低すぎたライン設定
オーストラリアとニュージーランドで共催されている女子ワールドカップ2023は11日、準々決勝が行われた。世界ランク11位のなでしこジャパンは同3位のスウェーデンと対戦し、日本が1-2で破れた。なでしこジャパンの旅は8強で終わった。
試合は立ち上がりから違和感があった。日本の最終ラインが低すぎるのだ。1次リーグで当たったスペイン戦のときのように、5-4-1で深く構えて相手にボールを持たせているのか?
だが実際にはスウェーデンのハイプレスとフィジカルに圧倒され、「押し込まれた」というほうが正しいだろう。いずれにしろ低いライン設定で受けに回った前半は、日本にとって「ない」のと同じだった。
もう一点、なでしこには異変があった。選手の動きが重いのだ。キレが悪い。まったく別のチームのようだ。疲れがたまっているのだろうか? 日程や会場の移動は日本の方が有利なのだが……。この点も謎だった。
序盤は丁寧にビルドアップしてきたスウェーデン
一方、スウェーデンはハイボールの雨を降らせた16強のアメリカ戦とは打って変わって、序盤は最終ラインからグラウンダーのボールで丁寧にビルドアップしてきた。自分たちの高さを生かすロングボールでなく、このやり方で来てくれるなら日本はやりやすい。
スウェーデンは4-2-3-1だ。彼女たちはインサイドキックの精度がそう高くない。スウェーデンが得意な後ろからロングボールを放り込んでの高さ勝負でなく、ボールを転がしてきてくれるなら大歓迎だ……。ただしスウェーデンは次第に「本性」をあらわし、その楽観は前半の途中で終わった。
日本のフォーメーションは3-4-2-1だ。スタメンはGKが山下杏也加。最終ラインは右から高橋はな、熊谷紗希、南萌華が構える。
右ウイングバックは清水梨紗、左ウイングバックは杉田妃和。ダブルボランチは長谷川唯と長野風花。2シャドーには藤野あおばと宮澤ひなた。ワントップは田中美南だ。
スウェーデンが得意のセットプレーで先制する
前半15分に日本は初めて相手を押し込み、しばらく敵陣でボールをつないだ。このままラインを押し上げられるといいのだが……アテが外れた。
スウェーデンは同18分に、初めて最終ラインから縦にロングボールを入れてきたが事なきを得た。やはりスウェーデンは長いボールを使ったときの方が攻めに迫力がある。プレー強度が日本よりはるかに高い。ハイボールの競り合いになると完全に不利だ。
同32分。スウェーデンが得意のセットプレーから先制する。中央左から縦にロングボールを放り込まれ、一度はGK山下が弾いた。だがゴール前の混戦からこぼれ球を決められた。これが彼女たち本来のスタイルだ。長い浮き球を自在に駆使する。日本はクリアするチャンスすらなかった。これでスウェーデンが1点リードした。
また同42分にも、スウェーデンのシュートがGK山下の手をかすめてポストを叩く。ヒヤリとするシーンだった。こうして前半は完全にスウェーデンのペースで進んだ。日本はシュート0本で前半を折り返す。
日本のプレスは中途半端だ
かくて後半に入った。立ち上がりから日本は杉田に代えMF遠藤純を投入した。先行された日本は点を取るしかない。最終ラインを上げて全体の重心をより前にかけ、ボールを保持する敵最終ラインに積極的にプレスをかけたい。なぜなら前でのプレスが利いてなければラインを上げられないからだ。
だが日本の前からのプレッシングは相変わらず中途半端なまま。プレスの「ハメどころ」がはっきりしない。ただワントップの田中が単発でコースを切るだけだ。
例えばワントップと2シャドーの3枚に加えWBも前に出て、マンツーマンで前からハメに行くような工夫がほしい。もちろんリスクは高いが、この点は日本の大きな改善点だろう。
後半6分。長野がハンドを取られ、PKになり決められた。あのハンドは故意ではないと見えたが、ボールが手に当たったのはツキがなかった。これで2失点した日本は同7分、田中に代えてFWの植木理子を入れた。植木は球際の競りに意欲を見せている。だがしょせんは単騎のプレスなのだ。集団による「投網」ではない。
日本はサイドからハイクロスを入れる。だが高さのあるスウェーデン相手にあれでは勝てるイメージがわかない。日本はあくまでグラウンダーのボールで攻めるべきだ。
林が待望のゴールを決める
後半29分、ドリブルを仕掛けた植木がペナルティエリア内で倒されPKになる。植木が蹴ったが、惜しくもクロスバーに当たって入らない。日本はついてない。続く同35分。長野と宮澤に代えてMF林穂之香とMF清家貴子を投入した。林はボランチ、清家はシャドーに入った。
