/Chess CHD-9192)

米国のブルース・ミュージシャン、リトル・ウォルターのデビュー・アルバム。58年リリース。レナード・チェス、フィル・チェス、ウィリー・ディクスンによるプロデュース。

タイトルが示すように、ウォルターのシングル曲を集めたベスト盤でもある。同58年にリリースされた「THE BEST OF MUDDY WATERS」と同様の企画である。

当時のポピュラー・ミュージックのアルバムは、アルバムのためにまるまる一枚分、オリジナル・レコーディングすることは稀で、おおむね過去のシングル曲の寄せ集め的なものだったから、ざっくりと言って「ベスト盤=アルバム」みたいな感じだったのである。

オープニングの「My Babe」はウィリー・ディクスンの作品。55年リリースのシングル曲。R&Bチャートで5週1位を獲得した、ウォルター最大のヒット・ナンバーである。

のち61年に女声コーラスを加えたバージョンも出して再度ヒットしている。

この曲には元ネタがあり、シスター・ロゼッタ・サープの歌唱で知られるゴスペル・ナンバーの「This Train」を改作したものだという。

聴いてみるとたしかに似ているが、いなたい元ネタをディクスンが現代風、都会風にアップグレードしたのが「My Babe」だと言えるな。

レナード・キャストン、ロバート・ロックウッド・ジュニアのギター、ディクスンのベース、フレッド・ビロウのドラムスをバックに、ウォルターはいなせな歌声を聴かせてくれる。

いかにもオンナにモテそうな彼が歌うとぴったりハマる、彼女自慢の歌詞がいい。

「Sad Hours」は52年リリースのシングル。ウォルターの作品(以下同様)。R&Bチャート1位。

ミディアム・テンポのインストゥルメンタル・ナンバー。ギターでのイントロに続いて、ウォルターのハープ・ソロ。そこからはほぼ全編、彼の独演会。

そのハープの力強くディープなトーンを、とことん楽しむべし。

バックではデイヴ・マイヤーズ、ルイス・マイヤーズというエイシズのメンバーがギターを担当している。

ビロウも含めた彼らは52年以降ジュークスというバンド名でウォルターをサポートし、ルイスが54年に抜けるまで何曲ものヒットを生み出す。ウォルターにとって重要な助っ人たちであった。

彼らの手堅いバッキングもまた、聴きどころと言えよう。

「You’re So Fine」は54年リリースのシングル。R&Bチャート2位。

リズミカルなシャッフル・ナンバー。ウォルターの勢いに満ちた歌、そしてハープ・ソロがコンパクトにまとめられている。

そのボーカル・スタイルには、同じシンガー/ハーピストのジュニア・ウェルズに近いものを感じる。ともにマディ・ウォーターズのバンドでハープを担当した者(ウォルターの後任がウェルズ)どうし、刺激し合う存在だったのだろう。

「Last Night」は54年リリースのシングル。R&Bチャート6位のスロー・ナンバー。

ロック・ファンにはエリック・クラプトンが76年のアルバム「no reason to cry」でカバーしたことでよく知られている。

オリジナルのウォルター版は2分46秒とごく短く、あっさりと終わってしまうが、それでも親友を失った悲痛な心境が歌とハープ・ソロで切々と語られて、聴くものの心を揺さぶるのだ。

「Blues with a Feeling」はドラマー、レイボン・タラントの作品。彼がボーカルをつとめるジャック・マグヴィーのバンドにより47年にオリジナル盤がリリースされたジャンプ・ブルース・ナンバー。

この曲をオリジナル以上に世間に知らしめたのが、ウォルターが53年にリリースしたシングル。R&Bチャート2位。ウォルターによりスロー・テンポに変わっている。

ハープ・ソロによるイントロで始まり、ウォルターの思い入れたっぷりの歌が続く。そして、後半のパワフルなブレイクが、この曲の重要なアクセントになっている。

今日でもブルース・ハーピストは、この曲を主要なレパートリーとする人が多い。

ある意味、ハーピストの聖典とも言える一曲。

「Can’t Hold Out Much Longer」は52年リリースのシングル「Juke」のB面の、スロー・ブルース・ナンバー。

この曲でのギターはマディ・ウォーターズとジミー・ロジャーズだ。彼らの抑えめのプレイがシブカッコよろしい。

ロジャーズの「That’s All Right」に似た雰囲気を持つナンバーを、ウォルターは彼流にワイルド、かつラフに歌いあげている。

LPのB面トップは「Juke」。前の曲のA面にあたる。全編ハープ・ソロのインストゥルメンタル・ナンバー。52年、R&Bチャート1位。彼の最初のヒット曲でもある。

ウォルターといえば「Juke」というぐらいの代表曲。多くの後輩ハーピストがカバーしており、ブルース・スタンダードのひとつともなっている。

ブルース・ハープを志す人は、一度はこの曲のコピーに挑戦するという。筆者もかつては試みてみたが、なかなか難しく感じた。

基本的なハープの技、特にベンドがきちんとマスター出来ていないと、この曲のソロの複雑なニュアンスを再現することは難しい。

ハーピストの「必修課題」とでもいうべき一曲だな。

バックはB面同様、マディ&ジミーが冴えたプレイを聴かせてくれます。

「Mean Old World」はT・ボーン・ウォーカー42年の作品。歌詞はウォルターによって変えられている。53年リリースのシングル、R&Bチャート6位。

ウォーカーのオリジナルとは趣きも異なって、ルイジアナ・ブルース風のいなたさがある。

オブリガートのハープ・ブローがのどかな雰囲気を醸し出していて、マル。

「Off the Wall」は53年リリースのシングル。R&Bチャート8位のインストゥルメンタル・ナンバー。

ここでもウォルターの高度のハープ・テクニックは、いかんなく発揮されてるいる。その縮緬のようなビブラートは、すごいのひとことだ。

このレコードに対して同じハーピストのビッグ・ウォルターが「この曲はオレの作った曲だ」と主張し、サン・レコードで自分のバージョンを録音して対抗したというエピソードがある。

そういったレパートリーのパクりあいは、シカゴ・ブルースのミュージシャン界隈では、日常茶飯事だったみたいだ。

両ウォルターの張り合いっぷりが、ちょっと微笑ましい。

「You Better Watch Yourself」は54年リリースのシングル。R&Bチャート8位。

アップ・テンポのシャッフル・ナンバー。快調なボーカルとブロー。メロディもはっきりしていて、歌うウォルターも気持ち良さげだ。

筆者的には、けっこうお気に入りの一曲。ブルース・セッションで、一度はやってみたいものだ。

「Blue Light」は前曲のB面。スロー・テンポのインストゥルメンタル・ナンバー。

夜のムードが濃厚だ。ここでのハープ・ブローの凄みは、ぜひ実際に聴いて味わっていただきたい。鳥肌ものでっせ。

エイシズのバッキングも、この上なくクールだ。

ラストの「Tell Me Mama」は53年リリースのシングル。アップ・テンポのツービート・ナンバー。R&Bチャート10位。

マディ・ウォーターズの十八番「モジョ・ワーキン」風の曲調、ハープ・プレイで、気分もハイになること請け合いだ。

以上12曲、R&Bチャートでトップテンを取ったシングル(とB面)だけあって良曲揃い。

歌ってよし、吹いてよし。ハープだけでなく、歌でもしっかりと楽しめるのが、リトル・ウォルターのレコード。

歌う曲の、やさぐれたイメージそのままの、酒浸りで血の気の多いキャラクター。

リトル・ウォルターこそ、全身ブルースマンの名にふさわしいミュージシャンだと思う。

この一枚を皮切りに、リトル・ウォルターの世界にズブズブにハマってみないか(笑)。

<独断評価>★★★★

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音盤日誌「一日一枚」#491 MICHAEL JACKSON「THRILLER」(Epic/Sony 25・6P-199)

