佐賀県白石町の干拓地で出会ったのは、91歳の老漁師だった。
船溜まりで何かごそごそと仕事をしているので声をかけると、漁から帰ったばかりで、
今日の獲物の整理をしているところだった。
「今日は何が獲れまた?」声をかけると、農業用の肥料を入れるみたいな、
あの大きな紙袋をごそごそと探り、「これだよ」と取り出したのは、店先でよく見るものよりは、
倍、いやもっと大きいかもしれない驚くほどの大型カキだった。
「それ食べられるのですか」と問えば、「当たり前だよ。うまいよ。食うかい。おい、入れるもの持ってこい」
一緒に作業をしていた二十歳前後の孫に言いつけた。
孫も愛そうが良い。
「これね、あまりに大きいものだから、店には出せないんですよ。でも、旨いよ」と言いながら、
近くに停めていた軽トラックから青いビニール袋を取り出し、爺ちゃんに渡した。
「ほれ、これ持って帰りな」─渡されたビニール袋はずしりと重い。
5キロほどはあるだろう。
「いいんですか、いただいて」「いいから、いいから」カキを食べているせいなのか、
91歳とは思えぬ顔つやでニヤリ笑った。
さらに側から孫が「これ、天然ものだからね。やっぱり焼くのがいちばんいいかな」と口添えする。
その日の夕食の食卓には、大きな大きなカキフライが二つ。
老漁師の好意をありがたくいただいた。