(2010.11.25 訪問)
目の前の雰囲気がなんとなく優しげで、儚げで、刻が止まるでなし、流れるでな
し、美しき澱みの中にソッとあるような、そんな想いが、山門を前にして感じる
のは、尼寺という言葉の響きなのでしょうか、ボクの思いこみなのでしょうか。
興福院は、かねてから是非訪ねてみたかったお寺で、拝観許可のこの日、訪ねる
ことが出来ました。
このお寺は、奈良市北部佐保丘陵の麓に在る尼僧寺院、桜並木の佐保川から近く、
西に行けば不退寺、法華寺や海竜王寺、東は東大寺転害門に至る一条通りを北に
入ったところ、クルマの行き交う喧噪の地から、僅かに入ったところにこんな静
寂の地があるとは…。
●参道。
[ 興福院 ] こんぶいん
山号 法蓮山(ほうれんさん)
寺号 興福院(こんぶいん)
宗派 浄土宗 別格寺院
本尊 阿弥陀三尊像(重文)
興福院縁起
寺伝によると、聖武天皇学問所を和気清麻呂が賜り、弘文院としたのが始まり説
や、藤原不比等の孫百川が創建したとも云われ、諸説があり詳細は不明と云いま
す。
尼僧寺院として確かなところは、天正年間(1573年~1592年)洞ヶ峠で有名な
筒井順慶一族の女性が尼僧としてこのお寺に入山したのが尼寺としての始まりと
云います。
●山門。
●山門から中門。
●中門。
●中門から本堂。
朝九時、訪問者はボク一人、中門を入ってすぐ左に客殿に並んで方丈が在り、呼
び鈴を押します。暫くして品性が法衣を纏ったような小柄ななんとも云えない雰
囲気の院主さんがおいでになりました。相当のお歳の印象です。訪問の旨を告げ
ると 「どうぞ、本堂の前でお待ち下さい」 とのこと。
●本堂。
●本堂偏額。
●本堂渡り廊下。
方丈、客殿に続くこの廊下を院主さんが渡ってこられました。
●本堂。
簡素な荘厳の中で、さほど大きくない本尊 阿弥陀三尊像は漆箔落ちること無く、
金色に輝いています。本尊は奈良天平の作、木心乾漆のお像、ゆうに千二百年を
超す経時にもかかわらず実にきれい。お聞きすると以後何度か漆箔補修をしてい
るとのことです。本尊のお話や毎日の勤行、「男衆が居ないので日々の管理維持
はなかなかしんどいことです」とかお話を伺いました。
●本堂渡り廊下。
●客殿庭園。
●客殿。(重文)
●方生池。
●鐘楼。
●茶室と紅葉。
佐保山の麓に埋もれながらも古の顔を残している興福院、大寺院が甍を競い、人
いきれが途切れることのない奈良公園のあの雑踏はここにはない。もう一つの古
都の顔を見た思いがしました。奈良三大尼寺には数えられませんが、凛とした静
の佇まいは、決して劣るものではありません。
拝観は電話予約が必要です。