2023-03-23 05:00:00 | Weblog
2023年3月23日(木)



#491 MICHAEL JACKSON「THRILLER」(Epic/Sony 25・6P-199)

米国のシンガー、マイケル・ジャクソンのスタジオ・アルバム。82年リリース。クインシー・ジョーンズ、ジャクソン本人によるプロデュース。

このアルバムは7000万枚以上、世界で最も売れたアルバムとして知られている(米国内ではイーグルスのベスト盤に次いで2位)。

筆者はリリース時は社会人2年目だったが、当時注目され出したMTVにマイケル・ジャクソンのMVが毎日ガンガン流れており、その宣伝効果もあって日本でもこのアルバムが飛ぶように売れていたのを覚えている。

マイケルは79年にアルバム「オフ・ザ・ウォール」を、彼が前年出演した映画「ウィズ」の現場で知り合ったクインシー・ジョーンズをプロデューサーに迎えて制作、全米3位を獲得する。

アルバムは国内で800万枚を超えるロング・セラーとなり、大きな手応えを得たことで、マイケルは再びジョーンズにプロデュースを依頼したのだ。

オープニングは「スタート・サムシング」。マイケル自身の作品。躍動感に満ちた、アルバムトップにふさわしいビート・ナンバー。マイケル自身の作品。

シングル(アルバムで4枚目)にもカットされ、全米5位となっている。

彼のセクシーなハイトーンの魅力が、いかんなく発揮された一曲だ。特に終盤の多重録音コーラスの破壊力がハンパない。

「ベイビー・ビー・マイン」は英国のプロデューサー、ロッド・テンパートンの作品。

テンパートンは英米人混成のファンク・バンド、ヒートウェイブのキーボーディストを経て、コンポーザーとなったひと。

白人ながらブラック・ミュージックに精通しており、その高い作曲能力に、ジョーンズは厚い信頼をおいている。

ジョーンズがプロデュースするアーティストには、必ずといっていいほどテンパートンが楽曲を提供しているのが、その現れである。

この曲も、シンセ・ビートを効かせたファンク・サウンドが実にイカしている。マイケルの歌声もスムースで絶好調だ。

「ガール・イズ・マイン」はマイケル自身の作品。先行シングルとしてリリースされ、全米2位を獲得した。ゆったりとしたテンポのバラード・ナンバー。

この曲にはゲスト・ボーカルとしてポール・マッカートニーが登場している。当時マッカートニーは40歳。ウィングスとしての活動を休止、10年ぶりのソロ活動に戻っていた時期だ。

82年のアルバム「タッグ・オブ・ウォー」ではスティーヴィー・ワンダーと共演、シングル「エボニー・アンド・アイボリー」をヒットさせている。

そんな流れでのマイケルとの共演、白人大物スターと黒人若手スターのコラボは、もちろん大きな話題となった。

歌詞はマッカートニーとマイケルが、ひとりの女性をめぐって争奪戦をするというもの。

でも喧嘩腰って感じではなく、むしろユーモラスで、ふたりの和気あいあいとしたムードが伝わってくる。心なごむ一曲だ。

「スリラー」はテンパートンの作品。アルバムからは最後の、7枚目(!)のシングルとしてカットされ、全米4位となった。

この曲ほどMVが有名となったケースは、おそらくないだろう。14分近いホラームービー仕立てで、かけられた予算は通常の予算の10倍にあたる5万ドルという。

MVの監督はジョン・ランディス。彼のヒット映画「狼男アメリカン」を意識して、特殊メークで狼男やゾンビとなったマイケルが登場、世間を驚かせたのである。

またナレーションには往年のホラー俳優、ヴィンセント・プライスを起用、不気味な雰囲気をさらに高めることに成功している。

思い切った高予算のMV戦略をとって、アルバムの大幅セールスアップを果たしたのだ。まさに作戦勝ちであるな。

「今夜はビート・イット」はマイケル自身の作品。3枚目のシングルとしてカットされ、全米1位を獲得。

これはマイケルと白人ロック・ミュージシャンらの、全面的なコラボレーションが実現した最初のナンバーだ。

ギターにエディ・ヴァン・ヘイレン、スティーヴ・ルカサー、ポール・ジャクソン・ジュニアが参加。

タッピングに特徴のある激しいギター・ソロは、言うまでもなくエディによるものだ。

彼はノーギャラで参加したそうだが、この曲でソロを残したことで、従来にもまして幅広い層のリスナーにエディ・ヴァン・ヘイレンの名前を知らしめたのだから、損して得をとった、というところだろう。

ハード・ロックとブラック・コンテンポラリーが見事に融合したロック・ナンバーとして、今後も聴き継がれるに違いない一曲だ。

「ビリー・ジーン」はマイケル自身の作品。アルバムからは2枚目のシングル。全米1位。

ストーカーに狙われた女性を主人公にしているが、実はこれはマイケル自身もしくは兄のストーキング被害がモチーフになっているらしい。

ホール&オーツの「アイ・キャント・ゴー・フォー・ザット」に曲調が似ているが、マイケル自身、その曲からヒントを受けているんだとか。

この曲もMVが作られており、手頃なサイズということもあってYoutubeでの再生数は13億回を超えている。スゴすぎる(笑)。

キャッチーなメロディ、タイトでダンサブルなビートを持つ本曲は、ヒットして当然って感じだ。

「ヒューマン・ネイチャー」はトトのキーボーディスト、スティーヴ・ポーカロ、作詞家ジョン・ベティスの作品。ベティスは多数のカーペンターズの作品のほか、マドンナ、ホイットニー・ヒューストンなどにも歌詞を提供している。

緩やかなバラード・ナンバー。この曲も5枚目のシングルとなっている。全米7位を獲得。

ポーカロ本人だけでなく、兄のジェフ、デイヴィッド・ペイチ、ルカサーらトトのメンバーもバックを固めている。

いつものエモーショナルな歌声とは違った、繊細で静かなマイケルの魅力をフィーチャーしたこの曲は、派手なナンバーが多い本盤では、異彩を放っている。

「P.Y.T.」はソウルシンガー、ジェイムズ・イングラムとジョーンズの作品。6枚目のシングルとしてカットされている。全米10位。

アップ・テンポのファンク・ナンバー。イングラムは当時はセッション・ボーカリストとして活動しており(あの「愛のコリーダ」のバックコーラスもつとめている)、ジョーンズに歌の実力を認められて83年にソロデビューする。

