マイボールになれば3-3-4で攻めダルマになる
前半の日本はまるで死人のようだった。棒立ちになった味方同士で意味のないショートパスをただ交換するだけ。局面を打開する動きがない。まったく生気がなく消極的だった。単にポゼッション率を高めるだけの死んだような短いパスを繰り返し、日本にボールを持たせ引いて守ってカウンターを狙う北朝鮮の狙いにハマって行った。
そのネガティブな流れをひっくり返したのが、後半11分。FW伊東純也の途中投入と、右WGだった小林悠を中央に回し2トップ(両翼も合わせ4トップ)にしたハリルの積極采配だった。マイボールになれば左SBの車屋も中盤に上がり3-3-4で攻めまくる。
そして最高のディナーは後半48分にやってきた。北朝鮮がロングボールを入れ前がかりになったところで、日本のクリアから始まるコレクティブ・カウンターが発動されたのだ。
DF室屋が右サイドで大きくクリアしたボールを、前線にいた小林が中央で拾い左サイドの阿部にダイレクトで落とす。広いスペースの中でボールを受けた阿部は、余裕を持って左に開いた川又にパス。受けた川又が中央に折り返し、これを今野が頭で井手口に落とした。
さあ出番だ。クリスマスプレゼントのような今野からのボールをもらった井手口は、右足インサイドでボールを抑えながら狙い澄ましたシュートを放つ。弾け飛ぶような軌道を描いたボールは、歓喜とともに北朝鮮ゴールに突き刺さった。時すでにアディショナルタイム。実質、さよならゴールである。
苦しかったアジア最終予選。オーストラリアを一撃で沈めた「あの一発」同様、最後においしいところを全部もって行ったのは井手口だった。
とはいえこのゴールは、複数の芸術家たちが織り成した創造美である。起点になった室屋から数えて合計6人。うちボールを余裕で2回小突いた阿部以外の5人が全員、ダイレクトプレーでボールに絡んだクリエイティブなファインアートだった。喜びの渦のなか、このゴールでチームはひとつになった。めざすは男女アベック優勝である。
前半の日本は安全なショートパスと遅攻で停滞した
日本のシステムは4-2-3-1。スタメンはGKが中村航輔。最終ラインは左からSB車屋紳太郎、CB昌子源、CB谷口彰悟、SB室屋成。ダブルボランチには井手口とベテラン今野を並べ、トップ下に高萩洋次郎。最前線はワントップに金崎夢生。左に倉田、右に小林悠だ。
前半は残念ながら、昨日書いたこの記事で予言した通りの展開になった。トップ下が機能せず、ビルドアップ時に最終ラインがボールをもっても前の選手はゾーンのギャップで突っ立ったまま間受けしようとするばかりで、ボールを引き出す動きがない。
日本は左サイドを経由して組み立てようとするが、前へ張り出したSB車屋やWG倉田の足元にボールを当てても彼らはリスクを取らず、ダイレクトでボールがまた後ろのCBやボランチに戻ってくるだけ。こんなふうにサイドの狭いエリアに集まった2〜3人が2メートルくらいの死んだショートパスを互いに交換するだけで、ボールはまったくゴールへ向かわない。
ごくたまに中央へロングボールが入ると、敵が弾き返したこぼれ球を拾って攻めが生まれるが、こんなシーンはめったにない。
北朝鮮は4-5-1で自陣にブロックを作り、低く構えて日本にボールをもたせる作戦だ。で、自陣でボールを取ったらカウンターを狙っている。なのに日本はボールを奪っても速く攻めず、遅攻に終始した。たっぷり時間を使い、その間に敵が帰陣しブロックを作るための猶予をわざわざ与えている。
そして相手を自陣へ十分に引かせたあとは、敵ブロックの手前で安全にショートパスをただつなぐだけ。左サイドに出したら前が詰まってボールがまた後ろに戻され、今度はCBを経由して右に展開するがまた前が詰まってボールをバックパスする。敵ペナルティエリアのラインに沿って、「コの字型」にボールを行き来させているだけだ。最悪の展開である。
「引いた相手を崩すには?」という永遠のテーマ
引いた相手をショートパスで崩したいなら、縦にクサビのボールを入れてワンツーを嚙ますなど、動きのあるダイレクトプレーがもっと必要だ。またサイドから崩すのであれば、思い切って早めにクロスを入れるのも有効だ。(前半はサイドからのクロスもほとんどなかった)
あるいは縦に一発ロングボールを入れれば敵CBが後ろに下がり、相手ブロックを縦方向に引き伸ばすことができる。こうして敵バイタルエリアにスペースを作ったり、そのロングボールからのこぼれ球を拾って攻めるテもあり得る。
だが前半の日本はこうして敵に揺さぶりをかけることがまったくなく、ただ安全なショートパスに終始するだけ。前回の記事でふれた、日本ならではの「パスサッカー症候群」からくるバックパスまみれのポゼッション病を発症していた。
