人の世は、滞在期間の定め無き、今日一日の旅の宿

 時 人を待たず、光陰 惜しむべし
 古より有道の人、国城 男女 七宝 百物を 惜しまず
 唯 光陰のみ、之を惜しむ

方剤:桂枝加朮附湯

2019-06-27 | 日記


次は桂枝加朮附湯です。このテキストで訂正しておきたいのは、
適応症の最後にALS(筋萎縮性側索硬化症)が書いてありますが、
古いまま削除してないのです。
今のところALSは鍼も漢方も全く効きません。
10年後にはどうなっているか分かりませんが。
ALSの患者さんは滅多に来てくれないのです。
たまに来てくれても、全く暖簾に腕押しで、3,4ヶ月頑張ってみるのですが、
結局地元の病院に返ってもらうようなことになります。

北海道に来て4例ぐらいしか見ていません。
九州にいたときも合わせて7例ぐらいです。都会で沢山のALSの患者を見たら、
もしかしたら糸口を見つけられるかも知れないのですが・・。
何年かに一人ぐらいしか見られません。集中して見られたらと思います。

やはり頻度の多いリウマチやアトピーや喘息の治療はかなりはっきりしています。
PSS,SLE等もかなり診ますのである程度の事は言えますが、
やはりたまにしか来ないという病気は本当に難しいですね。
テキストにはリウマチには意外なほど効かないと書いて悪口を言っているのですが、
私がリウマチと接してきた地域ではという事です。

リウマチについて成書に一番書いている人達はどこでやっているかと言うと、
富山医薬大附近です。あの附近だったら
桂枝加朮附湯あるいは桂枝加苓朮附湯の効くリウマチが結構いるのだろうと思います。
リウマチと言うのは寒で発症するのではなくて、実は湿で発症します。
ただし、温邪は寒と一緒に入ります。
でもリウマチの本来の原因となっているものは、体内に入っているリウマチ因子です。
要するに湿と寒を伴ったものが入ってきて、
内部にあるリウマチ因子と経絡上で応するのがリウマチだと私は考えています。

内外両因病という言い方をしています。
リウマチ因子だけで発症する訳ではないのです。
リウマチ因子は本来人間は全部持っています。
リウマチと癌の遺伝子を持っていない人はいません。
しかし全員が発症するとは限らないのです。
経絡上にリウマチ因子があり、うまく湿邪がそこに
入って来たときに発症するのだと思います。

私が前に居た所は南の島で暖かく湿っているのです。
富山一帯は寒くて湿っています。
今居るところは寒いけれど乾燥しているのです。
九州の場合はリウマチの患者さんは非常に少ないです。
でも、暖かいので湿邪だけでやられ発症したら非常に重いのです。

でも富山だったら、
すごく沢山の人が発症してしまうのではないでしょうか。
湿邪が一番入りやすいのです。
北海道になるとちょっと違うのですね。
乾燥しているところで湿邪にやられるのですから、
かなり内因的なものが強いのかも知れません。
九州よりも多いのですが富山ほどは多くないのです。
乾燥した北海道で軽いリウマチとして発症するものも、
富山の気侯だったら湿邪が強いので
結構症状が強く出てしまうのではないでしょうか。

このように病証が強くないのに症状だけが重くなる状態のときは、
桂枝加朮附湯で充分効くのだろうと思います。薬味を見れば解ります。
桂枝加苓朮附湯になると全身を少し調節する作用もありますが、
桂枝加朮附湯は湿をとる朮と温めて痛みを和らげる附子が入っ
ているそれだけの薬なのです。
消炎剤はほとんど入っていないのです。
強いて言えば桂枝が少し消炎作用がある程度です。
炎症を抑える成分というものが入っていないのです。

対症療法的に寒さをとってやると良くなるリウマチに使用されていると思います。
でも富山一帯ではそういうリウマチが多いのだろうと思います。
富山ではリウマチの患者さんに全部、桂枝加朮附湯を投与したら
90%か95%の人は治るのかも知れません。あとの10%か5%の人は、
治らないので更に強い薬を使った治療に入るのではないのかと思います。

ところで、私のところで桂枝加朮附湯を全然使っていないかというと、
そうではありません。どういう時に使うかというと、
重いリウマチでも麻黄の使えない患者さんの場合です。

麻黄は20人に1人ぐらい副作用が出ます。
胃がつかえる人、動悸する人、汗が止まらなくなる人、
口がカラカラに渇く人、めまいがしておきられない人、
顔が真っ赤になってしまう人等が居ます。
20人に1人ぐらいそういう症状が出ますが、そのうちの9割くらいは慣れます。
都会だったらそういう場合、出し続けるのが難しいかも知れませんね。
患者さんが嫌がる様だったら早めに処方を変更したほうが良いかも知れません。
そういう場合、桂枝加朮附湯にして、消炎剤として香附子とか
柴胡の入った薬も使います。

(ここで質問あり。白芍等を使って血行改善や冷えを取ることによって、
リウマチを治療するのはどうでしょうか?)