まだ無名時代のイングラムが書いた曲だが、ジョーンズのノリのいいアレンジも相まって、なかなかイケるのだ、これが。

マイケルのハイトーンのボーカル・スタイルともしっかりなじんだ佳曲。

当時は誰の作曲かを気にせずに聴いていた人がおそらく大半だろうが、今一度作曲者をきちんと意識して聴いてみるといいんじゃないかな。

ラストの「レディ・イン・マイ・ライフ」はテンパートンの作品。

メロウなラブバラード・ナンバー。しっとりとしたメロディ、奥行きを感じさせるアレンジで、マイケルの大人な面がよく表現された一曲だ。

シングルにはならなかったが、隠れた名曲として、いまも愛聴されていることだろう。

最終的に7枚ものヒット・シングルを生み出した本アルバムは、商品としてのレコードの頂点を極めただけでなく、ポップ・ミュージックという「芸術作品」としても最高のクオリティを保持していると思う。

マイケル・ジャクソンの天性の歌のセンス、彼自身を含む作曲家陣のすぐれたメロディ・センス、そしてクインシー・ジョーンズの、卓越したサウンド構築のセンス。

さらに加えるならば、マイケルのダンスの才能、MVでの華やかなパフォーマンスといった80年代ならではの付加価値も合体して、この「スリラー」はポップ史上屈指の傑作となった。

マイケルの通り名「キング・オブ・ポップ」の座はこの一枚で決定したといっていい。

そして40年の歳月を経た現在も、いまだに彼の王座はゆらいでいない。

そのくらい「スリラー」は、問答無用の名盤なのである。

<独断評価>★★★★★

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音盤日誌「一日一枚」#490 EAGLES「HOTEL CALIFORNIA」(Asylum 755960509)

2023-03-22 05:00:00 | Weblog
2023年3月22日(水)



#490 EAGLES「HOTEL CALIFORNIA」(Asylum 755960509)

米国のロック・バンド、イーグルスの5枚目のスタジオ・アルバム。76年リリース。ビル・シムジクによるプロデュース。

イーグルスは71年レコード・デビュー。もともとはシンガー、リンダ・ロンシュタットのバックにいた4人により結成されたバンドだ。

メンバー交代、追加により5人となったイーグルスがリリースした最初のアルバム、それがこの「ホテル・カリフォルニア」だ。

セールス的には同年前半にリリースした「グレイテスト・ヒッツ1971-1975」に次ぐ大ヒットとなり、RIAAにより米国内で売れたアルバムの歴代第3位として認定されている。

そんなモンスター・アルバムのオープニングはタイトル・チューンの「ホテル・カリフォルニア」。バンドメンバー、ドン・フェルダー、グレン・フライ、ドン・ヘンリーの作品。

ドン・フェルダーの12弦ギターのアルペジオから始まる、裏打ちビートのナンバー。リード・ボーカルはドラムスのドン・ヘンリー。シングル・カットされ、全米1位となった。

憂いに満ちたメロディとハスキーな歌声、深く分厚いギター・サウンドがアピールして、本国だけでなく日本でもヒットした。

77年当時、筆者は大学の友人と一緒にバンドをやっていたのだが、メンバーのひとりがこの曲をやりたいと言い出したものの、ギターひとりの編成だったためどうにも無理があり、断念したのを覚えている。2本、アコギも入れれば3本ないと、このサウンドを出すのは絶対不可能だよね。

いま聴いても、実にパーフェクトな構成の曲だと思う。

ことにフェルダー、ジョー・ウォルシュのそれぞれのギター・ソロの後、ふたりのツインギターへとなだれ込む展開。

その計算し尽くされた流れを超えられるギター・パフォーマンスは、その後のどのバンドからも出ていない。

本曲の歌詞の内容については、さまざまな考察がなされていて、それをひとつひとつ取り上げるのは無理なので、個人的な感想をひとつだけ述べておこう。

「69年以来、(ロックに)スピリットはない」という意味のフレーズに、筆者も敏感に反応していたひとりだった。

ロックがすっかり産業化されてしまい、本来の反骨精神を失っていった70年代の半ば過ぎに、彼らがはっきりと言葉にしてそれを指摘したことは(ひとによっては「なんだそんなこと当たり前の事実で、言うだけヤボってもんだろ」と反発するかもしれないが)、誰かが一度は明言すべき真実だろうなと思っていたから、ストンと腑に落ちるものがあった。

ロックは69年の時点で脳死状態に陥ったまま、それでも呼吸だけはしてかろうじて生きながらえ、しかしついに80年、レノンとボーナム、ふたりの英雄ジョンの死によって完全に絶命してしまったのだと思う。

ロック・スピリットとは何かという重いテーマに取り組んだ本曲は、すべてのロック・ファンに、鋭い問題提起を突きつけているのである。

「ニュー・キッド・イン・タウン」はシンガーソングライターのJ.D. サウザー、バンドのフライ、ヘンリーの作品。リード・ボーカルはグレン・フライ。先行シングルとしてリリース、全米1位を獲得している。

歌詞はダリル・ホール&ジョン・オーツのことをモチーフにしているという。イーグルスと歩みをともにしてきた、朋友というべきデュオのことを歌うことで、自分たちの世界をも同時に語る、そんな曲だと思う。

優しい雰囲気を漂わせる、どことなくマリアッチ風味のバラード。かつてはバンドの表看板だったのに、この曲が本盤ではフライの唯一のリード・ボーカルというのが、ちょっと残念だ。

「駆け足の人生」はウォルシュ、ヘンリー、フライの作品。リード・ボーカルはヘンリー。タイトル通り、アップ・テンポのロックンロール・ナンバー。シングル・カットされ、全米11位となっている。

74年のアルバム「オン・ザ・ボーダー」からのフェルダーの参加以降、バンド・サウンドのロック度が上がったイーグルスだが、ウォルシュの加入により、さらにロック化が加速した感がある。

スピーディなビート、ハードなツイン・ギター。ロックなイーグルスを代表する一曲が、まさにこれだ。

当然、このサウンドに拒否感を示すメンバーも、出ることとなった。

「時は流れて」はヘンリー、フライの作品。リード・ボーカルはヘンリー。

カントリー・ミュージックという、イーグルスの基本路線を踏襲したバラード・ナンバー。ピアノはウォルシュが担当。

哀感のあるメロディが、ヘンリーのしょっぱい歌声によくマッチングしている。

「時は流れて(リプライズ)」はLPのB面トップ。前曲のインストゥルメンタル・バージョン。ストリングス・アレンジはジム・エド・ノーマン。

「暗黙の日々」はフェルダー、ヘンリー、フライ、サウザーの作品。リード・ボーカルはヘンリー。シングル「ニュー・キッド〜」のB面。

ブルーズィなスライドギター・サウンドと、イーグルスの最大の売り物、ボーカル・ハーモニーが溶け合ったロック・ナンバー。

陰と陽が絶妙なバランスでブレンドされた、中期以降のイーグルス・サウンドの到達点と言える一曲だ。

「お前を夢みて」はウォルシュ、シンガーソングライターのジョー・ヴァイタルの作品。リード・ボーカルはウォルシュ。シングル「ホテル・カリフォルニア」のB面。

ウォルシュはギタリストとして語られることがもっぱらだが、彼は前のバンド、ジェイムズ・ギャングにいた頃からボーカルも担当しており、また曲も書いていたので、シンガーソングライターとしての彼にも、もっとスポットが当たっていいという気がする。

