現代ビジネス 橘 玲,
週刊現代 2022/10/29
「つまようじから木の匂いがする」というクレームが来た、というメーカーの話が話題になった。「木材なので木の匂いが若干するのは仕方ない」旨の回答をしたところ、どうやら顧客は納得したとのことだった。
この一連のやり取りに違和感を抱いた方もいることだろう。そんな向きには、このフレーズがピンと来るかもしれない。
「バカの問題は自分がバカであることに気づかないことだ」
――なかなか毒気が強い言葉だが、これはきちんとした実験から導かれた結果だと言う。
一体誰がどういう意図で行った研究なのか。筆者の新著『バカと無知―人間、この不都合な生きもの』(新潮新書)をもとに見てみよう(以下同書をもとに再構成する)。
顔にジュースを塗ったら透明になれる
1995年、アメリカのピッツバーグでのこと。
男が白昼堂々、変装もせずに銀行に押し入った。監視カメラの映像をもとに男はあっと言う間に逮捕される。警察でビデオテープを見せられた男は、こうつぶやいた
「だって俺はジュースをつけていたのに」
この男は、顔にレモン汁を塗ると監視カメラに映らなくなると思っていたのだ。心理学者のデビッド・ダニングはこのニュースを知って、「人間はなぜこれほど愚かになれるのか」と疑問に思った。
無知とは一般に、「正しい知識をもっていないこと」と定義される。
だがこれだけでは、その空白に「レモンジュースを顔に塗ると透明人間になる」というとんでもない勘違いが入り込んでくる理由を説明できない。
自己評価が高いのは点数が低い人だった
そこでダニングは、博士課程のジャスティン・クルーガーとともに、コーネル大学の学生を使って一連の実験を行った。彼らの関心は「能力の低い者は、自分の能力が低いことを正しく認識できているのか」というものだった。
2人は学生たち相手にいくつかのテストを実施した。そこからわかったのは、学生たちは自分の実力を3割以上も過大評価している、ということだ。つまり平均50のテストの場合、自分は66点だという自己評価を下していたのである。
さらに個人の能力別に見た場合、下位の学生が上位の学生よりも自己評価が高いことがわかった。下位4分の1の学生は、実際の平均スコアが12点なのに、自分たちは68点だと思っていた。
一方で上位4分の1の学生は、実際の平均スコアが86点なのに、自分たちの能力は74点しかないと思っていたのだ。これは論理的推論能力についての結果だが、他の分野でも同様だった。実験はさらに進められるのだが、ここでは省略する。
一連の結果として、彼らが導いた結論を簡潔に表現すると、以下のようになる。
「バカの問題は自分がバカであることに気づかないことだ。なぜならバカだから」
これがいわゆるダニング=クルーガー効果だ。1999年にこの研究が発表され大きな評判を呼んだのは、誰もが漠然と感じていたことを実験によって証明したからだろう。
知と無知の関係とは
その後もデビッドとダニングは研究を続け、知と無知には三つのパターンがあると主張した。
一つめは、「知っていることを知っていること」。
足し算の規則を知っているなら、自分が「5+3=8」と計算できることを知っている。
二つめは、「知らないことを知っていること」。
パソコンがどのようなプログラムで動いているのか知らない人でも、自分が無知なことは知っている。パソコンが故障したら自分で修理しようなどとはせず、サポートセンターに電話するだろう。
科学やテクノロジーが急速に発達したことで、わたしたちは「知らないこと」のなかで暮らすようになった。スマホでなぜメールが送れるかも、口座のお金がどうやって海外に送金できるのかも、正確に説明できるひとはほとんどいないだろうが、それでも日々を大過なく過ごしているのは、知らないことを他者(専門家)にアウトソースしているからだ。
三つめは、「知らないことを知らないこと」。これがダニング=クルーガー効果で、「二重の無知」あるいは「二重の呪い」と呼ばれる。知らないことを知らなければ対処のしようがないからだ。
