人の世は、滞在期間の定め無き、今日一日の旅の宿

 時 人を待たず、光陰 惜しむべし
 古より有道の人、国城 男女 七宝 百物を 惜しまず
 唯 光陰のみ、之を惜しむ

方剤:清暑益気湯

2019-06-21 | 日記


次が清暑益気湯ですね。
これは、今年は非常に涼しいのであまり出ないのですが、
それでも私のところで1人だけ、ちょっと暑くなった頃にもらいに来て、
もう1カ月前から服み始めています。
「この薬を飲みだしてから大丈夫だわ」と、言って、
今日再診に来ていました。

これは補中益気湯から導かれた薬です。
物の本によっては補中益気湯の方を、
清暑益気湯に何かを足したというような書き方をしていますけれども、
本来は補中益気湯の方が先です。清暑益気湯
補中益気湯から非常に病状を限定しやすい柴胡とか升麻を除いて、
万人向けにして滋養強壮成分を加えたというお薬です。

まだ話してはいませんけれど、
この清暑益気湯というのは五積散と逆の処方になります。
五積散の話も今まで何度か出ましたけれど、
五積散は別に冬に使う薬じやないのです。それは言いましたね。
普通の人だったらやられないような時期に
寒さでやられてしまう人が、五積散なのです。
体の表面が開いていて、外邪に侵入されやすい人です。
五積散を一番使うのは、前にも話したように5月の未頃ですね。
このような人は体の表面が完全に開きっぱなしになって、
内部の心の火がまだ燃えない小満の時期が一番弱いのです。
その前はやはり春先です。体の表面が春になって、
まだ春の気が十分巡らない時期もやはり寒さに弱いのです。
真冬には意外と五積散は使わないのです。

清暑益気湯は、どちらかと言うと夏に使うのですが、
誰だってそんな暑さの中だったらやられるよな、
というようなときにやられる人は清暑益気湯じやないのです。
あんな暑い環境、あるいはこんな暑い日が続いたらみんな参るよな、
というようなときは、どちらかと言ったら別の薬になります。
胃苓湯とか五苓散系統になってきます。

清暑益気湯はちょっと暑くなっただけで、普通の人は大丈夫なのに、
真っ先に倒れるような人に使います。
でも、前もこの話をしたと思うのですが北海道には多いです。
北海道の人は非常に暑さに弱いです。
九州にいたときは清暑益気湯はほとんど使っていないのです。
今と変わらないほど患者さんの数は診ておりまして、
今ほど難病の人ばかり診ていたわけではないのです。
逆に地域医療としては、
その地元の人みんなを診ていたような状態でした。

そういう状態でも清暑益気湯は、
一夏に2~3人ぐらいしか処方しなかったですね。
著さで簡単に倒れていたら、九州では生きていけないですからね。
だいたい夏場は30度を超すのが当たり前ですし、
ちょっと外を歩くともう35~36度、
アスファルトの照り返しの上などを測ると、40度を超すような、
そういう状態でしたね。あるいは何十日も、昼も夜も
25度以下に下がらないとか。2週間ぐらいは30度以下に下がらないとか、
そういう状態ですから、逆に暑さに強いのですね。
その代わり九州の人は寒さに非常に弱かったです。
これも前に言ったかもしれません。

九州にいるときに1人当たりに使う附子の量は倍でした。
加工附子ですけれど10グラムまで使った人がいますね。
北海道だったら加工附子で、一番多い人で4グラムぐらいです。
北海道の人は寒さに強いのです。
やはり人間の体というのは順応するのです。
その代わり北海道の人は25度を超す日が数日続くと、
夏バテの人が何人も出てきます。すべての人じやないのですがね。
でもやはり1つの地域にいるとどんどん出てきますね。

