寝転がって気ままに想う事

 世の中ってこんなもんです・・
面白可笑しくお喋りをしましょうか ^^

役員の憂慮(11)

2010年10月28日 09時32分24秒 | 日記
『どうぞお入り下さい』
おばあさんが愛想笑いしながら手招きしています。
バスにいるときとはえらく違うなぁ 苦笑いして円山本部長は玄関の敷居を跨ぎました。
三和土(たたき)には女物の靴が一足行儀良く置かれていました。
『お客さん上がって真直ぐ行ったお部屋ですから…』 おばあさんの声だけの案内を背中で聞いて円山本部長は靴を脱ぎました。家の中は昔ながらの建具を使っています。古い座敷を通り縁側の廊下を渡ると離れ座敷になっていました。
こんな古家に離れがあるなんて…
なんか隠れ旅行のイメージが湧いて来た円山本部長はワクワクしながら離れの扉を開きました。
中は思った通り和室でした。八畳の落ち着いた座敷風に作られていました。
右手に広い窓がこしらえてあります。 その先に深雪が座っていました。麻色のスーツを着込んで如何にも清楚なイメージを醸し出していました。
『深雪…』声を掛けようとした円山本部長はハッとしました。窓から外を眺めていた姿があまりにも神々しく近寄りがたい雰囲気があったからでした。深雪は目を閉じているのか瞑想の境地にあるようで他人ではない関係の円山本部長でさえ近寄りがたいほどでした。ミシッ畳の軋む音で気がついたのか慌てながら深雪は顔を上げました。 円山本部長を見つけるとニコッと微笑んで頭を下げました。
『やあ!久し振りやね』笑顔で円山本部長も返しました。
『ほんとお久し振りですね(笑)』
そう言いながら円山本部長の顔をまじまじと眺めて
『思ったよりもお元気そうですね』
『うん、君の顔を見たら元気になったよ』笑いながら円山本部長は座敷の真ん中にある座卓の前にドカッと座りました。 『あらそこじゃあないですよ』深雪は笑いながら膝を進めて床柱の方を指しました。
『あっ!そうか』確かに、ここのお客なら床柱のある上座に座るのが普通でした。
でもそんな形式張ったことは円山本部長の一番苦手なところでもありました(笑)
『…んなこといいじゃあないかよ』円山本部長はそれよりも深雪が側に来るように手招きしました。
『えっ』分からない振りをして深雪は笑いました。
笑顔があい変わらずのチャーミングな姿は普段の修験者とは違う顔でした。…と言いましても修行の姿は見た事ありませんが(笑) きっと厳しい修行なんだろう…いくら想像しても円山本部長とは住む世界が違いました。
『失礼します』声を掛けて扉が開きました。
先程のおばあさんがお辞儀をしながら入ってきました。
『これお茶です』 円いお盆に茶碗が二つ…
そうか♪おばあちゃんが来るからか…深雪がこっちに来ない訳が分かりました。
『あの…食事は七時ですが、先にお風呂に入られますか?』
そうだった、ここは宿屋なんだよ。 深雪に気を取られていた円山本部長は時計を見ました。
深雪の方を伺うと貴方に任せます… と言う顔♪
『じゃあ少しその辺りをぶらぶらして来ますから』
『分かりました』 『この辺りは何もないけれど景色はいいからね…』
おばあさんが愛想良く頷くと下がって行きました。
『あのばあさん俺達のことどう思っているんだろうね』二人きりになって照れもあった円山本部長はおばあさんを冷やかしました。
『何言ってるのよ』クスクス笑いながら深雪はお茶椀に手を掛けていました。
深雪から微かに香水の香りが円山本部長の鼻をくすぐってきました。
ショートカットの髪が直ぐ横まであります。(当たり前だろ)
『ほんと久し振りだね…』
しみじみ円山本部長は呟きました。 『ええ…』素直に深雪も頷きます。 二人にはいつも一緒には居られない 運命にありました。(八月の無くしたリング参照して下さい)
『俺なぁ…』
何から話そうと円山本部長は考えました。その躊躇した時 、
『私貴方がどうしようと追いて行きます』
いきなり結論ですよ(笑)
円山本部長は改めて深雪の顔を見詰めました。
この女何もかも知って居ながらそれでも俺に追いてくるのか…
ここまで信頼してくれる根拠は何なんだろう。
理科系らしく理論的に解釈したいのですが、事女についてはお手上げでした(笑)
これが『愛』なんだろうなぁ…
理論を超えた愛情を円山本部長は何となく理解しようとしました…『考えこんじゃあ、あかんわ(笑)』
*あかん…関西言葉です。だめよ、の意味です(笑)深雪は円山本部長の心を知っていて明るく振る舞います。
『そうだね…』深雪の振る舞いに悩んでいた自分が恥ずかしくなりました。
『ねぇ散歩に行きましょうよ』
以前の深雪にはない積極性がここにはありました。
『そうやね』頷くと円山本部長は立ち上がりました。 外は日暮れにはまだ間がありそうでした…
コメント
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