寝転がって気ままに想う事

 世の中ってこんなもんです・・
面白可笑しくお喋りをしましょうか ^^

鬼の目にも涙…22

2012年01月13日 09時16分30秒 | 日記
私は鬼塚専務を乗せて地方の工場からホテルへと移動しています。 時刻は午後十時半を過ぎていたでしょうか。
県境の峠を越えていますが、山道に入って雨は無論風も吹き出してきました。
この季節の雨は氷雨と言うんでしょうね。
フロントガラスを濡らす程度で間欠ワイパーが時々拭き取るリズム に合わせて私はハンドルを握っていました。
深夜に運転していると何か頼りになるものを探してしまいますが、手っ取り早い音楽などは睡眠中の方に邪魔になるからです。
小雨に深夜、慣れない道、しかも高速道路です。
睡魔はありませんが、用心に越したことはあません。
ワイパーのリズムに合わせて私はマイペースでした。
ところが…です(笑)
お休みのはずの鬼塚専務が突如ムックリと起き上がりました。
お湯割りを30杯も飲んだ割にはしっかりしていらっしゃいます♪(笑)
それが真っ暗な窓の外を眺めてぶつくさ言い始めました …
いつもの陽気で勝ち気な専務らしからぬ表情で何かしらぼやいていらっしゃいます。
私は耳に栓でもしたい気持ちです(笑)
「みんな…うちの奴らはみんないい奴だよなぁ…」
ボソリとこぼされます。
こんな時どうしていいのか私にはわかりません。
ただ私に向かってでないことはわかりました。
素知らぬ顔…聞こえない顔で運転に集中しかありません。
しかしもしこっちに振ってこられたら…(当惑)

「窓田の野郎…ふふふっ♪」 思い出し笑いなのか自嘲気味に笑われました。
ガシャガシャ♪何かの紙を破るような音です。
「プワ~」
タバコの煙が室内に充満しました…
「みんな頑張っているんだ…うん…うん」
今度は自問自答です(微笑)
まるで場末の飲み屋でコップ酒でもあおる感じです ね!
「窓田か…」
しきりに窓田本部長の名前を口にされていますが、悩んでいる様子はありありです…
数いる役員さんでも鬼塚専務のお酒のピッチが速いのは意外と仕事の悩みと関係しているかも知れませんね…
う~ん仕事よりご自身の地位とでしょうか…企業とは営利を目標にあるわけです、成績の不振や諸々の事情で叱咤せねばならない場合があります。降格や左遷を申し渡さなければならない時もあるでしょうね。
心成らずも…英断を下さなければならない時…鬼塚専務は杯を重ねなければとても手を下せなかったのでしょうか…

これはあくまでも私の推測でしかありませんが…
後ろ座席の鬼塚専務の遠くを眺めていらっしゃる様子からそんな風に感じられました。

「みんないい奴なんだよなぁ…」
繰り返してボヤくこと数回です…

ほんとにこの方いい人なんだね♪私は昼間の鬼塚専務しか知らないのですが…こんな一面もあるんだなぁ… と感心したり得心したりですが…
そんな事思っていたら「クククッ…」
含み笑いが聴こえてきました。

タバコを灰皿に揉み消しながらです…

「?・?・?」
なをが可笑しいんだろか…
それとも気でも違ったのか…
気になるのですが後ろを振り返るわけにはいきません。
ルームミラーは例によって跳ねています。
私は全身全霊で後部座席を探りました。
…もちろん運転はしているんですが(笑)

「…あ…う…フゥ~」中々言葉に出来にくいですね(笑)
何やらささやくような笑うような…
得体のない発音が続きました。
私は五感を研ぎ澄ませていますが、鈍なことでサッパリわかりません。
しばらくそんな擬音らしき得体の知れないものを聴いていましたが…
それもぱったりなくなりました。
〓…〓…〓…♪

(あ…苦労します…)
又寝息…軽くいびきでしょうね♪

暗闇の車内を覗いたって見えやしないでしょうが、その時対抗車の大型トラックからアップしたヘッドライトが車内を照らしました。一瞬昼間のような明るさになり私は「はっ!」としました…
「まさか…」まさかでした!
あの呟きのあとの腹の底から絞り出すようなうめき声は…
「そうか!」

怒り上戸はよく耳にしますが鬼塚専務みたいにしょっちゅう怒りまくっていたら飲んだ時は違う一面が出るのでしょうか(笑)

それとも泣き上戸かな(笑)
車はようやく高速道路を降りました。
あとホテルまでわずかです。
車から降りられた鬼塚専務の顔を確かめてやろう(笑)
私はちょっと意地悪な気持ちがムクムクと起き上がってきました。 いやいや、待てよ…
専務はもうご老体です… (笑)頬に無数の年輪が刻み込まれた渋味のある紳士です(ヨイショ♪)
頬に伝った涙腺の跡など分からないかも知れませんね…
確認できたらこれはもう一大スクープでしょう(笑)
私はいつもの野次馬根性丸出しになっていました。

車はホテルに到着しました。
いつもなら到着前に目覚める特技を持っていらっしゃる鬼塚専務ですが、この時はどうしたことか一向に起き上がってこられません。 「〓…〓…〓」
いびきから軽い寝息に変わっています。
薄暗い車内からはお顔の表情は分かりませんがぐっすり状態でした。
私は一呼吸置いてから声を掛けました。
「専務ホテルに着きました。」
二度ほど声を掛けてようやく気がつかれたようで
「あ、あ~ここはどこ…」 寝ぼけ眼で見回されて「ホテルにつきました…」
私は落ち着いてご案内しました 。
それではっ!と気がつかれたのか「ああホテルか…着いたんだな…」モゾモゾして降りるつもりです。
私は即車を出てフォローに回りました。
「ありがとう」
何度もお礼を申されてホテルへと入っていかれました。
その後ろ姿を見送って私は直立不動の姿勢をしばらく崩しませんでした。
哀愁漂う後ろ姿…とでも言うならかっこいいのでしょうが、
実際は寝込んだシワが付いたスーツがやけにヨレヨレに見えましたっけ♪
まだ酔いは覚めていないせいか覚束ない足取り、侘しさを感じていました。
ところで涙腺の跡は?
これは極秘… 運転士の守秘義務であります(笑)
まぁ、運転士の情けで~す(笑)
コメント
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