だから北海道の先生は頭で考えていたのでしょうか、
清暑益気湯は暑いときに使う薬で、
九州やそういうところで使う薬だと思っているのですね。
私が来るまでは、ほとんど
北海道で清暑益気湯は使われていなかったのです。
でも私が北海道に戻ってきた最初の夏に32度ぐらいになって、
私のいるところは33度までなったのです。

その年、冬がマイナス32度、
夏がプラス33度になってびっくりしました。
記録的な猛暑ではあったのですが、
本当に清暑益気湯は北海道に全然、在庫がなかったのです。
北海道中からツムラさんがかき集めても間に合わず、
「本社に増産をかけているから」とか言ったりしました。
それぐらいなかったのです。
でも、その次の年からは安定供給されるようになりました。
こういうときに非常にいい薬です。

今話したことはすべて、普通の人ではなくて、
どちらかと言うと太陰経が弱い人です。
でもこういう言い方をすると間違えやすいです。
内因病の時、私は太陰経が悪いという言い方をします。
太陰病とは言わないのです。
太陰経が悪いと言っている意味は、肺や脾が悪いという意味なのです。
外因病を言うときは、太陰病だとか厥陰病だとか
太陽病、陽明病と病を付けます。そこを混乱しないでください。
太陰経と言っているときは、肺や脾というのが面倒だから
太陰経が弱いと言います。
同じく肝が弱いとき厥陰経が弱いとか、
あるいは腎や心が弱いとき少陰経が弱いと言ったりします。
六経弁証の意じやないのですね。

これも何度か言ったように、真夏は本来、
心の支配になりますので、衛気も営血も心が上がります。
今年みたいに今のところ涼しいと、
心火が上がってもこんなもので済むのですが、
これがさらに暑熱で外からあぶられると、もっともっと
心火が勢いよくなります。そうすると
心の上にある肺が焼かれます。心の隣にある脾も焼かれます。
肺が水分不足になると腎水も不足していきます。
腎水が不足するとますます心火は上がります。
腎水が不足すると脾は腎から水をもらえなくなります。

脾は水をもらえない状態で心火にますます炙られるから、
全然ものが食べられなくなり、これが夏バテの状態です。
こういうところ(肺と腎、脾と腎、心と腎の関係)は五行ですが、
これ(心と肺、心と脾の関係)は五行じやないのです。解剖学的な関係ですね。
心火が上がり、熱を持ったら上にある肺が直接炙られてしまいます。
そばにある脾も熱を伝えられて参ってしまいます。
解剖学的な関係でやられてしまうのです。
もちろん、肺や脾が非常に丈夫な人だったら、
よほど無茶をしない限りやられないのですが、
もともと肺や脾がちょっと弱い人の場合は焼かれてしまうのです。

清暑益気湯というのは、そういう薬で、
普通の人はまず参らないのですが、肺や脾の弱い人が参ってしまう。
そういうときに非常によく効きます。
常日頃かかっている人が来ることもありますが、
夏バテの時期にこれだけで来る人も結構います。
普通は外来に来ないで、季節ごとにばっと来る人というのが、何人かいるのです。
例えば花粉症の時期に絶対、葛根湯加川芎辛夷が欲しいといって来る人とか、
五積散の時期にあれを欲しいといって来る人がいますね。
それから清暑益気湯を、暑くなった途端にもらいに来る人がいます。

それからテキストに書いてあるように、
今の時期に流行っているのは夏風邪ではないのです。
普通、今の時期はそんなにひどくならないのですが、
気温が上がってくれないと、
変な時期に寒邪が入ってくるので風邪をひくのです。
これは夏風邪ではありません。

夏風邪は、本当の夏の暑い時期とか、
暑い時期が続いた夏の終わりぐらいに流行り出します。
それは暑さでやられたための風部です。
これには大人にも子供にもこの清暑益気湯が非常によく効きます。
抗生剤も何もほとんど効きません。多少咳をしていようが、
多少熱があろうが、多少脱水状態であろうが清暑益気湯が効きます。