芍薬は末梢血管までは拡張しません。末梢血管を拡張するのは当帰ですね。
芍薬は肝気が滞っていれば全身の血流を良くします。
だからリウマチの治療に良い作用は多少あるかも知れませんが、
そこまでの作用は無いような気がし事す。良い質問ですね。

先程言った様に香附子、竜胆、柴胡等は一応肝気を動かす作用がありますが、
芍薬は肝をなだめる柔肝という作用になります。
芍薬は積極的に肝に作用するというよりも整えるという作用です。
でも実際に香附子、竜胆、柴胡が合わない人には確かに芍薬を使うこともあります。

実は桂枝加芍薬湯の時に話した様に、桂枝と芍薬が同じ分量の場合、
芍薬はどちらかと言うと桂枝の上衝を整える作用を助けるぐらいの役目になります。
だから先程言った芍薬の作用を出すためには
芍薬を桂枝より分量を多くした桂枝加芍薬湯でないといけないのです。
桂枝加芍薬湯だったら肝気をめぐらす作用がもうちょっと強くなります。
いわゆる柔肝益脾と言って肝をなだめて脾を助ける作用が強く出ます。

そういうことで麻黄が使えない人に桂枝加朮附湯と消炎剤として香附子、
竜胆、柴胡を使いますが、それもつかえない人になると芍薬を使います。
でも仕方なしに芍薬でも加えておいた方が良いかなという感じです。
現実に薬が合わない人もいるのですね。本当に弱い人で、麻黄もダメ、
香附子、竜胆、柴胡もダメという人が居ます。今私のところで二人ぐらい居ます。
苦労して苦労して仕方なしに芍薬ぐらい飲ませるかという人が居ます。

桂枝加朮附湯はやはり茯苓を加えたほうが良いようです。
最近、茯苓について解って来ました。
今まで茯苓は紅参ほど使われていなかったのですが、
茯苓をいろいろな疾患に加えてみると、どうも紅参よりしばしば良いのです。
紅参は脾を亢め肺を亢めますが、太陰にしか作用しないのです。
茯苓は本来三経に作用します。
肺や脾にも作用しますし、厥陰には作用しにくいのですが、心や腎にも作用します。
こういう薬に附子を加えることが多いのですが、
それで三経に作用し体全体が整え易くなるのです。

脾胃論によると紅参によって脾や肺が良くなると全身が良くなると書いてありますが、
茯苓はそれよりももっと直接的に肺や脾や心や腎を亢めてくれるので、
最近ずうっと使ってみているのですが、やはり茯苓の方が良いんですね。
紅参を出すと良い人も居ますが、すごく飲みにくいという人もいますし、
結構副作用を訴える人もいます。
お腹が張るとか血圧が上ってくるとか変な症状を訴える人がいます。

茯苓のほうがはるかに副作用が出にくいですね。
何故使われなかったのかと言うと、昔は品薄だったのです。
朝鮮人参はかなり昔から栽培されて来ているのです。
茯苓は本来は地中にあるキノコですから、トリュフは豚に探させますが、
茯苓は昔はきっと勘で探していたのでしょうね。
紅参は良い値で取引されていたのですが、茯苓は品薄の割には安いのです。
近年、茯苓も栽培される様になって比較的安く造れるのです。
紅参の10分の1ぐ らいかも知れませんね。
意外と今まで使われていなかったのですが、紅参より使い手があります。
脾や肺や心や腎に働き先天も後天も亢めてくれます。
丁度、MOF(多臓器不全)を起こす機序の逆で、
多臓器を統一化させる作用を持っているのです。

解り易く言えば茯苓が働くと自然治癒力が亢まって来ます。
茯苓そのものには消炎作用は無いのです。
でも、桂枝加朮附湯なら温めて水を動かすだけの作用ですが、
これに茯苓を加えた桂枝加苓朮附湯は上記の様な作用が加わり
体全体を調節して自然治癒力を亢めます。
もちろん、紅参を加えるともっと自然治癒力が亢まります。

茯苓は原末で加えても、ちゃんと書かれている通りの効果を出します。
あまり揮発成分がからんでいないからだろうと思います。
エキス剤でも例えぱ苓桂朮甘湯でも、桂枝の作用は別として、
茯苓の作用は傷寒金匱に書かれている通りの作用を出します。

だから、茯苓の入っている処方を積極的に使っても良いですし、
茯苓を原末で加えてもほとんど副作用無く飲みづらさも無いので
加味法で使っても良いのです。
私は使い始めたら徹底して使いますので、
今は200人ぐらいに出しています。
あれを飲むと合わないみたいだといった人は1人か2人しかいません。
大抵の人はあれを飲んでから体が引き締まって来たと言います。

第13回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda13.htm


http://kampogenbun.cocolog-nifty.com/blog/2017/01/post-6c7b.html

[参考]:桂枝加朮附湯

方剤:薏苡仁湯

2019-06-26 | 日記



次が薏苡仁湯です。これは大事な薬ですね。
エキス剤では-番多く使っています。
単純に薬味として使う生薬で一番多いのは附子で、一ケ月で10何キロです。
次がコージンです。エキス剤では一番が薏苡仁湯で、
次は葛根加朮附湯抑肝散加陳皮半夏等でしょうか。