自らピアノを弾いて歌う、静かなバラード・ナンバー。メロディ、コーラスなどが少し、トッド・ラングレンの作風に似ている。

原曲のタイトルが「カワイコちゃんを手当たり次第」みたいなアレな意味なので、このみょうに美しい曲調はちょっと不思議だな。

「素晴らしい愛をもう一度」はベースのランディ・マイズナーの作品。彼自身のリード・ボーカル。

結成当時からのメンバーであったマイズナーは、新体制のイーグルスの音楽性に違和感を抱いていたのだろう、このアルバムの発表後の78年、バンドを去っている。

いかにもマイズナーらしい、フォーキーで爽やかな曲調と、ハイトーン・ボーカル。

バックのハーモニーの素晴らしさは、イーグルスだから折り紙付きだ。

こういった本来のイーグルス・サウンドは、その後次第に消えていくことになる。

ラストの「ラスト・リゾート」は7分以上におよぶ、本盤で最も長尺のバラード・ナンバー。ヘンリーとフライの作品。リード・ボーカルはヘンリー。シングル「駆け足の人生」のB面。

歌詞内容はアメリカという国の荒廃、病いをテーマにしていて結構重く、タイトル・チューンと表裏一体を成しているようだ。

淡々と、時には切なく歌うヘンリーの、視線の向かう先は絶望の未来か、それとも一抹の希望の光か…。

いろいろと、考えさせられる。

オーケストラにより長く続くリフレインが、この内省的な曲に、さらなる深みを与えているように思う。

カリフォルニアの青空のように澄み切った世界を歌っていたイーグルスが、5年あまりの歳月を経て、爛熟し退廃した文化をも歌うようになった。

日本の某音楽評論家は初期のイーグルスを「あれはグループ・サウンズでしょ」とバカにしていたが、それはあんまりな言い方だったと思う。

彼らは西海岸でテイク・イット・イージーな生活を送りながらも、70年代のアメリカが、そしてロックが抱えていた病いをずっと見据えていたのだ。

次第に彼らは歌詞を変え、サウンドも変えて、問題の本質を掘り下げていく。

もはや、気楽に構えることなど出来ないくらい、自分たちの国は退廃し、病み切ってしまったと感じた時、「ホテル・カリフォルニア」という曲は生まれたのだろう。

それまで洋楽ポップスの歌詞なんかろくに聞こうとしなかった日本のリスナーにも、歌詞の意味を考えさせるきっかけになった一曲。

ロックの転換点、そしてイーグルスの転換点としても、大きな意味を持つ一枚。

彼らの音楽が流行りものとしてだけ、優れているのではないことを、もう一度聴いて確認してほしい。

<独断評価>★★★★☆

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音盤日誌「一日一枚」#489 OASIS「BE HERE NOW」(SME 488187 2)

2023-03-21 05:04:00 | Weblog
2023年3月21日(火)



#489 OASIS「BE HERE NOW」(SME 488187 2)

英国のロック・バンド、オアシスのサード・アルバム。97年リリース。オーウェン・モリス、ノエル・ギャラガーによるプロデュース。

マンチェスターで91年に結成されたオアシスは94年にレコード・デビュー。ファースト・アルバムが全英1位、全世界でも500万枚以上を売り上げ、一躍人気バンドへ。

95年のセカンド・アルバムは2500万枚以上のセールスを達成して、人気を世界的なものとした。

が、このサード・アルバムは前作ほどの好セールスを出せなかった。ギター・サウンドが分厚く重たくなり、曲調もヘビーで暗く、長めのものが多くなったことが大きく影響しているのだろう。

オープニングの「ドゥー・ユー・ノウ・ワット・アイ・ミーン?」はシングル・カットもされ、全英1位となったナンバー。バンドのギタリスト、ノエル・ギャラガーの作品(以下同様)。

ほぼすべての曲のリード・ボーカルは、ノエルの弟であるリアム・ギャラガー。彼の声、ルックス、カリスマ性ゆえに、このバンドはビッグになったのは間違いない。

この曲でも、そのパワフルな歌声の威力は、存分に発揮されている。

サウンド的には、エレクトロニクス処理が大胆に導入されている。前の2枚ではわりとシンプルなサウンドが多かったオアシスとしては、初めての試みといえる。

うねるようなサウンドが、実に印象的。終盤のギターの残響音には、後期ビートルズの「ホワイト・アルバム」あたりに見られるアヴァンギャルド・サウンドの影響を感じるね。

「マイ・ビッグ・マウス」はギターのフィードバック音から始まる、ハードなロック・ナンバー。

ギターの音が前2作に比べて、明らかに激しい。当バンド比50パーセント増量、そんな感じだ。

そういう音を、以前の軽めのポップな音よりも、本来彼らはやりたかったのではないだろうか。

「マジック・パワー」は珍しくノエル自身が歌うナンバー。マイク・ロウ(ゲスト)のエレクトリック・ピアノの伴奏で静かに始まったと思うと、ハードなギター・サウンドに切り替わる。

深みのあるバンド・サウンド、そしてノエル兄貴がけっこう味のある歌を聴かせてくれる。

いつもは自作曲をすべて弟に譲り、バックコーラスに徹しているノエルだが、もう少しボーカリストとして前に出てきてもイケるんじゃないかと感じさせる。

事実、2009年に彼が脱退してオアシスが終了した後は、自らのバンド、ハイ・フライング・バーズを率いて、リード・ボーカルをとるようになっている。

自分が作った曲は、やはり自分で歌うのがベスト。現在が彼のアーティスト活動としては最良な状態と言えるのではなかろうか。

「スタンド・バイ・ミー」は「ドゥー・ユー〜」に次いでシングル化されたナンバー。全英2位。

キャッチーなメロディ・ラインにどことなく既聴感がある。70年代のグラム・ロックっぽいなと思っていたら、この曲、モット・ザ・フープルの「すべての若き野郎ども」(デイヴィッド・ボウイ作)に影響を受けて書かれたのだとか。