うんとひどい咳とかそういうのならば、
ちょっとまた別のことを考えないといけないけれど、
そういう意味での夏風邪の特徴というのは、
単にこわい、微熱がある、本人は風邪だと思うと言います。
食欲がないとか、もちろん寒けがしたりします。
でも、今言ったような咳とかそういう症状というのは
あまり強くないのが特徴です。でも本人は風邪だと思うのです。
現実にそういう患者さんが結構周りにいるから、
やはり伝っていくのかなという感じがあります。

あれに非常にこの清暑益気湯が効きます。
この状態のときには普通の風邪薬はいらないですね。
清暑益気湯だけでやってほとんど効きます。だから暑い時期
あるいは暑い時期の終わりぐらいに流行りだす風邪のときに、
非常に重宝して使う薬です。


第18回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda18.htm


https://www.kigusuri.com/kampo/kampo-care/015-2.html

[参考]:清暑益気湯

方剤:補中益気湯

2019-06-20 | 日記


次が補中益気湯ですね。
これの大事なことは、名前に惑わされない方がいいということです。
これも傷寒金匱の名前ではありません。
ところが補中益気湯という名前があまりにも立派すぎて、
私は東洋医学界の発表などのたびにクレームをつけているのですが、補剤という名前で、
この補中益気湯と十全大補湯を並べて検証してあるのが、しょっちゅうあるのです。

十全大補湯は補剤と言ってもいいかもしれない。
ところが補中益気湯はよく見れば、中だけを補すのです。
ほかのところを補すとは書いていないのです。
十全大補湯はすべてを大きく補うというものですから、
これは、中身から言ったらあまり名前負けしていないですね。
だから補中益気湯と十全大補湯を並べるなら、
補中益気湯は参耆剤と言いなさいと私は言うのです。
参耆剤と言うのだったら解ると言います。

両方とも参耆組を含んでいます。
参耆組を含む薬というのはまだほかにもたくさんあります。
当帰湯だとか、前に話した清心蓮子飲だとかです。
それで検証するのなら補中益気湯も十全大補湯も一応、理論的な検証ができるけど、
十全大補湯とこの補中益気湯をいっしょくたにして同等の補剤という言い方は、
やはりかなり怪しい言い方なのですね。

補中益気湯の場合は中身を見れば分かるように、
もちろん参耆組は中を確かに補ってくれますが、
柴胡、升麻、陳皮が入っているということは、
最低限これに反応できるだけの基礎体力が必要な構成になっています。
テキストには衰えの著明な者や、逆に体力中等度以上の者に投与すると
おかしくなると書いてありますが、それはこういうことなのです。

補う作用も強いですし、柴胡、升麻で持ち上げる作用も非常に強いのです。
だからあまり丈夫な人に投与すると、血圧が上がったりのぼせたりします。
でも、うんと弱っている人に使っても、
もう衰えかかって消えかかっている火を一時的に燃え上がらせるようなことになって、
かえって先になると生命力を落とすようなことが出てきてしまうのです。
だから一応この点を頭に置いておいた方がいいということです。

でも、この補中益気湯というのを考えていく上で考慮すべきことは、
補中益気湯という名前が立派すぎるということです。
この補中益気湯の直前の処方があるのです。
非常に似た内容で、中身がほんのちょっと違うぐらいなのですが、
それは非常に解りやすい名前になっています。

補脾胃瀉陰火升陽湯という名前です。補中益気湯はこれとほとんど変わらないのです。
「脾胃」これは中なのですね。脾胃は大きなものです。でも瀉陰火なのです。
要するに五臓のどこかに上っている火を瀉するのです。
ちゃんと瀉という字が入っているのですね。
そして落ちているものを持ち上げる。
確かこれはちょっとしか薬味が変わっていないから、
このままの名前だったら変な誤解は生まなかったかもしれないですね。
今でも補中益気湯の本質はこの名が一番解りやすいです。