そして敵陣でボールを失うと、北朝鮮の縦に速いカウンターを食らう。日本は前がかりになって自分から守備のバランスを崩しているため、北朝鮮がいったん攻めに入るとシュートまで行く確率が非常に高い。引いて守っている北朝鮮のほうが日本より5本もシュートが多いという、ひどいありさまだった。
だが日本の致命的なピンチに立ちふさがったのが、牛若丸のように機敏なGK中村である。彼は超絶ファインセーブで何度も敵のシュートを止め、なんとか0-0のまま後半勝負の展開にもって行った。そして最後は井手口による大団円へ。裏を返せば、GK中村の度重なるガマンが呼んだ勝利だった。
この日の教訓から言えることは、結局、点を取れるのはカウンターだということ。そして「引いた相手を崩すには?」というアジアで日本が何度も遭遇する永遠のテーマを達成するには、ロングボールやクロスを入れるなど「大きい展開」が必要だということだ。
井手口と小林、伊東、川又が光り輝いた
選手別では、やはり井手口はパスカットのセンスが群を抜いている。そしてボールを奪ったあと精力的に縦パスを入れるなど、前へつけるボールをいちばん工夫しているのも彼だった。またダブルボランチを組んだ今野の運動量豊富なダイナモぶりと「ここぞ」の上がりも目立った。
一方、攻撃陣では、後半に途中投入されたFW伊東純也の縦への突破が目を引いた。彼は前へボールを引き出す動きをくり返し、まるでネイマールのように貪欲に縦を狙う。伊東のこのエネルギッシュな躍動ぶりが、前半は眠っていた日本をすっかり呼び覚ました。
そして伊東の投入と同時に、右サイドからCFへ回った小林悠のウラへの飛び出しと鋭いプレイもチームを活性化させた。小林はサイドではなく真ん中で使ったほうが明らかにいい。
また同じく後半から途中投入され、小林と2トップを組んだFW川又堅碁の高さと強さも光った。彼は決定的な強いヘディングシュートを放ったが惜しくもGKの正面を突き阻まれた。最後の得点シーンでも、彼が左サイドから入れたクロスはポストになった今野の頭にピッタリ合っていた。
川又は前回の東アジア杯でフィーチャーされたがよさを出せず、日本も最下位に終わった。その雪辱を果たした形だ。彼はプレイはもちろんだが、なにより明るく陽性のキャラクターがいい。川又と小林、伊東のギラギラしたハングリー感が、後半のチームを劇的に変えた。
「勝ってるチームは動かすな」という。次の試合でも、伊東と小林、川又のアグレッシブ・トリオがぜひ見たい。
前半の日本はまるで死人のようだった。棒立ちになった味方同士で意味のないショートパスをただ交換するだけ。局面を打開する動きがない。まったく生気がなく消極的だった。単にポゼッション率を高めるだけの死んだような短いパスを繰り返し、日本にボールを持たせ引いて守ってカウンターを狙う北朝鮮の狙いにハマって行った。
そのネガティブな流れをひっくり返したのが、後半11分。FW伊東純也の途中投入と、右WGだった小林悠を中央に回し2トップ(両翼も合わせ4トップ)にしたハリルの積極采配だった。マイボールになれば左SBの車屋も中盤に上がり3-3-4で攻めまくる。
そして最高のディナーは後半48分にやってきた。北朝鮮がロングボールを入れ前がかりになったところで、日本のクリアから始まるコレクティブ・カウンターが発動されたのだ。
DF室屋が右サイドで大きくクリアしたボールを、前線にいた小林が中央で拾い左サイドの阿部にダイレクトで落とす。広いスペースの中でボールを受けた阿部は、余裕を持って左に開いた川又にパス。受けた川又が中央に折り返し、これを今野が頭で井手口に落とした。
さあ出番だ。クリスマスプレゼントのような今野からのボールをもらった井手口は、右足インサイドでボールを抑えながら狙い澄ましたシュートを放つ。弾け飛ぶような軌道を描いたボールは、歓喜とともに北朝鮮ゴールに突き刺さった。時すでにアディショナルタイム。実質、さよならゴールである。
苦しかったアジア最終予選。オーストラリアを一撃で沈めた「あの一発」同様、最後においしいところを全部もって行ったのは井手口だった。
とはいえこのゴールは、複数の芸術家たちが織り成した創造美である。起点になった室屋から数えて合計6人。うちボールを余裕で2回小突いた阿部以外の5人が全員、ダイレクトプレーでボールに絡んだクリエイティブなファインアートだった。喜びの渦のなか、このゴールでチームはひとつになった。めざすは男女アベック優勝である。
前半の日本は安全なショートパスと遅攻で停滞した
日本のシステムは4-2-3-1。スタメンはGKが中村航輔。最終ラインは左からSB車屋紳太郎、CB昌子源、CB谷口彰悟、SB室屋成。ダブルボランチには井手口とベテラン今野を並べ、トップ下に高萩洋次郎。最前線はワントップに金崎夢生。左に倉田、右に小林悠だ。
