妻は救急車に乗せられた。
自分の車で、その後を追う。
頭の中を駆け巡る良からぬ思いが、ハンドル操作を怪しくさせる。
どうにか気を鎮めつつ妻の搬送先の病院へ急いだ。
こうだとは思いもしなかった。
土曜の夕方頃から「胸のあたりが何だか痛い」と言い始めた。
この夜は孫娘2人の合同誕生日会を行うため、
妻は孫たちが好きな料理作りに精を出していたのだが、
その途中から不調を訴え出したのだ。
ただ、横になると痛みは退く。
それで横になり痛みがなくなると、再び料理を始める。
そんなふうに繰り返し、孫たちの誕生会は無事済ますことが出来た。
日曜も月曜も同じだった。胸のあたりの違和感が続いた。
おそらく、胃、あるいは食道に何らかの異常が
起きているのだろうと思ったものの、あいにくの連休で病院も休みだ。
まさに悶々としながら、この2日間を乗り切らざるを得なかった。
そして、連休明けの火曜日、開院時間を待ち構え、
かかりつけの内科医に駆け込んだのだった。
診察時間がやけに長い。いやな予感がした。
すると、診察室に呼び入れられた。
「狭心症、あるいは心筋梗塞の可能性がある」
妻共々その診断にぎょっとなった。
そして、「ただ当院は専門外。他の総合病院に紹介状を書きます。
救急車を呼びますから、このままその病院で診てもらってください」
ということになったのだった。
救急車の搬送先。妻を診てくれたのは若い女医さんだった。
「心筋梗塞の可能性があります。今から、細くなった血管を見つけ、
そこを広げてステントを留置する措置をします。
2時間ほどですね。もちろん、そのまま入院していただきます」という。
待合室での、その2時間は、時計の針が止まったかと思えるほど長かった。
でも、措置を終えた女医さんの話は、7年間に7度の入院・手術経験のある
僕の胸を締め付けていた重い、重い思いをいっぺんに解き放ってくれた。
「うまくいきました。軽い、軽い心筋梗塞でしたね。
心臓へのダメージもほとんどありませんでした。
明後日には退院していいでしょう。早く見つけられてラッキーでしたよ」
3日間の、妻にとり初めての入院生活から戻ると、
もう「桜が満開の季節。写真を撮りに行かなくちゃ」などと、
いつもと変わらぬ元気ぶりだ。
おい、おい、無茶はいかんよ。