そして42分だ。藤野がボックス手前でエリクソンに倒され、日本はFKを得る。キッカーは藤野だ。右足で直接ゴールを狙ったが、なんとボールはクロスバーとGKムショビッチに2度当たって地面に強くはね返る。ゴールか? と思われたが、ゴールラインは割っていないと判定が出た。
クロスバーに嫌われ、これで日本は「2点」を取り損ねた。
43分、ボックス内でボールを受けた清家が中へ折り返す。これをゴール前でスウェーデンが弾き返し、そのこぼれ球を林が詰めた。待望のゴールだ。アディショナルタイムは10分ある。まだいける。
46分。藤野が右コーナーキックを蹴り、ニアで植木が合わせたがGKムショビッチにセーブされた。続く47分には高橋はなに代えてFW浜野まいかを投入。日本は猛攻を続けたが1点は遠く、かくてタイムアップとなってしまった。
課題はフォアプレスと球際だ
後半20分以降と、アディショナルタイム10分間での日本の攻めは迫力があった。本来、日本はもっと早い時間帯からあれぐらい積極的に攻めたかった。
敗因のひとつは、前半から受けに回って最終ラインが低すぎたことだ。このためスウェーデンの攻めがモロに直撃した。相手の圧に押され、持ち前の速いトランジション(攻守の切り替え)やショートカウンターが生かせなかった。
例えばグラウンダーの緻密なパスワークで来るスペインとの試合では、確かに日本は5-4-1で相手にボールを持たせる戦略が成功した。だが反対にアバウトなロングボールやハイボールを多用するスウェーデン相手には、ボールがリバウンドして思わぬ「事故」が起こりやすい。
それを防ぐにはもっと前からプレスをかけてディフェンスラインを高く構え、ウイングバックとボランチ(の片方)も積極的にフォアチェックに加わりたかった。プレスで潰し、球出しさせない工夫が必要だった。
だが前線からプレスをかけて球際で激しくボールを競るには、大柄なスウェーデンに大きく見劣りする日本のフィジカルではいかんともしがたい。結局はフィジカルの問題に帰結する。また、なでしこの選手はそもそもボディコンタクトを怖がる傾向がありむずかしい……。
しかし現代フットボールにプレッシングと球際の厳しさは不可欠であり、この点でなでしこジャパンは深刻な課題に直面してしまう。ここを解決しない限り、前進はない。また明日からやり直しだ。
オーストラリアとニュージーランドで共催されている女子ワールドカップ2023は11日、準々決勝が行われた。世界ランク11位のなでしこジャパンは同3位のスウェーデンと対戦し、日本が1-2で破れた。なでしこジャパンの旅は8強で終わった。
試合は立ち上がりから違和感があった。日本の最終ラインが低すぎるのだ。1次リーグで当たったスペイン戦のときのように、5-4-1で深く構えて相手にボールを持たせているのか?
だが実際にはスウェーデンのハイプレスとフィジカルに圧倒され、「押し込まれた」というほうが正しいだろう。いずれにしろ低いライン設定で受けに回った前半は、日本にとって「ない」のと同じだった。
もう一点、なでしこには異変があった。選手の動きが重いのだ。キレが悪い。まったく別のチームのようだ。疲れがたまっているのだろうか? 日程や会場の移動は日本の方が有利なのだが……。この点も謎だった。
序盤は丁寧にビルドアップしてきたスウェーデン
一方、スウェーデンはハイボールの雨を降らせた16強のアメリカ戦とは打って変わって、序盤は最終ラインからグラウンダーのボールで丁寧にビルドアップしてきた。自分たちの高さを生かすロングボールでなく、このやり方で来てくれるなら日本はやりやすい。
スウェーデンは4-2-3-1だ。彼女たちはインサイドキックの精度がそう高くない。スウェーデンが得意な後ろからロングボールを放り込んでの高さ勝負でなく、ボールを転がしてきてくれるなら大歓迎だ……。ただしスウェーデンは次第に「本性」をあらわし、その楽観は前半の途中で終わった。
日本のフォーメーションは3-4-2-1だ。スタメンはGKが山下杏也加。最終ラインは右から高橋はな、熊谷紗希、南萌華が構える。
右ウイングバックは清水梨紗、左ウイングバックは杉田妃和。ダブルボランチは長谷川唯と長野風花。2シャドーには藤野あおばと宮澤ひなた。ワントップは田中美南だ。
スウェーデンが得意のセットプレーで先制する
前半15分に日本は初めて相手を押し込み、しばらく敵陣でボールをつないだ。このままラインを押し上げられるといいのだが……アテが外れた。
スウェーデンは同18分に、初めて最終ラインから縦にロングボールを入れてきたが事なきを得た。やはりスウェーデンは長いボールを使ったときの方が攻めに迫力がある。プレー強度が日本よりはるかに高い。ハイボールの競り合いになると完全に不利だ。