やはりこういう患者さんが多く来てしまうのです。
一番多い疾患はリウマチ系統です。
次に変形性膝関節症肩関節症むち打ちなどの痛みを訴えるもの
リウマチに伴う膠原病、その次がアレルギー疾患で喘息やアトビーです。
その他、特殊な病気は数え上げればきりがないのです。

薏苡仁湯についてお話します。
本来、急性疾患で、筋肉や関節に痛みを出すのは麻黄湯証です。
麻黄湯証で節々の痛みを出す位置はリウマチの痛む位置と
一致していると言いました。

もっとも初期は麻黄湯証でそのまま治ってしまうのが大部分ですが、
麻黄湯の状態のままリウマチが発症すると麻黄加朮湯証になります。
この段階で私のところに来る人はほとんどいません。

もうちょっと遷延すると麻杏薏甘湯証になります。
麻杏薏甘湯証は若い人しかいません。
附子が入っていないのです。

私のところに来るのは大部分が40歳前後です。
大抵、発症してしばらくあちこちの医療機関にかかって、
初めは弱い薬、そしてNセイドになり、胃腸を悪くしてステロイドに変更され、
この頃はステロイドは怖い薬だと言うことを知っていますから、
何とかならないかといって私のところに来るというパターンが大部分です。
Nセイド (ステロイド構造以外の抗炎症,解熱,鎮痛作用を有する薬物の総称)

薏苡仁湯を使うときはほとんどの場合
附子を加えて、薏苡仁湯加附子という処方になります。
私のところで附子を加えないで薏苡仁湯だけを処方している人は1人か2人です。

インフルエンザのように外から寒邪が入る急性炎症の場合は
絶対に温薬を使わなければなりませんが、
内から出て来る急性炎症の場合はNセイドを使っても良いのです。
この場合の急性炎症は熱と痛みですからNセイドを使っても
副作用は出ないのです。

慢性炎症は痛みと冷えがあり、しばしば血行障害があり
場合によっては水の停滞があります。

ところが西洋医学的治療はこれにもNセイドを使ってしまいます。                              そうすると炎症に対しては良いのですが、体はますます冷えます。
一番冷えるのは胃でしばしば胃に潰瘍を作りますし、
血行不良を起こし、手足のむくみをもっとひどくします。

冷え、血行不良、むくみを解消しようとしたら、
西洋医学はステロイドしか持っていないのです。
しばしば強いステロイドを使っておかしくしてしまいます。

ステロイドは一応炎症による冷え、血行不良、むくみは解消しますが、
副作用を考えると全然割りに合わないですね。

薏苡仁は水に働き、いつも言うように血にも働いていると思います。
血に働くと言うのは私だけなのです。だから一応括弧でくくります。

生薬図鑑にも一切、血に働くと書いていないからあまり言えないのです。
でも効き目を見ているとやはり血に働くと思っています。
表向きは水ですね。

麻黄 は水に働き温めます。
は水に働き、
当帰 は血に働き温めます。
芍薬 は血に働き、
桂枝 は水と気に働き温めます。
甘草 も温めます。
附子 は大熱と言って大いに温め痛みを止めます。

こう見てくると薏苡仁湯加附子
慢性炎症の炎症、痛み、冷え、血、水の治療の全部を満たすのです。

しかも帰経を考えてみれば解るのですが、
薏苡仁、麻黄は太陰、朮は少陰、当帰はどちらかというと少陰、
芍薬は肝、桂枝は太陰から少陰の水の道に作用します。 
甘草は十二経、附子は厥陰から少陰で三焦経の薬と言われています。 
この様に三経に作用してバランスがとれています。これは重要なことです。

慢性の炎症が続いて筋肉や関節の痛みが続いているときは
筋肉の衰えと筋腱の働きが衰えたために骨が支えられなくなっているのです。
筋肉を養っているのはで、筋腱を調節しているのはです
骨を支配しているのはです

要するに慢性炎症が続いてずっと進んでくると
必ず、この三つがやられているのです

私のところに来るぐらいの人は必ずこの三つがやられているのです。
稀に二つの人がいますが、診療の場を山奥に移せば移すほど、
こういう人が来るのです。
山部にいた時はこういう人は4,5割ぐらいでしたが、
今のところに来てからは8割がこういう人達です。

三経がやられている人は少し深くなっているので薏苡仁湯が効くのです。 
当帰は体の深いところに働きます。薏苡仁もやや深いところに作用します。
薏苡仁湯に附子が加わると、主として下半身の痛みを訴える人によく効きます。

これは一臓診断はできません。
でも主は脾にあるのか、肝にあるのか、腎にあるのかは解ります。
それを診断してその穴に鍼治療をすれば2週間でその効果は必ず解ります。

診断するには脈診や望診もありますが、
筋肉が衰えているのか(脾)、骨がもろくなっているのか(腎)、
筋腱の動きが悪くなっているのか(肝)、も参考になります。

ちなみに言うと「動かす」というのは本当に大切なことです。
整形外科は極く最近まで、痛いなら動かすなと言って
どんどんダメにしてきたのです。
動かさないでいてダメになったらそこを人工関節にしますよというのは
治療というのかどうか。