補中益気湯の人は入ってくると分かります。
入ってきた段階で、うなだれています。慢性の呼吸器疾患のときなどは特にそうです。
長く息が続かないですね。長いセンテンスをしゃべられないのです。
そしてやはり中気下陥ですね。
胃腸の働きが衰えるとこういう感じになります(肩を落とし前かがみになる)。

経験的になぜか小柄な人はあまりいないです。ひょろっとしたタイプが多いです。
成長の最後にわ一つと伸びて、要するに肺気腫状態で大人になってしまって、
そして成人の間は何とかなっていたけれど、
それが年を取るに連れてだんだん肺気腫が負担になって、
そのために一緒になって脾の働きも落ちてきたというような感じの方が多いですね。

それと後天的な例では、 これは外因病ではありますが結核に使います。
結核というのは臓までやられていきます。
やはり外から入って最終的に肺を侵してしまいます。
そういう状態のときにこの補中益気湯を使います。

それから先程の夏負けや夏やせの人に使います。
本来は太陰が弱い人で基礎疾患が基本的にない人は清暑益気湯ですが、
先程言ったように、肺や脾が弱い人は基礎疾患が常にあることも多いのです。
基礎疾患があって治療している人が夏負けや夏やせ状態、
あるいは夏風邪を引いたときは、清暑益気湯よりこの補中益気湯になります。

普通の人はあまり夏負けしませんが、夏負けをするのはほとんど太陰の人です。
私のところでたいていの場合は、いつも見ていない人が夏負けして来たら
清暑益気湯になりますし、いつもかかっている人が夏負けして来たら
ほとんど補中益気湯になるというパターンが多いですね。

それ以外にテキストに書いているいろいろな病気は、
みんな同じことが形を変えて表に出ているということですね。
自汗や盗汗、たいていの場合盗汗はありますね。
寝汗をかきますかというとたいていあります。そのくらいです。
そして状態によっては、参耆組や白朮をちょっと加えてあげると、
もうちょっと効き目がいいし、さらに冷えなんかの症状も加わっているときは、
附子を加えるともっと元気がつく場合もあります。
あるいは呼吸器症状が強いとき、麻黄附子細辛湯等も併用することもあります。

第18回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda18.htm


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[参考]:補中益気湯

方剤:温清飲

2019-06-18 | 日記


次が温清飲です。これは今まで出てきた黄連解毒湯と四物湯との合方です。
普通は合方だったら合わせた処方のそれぞれの特徴があるのですが、
この温清飲というのはかなり違う薬になってしまっています。
二方合せて血熱と言いますか、他の消炎剤と違う特徴というのがあります。

外から入った病気がすごく長引いて行く場合に、
一つは黄連解毒湯だけ使っていると損なわれるので
四物湯で補うという手もあるのですが、現実にはあまり有りません。
例えば外から入って来たもので慢性化したものというのは、
種類はそんなに多くないのです。

外から入ったものが温清飲の状態までになるというのは慢性の皮膚炎ぐらいです。
これは患者さんのお話を聞いただけで解ります。
最初何かにかぶれて真っ赤になって皮膚科でステロイドを延々と使わたけれども、
だんだん皮膚が真っ黒になってしまって全然良くならない。
もう何年もこの薬を使っているけれどもダメだという様な場合です。
外から入って来るものに温清飲を使うのはそれぐらいですね。

大部分は内因病で、どちらかと言うと四物湯の状態がずっと続いているうちに
温清飲の状態になってしまう場合です。
内因病の場合、普通は陰が虚して六味丸とか七物降下湯等になる場合が多いのですが、
その場合は全体に上気したり、顔が赤いぐらいになります。

ところが温清飲の状態になると、さらにそれがもうちょっと激しくなって、
皮膚の熱感とか赤ら顔なんかではなく、
明らかに色素沈着を伴う赤褐色の皮膚の状態になります。
血分に入るというのはそういうことなのです。
上気するとか赤ら顔というレベルとは違います。

