銀座のクラブで永田専務から思いもしなかった話を切り出されて藤岡工場長は面食らいました。
『そんなにしょげるなよ(笑)』
しょんぼりとグラスと睨めっこしている藤岡工場長を見て永田専務は慰めました。
こいつは…
永田専務は他の子分はあまり気に掛けませんでした。この藤岡だけは違いました。この男は使える!そう思った永田専務の見立ては間違っていませんでした。 むしろ期待以上の活躍をしてくれたと思っています。 だから永田専務は藤岡の努力に報いた役職を授けてきました。
アクの強さが藤岡のよいところでもあり欠点でもありました。 藤岡工場長には大卒者にはない魅力がありましたが、反発している者も大勢いるのも事実でした。 …俺が居なくなったら…
永田専務が権勢を誇示出来るのも今の地位があるからです。これが専務から降りて相談役になった時新しい専務の人事が永田派を一新することでしょう。
又新しい風を送り込む事で会社の活性化となるのが会社の狙いでした。
人事は会社員なら定めと観念しなければなりませんが、この場合は専務が変わりますから 役員(取締役)は手付かずであります。専務の人事権は本部長以下だからです。
*役員(取締役)の人事権は社長にあります。
他の奴はそれなりに泳ぐだろうが… 藤岡工場長の横顔が寂しげで、ブイブイ言わせた営業部長時代は見る影もありませんでした。
しかし話さなければ…
永田専務は人事権の非情さをどう話して良いものか迷っていました。
すると『専務!分かっていますよ』藤岡工場長は努めて明るく切り出しました。
『…』こいつも成長したもんだ。
藤岡工場長の横顔には悟り切ったのか穏やかさが漂って居ました。
『俺が出せる人事異動はこの秋が最後になるからな…』来春には専務から降りなければならない永田専務は相談役として閑職に引かねばなりませんでした。
報酬や待遇は専務からは数段落ちてしまいます。人事権は取り上げられてしまい、取締役すら除かれてしまいます。
まあ体のよい隠居でしょうね。
通常現役の専務から相談役となれば引退と見なされます。相談役を二年ほど勤める間現役の熱を冷ませる期間みたいな感じであります。そして退社となるのです。
『それでお前どこか行きたいところがあるか?』
今なら俺の力でどこでも行けるんだけど…
永田専務は最後は藤岡工場長の好きなところにやってやろう、と考えて居ました。
新しい専務には川中常務が決定していました。
川中常務は高級学歴が大好物の人でしたから、粗暴で高卒の藤岡は必ず疎外されるに違いありません。
又悪い事に藤岡が営業部長時代の部下には川中派が大勢いたのでした。
例えば後藤課長なんかは(いつも藤岡部長に盾突いていました)川中派です。この後藤は現在部長の席にありますが…反藤岡派が要所に席を並べて来ていました。
『専務、暫く考えさせ手ください』藤岡工場長には役員になるつもりでしたが、永田専務が退けばそれも叶わない夢となります。一からだとすると新たな仕事が見い出だせませんでした。
『そうか、分かったよ時間をやるからよく考えるんだな』
永田専務はそうは言ったものの時間はそうはありませんでした。
『まぁ来月の始めくらいまでには連絡をくれよ』
そんな話をして二人は別れたのでした。
…藤岡工場長は迷っていました。
永田専務が外れてそこから独り立ちしてどこまで行けるのか!
新しい川中専務は自分には合わないのは分かっていましたから…
下手すりゃあとんでもないところに飛ばされる可能性すらありました! いまさら川中派にすがりつこうとは思わないし、川中派の後藤以下が撥ね付けるのは火を見るより明らかだし…
そしていろいろ悩んだりした結果、自棄っぱちじゃあないけれど、自分は一度持った夢に向かってやるだけだ!
藤岡工場長はそう決意したのでした…
『そんなにしょげるなよ(笑)』
しょんぼりとグラスと睨めっこしている藤岡工場長を見て永田専務は慰めました。
こいつは…
永田専務は他の子分はあまり気に掛けませんでした。この藤岡だけは違いました。この男は使える!そう思った永田専務の見立ては間違っていませんでした。 むしろ期待以上の活躍をしてくれたと思っています。 だから永田専務は藤岡の努力に報いた役職を授けてきました。
アクの強さが藤岡のよいところでもあり欠点でもありました。 藤岡工場長には大卒者にはない魅力がありましたが、反発している者も大勢いるのも事実でした。 …俺が居なくなったら…
永田専務が権勢を誇示出来るのも今の地位があるからです。これが専務から降りて相談役になった時新しい専務の人事が永田派を一新することでしょう。
又新しい風を送り込む事で会社の活性化となるのが会社の狙いでした。
人事は会社員なら定めと観念しなければなりませんが、この場合は専務が変わりますから 役員(取締役)は手付かずであります。専務の人事権は本部長以下だからです。
*役員(取締役)の人事権は社長にあります。
他の奴はそれなりに泳ぐだろうが… 藤岡工場長の横顔が寂しげで、ブイブイ言わせた営業部長時代は見る影もありませんでした。
しかし話さなければ…
永田専務は人事権の非情さをどう話して良いものか迷っていました。
すると『専務!分かっていますよ』藤岡工場長は努めて明るく切り出しました。
『…』こいつも成長したもんだ。
藤岡工場長の横顔には悟り切ったのか穏やかさが漂って居ました。
『俺が出せる人事異動はこの秋が最後になるからな…』来春には専務から降りなければならない永田専務は相談役として閑職に引かねばなりませんでした。
報酬や待遇は専務からは数段落ちてしまいます。人事権は取り上げられてしまい、取締役すら除かれてしまいます。
まあ体のよい隠居でしょうね。
通常現役の専務から相談役となれば引退と見なされます。相談役を二年ほど勤める間現役の熱を冷ませる期間みたいな感じであります。そして退社となるのです。
『それでお前どこか行きたいところがあるか?』
今なら俺の力でどこでも行けるんだけど…
永田専務は最後は藤岡工場長の好きなところにやってやろう、と考えて居ました。
新しい専務には川中常務が決定していました。
川中常務は高級学歴が大好物の人でしたから、粗暴で高卒の藤岡は必ず疎外されるに違いありません。
又悪い事に藤岡が営業部長時代の部下には川中派が大勢いたのでした。
例えば後藤課長なんかは(いつも藤岡部長に盾突いていました)川中派です。この後藤は現在部長の席にありますが…反藤岡派が要所に席を並べて来ていました。
『専務、暫く考えさせ手ください』藤岡工場長には役員になるつもりでしたが、永田専務が退けばそれも叶わない夢となります。一からだとすると新たな仕事が見い出だせませんでした。
『そうか、分かったよ時間をやるからよく考えるんだな』
永田専務はそうは言ったものの時間はそうはありませんでした。
『まぁ来月の始めくらいまでには連絡をくれよ』
そんな話をして二人は別れたのでした。
…藤岡工場長は迷っていました。
永田専務が外れてそこから独り立ちしてどこまで行けるのか!
新しい川中専務は自分には合わないのは分かっていましたから…
下手すりゃあとんでもないところに飛ばされる可能性すらありました! いまさら川中派にすがりつこうとは思わないし、川中派の後藤以下が撥ね付けるのは火を見るより明らかだし…
そしていろいろ悩んだりした結果、自棄っぱちじゃあないけれど、自分は一度持った夢に向かってやるだけだ!
藤岡工場長はそう決意したのでした…