オアシスといえばビートルズの強力な影響下にあることで知られているバンドだが、もちろん、それ以外の英国バンドにもさまざまなインスパイアを受けているのだ。

本盤の中では比較的明るいムードを持ち、ゆったりとしたテンポで歌われる、ロック・バラードの佳曲。ヒットしないほうがおかしいくらい、よく練られたメロディだ。

「アイ・ホープ、アイ・シンク、アイ・ノウ」はアップ・テンポのロック・ナンバー。

報道メディアとはトラブルを起こしがちの、血の気の多いオアシスらしい、自己主張の強い歌詞が印象的だ。

「ザ・ガール・イン・ザ・ダーティ・シャツ」はピアノをフィーチャーし、バック・コーラスが耳に残るミディアム・テンポのナンバー。

この曲は、ノエルが当時付き合っていた女性とのエピソードから作られたという。

オアシスには、そういう身辺の出来事からインスピレーションを受けて作られた曲が多い。そのあたりが、聴き手の共感を強く呼ぶポイントなのだと思う。

「フェイド・イン–アウト」は米国の俳優、ジョニー・デップがゲスト参加したナンバー。

アコースティック・ギターをバックに、デップは達者なスライド・ギターを披露している。カオスなギター・サウンドが展開する一曲。

いつものオアシス・サウンドとは一味違う、ブルーズィでディープな世界がそこにある。

「ドント・ゴー・アウェイ」は日本でのみシングル化され、TVドラマ「ラブ・アゲイン」の主題歌にもなったバラード。

恋人との別れを歌っているように見えるが、曲想自体は母親の病気入院の経験から得たもののようだ。

切ない歌唱と歌詞が、心に沁みるナンバーだ。

「ビィ・ヒア・ナウ」はアルバム・タイトルともなったミディアム・テンポのロック・ナンバー。

そのヘビーでタイトなビートは、ビートルズよりもストーンズの線に近い。

先輩バンドのエッセンスを巧みに取り入れて、自分たちのものに昇華していく彼らのテクニックは、なかなかのものだと思う。

「オールド・アラウンド・ザ・ワールド」は翌98年にシングル・カットされたナンバー。全英1位。

こちらはビートルズの影響が強く感じられるメロディ・ライン、アレンジのバラード。9分20秒と「ヘイ・ジュード」なみに長い。

オーケストラを使い、キャッチーなコード進行、リフレインをずっと繰り返していく構成は、まさにヒット曲の王道パターン。

オアシスのポップ性を凝縮した一曲。ギター・ロックの性格の濃くなった本盤でも、この曲があれば、過去からのファンも、新たなファンも納得することだろう。

「イッツ・ゲッティン・ベター(マン!!)」はハードなギター・サウンドの、陽気なロックンロール。

この曲もストーンズを90年代ふうにアップデートした感じのナンバー。ワウ・ペダルを使ったギター演奏が、クラシック・ロックっぽい。

筆者のようなオールド・ロック・ファンにも馴染みやすいサウンドだ。ひたすらノリノリで楽しめる一曲。

「オールド・アラウンド・ザ・ワールド(リプライズ)」は同曲をオーケストラ・アレンジし、バンドの音も加えたインストゥルメンタル・ナンバー。

最後の効果音は、飛行機のハッチを閉じた音だそうだ。これを聴くと「ああ、一枚が終わったな」と感じる。

ポップ・アルバムとしての「かたち」もしっかりと整えた構成をもつ本盤、前作ほどのセールスはなかったが、むしろ完成度は高まったように感じる。

ロック・バンドとしての攻めの姿勢、ポピュラー・ソングの作り手としての職人技、この両者が絶妙なバランスをとっている。

オアシスのロックは、筆者のような70年代にロックを青春の伴侶として愛好した者にとってみれば、ストレートに「カッコいい!」「イカしてる!」と叫んで飛びつくようなものではない。

その魅力、よさは十分に分かるのだが、いまさらミーハーに飛びつくのは、かなーり恥ずかしいものなのだ。

そういうわけで、おっさんロック・ファンとしては、90年代に若者たちが「これイイ!」と無邪気に騒ぐのを遠まきに眺めていたわけだが、家でこっそり聴く分には許されるんじゃないかなと思っていた。

若くて稚気にあふれたロックも、時にはいいもんだ。

<独断評価>★★★☆

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音盤日誌「一日一枚」#488 JOHNNY GUITAR WATSON「A REAL MOTHER FOR YA」(Sequel NEMCD775)

2023-03-20 05:00:00 | Weblog
2023年3月20日(月)



#488 JOHNNY GUITAR WATSON「A REAL MOTHER FOR YA」(Sequel NEMCD775)

米国のミュージシャン、ジョニー・ギター・ワトソンのスタジオ・アルバム。77年リリース。ワトソン自身によるプロデュース。

ジョニー・ギター・ワトソンは本欄では以前に2枚取り上げているが、筆者としてもお気に入りのアーティストのひとりである。

ワトソンの名前を知ったのは筆者が大学生になった頃だったろうか。同じクラスにブラック・ミュージックが好きな友人がひとりいて、「カッコいい黒人ミュージシャンがいる」と彼に教わった記憶がある。

この「A REAL MOTHER FOR YA」も、その時期にリリースされたアルバムだ。

オープニング曲はその「A REAL MOTHER FOR YA」。シングル・カットされ、全米41位、R&Bチャート5位と、ワトソン最大のヒットになった曲である。ワトソンの作品(以下同様)。

カネのろくにない若者のシケた日常をユーモラスに描いた歌詞内容がウケてヒット、ワトソン再ブレイクのきっかけとなった。

当時の人気TV番組「ソウル・トレイン」に出演して、その小粋なパフォーマンスを披露したのも、大きかったんだろうな。

すっとぼけた雰囲気で皮肉を交えながらラップ調の歌を聴かせた彼はまさに、今でいうところのヒップホップ・ミュージックの先駆者だった。

のち89年にヒップホップのアーティスト、キャッシュ・マネー&マーヴェラスがこの曲をカバー、オリジナル音源をサンプリングしたことで、再度ワトソンに注目が集まったナンバーでもある。

「NOTHING TO BE DESIRED」は、ワトソンの語り(というか口説き?)から始まる、ミディアム・テンポのナンバー。お前以外に欲しいものはない、と愛する女性に伝えるストレートなラブソング。

ホーンやフェンダー・ローズをフィーチャーしたゴージャスなアレンジ。ワトソンのアドリブ・スキャットがジャズィでなかなか洒落ている。

おちゃらけまくるのもワトソンなら、ぐっと素になってマジ口説きするのもワトソン。さすが、ホワイト・スーツが世界一キマる伊達男である。

ヒップホップ・デュオ、オーガナイズド・コンフュージョンが97年に「SOUNDMAN」という曲でこの曲をサンプリングしている。やはり、ワトソンをリスペクトするヒップホップ系ミュージシャンは相当数いるのだろう。

ワトソンは35年テキサス州ヒューストン生まれ。50年代はロサンゼルスに移住、若くしてプロのギタリスト/ピアニストとなり、RPM、キーン・レーベルでブルース曲をリリース、数曲を小ヒットさせている。

もともとブルース畑だった彼が大きくイメージチェンジをしたのが70年代。流行のファンク・サウンドを取り入れ、ブルースにこだわらないコンテンポラリー・ミュージックを目指すようになったのだ。

76年DJMレーベルに移籍し、伊達者のイメージを演出した同年のアルバム「AIN’T THAT A BITCH」をリリースして注目を集め、翌年の本盤でブレイクした、というわけだ。

「YOUR LOVE IS MY LOVE」は小気味のいいドラム・ブレイクで始まるナンバー。

この曲は、ボコーダーという当時の最新兵器を全面的に駆使しているのが一番の特徴だ。

生のボーカルではなく、シンセサイザーにより変換された音声のみの歌なんて、当時は画期的だった。きょうびでは珍しくないけど。歌詞は分かりやすく、ほぼ求愛の言葉のみで構成されている。