上気するとか赤ら顔というのは極端なことを言えぱ、
その人が死んでしまったら消えてしまいますね。
多分、温清飲の赤味というのは死んでも残ると思います。
それはやはり赤面という状態になると思いますね。
その状態になるというのは多分何か炎症があるのでしょうが、
炎症があるのとは別に、血の流れが順調であるならぱ、
局所に滞ることがないのですが、血の流れも良くない為に、そこにとどまって
色素沈着を起こしてしまうような皮膚の状態になるということです。

柴胡剤適応の炎症とは又ちょっと違う炎症になります。
柴胡剤は当然、柴組ですからこれは「肝」 の病証で、
場合によっては肝実脾虚肺虚まで行くこともあります。
でも温清飲というのは黄連解毒湯と四物湯ですから、
一臓腑診断をすればほとんど間違いなく少陰で、
少陰の中でもほとんどの場合「腎」ですが、時に「心」になります。
どちらが原因でもこの状態になります。「腎」が落ちていたら心火が上ります。
心火が勝手に上って行っても心火が「腎」を焼いている状態になります。

だから温清飲を使う目標というのは、疾患を考えるよりやはり診断が第一です。
来られる方の病気が少陰であるかどうかが大切です。
これは診断がつくと薬がピッタリ合います。

温清飲というのはテキストにも書いてあると思うのですが、
西洋医学の疾患の中で漢方薬が認知された一番最初の薬なのです。
小柴胡湯なんか問題じゃないのです。それこそ僕が医者になった頃に、
もう既にちゃんと医学書に温清飲はべ一チェット病に効くと載っていました。
但しべ一チェット病全てに効くかというとそうではないのです。
結局、その頃からちゃんと載っている割りには、
今現在、ベーチェット病によく使われているかというと、
なかなかそれ以上には広がらないのです。
その理由は、 最初に言ったように、ベーチェット病だったら、
誰が出しても温清飲が全部に効くかと言ったら、そんな事はないからです。

ベーチェット病の中の少陰の人に温清飲がたまたま効いたというだけのことなのです。
私はべ一チット病の患者さんも結構診ているのですが、
3分の1ぐらいが少陰で、3分の2は 「肝」で厥陰なのです。
厥陰の人には何を使うかというと竜胆瀉肝湯ですね。
だからこれも標準化出来ないのです。
でも何となくべ一チェット病の患者さんの中には、
赤黒い顔をしている温清飲の特徴をもっている人がかなりいる感じです。

温清飲の特徴は、要するに「腎」の水と「心」の火との関係です。
心火が上り過ぎて相対的に腎水が不足するか、
腎水が不足して心火が相対的に上るかのどちらかです。
どちらかといったら、簡単になりやすいのは腎水の不足です。
但し、腎水のゆっくりとした不足というか、それぐらいだったら、
先程言ったように六味丸とか七物降下湯の状態になって行くことが多いのですが、
やはり、もともと血の流れが悪いといいますか、そういうものがあるときに、
何か温清飲の状態が起こるような気がします。

ここのところは僕もまだ完全には言い切れないところもあるのですが、いずれにしても
温清飲の患者さんというのは外来で入って来た瞬間にほとんど解るのです。
何度も言うように単なる赤ら顔じゃなくて、死んだ後もその人の顔は赤(黒)いままだと、
そういう感触があって、明らかな熱性症状と慢性炎症の訴えをします。
テキストにはいろいろ書いてあります。
出血性疾患とか脳卒中の後遺症等が書いてありますが、
温清飲という名の処方は必ずしもしないで、温清飲に似た処方をすることがあります。