前半は残念ながら、昨日書いたこの記事で予言した通りの展開になった。トップ下が機能せず、ビルドアップ時に最終ラインがボールをもっても前の選手はゾーンのギャップで突っ立ったまま間受けしようとするばかりで、ボールを引き出す動きがない。
日本は左サイドを経由して組み立てようとするが、前へ張り出したSB車屋やWG倉田の足元にボールを当てても彼らはリスクを取らず、ダイレクトでボールがまた後ろのCBやボランチに戻ってくるだけ。こんなふうにサイドの狭いエリアに集まった2〜3人が2メートルくらいの死んだショートパスを互いに交換するだけで、ボールはまったくゴールへ向かわない。
ごくたまに中央へロングボールが入ると、敵が弾き返したこぼれ球を拾って攻めが生まれるが、こんなシーンはめったにない。
北朝鮮は4-5-1で自陣にブロックを作り、低く構えて日本にボールをもたせる作戦だ。で、自陣でボールを取ったらカウンターを狙っている。なのに日本はボールを奪っても速く攻めず、遅攻に終始した。たっぷり時間を使い、その間に敵が帰陣しブロックを作るための猶予をわざわざ与えている。
そして相手を自陣へ十分に引かせたあとは、敵ブロックの手前で安全にショートパスをただつなぐだけ。左サイドに出したら前が詰まってボールがまた後ろに戻され、今度はCBを経由して右に展開するがまた前が詰まってボールをバックパスする。敵ペナルティエリアのラインに沿って、「コの字型」にボールを行き来させているだけだ。最悪の展開である。
「引いた相手を崩すには?」という永遠のテーマ
引いた相手をショートパスで崩したいなら、縦にクサビのボールを入れてワンツーを嚙ますなど、動きのあるダイレクトプレーがもっと必要だ。またサイドから崩すのであれば、思い切って早めにクロスを入れるのも有効だ。(前半はサイドからのクロスもほとんどなかった)
あるいは縦に一発ロングボールを入れれば敵CBが後ろに下がり、相手ブロックを縦方向に引き伸ばすことができる。こうして敵バイタルエリアにスペースを作ったり、そのロングボールからのこぼれ球を拾って攻めるテもあり得る。
だが前半の日本はこうして敵に揺さぶりをかけることがまったくなく、ただ安全なショートパスに終始するだけ。前回の記事でふれた、日本ならではの「パスサッカー症候群」からくるバックパスまみれのポゼッション病を発症していた。
そして敵陣でボールを失うと、北朝鮮の縦に速いカウンターを食らう。日本は前がかりになって自分から守備のバランスを崩しているため、北朝鮮がいったん攻めに入るとシュートまで行く確率が非常に高い。引いて守っている北朝鮮のほうが日本より5本もシュートが多いという、ひどいありさまだった。
だが日本の致命的なピンチに立ちふさがったのが、牛若丸のように機敏なGK中村である。彼は超絶ファインセーブで何度も敵のシュートを止め、なんとか0-0のまま後半勝負の展開にもって行った。そして最後は井手口による大団円へ。裏を返せば、GK中村の度重なるガマンが呼んだ勝利だった。
この日の教訓から言えることは、結局、点を取れるのはカウンターだということ。そして「引いた相手を崩すには?」というアジアで日本が何度も遭遇する永遠のテーマを達成するには、ロングボールやクロスを入れるなど「大きい展開」が必要だということだ。
井手口と小林、伊東、川又が光り輝いた
選手別では、やはり井手口はパスカットのセンスが群を抜いている。そしてボールを奪ったあと精力的に縦パスを入れるなど、前へつけるボールをいちばん工夫しているのも彼だった。またダブルボランチを組んだ今野の運動量豊富なダイナモぶりと「ここぞ」の上がりも目立った。
一方、攻撃陣では、後半に途中投入されたFW伊東純也の縦への突破が目を引いた。彼は前へボールを引き出す動きをくり返し、まるでネイマールのように貪欲に縦を狙う。伊東のこのエネルギッシュな躍動ぶりが、前半は眠っていた日本をすっかり呼び覚ました。
そして伊東の投入と同時に、右サイドからCFへ回った小林悠のウラへの飛び出しと鋭いプレイもチームを活性化させた。小林はサイドではなく真ん中で使ったほうが明らかにいい。
また同じく後半から途中投入され、小林と2トップを組んだFW川又堅碁の高さと強さも光った。彼は決定的な強いヘディングシュートを放ったが惜しくもGKの正面を突き阻まれた。最後の得点シーンでも、彼が左サイドから入れたクロスはポストになった今野の頭にピッタリ合っていた。
川又は前回の東アジア杯でフィーチャーされたがよさを出せず、日本も最下位に終わった。その雪辱を果たした形だ。彼はプレイはもちろんだが、なにより明るく陽性のキャラクターがいい。川又と小林、伊東のギラギラしたハングリー感が、後半のチームを劇的に変えた。
「勝ってるチームは動かすな」という。次の試合でも、伊東と小林、川又のアグレッシブ・トリオがぜひ見たい。