寝転がって気ままに想う事

 世の中ってこんなもんです・・
面白可笑しくお喋りをしましょうか ^^

役員の憂慮

2010年10月14日 08時35分28秒 | 日記
十月も半ば過ぎて朝晩は清々しさを感じる季節になりました。役員の朝は早い…高辻役員は六時に起きて業界新聞紙に目を通します。これは日課としていますが、このご時世ではろくな記事がありません。それでも来週経営者会議で議題となる新型の通信機関連に浅く目を通しました。事業部制を取っている会社で五事業部ある中で売り上げ規模は二番目ながら利益が最低であるこの事業部の高辻役員はナンバー2にありました。新しい新社長を迎えてまだ日も浅いながら新社長の檄は鋭くさすがの鬼塚専務もタジタジでした。来週のことを考えれば胃が痛くなるほどのストレスを高辻役員は自覚するようになりました。『辞めたら終いや…』最近特にそんな自棄っぱちな思いが去来していました。ぼんやり新聞紙を眺めていたら香ばしいコーヒーにふと我に返りました。テーブルにトーストとサラダが行儀良く並べてありました。四十年連れ添った女房が賄いをしてくれる朝食が唯一の夫婦一緒に採る食事でした。きれいなトマトに多少食欲を感じた高辻役員は一欠囓るとコーヒーを飲みました。いつもながら睡眠不足で食欲がありません。それでも無理してトーストを食べ切るとミネラル水をグイ
ッと飲みパンを胃袋へと押し流しました。実に平凡な一日の始まりはいつもこんな風でした。
『今夜は?』なんて最初は尋ねた女房も最近では何も言わなくなっていました。役員になって三年…
本社の15階にある役員室に初めて足を踏み入れたあの感激を高辻役員は一生涯忘れることはないでしょう。本社でも1階14階までは雑踏の中にでもいるような殺伐としたオフィス風景は変わりませんでした。自分のデスクの横には他人のデスクが並んでいて卓上パソコンの叩く音や電話のけたたましく鳴る音に落ち着いて仕事が出来ない環境でした。自分の頭ごなしに他人の怒声が飛び交うオフィスは活気があると言えばあるのでしょうが、もの静かに考えを廻らす高辻役員には苦手な環境でした。
本部長になれば少しはマシになりましたが、それでも騒がしいオフィスからは離れる事はできず、また部下からの報告や子細な相談を受けなければなりませんでした。
役職でも部長やその上の本部長はほとんど変わりない仕事量で多少の責任の重さが違う程度ではあまり偉くなった気分はありませんでした。
事実給料なんて数万円しか違いません。
それどころか査定によってはS級の部長の方が高いくらいでしたから…そんなまぜこぜのオフィスから一つ上がっだけで、この15階は別世界でした。
ホテルを思わすような気品あふれた通路をはさんでその役員室はありました。分厚い絨毯を踏み締め歩く姿を女房に見せてやりたいほどでした。役員室はあくまでも重厚で一部上場企業でも有数の 造りになっていました。
役員室の窓は大きく遠く新宿の構想ビルが雲にたなびく姿が一望できました。
この風景をわが物にしただけでも役員になった値打ちがあったといっても過言ではないでしょう。
少し下の階でも同じ景色が見られたのでしようが、高辻役員には当時そんな景色を眺めている余裕などありませんでした。
初めは役員室からながめる景色にいつまでも立ち尽くしていたこともありました。
役員となれば子細な仕事は部下に任せています。役目柄事業部の大勢や流れを見出だして行くのが主な役割となります。
人事や部署の配置などは細かく目を配らなければなりません。
対外的には取引先との折衝ですが、お膳立てされた料亭やゴルフ場で世間話しをしながら『お互いよくこの地位まで来ましたなぁ』…とこれは言葉には出しませんが暗黙の了解みたいになっていました。
だから部長時代には無い役員同士の独特の一体感がありました。
『あ…』
コメント
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