例えぱ皮膚の病気で、熱症状が明らかで皮膚が赤くなっていることが有ります。
明らかに皮膚疾患が出発で、次第に慢性化していくときならば、
温清飲にちょっと皮膚病薬を加えた方が良い訳です。
その場合どういう処方をするかというと当帰飲子と黄連解毒湯を合方したりします。
要するに四物湯を含む処方に黄連解毒湯を含む処方を合方するのです。

このように温清飲そのものではなくて、
温清飲を含む処方というのはしょっちゅうしています。
四物湯を含む処方に黄連解毒湯を含む処方をかぶせて行くのは、
結局、温清飲を意識しているのです。今言ったように、
四物湯にちょっと駆瘀血薬や皮膚病薬とかが入っている当帰飲子に、
黄連解毒湯を加えたりします。当帰飲子の、体液がちょっと枯渇して
皮膚がカサカサになって治りにくく慢性化している状態で、
前腕の背側等そこだけが赤くなっているときに黄連解毒湯を加えます。
あるいは七物降下湯に黄連解毒湯を加えることもあります。

七物降下湯の本来の状態というのは、四物湯の状態で腎水が不足して、
ただ心火が相対的に上った赤ら顔だけなのですが、これがうんと慢性的に長く続くと、
本当に色素沈着状態になって、かなり熱症状が強くなっていたりしますが、
この場合は七物降下湯だけでは弱くて、黄連解毒湯を加えたりします。
要するに先程の図式では四物湯が腎水を一応増やして
黄連解毒湯が心火を冷ますのですね。
心火が上り過ぎているなと思えば黄連解毒湯を増やし、
もうちょっと腎水を増やしてあげようと思えぱ、
四物湯の方を増やして行けば良いのです。

だからそういう意味では温清飲という処方をすることは少なくても、
現実に四物湯と黄連解毒湯のコネクションというのはかなり、
いろいろな場面に出てきます。その都度それを意識すれば良いと思います。
ただ大事なのは、あくまでもこれは少陰の人の場合です。

同じ状態で主体が炎症でも、厥陰の人であるならば柴胡剤を使います。
太陰の場合はそんなに変な炎症というのはあまりないのです。
太陰というのは、体の中に入る手前で防御してしま うから多分アレルギーなのですね。
アレルギー性鼻炎というのは一番治すが難しいのです。
喘息とかアトピーは治すのは案外難しくはないのです。
特に子供の喘息とかアトピーはほとんど2年で治ってしまいます。

でもアレルギー性鼻炎というのは一番完治しにくいと言うか、
お薬を飲んでさえいればいいという状態にしかなかなかならないのです。
要するに外から入って来るものに対して一番手前でガードしている状態なのです。
防衛反応だから治らないのです。
防衛反応は人間の大切な能力ですから抑えてしまえないのです。
漢方の特異的な消炎剤は柴組か連組で、これに勝るものはないのです。
柴苓組は厥陰ですし、連組は少陰なのです。

よく考えたら太陰のそういう薬はないのです。
太陰にも作用している薬というのは、どちらかと言えば非特異的な消炎剤ですね。
白虎湯等に入っている知母とか石膏とかです。
そういうのは別に太陰でなくても使えるのです。
特殊な消炎剤ではなく一般的な消炎剤なのです。
太陰の人というのはアレルギーを起こすけれどもアレルギーを起こすことで
体内の深いところに変な炎症を起こすのをガ一ドしているのかもしれません。
今話していて思ったのですけれど、太陰の薬で特異的な消炎剤はないようです。

第16回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda16.htm


https://www.kigusuri.com/kampo/kampo-care/029-3.html

[参考]:温清飲

方剤:越婢加朮湯

2019-06-12 | 日記



次は越婢加朮湯です。
婢は多分脾の間違いだろうと思います。
脾と言えば西洋医学的に言う膵を中心とした形態群です。
西洋医学でもこの膵というのも沈黙の臓器の代表なのですが、
東洋医学でも実は脾と言うのは表に出ないものなのです。
でも、脾は五臓及び六腑に栄養を送っている源です。
人間の生きている後天の気の食物のエネルギーや水を取りみ、
それを全身に送る中心です。