ダニングは指摘していないが、「知っていることを知らない」という四つめのパターンもありそうだ。これは「直観」とか「暗黙知」と呼ばれている。
感動的な作品は暗黙知から生まれる
近年の脳科学は、無意識はときに意識(理性)より高い知能をもっていることを明らかにした。
テーブルの上に二つのカードの山があり、一方は賞金も大きいが損する額も大きい(ハイリスク・ハイリターンで長期的には損をする)、もう一方は賞金も損失も小さい(ローリスク・ローリターンで長期的には得をする)ようにすると、意識がどちらの山が有利か気づく前に、危険なカードに手を伸ばしたときに指先の発汗量が増える。
この「嫌な予感(無意識の知能)」によって、なぜかわからないまま正しい選択ができるのだ。
この四つめのパターンは、芸術家によくあてはまる。モーツァルトに「なぜこの旋律を思いついたのか」と訊いても、理路整然と説明することはできなかっただろう。
音楽家だけでなく、画家や詩人、歌手や俳優、あるいはスポーツ選手も、なぜ自分が「できる」かを「知らない」のではないか。ひとびとが感動するような素晴らしいものは暗黙知から生まれるのだ。
ダニング=クルーガー効果は、従来の教育に重大な疑問を突きつける。これまで学校では、子どもに知識を教えれば自然に学力は伸びていくとされていた。世界じゅうどこの教師も、授業を理解できたかテストして、その結果を生徒にフィードバックしている。だがダニングによれば、この方法で学力を高められるのは認知能力の高い子どもだけだ。こうした生徒は、自分がなにを知らないかを知っているので、間違ったところを修正して正しい知識に到達できる。
ところが認知能力の低い子どもは、なにを知らないかを知らないので、フィードバックを受け取ってもどうしていいのかわからない。どこでなぜ間違えたのかを理解できない子どもが(たくさん)いることは、教育者ならみんな知っているだろう。
「つまようじから木の匂いがする」というクレームをつけた人物は、説明を聞いて素直に納得したと伝えられている。とすれば、この場合は単に何らかの理由でつまようじは木でできていることを知らなかった、シンプルな無知ゆえの行動だったのかもしれない。あるいは「無知の無知(二重の呪い)」の典型と言えるかもしれない。いずれにせよ、そのことはメーカーにとっても幸いだったということだろう。
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「自民党に投票するからこうなる」がトレンド入り…消費税、退職金、雇用保険に国民年金まで負担増の “超重税国家” に
SmartFLASH 2022/10/28
《#自民党に投票するからこうなる》
ツイッター上で、こんなハッシュタグをつけた投稿が多数おこなわれ、10月に入ってから複数回トレンド入りしている。
「《#自民党に投票するからこうなる》は、10月27日にもトレンド入りしました。前日におこなわれた政府税制調査会で、『消費税の引き上げについて議論すべき』という意見が相次いいだため、不満が噴出したのです。ほかにも、さまざまな負担増について抗議の声が上がっています」(週刊誌記者)
〈以下省略〉
30年にもなる。このまま40年を迎えるつもりだろうか?少子化問題、財政問題などすぐに成果を挙げられるような問題ではない。ヘタをすると50年に及ぶことになる。今、その蹶起を掴まなければ、一生を失われた時代に生きることになる。失われた人生にしないために。
おもしろいお話でした。
私も、この爪楊枝のクレームに違和感を感じていました。
爪楊枝の原材料を知らなかったのか、はたまた木で出来てても匂いはしなくなると思っていたのか。
本当にビックリでした。
ものの根幹を知らないから、こうなるのでしょうか。
「自民党に投票するからこうなる」まさに、そうだと思います。
なぜ、消費税を上げないといけないのか?
本当にその増税分は、増税理由と合致しているのか?
そもそも、増税が本当に必要なのか?
全ての世代に、ちゃんと考えて欲しいですね。
野党が・・、という前に、今の自民党に任せてきたツケが、この状態なのですから。