このようにさまざまな楽器をマスターしていることも、ワトソンの強みだ。本盤では、ドラムスと三管を除いたすべての楽器をワトソンがプレイしている。まさにマルチ・プレイヤーだ。

日本の山下達郎あたりも、ワトソンを目標として、ひとりレコーディング体制を作り上げていったのだろう。

「THE REAL DEAL」は、ギターとスキャットのユニゾン・プレイで始まるバラード・ナンバー。

この曲では、とびきりの美女に眩惑される、軽薄なチャラ男的キャラをロールプレイするワトソン。

すべてのオトコはマブいオンナに弱いのだという永遠不滅の真理を、ワトソンは示してくれる。

憂いを含むボーカルとギターに、なんとも男の色気が漂う一曲。

「TARZAN」は、野生動物の鳴き声のSEから始まる、歌詞のユーモラスなナンバー。街を歩くカワイコちゃん(死語)に対して、思わず知らず雄叫びを上げてしまう、しょうもない野郎どもの歌だ。

前のアルバムに収録された「SUPERMAN LOVER」同様、スーパー・ヒーローもイカした女性の前ではまるで形無しという、ワトソンお得意のパターンだな。

ここでのソリッドでファンキーなワトソンのギターが、ハード・ロックを聴き慣れた当時の筆者にはえらく新鮮に聴こえたことを、昨日のことのように思い出す。

筆者が現在、ギブソン・エクスプローラーというギターを持つようになったのも、エリック・クラプトンの影響などではなく、実はジョニーGことワトソンへの憧れからなのだよ。

「I WANNA THANK YOU」

ホーン・アレンジで始まるミディアム・テンポのバラード。恋人への感謝の気持ちを語るナンバー。

ダンサブルなビート、エレクトリック・ピアノのソロがメロウな気分を盛り上げてくれる。

切なく泣きの入ったワトソンのボーカルが、心にグッとくる一曲だ。

ラストの「LOVER JONES」はミディアム・テンポのファンク・ナンバー。

ざっくりとした感触のサウンドが耳に心地よい。アコースティック・ギターのソロも、面白い趣向だ。

ワトソンの意外と骨太なボーカルが聴ける一曲として、おすすめ。

以上、ブルースをベースとしながらも、それからいったん離れてワン・グレード上の音楽を目指したサウンド・クリエイター、ワトソンのアイデアが詰まった一枚。

そのソフィスティケイトされた音は、たとえ45年以上経とうと色褪せていない。

ジョニー・ギター・ワトソンこそは、真にクールなミュージシャン。聴くたびにそう確信する。

<独断評価>★★★★

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音盤日誌「一日一枚」#487 IKE AND TINA TURNER「PROUD MARY」(Point Productions 2621402)

2023-03-19 05:00:00 | Weblog
2023年3月19日(日)



#487 IKE AND TINA TURNER「PROUD MARY」(Point Productions 2621402)

米国のソウル・デュオ、アイク&ティナ・ターナーのコンピレーション・アルバム。88年リリース。

アイク&ティナはギタリスト/ピアニストのアイクと、シンガーのティナの夫婦デュオ。

56年に出会い60年にレコード・デビュー、76年に解散(のち離婚)するまでに約40枚ものアルバムをリリースしている。

その魅力はティナのソウルフルでセクシーな歌声と、それをしっかりバックアップする、アイクの生み出すファンキーなサウンド、その両方にある。

このアルバムは、60年代後半から70年代前半を中心とする彼らのレコーディングの中から、おもに他のアーティストのカバー・ナンバーをセレクトした編集盤である。

今日ではなかなか聴けないようなレアな音源もいくつかあって、聴き逃がせない。原盤はスタート・レコード。

【個人的ベスト6:第6位】

「ドリフト・アウェイ」

カントリー畑のソングライター、メンター・ウィリアムズ70年の作品。白人シンガー、ジョン・ヘンリー・カーツが72年に初録音した。

これを昨日取り上げたラムゼイ・ルイスの「ジ・イン・クラウド」のオリジナル・シンガー、ドビー・グレイが73年にカバーして、全米5位の大ヒットになった。

リフレインのメロディが印象的なカントリー・ロック・ナンバーをアイク&ティナがカバーすると、見事にパワフルなソウル・チューンに変わる。ティナの歌声が成せるワザである。

【個人的ベスト6:第5位】

「ゲット・バック」

知らぬものとてない、ビートルズ69年の大ヒット曲。レノン=マッカートニーの作品(実質はマッカートニー作)。

71年のアイク&ティナのアルバム「ワーキン・トゥゲザーにもこの曲が収められているが、バージョン違いであり、本盤がファースト・レコーディングだ。

本盤ではビートを強調したファンク・サウンド。「ワーキン」版ではピアノをフィーチャーし、リズムもアレンジもビートルズにかなり近い。

個人的にはこのファースト・バージョンを支持したい。原曲の持つソウルっぽさを、ティナが百倍に増幅して聴かせてくれているのだ。

【個人的ベスト6:第4位】

「ヤ・ヤ」

リー・ドーシー、クラレンス・ルイス、モーガン・ロビンソン、モーリス・レヴィ61年の作品。ドーシーの歌により大ヒット。全米7位、年間R&Bシングルの1位という輝かしい記録を作っている。

この曲の最も有名なカバー・バージョンはジョン・レノン版であろうが、アイク&ティナ版もそれにタメを張れるくらいの出来だ。

レノンがニューオリンズR&Bをそのまま継いだロックンロールとすれば、こちらはオルガンをフィーチャーした濃厚なサザン・ソウル。とにかく、ティナの粘っこいボーカルが最高に格好よろしいのだ。

【個人的ベスト6:第3位】

「シェイム・シェイム・シェイム」はシルヴィア・ロビンソン74年の作品。ソウル・バンド、シャーリー&カンパニーで全米12位の大ヒットとなった。

これをアイクは80年リリースのアルバム「ジ・エッジ」で取り上げているのだが、A面でのボーカルはかつての妻ティナなのである。つまり過去に録音したものをまとめたということなのだろう。

サウンドはディスコ、ファンク色が強い。女声コーラスを従え、この上なくパワフルなボーカルを聴かせるティナ。

オリジナルのシャーリー・グッドマンの高音ボーカルとは対照的な、ドスの効いた歌声のおかげで、まるで別の曲のようだ。

どんな曲をカバーしても、全部自分流に消化してティナ節にしてしまうところが、さすがだな。

【個人的ベスト6:第2位】

「シェイク」

サム・クック64年の作品。クックの死の直前に録音され、死後リリースされてヒットしたダンス・ナンバー。

オーティス・レディングの好カバーでも知られるこの曲を、彼ら以上にブルーズィにシャウトするティナ。

バックのホーン・サウンドも相まって、超絶盛り上がるナンバーだ。

同じくクック作の「フィール・イット」も収録されており、こちらは残念ながら選外だが、ご機嫌なサザン・ソウルに仕上がっている。

【個人的ベスト6:第1位】

「プラウド・メアリー」

アルバム・タイトルとなったナンバー。いうまでなく、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル、69年の大ヒット(全米2位)のカバー。ジョン・フォガティの作品。