例えば脳卒中の寝たきりの人は、
リウマチでなくても動かさなかったら関節がダメになるのはあたり前ですね。
それと同じ事を医者がやって来てしまったのです。

最近整形もだいぶ変わってきました。
骨粗鬆症と取り組んでいる整形の先生は動かそうと言います。
骨粗鬆症の場合ははっきりしています。
動かさないとどんどん進行するということは解っています。
そういうものに取り組んでいる先生は、
どんな患者さんも出来るだけ動かしたほうがいいと言います。

動かしていると、最初にスライドでお見せしたように、
膝関節の隙間が狭くなっていても開いてきますし、肘関節もそうです。
股関節等はほとんどつぶれていたのが、
きれいに関節面が出て来たような人がいくらでもいます。

動かさないと軟骨はなくなるのです。
動かしていれば必要に応じて軟骨は又戻ってきます
実際私のところに来た患者さんは私が他動的に痛がるところまで動かして、
この様に動かすのですよと指導します。動かしていると必ず戻ってきます。

薏苡仁湯はよくバランスのとれた処方であることが解るのです。
附子を入れない薏苡仁湯は、意外と作用範囲が狭くて
あまり使われていないのですが、
附子を加える事によって、非常にバランスのとれた良い薬として、
慢性の炎症が進行して深くなって下半身に強い症状のある人によく使いますし、
よく効きます

ちょっと素直でない人で上半身に症状を強く出す人もいますが、
一般的に深くなると下半身に症状が出やすいのです。
下半身のほうが陰ですからね。

第14回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda14.htm


http://www.unryudo.com/blog/archives/1953/

[参照]抑肝散


方剤:釣藤散

2019-06-25 | 日記


次が釣藤散です。
これも今までに何度も話してきたから、ほとんどいいと思います。
抑肝散と釣藤散と七物降下湯というのは、血圧関係の薬の3つの柱だと
いう事は、いつも言っていますね。

釣藤鈎が入っている薬の中で、太陰の薬が釣藤散、
厥陰の薬画が抑肝散で、少陰の薬は七物降下湯です。
その診断がきちんとつけば良い訳です。
釣藤散は頭痛の薬としても使います。

この間、釣藤散は東洋医学のシンポジウムのとき、
耳鳴りに効く人もいるという発表がされていました。
なるほど考えてみたら耳鳴りには、肝や腎しか絡まないと思っていたのですが、
気の上昇でも確かに耳鳴りがしてもおかしくないので、
うつ傾向にある人の耳鳴りに効いてもいてもいいのかなと思います。

抑肝散は肝の緊張による 血圧の上昇に使います。

釣藤散は本来基本にはやはり、うつがあります。
うつの人が一生懸命頑張ろうとするから朝の立ち上がりが悪くなりますし、
朝方頭痛がします。

七物降下湯は時間に関係ないですね。
一日中どこでも血圧が上がったり下がったり、不定になります。
これは意外とお顔を見たら、かなりはっきりしますよね。

七物降下湯は何度も話してきましたように、
腎陰の不足のために心火が上がるので、顔が真っ赤になってきます。
眉を越して額までだいたい真っ赤になります。
六味丸もそうですね。

抑肝散は当然緊張感があります。
場合によっては何かあったら青筋が立ってきます。
本当に青い色を感じることがあります。

釣藤散の人は、太陰の人ですから基本的には静かです。
非常にうつ的で、話を聞けば不眠などもありますし、
うつの特徴というのがあります。
だから、釣藤散は太陰を補う薬が主です。
人参を使って脾を補し、あとは脾の気を発散させます。
陳皮,半夏が入っているのはこういう人でも社会生活を送らざるを得ないから、
ストレスでやられやすくなっていますので、それを補すために入れてあります。

釣藤散、抑肝散、七物降下湯のいずれのお薬も、
後で出てくる天麻を加えても構わないです。
釣藤鈎は体を介して中枢にフィードバックする薬ですが、
天麻は直接脳にも作用する薬です。

実は、釣藤散に関しては、本によっては
腎も虚しているだろうと書いてある本があるのですが、私は違うと思います。
腎に対応するお薬はほとんど入っていません。
ただ、こういう人が一生懸命頑張っているために、
ときどきその頑張るゆえの気の上昇というか、
桂皮などで抑えるような気の上昇ではなくて、
から元気的な気の上昇が出てくるのです。

どうも臓腑弁証をしないで、現象面だけで診る人が、
その気の上昇を苓桂朮甘湯とか、六味丸などの気の上昇と
間違って言っているのではないかなと、そういうふうに思います。
釣藤散は基本には腎虚はほとんどありません。

血圧を何としてでも下げようと思ったら、
いつも言うように釣藤散はエキス剤だけではだめです。 
釣藤鈎や天麻の末を加えないと下がりません
釣藤鈎というのは、煮出してしまうとほとんど降圧する成分はなくなってしまい
鎮静作用しか残っていません

でも、朝方の頭痛には非常によく効きます。
午前中にする頭痛というのはうつの頭痛だから、これには非常によく効きますので、
それを目標に使うと結構いいと思います。ただ、釣藤鈎もなかなか飲みにくい薬で、
人によっては全然飲めないという方もいます。
場合によっては釣藤鈎と甘草を振り出しで合わせて飲ませると、
釣藤散の効き目というのが非常によくなることが多いのです。

