次は桂枝加朮附湯です。このテキストで訂正しておきたいのは、
適応症の最後にALS(筋萎縮性側索硬化症)が書いてありますが、
古いまま削除してないのです。
今のところALSは鍼も漢方も全く効きません。
10年後にはどうなっているか分かりませんが。
ALSの患者さんは滅多に来てくれないのです。
たまに来てくれても、全く暖簾に腕押しで、3,4ヶ月頑張ってみるのですが、
結局地元の病院に返ってもらうようなことになります。
北海道に来て4例ぐらいしか見ていません。
九州にいたときも合わせて7例ぐらいです。都会で沢山のALSの患者を見たら、
もしかしたら糸口を見つけられるかも知れないのですが・・。
何年かに一人ぐらいしか見られません。集中して見られたらと思います。
やはり頻度の多いリウマチやアトピーや喘息の治療はかなりはっきりしています。
PSS,SLE等もかなり診ますのである程度の事は言えますが、
やはりたまにしか来ないという病気は本当に難しいですね。
テキストにはリウマチには意外なほど効かないと書いて悪口を言っているのですが、
私がリウマチと接してきた地域ではという事です。
リウマチについて成書に一番書いている人達はどこでやっているかと言うと、
富山医薬大附近です。あの附近だったら
桂枝加朮附湯あるいは桂枝加苓朮附湯の効くリウマチが結構いるのだろうと思います。
リウマチと言うのは寒で発症するのではなくて、実は湿で発症します。
ただし、温邪は寒と一緒に入ります。
でもリウマチの本来の原因となっているものは、体内に入っているリウマチ因子です。
要するに湿と寒を伴ったものが入ってきて、
内部にあるリウマチ因子と経絡上で応するのがリウマチだと私は考えています。
内外両因病という言い方をしています。
リウマチ因子だけで発症する訳ではないのです。
リウマチ因子は本来人間は全部持っています。
リウマチと癌の遺伝子を持っていない人はいません。
しかし全員が発症するとは限らないのです。
経絡上にリウマチ因子があり、うまく湿邪がそこに
入って来たときに発症するのだと思います。
私が前に居た所は南の島で暖かく湿っているのです。
富山一帯は寒くて湿っています。
今居るところは寒いけれど乾燥しているのです。
九州の場合はリウマチの患者さんは非常に少ないです。
でも、暖かいので湿邪だけでやられ発症したら非常に重いのです。
でも富山だったら、
すごく沢山の人が発症してしまうのではないでしょうか。
湿邪が一番入りやすいのです。
北海道になるとちょっと違うのですね。
乾燥しているところで湿邪にやられるのですから、
かなり内因的なものが強いのかも知れません。
九州よりも多いのですが富山ほどは多くないのです。
乾燥した北海道で軽いリウマチとして発症するものも、
富山の気侯だったら湿邪が強いので
結構症状が強く出てしまうのではないでしょうか。
このように病証が強くないのに症状だけが重くなる状態のときは、
桂枝加朮附湯で充分効くのだろうと思います。薬味を見れば解ります。
桂枝加苓朮附湯になると全身を少し調節する作用もありますが、
桂枝加朮附湯は湿をとる朮と温めて痛みを和らげる附子が入っ
ているそれだけの薬なのです。
消炎剤はほとんど入っていないのです。
強いて言えば桂枝が少し消炎作用がある程度です。
炎症を抑える成分というものが入っていないのです。
対症療法的に寒さをとってやると良くなるリウマチに使用されていると思います。
でも富山一帯ではそういうリウマチが多いのだろうと思います。
富山ではリウマチの患者さんに全部、桂枝加朮附湯を投与したら
90%か95%の人は治るのかも知れません。あとの10%か5%の人は、
治らないので更に強い薬を使った治療に入るのではないのかと思います。
ところで、私のところで桂枝加朮附湯を全然使っていないかというと、
そうではありません。どういう時に使うかというと、
重いリウマチでも麻黄の使えない患者さんの場合です。
麻黄は20人に1人ぐらい副作用が出ます。
胃がつかえる人、動悸する人、汗が止まらなくなる人、
口がカラカラに渇く人、めまいがしておきられない人、
顔が真っ赤になってしまう人等が居ます。
20人に1人ぐらいそういう症状が出ますが、そのうちの9割くらいは慣れます。
都会だったらそういう場合、出し続けるのが難しいかも知れませんね。
患者さんが嫌がる様だったら早めに処方を変更したほうが良いかも知れません。
そういう場合、桂枝加朮附湯にして、消炎剤として香附子とか
柴胡の入った薬も使います。
(ここで質問あり。白芍等を使って血行改善や冷えを取ることによって、
リウマチを治療するのはどうでしょうか?)
