土曜日は古寺を歩こう。

寺勢華やかな大寺も、健気に法灯を守り続ける山寺もいにしえ人の執念と心の響きが時空を越え伝わる。その鼓動を見つけに…。

南明寺は小さなお寺、けれど阪原の大きな精神の支え。

2011年11月07日 | 奈良の古寺巡り


(2011.11.05訪問)

巡る奈良、祈りの回廊秘仏特別開帳訪問 第2弾!
週末恒例イヤらしい雨模様。アッタマに来つつもR369柳生街道を走ります。も
ちろんクルマでですよ!
この道は比較的よく走るのですが、南明寺を訪ねるのは初めて。中途円成寺を左
に見つつ柳生の少し手前、旧村の中、小さなお寺は在ります。境内に本堂だけを
残して閑かに佇んでいます。参拝の方は見当たりません、本堂の中、檀家のおじ
さんがお一人ポツンと受付に座っておられ、さあどうぞと迎えていただきました。
目指すご本尊は直ぐ目の前、両脇に釈迦、阿弥陀の両如来が祀られています。

▼残り柿。
のように見えるでしょうネ。実は画面左の方たわわに鈴なりにワンサカ実を付け
ているんです。古、柳生街道沿いには柿の木が沢山あったと聞きますが、今は殆
ど見ることはありません。



[ 南明寺 ]
●山号 医王山(いおうさん)
●寺号 南明寺(なんみょうじ)
●宗派 真言宗御室派
●開基 不詳
●創建 宝亀2年(771年)とするも詳細不詳
●本尊 薬師如来坐像(重文)

南明寺縁起
敏達天皇4年(575年)天竺僧二人がこの地、阪原に来て槇山千坊を開き、仏像千体
を祀り司馬達等が籠もった室堂が南明寺と「大和阪原由来記」は伝えていると云
います。

▼南明寺解説板。文字見えます?



▼本堂(重文)。
鎌倉中期から後期の建立。桁行5間、梁行4間、寄棟造、本瓦葺。
外観は非常に簡素なお堂、正面3間に扉、内側格子戸になっています。堂内は、
下陣と内陣に分かれ、内陣は一段高く須弥壇になっています。



▼本尊 薬師如来坐像(重文)。平安中期、木像、漆箔、像高84.2cm。
小振りなご本尊薬師如来は内陣須弥壇中部屋中央に、四天王(いずれも70cmぐら
い)を従えて蓮華座に座しています。お顔と躯の一部に漆箔が残っていますが、全
体に彫りが浅いためか、像形がハッキリしません、両脇の二体の如来像が半丈六
像で迫力満点なので一層華奢な感じがします。板光背はユニークな形で彩色がよ
く残っています。



須弥壇は中央3間が下陣の方へ張り出し、土築で構成しています。
右部屋に釈迦如来坐像(重文)、木造、漆箔、像高144.5cm。
左部屋に阿弥陀如来坐像(重文)、木造、漆箔、像高139cm。
両像とも如来の穏やかな表情と眼は定朝様の影響を受けている感じがしました。

▼本堂側面。



▼灯籠ともみじ。



▼十三重石塔と五輪塔。十三重石塔は鎌倉後期、塔高340cm。



小さなお寺にも、オヤッと思う仏像や堂宇が残っています。まさにこのお寺がそ
うで、大寺にはない質素な仏像やお堂なんですが、古来村の安寧を願って、そこ
に住む人々が代々、時代から次代へと護り続けてきた貴重な精神のお宝なんでし
ょう。雨の中、小さなお寺で久し振りジックリと仏と向き合えました。  合掌。

通常このお寺の拝観は電話予約とのことですが、特別開帳中は問題なく拝観でき
ます。

南都第一の大寺。だった大安寺の今は。

2011年11月01日 | 奈良の古寺巡り


(2011.10.30訪問)

十一面観音菩薩立像特別開帳が行われている大安寺を訪ねました。今日の南都は
雨でした。シトシトと嫌な降り方ですが結構な人出です。

▼祈りの廻廊(秘宝・秘仏特別開帳)秋冬版。
奈良は今、有名社寺の秘宝秘仏特別開帳の時期を迎えています。秋冬版のガイド
が発行されています。昨年の遷都1300祭時の特別開帳規模とは若干劣りますが、
地域別のお寺情報が網羅され親切な編集になっています。伝統行事や庭園情報、
一般の方が参加できる朝のお勤め体験情報など充実した内容で、観光案内所や駅
で手に入れることが出来ます。



[ 大安寺 ]
●山号 熊凝山(くまごりさん)
●寺号 大安寺(だいあんじ)
●宗派 高野山真言宗
●開基 聖徳太子
●創建 639年聖徳太子建立の熊凝精舎が開創寺院と伝わる
●本尊 十一面観音菩薩立像

大安寺縁起
聖徳太子の熊凝精舎が舒明天皇により百済大寺として、天武天皇により高市大寺
に、そして大官大寺と改め、天武天皇の崩御後、その遺志は持統天皇、文武天皇
へと引き継がれ平城遷都とともに平城京左京に遷地され大安寺と称され、六宗兼
学の大寺院として南都にその偉容を誇りました。

▼山門。
雨の中でも、やはり十一面観音菩薩の人気なのでしょうか、参拝者が続々です。



▼山門横にまだ新しい石標。



▼墨跡鮮やか立派な寺札。



▼手水舎。



▼本堂。
境内の木々もすこし色づき始めています。



▼読経の声が聞こえています。



▼本尊十一面観音菩薩立像(重文) (写真は大安寺HPからお借りしました)
像高191cm 木造 奈良時代後期



大安寺に残る天平仏九体(重文)の一体。本尊として通常は秘仏になっています。
頭部は明らかに後補、あまりにも体部との差が目立ちますが体部との結合は見事、
お顔はやや伏し目がちですが須弥壇の厨子内にお立ちなので下方から拝すること
になり、目が合い不思議な感覚でした。
体部は時代変化か、そうとう痛々しくお気の毒。胸部瓔珞や条帛、天衣の彫りは
柔らかくまとめられているお像で、唐招提寺の諸像を思いだしました。仏師の腕
が偲ばれます。

▼大銀杏。
本堂横の大銀杏は黄色に染まる序章。葉先が黄色くなっているの見えます?



▼稚児大師。
境内の一角に弘法大師空海さん七歳像が。



▼嘶堂(いななきどう)。
このお堂に、馬頭観音立像が祀られています。



▼馬頭観音立像(重文) (写真は大安寺HPからお借りしました)



像高174cm 木造 奈良時代後期 
このお像は今回非開帳。(馬頭観音立像特別公開日3月1日~31日)

▼十三重石塔。



▼小子房(写経道場)。



▼中門跡。



▼中門跡の一角に残る由緒不明の礎石。
お聞きすると中門とは関係がないそうで、どこからきたか判らないそうです。



▼大伴家持歌碑。
うつせみは 数なき身なり 山川の 清けき見つつ 道をたずねな



平城遷都後最大の官寺、大官大寺が飛鳥からこの地に移され大安寺と称し南都第
一の大寺として、六宗兼学の仏教総合大学的性格で幾多の名僧知識を輩出した名
刹。そんな大寺院も時代の波にには勝てず、往時の規模は比べようもなく、現存
堂宇はすべて新しく、天平往時の香りは残された木彫仏九体のみ。南都七大寺の
中で復興が最も遅れ、衰退したお寺になってしまったようで栄華の時期を偲ぶ術
もない今の姿は、なんとも悲しく映る大安寺でした。