アイク&ティナのこの曲といえば、日本でも人気のあったアルバム「ワーキン・トゥゲザー」に収録され、71年にシングル・カットされ全米4位の大ヒットとなったバージョンを思い起こす人が多いだろうが、本盤のはそれではない。それに先立つファースト・バージョンなのである。

「ワーキン〜」版ではスローで始まり、激しいアップ・テンポに変わるという構成だが、本盤バージョンではミディアム・テンポで通しており、アレンジもソウルというよりはオリジナルのカントリー・ロックに近い。

また、アイクが低音を効かせたボーカルを最後までデュエットで聴かせるのも、「ワーキン〜」版との大きな違いだ。

どこかまだ荒削りな感じはするが、間違いなくダイヤモンドとなりうる原石。それが本盤バージョンの印象だ。

アイクはこのバージョンを叩き台にして、サウンドにさらなる工夫を加えて、あのヒット・シングルは生まれたのだ。

オリジナル・レコーディングを聴くことで、その曲への理解をさらに深めることが出来る。これは実に貴重な経験である。

そしてこれらの曲以外にも、本盤には佳曲は多い。

例えばバーバラ・ジョージの「アイ・ノウ」、エッタ・ジェイムズの「サムシングズ・ゴット・ア・ホールド・オン・ミー」、ロイド・プライスの「スタッガー・リー」、リチャード・ベリーの「ルイ・ルイ」、ファッツ・ドミノの「エイント・ザット・ア・シェイム」、エディ・フロイドの「ノック・オン・ウッド」、リトル・エヴァの「ロコモーション」といったあたりも、いい出来だ。

どの曲も、ティナの真摯なソウルを感じさせる熱唱であふれている。

これらを聴けば、ティナが当時より既に、単にお色気を武器とするだけのシンガーではなかったことが、よく分かるだろう。

彼女が実は、男性シンガーにおけるサム・クック、オーティス・レディング、女性ではアレサ・フランクリンのような「本格派」であったこと、それは80年代以降のソロ活動での、いっそうの活躍ぶりを見れば、一目瞭然だ。

76年、アイクとのコラボレーションは、非常に残念なかたちで終焉を迎えてしまった。つくづく夫婦とは難しいものだなと思う。

それでも20年に及ぶ、ふたりの共同作業はソウル・ミュージック全体に豊かな収穫をもたらした。

彼らのサウンドを聴き返して、その功績をいま一度たどってみるのも一興だと思うよ。

<独断評価>★★★☆

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音盤日誌「一日一枚」#486 THE RAMSEY LEWIS TRIO「THE ‘IN’ CROWD」(Universal Music/Verve 0602517448247)

2023-03-18 05:18:00 | Weblog
2023年3月18日(土)



#486 THE RAMSEY LEWIS TRIO「THE ‘IN’ CROWD」(Universal Music/Verve 0602517448247)

昨年9月に87歳で亡くなった米国のジャズ・ピアニスト、ラムゼイ・ルイスが率いるトリオのライブ・アルバム。65年リリース。エズモンド・エドワーズによるプロデュース。

ラムゼイ・ルイスといえば、たいていのリスナーは「サン・ゴッデス(太陽の女神)」という曲を思い起こすだろうが、あれはルイスというよりは実質アース・ウィンド・アンド・ファイアの作品だから、代表作とするにはためらいがある。

ルイスといえば、なんといっても「ジ・イン・クラウド」ではなかろうか。なにしろ、全米5位、R&Bチャート2位の大ヒットとなったのだから。

その曲が収められているのが本盤。65年7月にワシントンDCのジャズ・クラブ、「ボヘミアン・キャバーンズ」で行われたライブを収録したものだ。

オープニング・ナンバーがその「ジ・イン・クラウド」だ。

R&Bコンポーザー、ビリー・ペイジ64年の作品。オリジナルはシンガー、ドビー・グレイのシングル。

これはR&Bチャートで11位のスマッシュ・ヒットとなったが、それを上回る大ヒットを達成したのがラムゼイ・ルイス・トリオなのである。

ライブでは冒頭からオーディエンスの手拍子が入るなど熱気がムンムンで、この曲がすでにレギュラー・レパートリーとして大人気を博していたことが感じ取れる。

とにかく、本盤ではオーディエンスのノリが最高にいいのだ。

ファンキーなリズムに乗って延々と繰り広げられる、ルイスのピアノ演奏。そのグルーヴにひたすら身を委ね、クラップし、陶酔するオーディエンス。

ボーカルを一切使わずに、演奏だけでこんな熱狂状態を生み出せるとは!

インストゥルメンタル、恐るべしと思わずにはいられない。

続いて演奏されるスロー・バラードは「シンス・アイ・フェル・フォー・ユー」。

バディ・ジョンソンの作品。ジョンソンはジャンプ・ブルースの巨匠で、この曲は45年に書かれている。邦題は「君にダウン」。

ブロック・コードを多用したロマンティックなプレイで、盛り上げるルイス。場内もしっとりとした雰囲気になる。

「テネシー・ワルツ」は言うまでもなく、パティ・ペイジ50年の大ヒットで知られるカントリーの名曲。ピー・ウィー・キング、レッド・スチュワートの作品だ。

ここではエルディー・ヤングのベースをフィーチャーして、全編彼のソロ、そしてそれにシンクロしたスキャットが披露される。これがものスゴいテクニックなのだ。

そして、どえらくファンキー。およそこれまで聴いた中で、一番ファンキーな「テネシー・ワルツ」だろう。

ヤングやドラマーのレッド・ホルトは56年のトリオ結成以来、66年のメンバー交代まで10年間ルイスとずっと行動を共にしていた。また、その後も共演する機会が多い。

彼ら3人の長い付き合いが、ここで聴けるリラックスした演奏の、みなもとだったのだろう。

「ユー・ビーン・トーキン・バウト・ミー・ベイビー」はボビー・ティモンズ作の「モーニン」にちょっと似たフレーズを持つ、ゴスペルライクなナンバー。カナダのシンガー、ゲイル・ガーネット、レイ・リヴァースの作品。

ファンキーでノリのいいプレイは、この曲でも聴ける。

「スパルタカス」は多くの映画音楽で知られるアレックス・ノースの作品。同題の60年の映画より「愛のテーマ」を。

前半はルイスのリリカルなテーマ演奏を前面に押し出し、中間部はゆったりとしたラテン調のリズムに乗り、粘っこいピアノ・ソロが続く。そして、終盤は再び静かなテーマに戻って終わる。

静と動がたくみにブレンドされた、味わい深い一曲。

「フェリシダーデ(ハッピネス)」はこれも映画音楽からのチョイスだ。

59年のフランス映画「黒いオルフェ」の挿入歌。アントニオ・カルロス・ジョビン、ヴィニシウス・デ・モラエス作のボサノヴァ・ナンバー。

速いテンポで、明と暗を織り交ぜたメロディを紡いでいくルイス。それを着実にサポートするリズム・セクション。実にスリリングなトリオ演奏だ。

途中の、ピアノとドラムスの掛け合いもなかなか聴かせる。場内も自然とヒート・アップして行くのが、手にとるよう。

ラストの「カム・サンデー」は42年、デューク・エリントン作のバラード・ナンバー。

ここではピアノ・ソロをフィーチャー。ルイスは繊細にして力強いタッチで、この曲のセンチメンタルな持ち味を、最大限に引き出している。

ジャズがまだポピュラー・ミュージックの王者であり、メインストリームであった時代、聴くだけでなく「のれる」音楽であった時代の記録。それがこの「ジ・イン・クラウド」。