同32分。スウェーデンが得意のセットプレーから先制する。中央左から縦にロングボールを放り込まれ、一度はGK山下が弾いた。だがゴール前の混戦からこぼれ球を決められた。これが彼女たち本来のスタイルだ。長い浮き球を自在に駆使する。日本はクリアするチャンスすらなかった。これでスウェーデンが1点リードした。
また同42分にも、スウェーデンのシュートがGK山下の手をかすめてポストを叩く。ヒヤリとするシーンだった。こうして前半は完全にスウェーデンのペースで進んだ。日本はシュート0本で前半を折り返す。
日本のプレスは中途半端だ
かくて後半に入った。立ち上がりから日本は杉田に代えMF遠藤純を投入した。先行された日本は点を取るしかない。最終ラインを上げて全体の重心をより前にかけ、ボールを保持する敵最終ラインに積極的にプレスをかけたい。なぜなら前でのプレスが利いてなければラインを上げられないからだ。
だが日本の前からのプレッシングは相変わらず中途半端なまま。プレスの「ハメどころ」がはっきりしない。ただワントップの田中が単発でコースを切るだけだ。
例えばワントップと2シャドーの3枚に加えWBも前に出て、マンツーマンで前からハメに行くような工夫がほしい。もちろんリスクは高いが、この点は日本の大きな改善点だろう。
後半6分。長野がハンドを取られ、PKになり決められた。あのハンドは故意ではないと見えたが、ボールが手に当たったのはツキがなかった。これで2失点した日本は同7分、田中に代えてFWの植木理子を入れた。植木は球際の競りに意欲を見せている。だがしょせんは単騎のプレスなのだ。集団による「投網」ではない。
日本はサイドからハイクロスを入れる。だが高さのあるスウェーデン相手にあれでは勝てるイメージがわかない。日本はあくまでグラウンダーのボールで攻めるべきだ。
林が待望のゴールを決める
後半29分、ドリブルを仕掛けた植木がペナルティエリア内で倒されPKになる。植木が蹴ったが、惜しくもクロスバーに当たって入らない。日本はついてない。続く同35分。長野と宮澤に代えてMF林穂之香とMF清家貴子を投入した。林はボランチ、清家はシャドーに入った。
そして42分だ。藤野がボックス手前でエリクソンに倒され、日本はFKを得る。キッカーは藤野だ。右足で直接ゴールを狙ったが、なんとボールはクロスバーとGKムショビッチに2度当たって地面に強くはね返る。ゴールか? と思われたが、ゴールラインは割っていないと判定が出た。
クロスバーに嫌われ、これで日本は「2点」を取り損ねた。
43分、ボックス内でボールを受けた清家が中へ折り返す。これをゴール前でスウェーデンが弾き返し、そのこぼれ球を林が詰めた。待望のゴールだ。アディショナルタイムは10分ある。まだいける。
46分。藤野が右コーナーキックを蹴り、ニアで植木が合わせたがGKムショビッチにセーブされた。続く47分には高橋はなに代えてFW浜野まいかを投入。日本は猛攻を続けたが1点は遠く、かくてタイムアップとなってしまった。
課題はフォアプレスと球際だ
後半20分以降と、アディショナルタイム10分間での日本の攻めは迫力があった。本来、日本はもっと早い時間帯からあれぐらい積極的に攻めたかった。
敗因のひとつは、前半から受けに回って最終ラインが低すぎたことだ。このためスウェーデンの攻めがモロに直撃した。相手の圧に押され、持ち前の速いトランジション(攻守の切り替え)やショートカウンターが生かせなかった。
例えばグラウンダーの緻密なパスワークで来るスペインとの試合では、確かに日本は5-4-1で相手にボールを持たせる戦略が成功した。だが反対にアバウトなロングボールやハイボールを多用するスウェーデン相手には、ボールがリバウンドして思わぬ「事故」が起こりやすい。
それを防ぐにはもっと前からプレスをかけてディフェンスラインを高く構え、ウイングバックとボランチ(の片方)も積極的にフォアチェックに加わりたかった。プレスで潰し、球出しさせない工夫が必要だった。
だが前線からプレスをかけて球際で激しくボールを競るには、大柄なスウェーデンに大きく見劣りする日本のフィジカルではいかんともしがたい。結局はフィジカルの問題に帰結する。また、なでしこの選手はそもそもボディコンタクトを怖がる傾向がありむずかしい……。
しかし現代フットボールにプレッシングと球際の厳しさは不可欠であり、この点でなでしこジャパンは深刻な課題に直面してしまう。ここを解決しない限り、前進はない。また明日からやり直しだ。