それから頭痛だけではなくて、
うつ症状そのものもよくする場合はもちろんあります。
釣藤散を飲ませることで、ちょうど帰脾湯を飲ませたときと同じように、
うつそのものがよくなる例は結構あります。

だからむしろ、エキス剤での釣藤散はそういう薬だと、
うつに伴う朝の頭痛や、気持ちの重さ、午前中の体の動きが悪い、
そういうものを改善する薬と考えた方がいいかもしれません。

テキストに書いてあるように、処方としては
二陳湯に釣藤鈎と人参を加えたということです。
もっと太陰を補いたいのなら、当然人参や、
場合によっては黄耆を加えてあげるとさらにうまく補えますし、
うつに対する作用もさらに強まってきます。

ということで、結構これも使っていくと使いではありますが、
あくまで西洋薬を使わないで、これだけで血圧までコントロールしようとするなら、
先程言ったように釣藤鈎や天麻の末を加えてお使いになった方がいいと思います。

第20回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda20.htm



http://murata-kanpo.seesaa.net/article/41404575.html


https://www.kigusuri.com/kampo/kampo-care/042-1.html

[参考]:釣藤散

方剤:七物降下湯と抑肝散

2019-06-24 | 日記


次は七物降下湯ですが、 抑肝散と一緒に話した方が解り易いと思います。
両方に共通して入っているものは釣藤鈎、当帰、川芎です。
それに七物降下湯は四物湯の変方ですから、地黄、芍薬があり、
なぜか黄耆、黄柏が入っています。
抑肝散は四逆散の変方ですから、重要なものとして柴胡が入っており、
更に朮苓組が入っております。
表向きはこうなのですが、じやあ似た薬かというと実は全然違うのです。
でも理解するにはこの様に比べると解りやすいのです。

七物降下湯は少陰の薬です。
どちらかといったら腎ですがまれに心です。
抑肝散は当然、肝です。
七物降下湯抑肝散のほかに、もう一つ釣藤散の三つが高血圧の薬です。
釣藤散は太陰です。七物降下湯は四物湯の状態です。

四物湯の状態というのは、腎が不足すると心火が上り、
腎陰が不足すると肝陰も不足するので、肝陽もちょっと上ります。 
肝心火旺となり、本当は衰えているのにすごく元気そうに
顔が真っ赤になってしまうのです。
歳をとって赤ら顔になって血圧が上り、
検査をするとしばしばクレアチニン等が上っている人が七物降下湯の適応です。
腎性高血圧に使うのですが、なかなか難しいとテキストにも書いています。
でも最近、釣藤鈎を原末で加えたら、
この七物降下湯で腎性高血圧もかなりうまくいく事が分かってきました。

腎性高血圧は西洋医学でも難しいのです。
例えばむくみを取ろうとして利尿剤をやるとクレアチニンが上って来るのですが、
その割に血圧は下がって来ないのです。
ディオパン等もありますが、言われるほど効くとは思えないし、
少なくとも腎不全の進行は止められません。
ああいう薬はー時的に腎の血流を増して血圧も下げるような気がしますが、
どうもどこかで腎に負担をかけているような気もしますね。

うまくやって行くと漢方だけ使うほうが進行が止まるような気がします。
七物降下湯は四物湯が主として腎陰の衰えに作用し、
降圧作用と鎮静作用のある釣藤鈎が入っていますが、
この釣藤鈎はエキス剤にすると鎮静効果はありますが、降圧作用は弱くなるのです。
ただ、釣藤鈎を原未にすると飲めない人がいます。 
天麻は中枢性の降圧作用がありますが、これも飲みにくいのです。

それで天麻3、釣藤鈎2、菊花1ぐらい別に出して振り出しにして
上澄みだけを飲む様に指導しますと結構飲んでくれる場合もあります。
これでもかなりの降圧効果や鎮静効果があります。
菊花は脳の血流を増加させる作用もあるようです。
この三つの薬は抑肝散にも釣藤散にも加えることが出来ます。

七物降下湯は少陰の薬ですが、抑肝散は厥陰の薬です。
釣藤鈎、当帰、川芎は共通しており、それに柴胡、朮、茯苓が入っています。
柴胡は柴組ではなく、単独の柴胡ですからトランキライザーです。
茯苓は精神を癒します。
抑肝散は四逆散の変方ですから、神経過緊張の為に血圧が上っているのを治します。
七物降下湯の高血圧は少陰ですから、今飲んでいても薬を止めると上りますが、
抑肝散の高血圧は意外と治り切ります。場合によっては白衣高血圧のこともあります。
そしてこの三処方は少陰、厥陰、太陰の特徴がはっきり出ます。

釣藤散の人は朝のうちは頭が重いのです。
釣藤散証の朝の頭痛は太陰であるために起きるのです。
朝、頭が重くて動けないのに無理して動いていると血圧が上るのです。
抑肝散の人は朝、元気良くて、夕方ぐらいになると疲れて血圧が上ってしまうのです。
血圧だけの問題だったら天麻や釣藤鈎や菊花を加えてやれば良いのです。
ただ七物降下湯はどちらかと言ったら、
高血圧や脳卒中や老人性の循環障害だけに使いますが、抑肝散は高血圧の他に、
トランキライザーの作用が強いので心因反応的な疾患に良く使われます。

