南国のビーチ沿いに佇む、とあるリゾートホテルがあります。
今日は、そのホテルの営業マンがオフィスにお越しになります。
こちらもお付き合いは長いので、気心の知れた人です。
優しくて低姿勢な人ですが、昨日の電話では少し元気がないような
感じでした。 何かあったのかな。
優しすぎて、少し繊細なところがあるような気もします。
ピンポーン♪
そうこう言っているうちに到着したようですね。 ガチャ
「ハァ~。まんぼ~さん、お久しぶりだね」
「ちょっと話をきいてくれるかな」
「昨日も何軒か営業先を訪問してたんだけど、朝から寝坊で2時間も
遅刻をしてしまって、訪問先で凄い空気になったよ」
「僕はなんてダメな営業マンなんだ」
まぁまぁ、元気を出して下さいよ。
えーとね、それは目覚まし時計が悪いですね。
ちゃんとセットをしたのに、鳴らないことがあるんだよな。
目覚ましに裏切られて、どれだけの人が涙を流してきたことか。
ねっ、鳴らなかったんでしょ?
「凄く鳴ってました」
(鳴ったんかい。しかも凄く。フォローが台無しじゃないか)
「2軒目でもやらかしたよ」
「資料の内容を思い出しながらホテルの説明をしたけど、途中から
自分でも何を言ってるかよく分からなくなってさ」
「担当者からの質問にも答えられなくて、契約なんて夢のまた夢だ」
「まぁ、ダメ営業マンの僕が全て悪いだけのことだよ」
そこまで自分を責めなくても良いのでは。
えーとね、それは本部が送ってきた資料がダメなんです。
日本で営業をするのに、本部がフランス語の資料を送ってくるから、
そんなことになってしまうのです。
ねっ、資料がフランス語だったんでしょ?
「全て日本語でした」
(日本語かい。しかも全て。もう助けられないぞ)
「3軒目なんて地獄絵図のようだったな」
「また来たの? とか言われたし、お茶も出なかったし」
「僕より20歳くらい年下の担当者にボロカスに言われたし、携帯を
イジりながら話を聞いてるし、チラチラと時計を見てるし・・・」
「まだ説明は終わらないの? なんて言われたのは初めてだよ」
「ハァ~、僕は向いてないから辞めた方がいいんだ」
それは酷い! あまりにも酷い!
僕も学生時代にバイトでやらかして、謝りに行った人の家で酷い目
にあいましたから、その状況や気持ちが良く分かります。
あれでしょ、帰り際に塩をまかれたでしょ?
「そこまではされてません」
(まかれたことにしてくれ。話が噛み合わないじゃないか)
仕事の話はやめて、大きく話題を変えましょう。
そうそう、テレビでこんなニュースがありましたよ。
空き巣が捕まって、警察が取り調べをしたところ、訪問販売の成績
が悪くてイライラしてた営業マンが犯人だったとか。
しかも、今年に大学を卒業したばかりだったそうですよ。
これが本当の、新入(侵入)社員ですね。 アハハハハ。
「僕みたいな営業マンだったのかな・・・」
(やばい、和ませるつもりが逆効果になってしまった)
そうだそうだ、学生時代にレスリングをしてませんでした?
以前から聞いてみようと思ってたんですよ。
「僕は小学校から大学までバスケットボールしか経験がないけど、
なんでレスリングをやってたと思うのですか?」
いや、その・・・。 いつも腰が低いから。 なんちゃって。
「・・・・・・・・・。 もう帰る」
(これもダメなのか。そっとしておくのが一番なのかもな)
偶然にも悪いことが続いてしまったのでしょう。
重い足取りで帰って行った彼の背中が、普段より小さく見えたのは
気のせいではないはず。
営業は花形であり、華やかなイメージを持たれることがあると思い
ますが、良いことばかりのはずがありません。
次にお会いする時には、元気になってることを願うばかりです。
ビーチ沿いのホテルだけに、風当りが強いのかも知れないな。
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