不破哲三著「北京の5日間」「21世紀の世界と社会主義」「激動の世界はどこに向かうのか」
不破哲三氏は、1998年で日中両党関係の正常化以後の両党の会談・理論会議について、3冊の本にまとめており、日本共産党の中国社会と中国共産党への基本姿勢と中国の科学的社会主義への姿勢・政治・経済の考え方の一端がわかるものとなっています。
中国共産党とは、戦前からの中国への侵略戦争反対などを命がけで貫いた日本共産党として、友好関係にありましたが、1966年の毛沢東による文化大革命をきっかけに、日本共産党へ鉄砲から政権が生まれるという、議会での多数による変革を否定する路線の押し付け以来、32年間全くの断絶状態にありました。
1998年の正常化は,中国共産党による干渉について「真剣な総括と是正」を確認して実現しました。
最初の会談の様子は、「北京の5日間」にまとめられています。
1、1998年に訪中した日本共産党代表団は,両党関係だけでなく日中両国のあり方につていも合意しました。それは、第一、日本は過去の侵略戦争についてきびしく反省する。第2、日本は国際関係の中で「一つの中国」の立場を堅持する。第3、日本と中国は,互いに侵さず、平和共存の関係を守り抜ぬく。第4,日本と中国とは,どんな問題も、平和的な話し合いによって解決する。第5、日本と中国は,アジアと世界の平和のために協力し合う。というものです。わたしはここに、日本共産党が日本国民と中国国民との真の友好の基本が示された,歴史的な合意だと思います。
2、もうひとつは,両党の認識は白紙から出発をすると予断を持たず、現実直視で友好関係をすすめるとしたことです。
3、その中で、
○89年に天安門事件が起きた時、わが党は、平和的な運動を武力行使でおさえることは、社会主義的民主主義とは両立しえない暴挙だと指摘しました。
○「私たちは、より根本的な問題として、将来の展望の問題がある、と思います。将来的には、どのような体制であれ、社会に本当に根をおろしたと言えるためには、言論による体制批判に対しては、これを禁止することなく、言論で対応するという政治制度への発展を展望することが、重要だと考えます。レーニン時代のロシアでも、いろいろな権利制限の措置がとられましたが、レーニンは、それは革命の一局面の過渡的な制限であって、将来は制限をなくすということを、理論的にも政治的にも明確にしていました。将来的なそういう方向付けに注目したい、と思います」(『日本共産党と中国共産党の新しい関係』から)とずばり指摘しています。
4、その後も、日本共産党は、中国を、社会主義をめざす真剣な探求をおこなっている国だとみなしていますが,「そこで起こったことすべてを肯定するものではありません。私たちは、たとえば『反日デモ』が起こった際、それから『チベット問題』が起こった際など、国際的にも問題となる様々な事態が起こった時には、率直に、わが党の立場を先方に伝えています」(『日本共産党の“元気”の源は何か』から。
「21世紀の世界と社会主義」日中理論会議で何を語ったか
2005年に中国共産党から9項目の質問が提起され、それに答える形で理論会議が行われた内容です。この中国共産党の意図は、①新しい情勢に対応するには小平路線の延長では足りない。②マルクスレーニン主義・毛沢東思想・小平の3つの代表重要思想をマルクス主義理論として総括している。③日本だけでなく世界の社会主義的な知恵をすべて研究する。
この中では、中国は1956年から100年後を目標として、その半分で経済発展の「小康社会」を目標としており現在のその目標の時点になるとしているようです。
7、中国的特色のある社会主義への不破氏の提起
不破哲三氏は、質問に答えて、中国社会につていの見解を述べていますが、中国の現状を知る上で大変役立った視点です。
○国民の社会主義的自覚
○社会主義の視野からの経済成果の解明
○平和的興隆論=世界に脅威を及ぼさない経済発展論の根拠を示すこと
○生産者が主役になる企業形態の探求
○資本主義の害悪への理解
○資本主義と社会主義の対比の観点
8、民心を得ることが大切 台湾問題
また具体的な提起として、不破氏は、中国の1国2制度という台湾政策に対し、台湾の民心を得るという目標を提起しています。その翌年から中国の政策が大きく転換した。と指摘していますが、私は、この問題を注視してきましたが、そう感じさせる内容がたびたびありました。
. 複数政党制についても、「こういう歴史的な経験〔ロシア革命にも反対政党の存在を認めた時期があったこと〕の話もして、反対政党の禁止は、決して社会主義革命の原則ではないし、本当に新しい社会の発展を長い目で考えたら、議会的ではない道で革命に勝利した国ぐにでも、反対政党を禁止するのではなく、反対政党を含む複数政党の存在とその政治活動の権利をきちんと認めることが、その国の革命の将来の発展、社会主義の世界的な発展にとって、より有利な、より妥当な方法になると述べ、私がそう考える理由は、大きくいって三つの点だと言って、次の三つの問題をあげました。
○第一に、それは、社会主義のもとでの国民主権の制度を強化することに役立つ。
○第二に、それは、社会主義をめざす政治的軌道をより安定した形で確立することに役立つ。
○第三に、それは、世界的規模での体制間競争が新しい段階を迎えた今日、社会主義の国際的影響力やそれへの共感と信頼を広げるうえでも役立つ」と述べていますが、日本のマスコミなどの論調とは全く違った、中国自身の利益にかなった方向だと述べています。
「激動の世界はどこに向かうのか」日中理論会談の報告
その後2009年に中国共産党との理論会議あり、「激動の世界はどこに向かうか」と題して本になりました。
その中で不破氏は、その後の発展をふまえて、中国社会への問題提起を行っています。
○社会主義をめざす国の優位性と問題点・弱点。
○人民生活のセイフティーネットのおくれ。
○社会主義建設は数世代にわたる事業。
○社会主義と革命の精神をいかにして受け継ぐか。
○市場経済を通じて社会主義へとの路線について、中国が資本主義との対比で考えていないことによる社会を腐らせる危険。
○国民の社会主義的意識を高める
○国民的多数派の形成は,社会主義をめざす国でも重要な任務。などを提起しています。
日中両党関係の根底にあるもの
私は、日本共産党と中国共産党が率直かつ積極的な理論会議をすすめることができる根底には。
①中国共産党の100年単位で社会主義建設を進めるというスケールと、現状へのするどい問題意識。
②命がけで中国への侵略戦争に反対した、日本共産党の歴史への信頼。
③中国毛沢東派からの、激しい干渉に断固たたかい、真の友好のために奮闘した日本共産党の歴史の重み。
④21世紀の世界の流れを、発達した資本主義の運動の中から、社会主義への独自の道を探求する国々から、アジア・中東・アフリカ・ラテンアメリカなどの国々から、資本主義の枠を超えた、新しい社会をめざす流れが成長し発展すると分析し、中国もその一端を担い、日本共産党も条件は違いますが、その大きな流れの中で同じ方向をめざすものとしてとらえている。ことにあるからではないでしょうか。
尖閣諸島での歴史的・国法上の日本領有権の主張や、ノーベル平和賞の問題でも率直に「言論による体制批判には、禁止ではなく、言論での対応が重要だ」との表明もこうした大きな視野と展望の中であり、私は日本共産党の値打ちに改めて誇りを持っています。