それともうーつ私のところで非常に多く使うのはリウマチにです。
これはほとんど抑肝散よりも抑肝散加陳皮半夏として使います。
リウマチの患者さんで四逆の状態が出る人が非常に多いのですが、
そういう患者さんに使います。
こういう人は脈をとっても原穴の反応をとっても間違いなくの人で、
手足に痛みを訴える人はリウマチ反応が間違いなく引っかかっています

その逆もあるのです。
手足の痛みを訴えてリウマチ反応が陽性の人は何故かの人が多いのです。
そして四逆の状態の人が非常に多いのです。
手首と足首の先が冷えています。大抵の場合は汗ばんでいます。
そして四逆である為にはお腹が温かくなければなりません。
手足が冷えて汗ばんでいてもお腹が冷えている場合は、同じ四逆でも四逆湯になります
四逆湯の人にこういう攻める薬を使ったらえらいことになります。
そのことについては又別の機会にお話します。

心因反応で抑肝散の適応の人も四逆があるのは同じです。
ストレスがかかると手足が汗ばむのは普通ですが、いつも汗ばんでいるのはの人です
今までの東洋医学では、本来はリウマチには柴胡剤を使わないのです。
ほとんどの本には柴胡剤は使ってはいけないと書いてあります。
私のところでは敢えて使っでいます。
リウマチ性疾患に柴胡剤を使っているのは、私のところだけだろうと思います。
それでとにかく揺さぶって戦わせるのです。

戦いが始まった時にそれを緩和する手段を持っていないから使えないのです。
例えば耳鍼だったら肝の位置に鍼をすれば
かなり症状を和らげてあげることが出来るのです。
最近では早い人でー年、長い人は二年半ぐらいで
リウマチの闘いのピークが過ぎて行きます。
炎症反応やRAHAがピークを過ぎて正常化します。
先程言った薏苡仁湯抑肝敢加陳皮半夏附子の組み合わせが非常に多いのです。
釣藤散は他二方と似た症状に使う太陰の薬だということを覚えておいて下さい。
又その時にお話します。

抑肝散についてはもうひとつ大切なことがあります。
抑肝散の場合、母児同服とごいうことがあります。
私は小児科ではないのであまりたくさんは診ていないのですが、
やってみた範囲で言うと小さい子供は本来は抑肝散の証にはならないのです。
薬味を見れば解ります。

釣藤鈎とか当帰とかいうのは大人になっての慢性状態でないと使わない薬です。
母児同服の状態になるのは、いわゆる疳の虫とかヒステリー状態になって
なかなか治らない場合、子供に飲ませるだけでなくて、お母さんによく話をして
お母さんにも飲ませると非常に良くなる場合が間違いなくあります。
これは何なのかと言うと、子供が病気なのではなくお母さんが病気なのです。
お母さんは子供を心配して連れてくるけれど、病気はお母さんなのです。
お母さんが病気だから子供にも同じ状態を作ってしまうのです。

子供が出発で神経過敏になるのであれば四逆散で充分なはずなのですが、
お母さんの感情移入の為に抑肝散の状態まで深くなってしまうのです
母児同服というのはいろいろな本の抑肝散の項に書いあります。
それはお母さんが病気なのですからそこを納得してもらう必要があります。
これは難しいのですね、お母さんは子供を診てもらいに来たのに
何で自分のことを言われるのだということですね。

けれどもじっくり話をして、お母さんに余裕がなくて、
いろいろな気持ちの焦りなどがあって子供に負担をかけているのだということを、
お母さんが納得してくれると案外飲んでくれるのです。
お母さんも一緒に飲むと必ず子供が治るから、
子供を良くしたいのであればお母さんも一緒に飲もうと言って飲んでもらいます。
小児科だったらそういう症例が結構あると思います。

私のところでは小児科を表に出していないので、
来る子供の患者さんは喘息やアトビーが多く、数少ない経験ですが、
母児同服と言うのは全部お母さんの病気です。
小児科の先生は納得されると思います。
ただそれをお母さんに納得させるのは難しいのです。

抑肝散について、より虚しより水性を帯びると
抑肝散加陳皮半夏の証になると書いてある本がありますが、
どちらかと言うと間違いですね、
抑肝散よりも抑肝散加陳皮半夏の方が虚していると言うのではなくて、
むしろ深くなった感じですね。

抑肝散の段階では四逆や神経の緊張はあっても、
柴胡剤でありながら舌を見ても苔がないことがあります。
ところが抑肝散加陳皮半夏の状態になると、
やはり白苔とか場合によっては少し黄色い苔になることもあります。
もちろん水性を帯びることもありますが、朮,茯苓は抑肝散にも入っていますから、
必ずしもそうは言えません。陳皮,半夏は気を動かします
だから抑肝散加陳皮半夏は抑肝散より気うつの状態がひどくなっている証です。

段々ストレスが亢じてきた状態で、
見た目には前よりも気力が落ちている様に見えるので
虚しているように思えるかも知れません。
でも、いわゆる実証とか虚証とかいうのとは違うと思います。
むしろ抑肝散よりも抑肝散加陳皮半夏まで行った人の方が、
単に体が強いか弱いかと言ったら、
抑肝散加陳皮半夏まで行ける人の方が強いのかもしれません。
そこまで頑張って疲れ果てているのです。