芍薬は末梢血管までは拡張しません。末梢血管を拡張するのは当帰ですね。
芍薬は肝気が滞っていれば全身の血流を良くします。
だからリウマチの治療に良い作用は多少あるかも知れませんが、
そこまでの作用は無いような気がし事す。良い質問ですね。
先程言った様に香附子、竜胆、柴胡等は一応肝気を動かす作用がありますが、
芍薬は肝をなだめる柔肝という作用になります。
芍薬は積極的に肝に作用するというよりも整えるという作用です。
でも実際に香附子、竜胆、柴胡が合わない人には確かに芍薬を使うこともあります。
実は桂枝加芍薬湯の時に話した様に、桂枝と芍薬が同じ分量の場合、
芍薬はどちらかと言うと桂枝の上衝を整える作用を助けるぐらいの役目になります。
だから先程言った芍薬の作用を出すためには
芍薬を桂枝より分量を多くした桂枝加芍薬湯でないといけないのです。
桂枝加芍薬湯だったら肝気をめぐらす作用がもうちょっと強くなります。
いわゆる柔肝益脾と言って肝をなだめて脾を助ける作用が強く出ます。
そういうことで麻黄が使えない人に桂枝加朮附湯と消炎剤として香附子、
竜胆、柴胡を使いますが、それもつかえない人になると芍薬を使います。
でも仕方なしに芍薬でも加えておいた方が良いかなという感じです。
現実に薬が合わない人もいるのですね。本当に弱い人で、麻黄もダメ、
香附子、竜胆、柴胡もダメという人が居ます。今私のところで二人ぐらい居ます。
苦労して苦労して仕方なしに芍薬ぐらい飲ませるかという人が居ます。
桂枝加朮附湯はやはり茯苓を加えたほうが良いようです。
最近、茯苓について解って来ました。
今まで茯苓は紅参ほど使われていなかったのですが、
茯苓をいろいろな疾患に加えてみると、どうも紅参よりしばしば良いのです。
紅参は脾を亢め肺を亢めますが、太陰にしか作用しないのです。
茯苓は本来三経に作用します。
肺や脾にも作用しますし、厥陰には作用しにくいのですが、心や腎にも作用します。
こういう薬に附子を加えることが多いのですが、
それで三経に作用し体全体が整え易くなるのです。
脾胃論によると紅参によって脾や肺が良くなると全身が良くなると書いてありますが、
茯苓はそれよりももっと直接的に肺や脾や心や腎を亢めてくれるので、
最近ずうっと使ってみているのですが、やはり茯苓の方が良いんですね。
紅参を出すと良い人も居ますが、すごく飲みにくいという人もいますし、
結構副作用を訴える人もいます。
お腹が張るとか血圧が上ってくるとか変な症状を訴える人がいます。
茯苓のほうがはるかに副作用が出にくいですね。
何故使われなかったのかと言うと、昔は品薄だったのです。
朝鮮人参はかなり昔から栽培されて来ているのです。
茯苓は本来は地中にあるキノコですから、トリュフは豚に探させますが、
茯苓は昔はきっと勘で探していたのでしょうね。
紅参は良い値で取引されていたのですが、茯苓は品薄の割には安いのです。
近年、茯苓も栽培される様になって比較的安く造れるのです。
紅参の10分の1ぐ らいかも知れませんね。
意外と今まで使われていなかったのですが、紅参より使い手があります。
脾や肺や心や腎に働き先天も後天も亢めてくれます。
丁度、MOF(多臓器不全)を起こす機序の逆で、
多臓器を統一化させる作用を持っているのです。
解り易く言えば茯苓が働くと自然治癒力が亢まって来ます。
茯苓そのものには消炎作用は無いのです。
でも、桂枝加朮附湯なら温めて水を動かすだけの作用ですが、
これに茯苓を加えた桂枝加苓朮附湯は上記の様な作用が加わり
体全体を調節して自然治癒力を亢めます。
もちろん、紅参を加えるともっと自然治癒力が亢まります。
茯苓は原末で加えても、ちゃんと書かれている通りの効果を出します。
あまり揮発成分がからんでいないからだろうと思います。
エキス剤でも例えぱ苓桂朮甘湯でも、桂枝の作用は別として、
茯苓の作用は傷寒金匱に書かれている通りの作用を出します。
だから、茯苓の入っている処方を積極的に使っても良いですし、
茯苓を原末で加えてもほとんど副作用無く飲みづらさも無いので
加味法で使っても良いのです。
私は使い始めたら徹底して使いますので、
今は200人ぐらいに出しています。
あれを飲むと合わないみたいだといった人は1人か2人しかいません。
大抵の人はあれを飲んでから体が引き締まって来たと言います。
第13回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda13.htm
http://kampogenbun.cocolog-nifty.com/blog/2017/01/post-6c7b.html
[参考]:桂枝加朮附湯