この処方が成立した時期というのは、どちらかと言うと外因病の多かった時で、
外からのもので脾がやられて、要するに脾を抑えられてしまって
水の代謝が全身にわたって悪くなった状態を何とかしようとするのが越婢湯です。
更に、水の代謝を良くする朮が加えられたのが越婢加朮湯と言う表現みたいです。
現実には急性疾患で、筋、関節に来て麻杏薏甘湯になることがあり、
これは痛みが強い状態です。

越婢加朮湯は急性疾患の経過中で、                       何らかの水の代謝障害が起きてきた時に使われます。               麻杏薏甘湯はどちらかと言うと血の方に異常が出てきた時に使われます。

急性症状を伴ってきた関節炎に麻杏薏甘湯を使い、
腎炎等で浮腫が出てきた時に越婢加朮湯を使うと言う事になっているのですが、
現実にはこれらの状態はあまり見られません。

皆さんのところでは診るかもしれないので一応話しておきますが、
私のところでは、急性期で来院して麻杏薏甘湯や越婢加朮湯までなってしまったら
最初の治療が間違っていたことになります。私は今は先ずこういうことにはしません。

急性期の病気は、初期の状態でシャットアウトできる自信はありますし、
まず麻杏薏甘湯や越婢加朮湯にはなりません。

この状態になるような亜急性期の時は近くの専門医に行って、
わざわざ、あのような南富良野の山の中まで来ないのです。
今の南富良野町は3100人しか居ないですし、40分車で走ったら総合病院が     ありますから、やはりこれくらいの患者さんは専門医にいってしまうのですね。

九州の離島にいた時は一万人も居て、夜になったら船も通わないですし、
嵐がきたら一週間ぐらい本当の離島になってしまいますから、
麻杏甘草湯や越婢加朮湯の患者さんも来ました。
その頃は使っていましたが今は使っていません。

今は内因病で使う事が非常に多いのです。
防已黄耆湯は同じ水の代謝障害でも潜在性の心不全があり、
肺や脾の衰えもあり全体的に虚している状態で冷えや水があります。
越婢加朮湯の人は麻黄や石膏が使えますので結構強い体質ですね。
一応これも慢性化したら附子を加えます。
昔の処方でも越婢加朮附湯というのがあります。
それでも防已黄耆湯証よりも体質的にはまだ強いようです。

膝関節症の場合は防已黄耆湯越婢加朮湯と合方する場合もあります。

成人の関節症はうんと弱ると膝に水が溜まりやすいのですが、
越婢加朮湯だけの状態だったら必ずしも下半身だけとは限らず、
全身どこにでも水毒という状態が現われます。

丈夫な人で炎症が明らかにあると考えられる人でリウマチとか
多発性関節炎がある人にもこの越婢加朮湯を使います。

ところが実はこのテキストには書いていないのですが、
私はこれをアトビーに使います。これは非常に特殊な使い方です。
他の本にも載っていないと思います。
東洋医学的治療を普通にやられていないから書かれないのだと思います。
前にも言いましたが、リウマチに柴胡を使って揺さぶるという治療と
同じ意味合いになりますが、アトビーのどういう状態に使うかと言うと、
ステロイドを長く使っていると皮膚が紅皮症というよりも、
象の皮膚の様に分厚くなってしまって、触るとゴワゴワになっている時に使います。

あの状態と言うのは薬が皮膚まで到達しないのです。                                            その皮膚を破る薬として使います。
「あなたの皮膚はゴワゴワで破らないと中の悪いものが出ないから、
一旦悪くするために薬を出すからね。」と
はっきりそう言って患者さんに覚悟してもらいます。
そうするとガーゼを一日に何回も取り替えないといけないぐらい浸出液が出ます。
けれども皮膚が薄くなり、軟らかくなるのを患者さん自身が感じ取ってくれるので、
頑張って治療を続けてくれます。

