Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

妻を追う

2022年03月25日 06時00分00秒 | エッセイ


妻は救急車に乗せられた。
自分の車で、その後を追う。
頭の中を駆け巡る良からぬ思いが、ハンドル操作を怪しくさせる。
どうにか気を鎮めつつ妻の搬送先の病院へ急いだ。

こうだとは思いもしなかった。
土曜の夕方頃から「胸のあたりが何だか痛い」と言い始めた。
この夜は孫娘2人の合同誕生日会を行うため、
妻は孫たちが好きな料理作りに精を出していたのだが、
その途中から不調を訴え出したのだ。
ただ、横になると痛みは退く。
それで横になり痛みがなくなると、再び料理を始める。
そんなふうに繰り返し、孫たちの誕生会は無事済ますことが出来た。
         
日曜も月曜も同じだった。胸のあたりの違和感が続いた。
おそらく、胃、あるいは食道に何らかの異常が
起きているのだろうと思ったものの、あいにくの連休で病院も休みだ。
まさに悶々としながら、この2日間を乗り切らざるを得なかった。
そして、連休明けの火曜日、開院時間を待ち構え、
かかりつけの内科医に駆け込んだのだった。

診察時間がやけに長い。いやな予感がした。
すると、診察室に呼び入れられた。
「狭心症、あるいは心筋梗塞の可能性がある」
妻共々その診断にぎょっとなった。
そして、「ただ当院は専門外。他の総合病院に紹介状を書きます。
救急車を呼びますから、このままその病院で診てもらってください」
ということになったのだった。

救急車の搬送先。妻を診てくれたのは若い女医さんだった。
「心筋梗塞の可能性があります。今から、細くなった血管を見つけ、
そこを広げてステントを留置する措置をします。
2時間ほどですね。もちろん、そのまま入院していただきます」という。
待合室での、その2時間は、時計の針が止まったかと思えるほど長かった。
でも、措置を終えた女医さんの話は、7年間に7度の入院・手術経験のある
僕の胸を締め付けていた重い、重い思いをいっぺんに解き放ってくれた。 
「うまくいきました。軽い、軽い心筋梗塞でしたね。
心臓へのダメージもほとんどありませんでした。
明後日には退院していいでしょう。早く見つけられてラッキーでしたよ」

          

3日間の、妻にとり初めての入院生活から戻ると、
もう「桜が満開の季節。写真を撮りに行かなくちゃ」などと、
いつもと変わらぬ元気ぶりだ。
おい、おい、無茶はいかんよ。