だから現実には抑肝散は若い人でまだ発症間もない人の方が多いのですが、
私のところで実際にリウマチなどに使うのは、
抑肝散加陳皮半夏の方が圧倒的に多いのです。
やはりストレス社会になった為に、肝にからんでリウマチになる人が多いのです。
リウマチは、にからむから女性のリウマチは更年期に発症し易いのです。
女性が更年期にリウマチが発症すると9割ぐらい肝です。
やはり卵巣機能が衰えるから発症するのです。

痛みの発症するところは 厥陰肝経、少陽胆経、厥陰心包経、少陽三焦経の経絡上です。
例えば指を痛がっている患者さんはほとんど示指、中指、環指の三本です。
親指に出るのは太陰で 小指に出るのは少陰ですので、この二本にはほとんど出ません。

足の場合は足の裏で別れることが多いのです。
足の先は厥陰で真ん中が少陰でかかとの部分が太陰です。
そういう症状の出る場所でも診断できるのです。

何故かリウマチの9割はなのです
だから女性の更年期に発症することが多いのです。
初発症状は40歳過ぎが圧倒的に多いのです。
厥陰肝経は卵巣を通りますから、
卵巣機能が落ちる時に何らかの意味で肝のガードが落ちるのです。

だから、リウマチで肝と診断したならまず耳鍼で肝の位置に鍼をして、
抑肝散加陳皮半夏等の薬を出してみて下さい。
必ず何か変化があると思います。
来月までに少しでも使って手ごたえを掴んでみてください。


第14回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda14.htm

◎リウマチの初期症状

https://hasebekyou.exblog.jp/22044662/


https://www.kigusuri.com/kampo/kampo-care/026-3.html


http://esthear.ccorein.jp/paint.html


https://kenyudo-clinic.com/column/?p=115

[参考]:七物降下湯, 抑肝散
[参照]:薏苡仁湯

方剤:当帰飲子

2019-06-23 | 日記


次は当帰飲子です。これも非常に使いでがある薬です。
今回お話しするのは結構使いでのある薬が多いです。
四物湯の変方ですが、見てお解りになるように、四物湯に皮膚の薬と、
血に関する薬と、かゆみ止め、そういうものが加わっています。

四物湯が基本にありますので、臓腑弁証をすれば、
この人は当然ほとんどの場合、腎から肝にかけての病証です。
普通は腎の方です。ところが当帰飲子の場合、それに皮膚症状が加わるので、
基本はそうなのですが、腎陰や肝陰が不足してかさかさになっている上に、
皮膚の働きまで悪くなってしまっています。
年を取って全体的にかさかさになってしまうとき以外、
なかなかそういう状態は出てきません。

当帰飲子の患者さんというのは、診ると一般的に皮膚はちょっと黒っぽく、
そして明らかにかさかさしています。
当帰飲子の人で腹診を取ることはあまりないのですが、
やればちやんと四物湯の圧痛(鼠径部)は出ます。
でも当帰飲子の人は、何も症状がなかったら、あまりそこは触れられたくないですし、
それと乾燥肌だという感じで来る方が多いですから、これだけだったら触りませんね。

どうして腎陰が不足してくると皮膚までそうなるのか、私も完全には解らないのですが、
四物湯の状態で腎陰が不足する人は、やはりどこかで少し心火が上がって、
結果として物理的に、肺は熱を持ってきて、この内熱を逃そうとして皮膚表面が開いて、
そのために乾燥してくるのかなとも考えます。まだ完全には解りません。
そうではないかなと思っているだけです。
四物湯の状態は皮膚表面が開き、そして乾燥します。

そのために黄耆が入れてあるというのはまず間違いないだろうと思います。
黄耆というのは、理の働きを良くします。
だから黄耆は皮膚がすごく湿潤なときにも使いますし、乾燥しているときも使います。
あくまで皮膚を潤すとか、逆に皮膚の水を除く為に使います。

例えば防已黄耆湯どのときは、ほとんど皮膚はしっとりしています。
黄耆建中湯もそうですし、桂枝加黄耆湯もそうです。
大部分は黄耆が入っている薬は皮膚の湿潤があります。
ところが、この当帰飲子とか七物降下湯の状態の人というのは
だいたい皮膚はかさかさしています。これは、別に黄耆そのものが皮膚を潤すとか
水を除くという意味ではなくて、あくまでそういう皮膚の水調節機能を、
水の出入りをつかさどる理の働きを正常化するということです。

ここがうまくいっていないと、例えば体内の悪いものをうまく発散できないので、
皮膚表面にかゆみをつくっているので、
その気を発散させる目的で荊芥や防風があるのですね。
蒺梨子(シツリツシ)は、ほとんど抗ヒスタミン剤や痒み止めに近いようなものです。
そしてこういう状態の方というのは血の流れも悪くなっているので
何首烏(カシュウ)を使ってあるのだろうと思うのですが、
当帰飲子だけの説明をするとそういうことになってきます。

