とにかく最終的に目指そうとしているのは、生薬やビタミン剤以外の、
「人間が化学的に合成した薬をどれだけ使わないでやっていくか」
ということで、それをずっと追っているのです。
なぜかというと、私自身の体がそうだからなのです。
前にお話ししたかもしれませんが、私自身がリウマチや喘息を持っており、
最近は西洋薬が全然だめになりました。
患者さんに使って副作用を出したことがない薬でも、自分で使うと、
漢方以外は必ず書いてある通りの副作用が出ます。座薬さえ最近だめです。
座薬を使ったらどうなるかというと、痛みはその時は楽になりますが、
Nsaidsの副作用がはっきり出て、もう眩暈がして動けなくなるのです。
ガスターでライ症候群になったりしました。
何か私は自分に教えられているような気がするのです。
これらの薬は大部分の人には副作用を出しません。
でも副作用を出さなければ安全かというと、そうとは言えないのです。
敏感な人間に対してそれだけの副作用を出し得る薬が、
普通の人は本当に大丈夫なのかといったら、おそらく副作用を出さないだけで、
その人の体は一生懸命それを解毒しようとして頑張っているはずなのです。
人間が自分で処理する力が与えられていない薬ですから当たり前のことですね。
抗生物質は本来生薬的なものであり大丈夫なのですが、化学療法剤、
例えばニューキノロン剤等は全然ダメです。
それこそガスターなんて、自分には害を出したけれど、
患者さん自体には副作用を出したことはありません。
でも、私がライ症候群を起こして、
半年後にその薬屋さんが添付文書を持ってきました。
見ると、ガスターでライ症候群を起こすことがあると、
ちやんと警告が出たのです。
「ああ、これは私がなった」と言ったら、
その薬屋さんは苦笑していましたね。
ということは、(止むに止まれず使っている面はありますが)
副作用が出ないからと言って、「目先の症状を取ることで、
人工的に作られた西洋薬を投与しているということは、
もしかしたら将来的に別の病気をつくっていっているのではないか」
という可能性は否定できないのです。
最近は本当にそう思っています。
「害になる薬を与えない」という言葉が、ナイチンゲール誓詞か、
ヒポクラテスの誓いか、どちらかにありますよね。
だから、そういう人工的な薬を投与するとき、自分の中で、
「副作用は出ていないけれど、もしかしたら
将来的に別の病気をつくる薬を使っているのかもしれない」
と自戒しながら、できるだけそれを投与しないで済むような
やり方というのを模索していっているのです。
それが最近の私の医療の一つの流れなのです。
だから、どんどん西洋薬は減ってきています。もう可能な限り、
漢方や生薬で代用できるならそれでやろうと思っています。
皆さんもできるだけ頑張ってください。
それと、もう一つ気付いてきたのは、
東洋医学をやっていることの素晴らしさです。
何が一番素晴らしいと思いますか。自分も最近まで気が付かなかったのです。
西洋医学でやると、結構格好いい世界もそれなりにあるのですが、
西洋医学だけで第一線で開業しておられる先生は、今はどうですかね。
大病院に勤めておられる方は一生それでやるかどうかは別として、
常に新しい知識を学べますからまだいいのです。
西洋医学というのは分析医学ですからね、
常に細かいところ、細かいところを掘り下げていかなければいけませんし、
第一線でやり続けようと思ったらもう常に勉強しなければなりません。
例えば開業されると分かるのですが、開業してしまって、
西洋医学だけでやっていたら、5年たったら過去の人になって、
10年たったら今は大昔の人になってしまうだろうと思います。
もう全然ついていけません。
西洋医学だけでやっていると、次々と新しいものが出てきて、
最初5年ぐらいまでは何とか、それまでの知識でカバーできるのですが、
10年たつともう、新しい治療法や診断法というのは、
自分に取り入れることすらできなくなります。
ところが東洋医学は違うのです。
東洋医学に取り組んでいけば、年々力量を高めていけます。
一生高めていくことができます。これはやはりすごいことなのです。
例えば、私自身で考えてみると、20年前北海道に来たころは、まだ
実は自分でもリウマチの患者さんに、一部分ステロイド剤も
内服させていましたし、関節注射もしていましたし、
あるいは関節の液を抜いたりもしていました。