越婢加朮湯は何故こういう作用があるのか私も分からないのです。
麻黄かなと思いますが、他の麻黄剤ではそういう作用はありません。

石膏かなと思っています。石膏は皮膚の下の水に作用します。
でも他の石膏の入っている処方ではこういう作用はない様です。

私もいろいろやってみましたが、麻黄と石膏の組合せ等もそういう報告がありません。
多分どこもこういう使い方をしていないからだと思います。
でも敢えて私はやります。そして皮膚が破れて一直線に治ってくれれば良いのですが、
あんまり出すのがひど過ぎると、ちょっと制御する意味で、
今度は消風散に切り替えたりして、
出させてはフォローし出させてはフォローする様な治療をします。

前にも言った様に、私のところで引き受ける患者さんというのはステロイドを使って、
使えば使うほど悪くなってくるような人たちで、覚悟して来ていますので、
そういう治療に耐えるモチベーションを持っており何とかなるのでね。

アトビーの治療は、他には状態を見ながら十味敗毒湯荊艾連翹湯を使ったりします。

私は越婢加朮湯で皮膚を破るのがうまく行くのが分かって、
もう一つ別の疾患に越婢加朮湯を使っています。それは尋常性乾癬です。
これはほとんどと越婢加朮湯と当帰飲子の組合せです。                               

アトビーは文字通り湿疹です。
湿っているところをある程度乾燥させないといけないのです。

乾癬は文字通り基本が乾いて肥厚した癬ですね。
これを潤す最大の薬が四物湯に皮膚薬の入っている当帰飲子です。
要するに四物湯で乾癬を中から潤してあげて、乾癬の部分を破ってあげるのです。
これが非常に効くのです、ほとんどうまくいっています。

尋常性乾癖は難病という事で尋常性乾癬友の会を作っているのですが、
先生方のところで治療してもらえば、                                                                友の会はそのうち解散するのではないでしょうか。

但し、乾癬は完全に無くなりはしません。                                                          本人の生まれつき持っているものですからね。
でも全身がひどい状態になっていても、薬を飲んでさえいれば
本人が社会生活をするのに苦痛を感じる事は無くなります。

露出部分は本来は治り易いところですので、
女の人だったらノースリーブの服が着られて、
膝までのスカートをはければそれで良いでしょう。                                                そこまでにはなるのです。

体の奥というか陽の当たらないところは治りにくいのです。
特に最後まで残るのは背骨の腰椎の附近です。

貨幣状湿疹と尋常性乾癬とを北海道の先生はよく間違って発表したりします。
尋常性乾癬友の会の中にまで貨幣状湿疹の人がよく入っています。

貨幣状湿疹は文字通り湿疹ですから、乾癬程の皮膚の厚さはありません。
最も強いステロイドを使えばリバウンドはありますが、2、3日 で完全に消えます。

乾癬は2、3日で消える事はありません。乾癬は慢性化する程盛り上がってきます。
乾いて大抵は淡紅色かピンク色の盛り上がりです。

それをキチンと確認してほとんど病名診断で
越婢加朮湯当帰飲子を使っていただければ大抵良いようです。

ほとんど視診が全てを決めているという感じです。                                                  だから皆さんがお使いになられたら、あんな山の中(南富良野町)まで                      患者さんが来なくても良くなるのではないでしょうか。

そんなに時間はかかりません。
乾癬は本人が皮膚が軟らかくなって来ているのが分かるのです。
写真を撮っておけば私達もはっきり良くなっているのが分かります。
ということで越婢加朮湯は皮膚を破る薬です。

初めアトビーの象皮症みたいなものに使って効くということで
尋常性乾癬に使ってみたらやはり効くということで、
自分でも面白い使い方だと思います。

第11回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda11.htm


禅は禅なり

2019-06-11 | 日記