ファンキー・ジャズの醍醐味を味わえる一枚。バーボン・ロックのお供に、ぜひ。

<独断評価>★★★☆

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音盤日誌「一日一枚」#485 CHRIS CONNOR「CHRIS」(東芝EMI/Bethlehem TOCJ-9017)

2023-03-17 05:34:00 | Weblog
2023年3月17日(金)



#485 CHRIS CONNOR「CHRIS」(東芝EMI/Bethlehem TOCJ-9017)

米国の女性ジャズ・シンガー、クリス・コナーのスタジオ・アルバム。56年リリース。53〜55年録音。

クリス・コナーの名前を知っているリスナーは、今では極めて少ないであろうが、彼女が全盛期の60年代あたりは、日本にもけっこうファンがいたものだ。ジャズを志す若い女性シンガーにも、彼女のスタイルを真似するひとが少なからずいた。

そんなコナーは27年カンザスシティ生まれ。大学生時代に自分の歌が喝采を受けたことがきっかけで、シンガーを志すようになる。

ニューヨークに移住、バンドリーダー、クロード・ソーンヒルに認められ、49年に彼のレコードでコーラスとしてデビュー。以後、彼の楽団でレコードを出す。

スタン・ケントン楽団にかつて所属していたシンガー、ジューン・クリスティがコナーの歌を聴き、後任シンガーとしてケントンに強く推薦したことで、コナーの入団が決定する。

そこでヒット曲も出したが、ツアーが苦手なコナーは早々にケントン楽団を辞して、ソロに転向する。

折り良くベツレヘム・レーベルと契約、数枚のアルバムをリリースするが、その最終作がこの「クリス」である。

オープニングの「オール・アバウト・ロニー」はバラード・ナンバー。ジョー・グリーンの作品。バックはエリス・ラーキンス(p)・トリオ。

グリーンはソーンヒル楽団のロード・マネージャーを務めていた人で、コナーがプロになるきっかけを提供した、いわば恩人のひとりである。本曲はスタン・ケントン時代の53年にも録音している。

低めのハスキーな声でしっとりと歌うコナー。心が休まる一曲だ。

「マイザーズ・セレナーデ」は「ギミー・ギミー・ギミー・ギミー」という別タイトルでも知られるナンバー。

フレッド・パトリック、クロード・リース、マーヴィン・フィッシャー、ジャック・ヴァルの作品。バックは本曲から3曲連続でサイ・オリヴァー楽団。

ユーモラスな歌詞を、ビッグ・バンドをバックに歌うコナー。その大仰なサウンドにも決して引けを取らない、堂々たる歌いぶりである。

「エヴリシング・アイ・ラヴ」はコール・ポーターの作品。

ゆったりとしたテンポのスウィング・ナンバー。ゴージャス感の高いホーン・アレンジは、さすがサイ・オリヴァー楽団だ。

そのバッキングで悠々と歌うコナー。20代半ばにして、すでに姐御感があるな。

「インディアン・サマー」はアル・デュビン、ヴィクター・ハーバートの作品。

前半のインストに続いて登場するコナーは、まるで男性シンガーのように低い声で、一瞬「チェット・ベーカーか?」と思ってしまうほど(笑)。姐さん、カッケー。

「アイ・ヒア・ミュージック」はフランク・レッサー、バートン・レーンの作品。軽快なテンポのスウィング・ナンバー。バックはエリス・ラーキンス・トリオ。

ここでのコナーは、ほどよくリラックスした雰囲気で、自然なフェイクを聴かせてくれる。

「カム・バック・トゥ・ソレント」は「帰れソレントへ」の邦題でもよく知られるカンツォーネ。デ・クルティス兄弟の作品。バックのエリス・ラーキンスによるアレンジ。

小気味よく、スウィングするコナー。元はイタリア産の曲とは思えないくらい、ジャズ・ソングっぽく生まれ変わっている。

「アウト・オブ・ジス・ワールド」はジョニー・マーサー、ハロルド・アーレンの作品。バックはこれと次の曲はヴィニー・バーク(b)・クィンテット。

クラリネットの響きがノスタルジックなサウンドに乗せて、軽快に歌うコナー。

名バラード「虹の彼方」で知られる作曲家アーレンの、もうひとつの側面、動的なメロディの魅力が楽しめるナンバーだ。

「ラッシュ・ライフ」はエリントン楽団のビリー・ストレイホーンの作品。

静かなムードのバラード。ギター、フルートをフィーチャーしたバッキングが雰囲気を出している。

コナーの歌唱も、まったりとしていてナイス。

「フロム・ジス・モーメント・オン」はコール・ポーターの作品。バックはこの曲からラストまでラルフ・シャロン(p)・グループ。

アップ・テンポのスウィング・ナンバー。シャロンの達者なピアノはもとより、ジョー・ピューマのギターによるバッキングがいい感じだ。

こんな上手い演奏がバックなら、さぞ歌って楽しかろう。実際、コナー姐御もご機嫌な感じで歌いまくっている。

「ア・グッド・マン・イズ・ア・セルダム・シング」はチャールズ・ディフォレストの作品。ディフォレストは24年生まれのコンポーザー/シンガー。

ハービー・マンのフルート、シャロンのピアノのアンサンブルが美しいスロー・ナンバー。ジョージ・シアリングの流れを汲む、クール・ジャズの見本のような演奏だ。

コナーの抑えめのボーカル表現も、文句なしに素晴らしい。

「ドント・ウェイト・アップ・フォー・ミー」は同じくディフォレストの作品。

緩やかなバラード・ナンバー。憂いを含んだメロディを優しく歌いあげていくコナー。

しみじみとした情感が伝わる一曲だ。

ラストの「イン・アザー・ワーズ」はいうまでもなく「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」として知られるナンバー。バート・ハワード54年の作品。

意外と古いこのナンバーを、コナーはごく初期にカバーしている。これがなかなかモダンで洒落た仕上がり。

55年頃に録音されたとは思えないくらいだ。今聴いても、まったく古びた感じがしないのだ。

スローで始まり、スウィングに切り替わり、さらにアップに変わるなど自由自在なアレンジで、聴くものを退屈させない。

そして、コナーのほどよいハスキー・ボイスは、ロマンティックなこの曲に最高に合っていると思う。数ある「「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」の中でも一、二を争う名唱だと言える。

以上12曲。クリス・コナーのクールで小粋な歌がたっぷり楽しめる一枚だ。

70年近く経とうが、本当にすぐれた歌声はちゃんと残っていくもの。

「クリス」はまさに、その証明のようなアルバムだと思う。一度は聴いてみて欲しい。

<独断評価>★★★★

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