そのころのリウマチの患者さんというのは、今振り返ると
10人のうち1人か2人ぐらいしかよくなった人はいなかったと思います。
今は、来院されるので一番多いのがリウマチの患者さんです。
ほとんどステロイド漬けになっていて、
全例ステロイドを離脱させてやっていますが、
ドロップアウトするのは年に一人か二人ぐらいでしょうか。
ドロップアウトしないということは、1年がかり、2年がかり、
期間はかかりはしますが、何とかよくなっていっているのです。
でも最近では、データを見ていたら、半年か1年ぐらいで
どんどんそれが改善する例も出てきています。
私はだいぶ前からリウマチの患者さんに、
ステロイドはとにかくだめだと言っています。
関節注射もあるときまではしていましたが、どうも関節注射をすると、
結局関節をだめにしてしまうみたいだというのでやめました。
それから、整形は関節をひどいときはギプスで固めてまでも
動かさないようにしていましたが、私はこれを動かせ動かせと言っていました。
旭川から勉強に来ている整形の先生が言っていましたね。
最近、整形も変わってきたのだそうです。やはり動かす方がいいし、
関節注射はよくないと言うようになったそうです。
そしてその先生が言うには、
今はもうステロイドのEBMを確かめているのだそうです。
それでどうも結論としては、リウマチにステロイドは効かない、
そういう結論が出そうだということです。 もう、どうなるのでしょうね。
「今まで何をやっていたのか」と言って、かなりパニックになるかもしれませんね。
目先の症状は取るけれど、骨破壊という別の病気をつくっていたのです。
まさに先程言った西洋薬の悪い点を、ステロイドでやり続けていたわけですね。
そう言えば近頃、
一林先生と一緒に診ていてびっくりした肺咳の患者さんがいました。
肺咳なんか、本来うちで診る限り重い患者さんではないのです。
何でこの人は札幌から延々と通ってくるのだろうと思って、よくお話を聞いたのです。
既往歴は書かせていますが、私はあまり西洋医学的な面はまともに見ていないのですね。
初診に忙しくて、ついつい東洋医学的な所見ばかりしか診ないのです。
その患者さんは、太陰肺を中心とした鍼をして、
やはりちゃんと肺を対象とした漢方でうまくいっているのです。
肺咳というのは喘息の中で、本来一番軽いタイプなのに、
何で延々と来ているのかと思っていたら、
その方はいわゆる西洋薬の過敏症みたいなのです。
最後はステロイドにも過敏性を示して、喘息発作のときにステロイドを静注されて、
呼吸停止を起こして、それで低酸素脳症の治療までしたというのです。
もうほかに方法がないというので、私のところにみえている方でした。
既往歴をきちんと見ていたら、すごく重い患者だと思って、
こっちも多少びびったかもしれないのです。10年ぐらい前の自分だったら、
やはりかなり緊張して診たのだろうなと思います。
要するに、本来重症だといわれている人でも、年々自分の能力が上がるにつれて、
重症だと意識しなくなってくるのです。治せる疾患というのはすごく増えてきます。
じゃあ、自分がすごく大きくなるかといったら、また別なのですよ。
これは非常に深い話なのです。年々、治せる世界というのは広くなっていきます。
極端なことを言ったら、10年前と今とを比べたら、例えば10倍も重い疾患を
治療できるようになっているかもしれないのですが、
見える世界は100倍ぐらいになっているのです。
見える世界がもう無限に広がってきますので、
相対的に自分は逆に年々小さくなってしまうのですね。
でも、普通に医療をやれば、
自分のところからせいぜい何キロ四方の患者さんを相手にするしかないはずなのに、
あんな山の中で、北海道中の患者さんが来てくれるというのは、やはり
東洋医学というのはすごい世界だなと思いながらやっています。
勉強は一生になります。途中で挫折したり、絶望したりする必要はないのです。
どんどん深まっていきます。広がるのではないのです。多分深まるのです。
だから一生懸命やっていってください。それで、いつも言うように
実践の医学ですから、いくら耳学問をやってもだめです。
とにかく間違ってもいいから使ってみるのです。
第21回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda21.htm