「東京新聞」<社説>2022年1月11日
全容の解明が難しくなったことが無念でならない。二十五人が犠牲になった大阪・北新地のビル放火殺人事件で、自らも一酸化炭素を吸って入院中だった容疑者の男が死亡した。なぜ陰惨な事件を引き起こしたのか。府警は捜査を続ける構えだが、男から直接、動機を聞くことも、刑事責任を問うことも、不可能になった。
男は十数年前に離婚し、二〇一一年に刃物で長男を襲い、懲役四年の実刑判決を受けた。出所後の生活ぶりは不明だが、放火事件の現場に選んだ心療内科クリニックには数年前、通い始めたらしい。
自宅には過去の無差別殺傷事件を調べた形跡があった。事前に現場の非常口を細工した上で、ガソリンを持ち込んで火をつけ、自ら炎に向かい、揚げ句、被害者の避難を妨げる−。捜査で見えてきたのは、おぞましい計画性と強い殺意だ。多くの専門家は、男が一人ではなく他人も巻き込む「拡大自殺」を図ったと推測する。
法務省・法務総合研究所が一三年、無差別殺傷事件の被告五十二人を調べた研究によると、彼らの動機は「自己の境遇に対する不満」が最も多かった。自分の人生や生活が思うようにいかないのは「他人や社会のせい」と考える傾向が強いとみられ、背景に友人や家族関係の希薄さから生じた「社会的な孤立」を指摘している。
政府は昨年、英国の先行例にならい、孤独・孤立担当大臣を新たに置いた。先月下旬、官民連携による相談体制の充実や、実態を踏まえた予防策の検討などを盛り込んだ重点計画をまとめた。コロナ禍により、職場や地域で互いに支え合う機会が一層少なくなっている状況も踏まえ、孤独・孤立は「社会全体で対応しなければならない問題」と位置付けている。
他者とのつながりが弱まり、分断すら叫ばれる昨今、誰もが社会から排除される不安を抱えている。日本自殺予防学会は「TALKの原則」=Tell(声をかける)、Ask(具体的に尋ねる)、Listen(傾聴する)、Keep safe(安全を確保する)=を呼び掛けている。
何かに追い詰められた人がいても、その孤独・孤立感を和らげることができる社会の構築こそ、ひいては犯罪の抑止力にもつながるだろう。二十五人を道連れにした男の周りに、もし、誰か一人でもいたらと思わずにはいられない。
今朝は氷点下18度まで下がった。明日は風も強まり、吹雪模様らしい。
最近、死刑になりたくて多くの人を巻き添えにする事件が増えている。今、「死刑制度」について考える時期に来ていると思う。家族・友人・恋人を殺された方にとってはつらい思いがあるかもしれない。でも、こんなことで巻き添えを食ったひにはかなわない。更に「冤罪」も多く見られる。わたしは少し前までは「死刑」廃止論者ではなかったのだが、最近のこの風潮では廃止したほうがいいと思うようになった。