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15歳の養女に性暴力の男に実刑 「素人が感情的に」と嘲笑した法曹界の人は判決をどう見たか

2022年02月02日 | 社会・経済

AERAdot 2022/02/02

北原みのり

 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、立場を利用した暴力について。

*    *  *

 髪を切ってもらっているとき、ついたてを挟んで隣の男性客と女性の美容師の会話が耳に入ってきた。男性客は「俺、もうすぐヨメと離婚するかも」と言い、もう妻とは半年くらい話してないんだよね、と話しだしたのだった。深刻な感じではなく、あくまで世間話程度の軽さで、サロン中に響き渡る大声で。

「『ヨメ』って言う夫ってイヤだなー」と思いながら私は手元の雑誌を読んでいたのだけれど、そのあとがいろいろとすごかった。男性は「実は浮気がばれたんだよね」と軽い冗談のような感じで語り、「ヨメがスゲー切れて、口きかない」と言うのである。妻が切れるのは当たり前だろ、とざわざわした気持ちになるが、男性はどこか楽しげである。しかも、こんなことも言い放った。

「ヨメの立場からしたら離婚できないはずなんだけどね。専業主婦で子育てしてる30代の女が稼げるとこなんてないでしょ、離婚したら損するのはヨメのほうでしょ」

 ここまでくると会話テロされている気分である。女性にハサミで髪の毛切られている状況でよくそんな性差別発言楽しげに語れるもんだな……と顔を見てやりたい気持ちになるのを抑えながら、女友だち数人の顔を思い出した。離婚したいが経済的に自信がないと泣いた女友だち。つわりに苦しんで一日寝ていたら、「いいよな、主婦は昼寝できて」と夫に言われた女友だち。暴力を振るわれたが高収入な夫と別れるのは難しいと恥ずかしそうに言った女友だち。昔の話じゃない、ここ数年の話だ。

 コロナ禍での給付金の配られ方でもわかるが、この社会の最小単位は「個」ではなく、「世帯」である。女性が一人で生きようとすると、さまざまな壁が立ちはだかる。重くのしかかるのは経済力だ。使い捨てられる安い労働力として扱われている側の女性が、一生安定した給与を確信するのは難しい。結局、女性にとってこの社会は、男性と結婚するほうが「安全」と思わされるような建て付けになっているのだ。美容院で「世間話」をしていた男性も、それがよくわかっているのだろう。「俺がお前を食わせている、俺の自由は尊重されるべきだがお前には自由はない」。そんな立場を利用した暴力は、私たちが思う以上に世の中にあふれている。

先週、津地裁で、15歳の養女(当時)に性暴力を振るった男に懲役18年の実刑が言い渡された。2017年の刑法改正で新設された監護者性交等罪が生きた判決だった。

 男は裁判で「二人(妻と養女)の『嫁』がいる感覚だった」と話したという(「嫁」だ!)。報道によれば、男は養女に、要求に応じなければスマホを禁止する、祖父母にも会わせないなどと言ったという。日ごろから感情をコントロールできずに暴れるなどして家族を痛めつけてきたが、女の子の母親も経済的にこの男に頼るしかなく、逃げ出せなかったという。

 先週は、伊藤詩織さんの高裁判決もあった。一審に続き、詩織さんの主張が認められた。詩織さんは、就職活動中に当時TBSの社員だった山口敬之氏に出会った。山口氏は性行為に同意があったと主張し続けているが、そもそも自分より圧倒的に立場の弱い就職活動中の女性を、立場のある既婚の中年男性が1対1の酒の場に誘うこと自体が問題だった。意識がほぼない女性とのセックスに同意があったと考えること自体が問題だった。そのことが長い間、問題にならなかった社会が問題だった。裁判を通して私はそのことに何度も気がつかされた。

 津の裁判で、検察はフラワーデモについて触れ、「刑事司法に対し、一般社会から厳しい目が向けられていることを刑事司法に携わる法曹一人ひとりがしっかりと心にとどめなければならない」と話したという。フラワーデモは今年で3度目の春を迎える。今も日本全国+ロンドン、バルセロナで毎月11日性暴力根絶に声をあげる人たちが街に立っている。3年前、「刑事司法の素人が感情的に騒ぐな」とフラワーデモを嘲笑した法曹界の人が少なくなかったことを思えば、今回の検察の言葉は、諦めずに声をあげてきた人々の声が届いているのだと希望を持てる。

 そう、私たちは変えられるのだ。15歳の子どもに性虐待しつづけた男は、2017年の刑法改正前だったら有罪になったかどうかわからない。有罪になったとしても18年は無理だった。また、詩織さんのように、就職活動中に被害にあう女性は後を絶たない。それでもそのことが「事件」として認識されるようになってきたのは、詩織さんのように諦めずに声をあげる人がいたからだ。それでも、まだまだ足りない。立場を利用した暴力に、立場をもっている人自身がもっと繊細になるべきなのだ。

美容院の男性客が会計をすませて帰る姿を鏡越しに見た。アイロンのかかったパキッとしたシャツを着て、若く、自信に満ちあふれた雰囲気の男性だった。洗練された都会的な雰囲気をまといながらも、それでも、「稼げない女に自由はない」みたいな暴力を当たり前に内在化してしまっているのかと思うと、先は長いという気持になりつつも。

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表


声を上げれば歴史は進む。そんなことを実感させられます。

園地のようす。

散歩道。

 



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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ジェンダー平等 (ひまわり)
2022-02-02 22:20:55
mooruさん、こんばんは。
日本はジェンダー平等には遠い遠い国です。
男性はどこから生まれてきたんですか?
とその客に問いたいです!
女性からですよ!
女性を大事にしない国は発展しないと思います。
ジェンダーの学習会をしていますが、終わりがきそうにないですね!
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こんばんは。 (mooru)
2022-02-02 22:49:19
 ひどい話です。つい2.3年前、裁判官ですら、でした。いや、まだ過去形にはなっていません。声を上げ、法律を変えていくまでの「力」になってきたと思います。やっぱり、「経済的自立」が鍵でしょう。
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Unknown (cozycycle1717)
2022-03-02 10:48:36
初めまして、
男性ですが、不愉快なオトコの話しですねぇ~
一夫一妻制に置いて結婚する意味を何も考えて居ない〜

安倍のゴマすり友達だから、強姦しても罪にならない山口敬之の方が遥かに重大な問題ですが~
それを無罪に手配した中村格が警視庁長官に出世する、腐敗仕切った日本の現状〜
┐(´д`)┌ヤレヤレ
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まったく、同感です。 (mooru)
2022-03-02 12:13:04
 コメントありがとうございます。
「フラワーデモ」の力は大きいですね。裁判官がこのように勉強してくれればいいのですが、まだまだですね。
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