ほかに当帰飲子を単独で使うとしたら、一番使うのは老人性掻痒症です。
ぴったりはまるのはこれです。
でも現実にはいろいろな皮膚疾患でこの状態が出ます。
乾燥型の皮膚疾患には、ほとんどこの当帰飲子というのが合うのですね。

アトピーにもよく使います。アトビーはやはりどこかでこの乾燥があります。
それから慢性化した接触性皮膚炎とか、あるいは意外と使うのが、
SLEに近いような、慢性化した日光皮膚炎みたいなものです。
もちろんそれは当帰飲子単独で使うものではないのですよ。
例えばそういう状態に使うなら、当帰飲子に黄連解毒湯を併せたりします。

他に意外とよく使うのが尋常性乾癬です。何を加えると思いますか?
前にも話をしたと思います。越婢加朮湯ですね。
尋常性乾癬というのは中からの水分が全然行き渡らない程、
表面が硬化して破れない状態になっています。
そこをとにかくしゃにむに開く目的に、麻黄と石膏で表面を開いてしまうのです。
そして中を潤してやります。要するに非常に慢性化して、がちがちになったものを、
新鮮な発疹に戻してやるということです。無理やり新しい湿疹に戻してあげると、
治癒傾向が出ます。私の所では 越婢加朮湯と当帰飲子の組み合わせというのが、
尋常性乾癬では一番スタンダードなのです。まず試してみて、
それで手応えがなければ変方するというのはあるのですが。

本来、尋常性乾癬というのは、薬で治る病気ではないですね。
でも現実にかなりの数を診ていますが、外来に来始めたら、あとはずっと来ますね。
尋常性乾癬の人って、中断してしまって来なくなったというような例は
あまりないのです。
今まで診た人は、全部頭の中にあります。
今思い出してもほとんど来ています。

最初のうちはまじめに来ていますけれども、大抵はお薬だけになり、
3カ月に一遍ぐらいになり、そんなに手が掛かるわけではありません。
ほかの医療機関で治療しても絶対に治らないのですが、
実は、尋常性乾癬は漢方でも治す薬は無いと思うのです。
治せるのではなくて、新鮮な湿疹に戻してあげているのです。
ただちょっと自分の治癒機構が働くというだけのことだろうと思っています。

それでもうまくいっている人は、前にもこのことは言ったかもしれませんけれど、
ご婦人などは、スカートがはけなかったのがはけるようになったと言います。
それだけで大満足なのです。夏場はノースリーブまではちょっと無理みたいです。
でも半袖のシャツぐらいまでは着られると言って、喜んでずっとお薬をやめませんね。

尋常性乾癬というのは何か患者会が発達していて、そこでは、
これは治らない病気だぞと、彼ら自身がインプットされているのです。
完全治癒を強く望むなら、それでも不満なのでしょうが、
治らない病気だとずっと言われていたのに、
ある程度のところまでは良くなったということで、結構喜んで来てくれます。

当帰飲子は、あらゆる慢性の皮膚疾患に使います。
当帰飲子の状態は、実は貨幣状湿疹にも出てきます。
乾癬と湿疹は、言葉、表現だけでも違うように、
乾癬というのは乾いた癬で、湿疹は湿ったものです。
でもうんと慢性化すると貨幣状湿疹も、
かさぶたを取るとその下は湿疹なのに、全体は非常に乾燥傾向です。
その状態になると、そこまでやはりお薬が到達しないのです。
何を表面から付けたって中まで浸透しないし、飲んでも中から表面まで来ないのです。

そういうときに当帰飲子を使いますが、
当たり前の事として貨幣状湿疹に当帰飲子をやったら、
湿疹をもっと湿らせるわけですから、理屈上から言ったら悪くするのです。
それでしばしば消風散を加えます。
消風散で、一方で湿疹を乾燥してあげるというような格好になります。

紫雲膏というのは、後にまたお話ししますけれど、いろいろな皮膚疾患に使いますが、
実は紫雲膏そのものが湿疹を治すと考える必要はないです。
紫雲膏そのものにはほとんど大した薬効はないのです。
直接皮膚を治療する薬というのではなくて、
ただ皮膚の内部の血行を改善してくれることによって、
内服薬やほかの漢方成分を湿疹の部分まで導いてくれるという、
その作用が一番大きいのです。
だから、別に皮膚病じやなくても、
皮膚に何か変化があるものの場合紫雲膏を使うことがあります。

当帰飲子は黄連解毒湯と合わせると温清飲の加減方になってきますから、
非常に炎症が強いときには、そういう使い方をすることもあります。
当帰飲子のままだったら、消炎剤はほとんど入っていないのです。
発表させるだけの薬です。

それとは違いますが、実は荊芥連翹湯や柴胡清肝湯も、
この成分をほとんど含んでいるどころか、温清飲の成分まで含んでいるのですが、
薬味が多くなりすぎてかえって皮膚に対しては 切れ味が悪くなる傾向もあるのですね。
だから、はっきり皮膚乾燥型と思われるときは、
荊芥連翹湯や柴胡清肝湯を使うより当帰飲子などでやっていく方がいいようです。


第20回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda20.htm


https://www.kigusuri.com/kampo/kampo-care/019-16.html

[参考]:当帰飲子 , 消風散