「何と物好きな人たちだ」──失礼を承知でそう呼ばせていただこう。
車1台がやっとの細道、しかもくねくねとカーブの連続する未舗装の山道。
少しでも運転を誤ろうものなら崖下へ真っ逆さまの大惨事間違いなしだ。
これが国道だと。そんな国道ならぬ〝酷道〟をあえて走ろう
という愛好会があるというから驚く。
面河渓
かく言う僕も経験者の一人だ。
ただし好んで走ったわけではない。
6年前、四国へ車中泊に出かけた時のこと。
エメラルドブルーの水面、それに映える紅葉を楽しみにして
面河渓(同県久万高原町)へとナビを頼りに
高速道路から国道494号に乗り継いだが、
この494号線こそが〝酷道〟だった。
しばらくは何の問題もなく快適な走行を楽しめた。
だが、道はどんどん細くなり、
カーブが連続する山道が標高1000㍍ほどの黒森峠まで続いた。
随所にミラーが設置されてはいるが、
離合することを考えると背筋が寒くなる。
右側にはガードレールはほとんどなく、
転落を恐れ左に寄せると側溝が怖い。
ナビまでが狂ったようにあらぬ数字、方向を示し出し恐怖心を煽る。
神経が張りつめ通しだから、肩までコチコチになってくる。
紅葉は目の隅をかすめるだけ、楽しむ余裕なんてまったくなかった。
もちろん、〝酷道〟は四国に限った話ではなく全国各地にあるらしい。
そんな〝酷道〟を「走るだけで冒険心がくすぐられる」
「走ると生きている実感が湧き、ノスタルジーにも浸れる」
「合理的に整備された道では感じられない
地元の歴史や暮らしぶりを体感できる魅力がある」
と好んで走るファンが、全国に女性も含め約九十人もいるという。
それらの人がウェブサイト「TEAМ酷道」を開設して
体験談を発信したり、年に数回探索会を開いているそうだ。
また、今年1月には「酷道大百科」を出版したところ、
重版されるほどの人気だったというから、
「世の中には何と物好きな人たちがいるものだ」
と繰り返すしかない。
景勝地を訪ねようとすると、こういう〝酷道〟が避けられないこともあろう。
その分、素晴らしい自然が待っていてくれる。それは確かなのだが、
「TEAМ酷道の仲間になりませんか」と誘われたら、
もちろん丁重にお断りする。
ちなみに〝険道〟というのもあるらしいから、ご用心。