【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

不連続殺人

2019-01-07 07:16:53 | Weblog

 本当だったら連続殺人をするはずだったサイコパスを、初犯で運良く逮捕できたとしたら、逮捕した人は自分が殺人犯を逮捕しただけではなくて、連続殺人を予防できたのだ、ということを意識できるでしょうか? 周囲の人間は「予防」を賞賛できるでしょうか?

【ただいま読書中】『雷をひもとけば ──神話から最新の避雷対策まで』新藤孝敏 著、 電気学会/オーム社、2018年、1800円(税別)

 ゼウス、ジュピター、トール、雷神、菅原道真など、世界中に「雷神」がいます。そして「落雷は神の罰」という考え方もまた世界中に。そういえば浅草の雷門は、本当は風神雷神が祀られているのですが、風神はまるで「居候」のような扱いになっています。
 「雷は電気だ」は、フランクリンの凧の実験で確定されましたが、実は世界中で同様の実験が行われていました。フランクリンの場合は雷雲に突入した凧が「帯電」しただけだったので事なきを得ましたが、凧に落雷して死んだ人もいます。
 江戸時代の中谷宇吉郎は「雷」という本で雷を「陰陽」で説明しようとしました。陰陽五行の陰陽ですから、非科学的、と片付けることは簡単ですが、私たちは「陽子」や「電子」だって見たことはないのにわかったように説明をしています。もしかして「陰陽」をそのまま「クオーク」に置き換えることができたら「陰陽」が科学の世界に復活することが可能かもしれません。
 激しい上昇気流で雷雲ができると、その中で小さな氷はどんどん持ち上げられますが大きな氷は落ちてきます。そこで衝突や摩擦が起き、小さな氷はプラス・大きな氷はマイナスに摩擦帯電をします。その結果、雷雲の上部はプラス・下部はマイナスに帯電します。その電気が十分貯まると下部から地面に放電が発生する、それが落雷です。夏に上昇気流が発生する、はわかりやすいのですが、冬にも雷があります。(ハタハタ(鰰)は冬に獲れますが鰰の「神」は「雷神」のこと。ブリは北陸で冬に獲れますが、その時期の雷を「ブリ起こし」「雪起こし」と呼ぶそうです) 冬にシベリア高気圧から日本海に流れ込む寒気は、対馬暖流で気団の下部は温められ積乱雲となります(気象衛星の写真で「筋状の雲」と見えるもの)。その雲が日本に雪と雷をもたらすわけです。
 気象台では雷も観測していますが、見逃しや聞き逃しがないとは言えません。ただ100年以上のデータの厚みはあります。落雷の季節は圧倒的に夏ですが、冷夏の年には夏の落雷が減少しています。日本の年間落雷数は、ここ20年で、少ない年で40万、多い年で120万となっています。多いですねえ。
 雷の被害は、日本の歴史に多く記録されています。古くは天智天皇九年(670)4月法隆寺が落雷で火事、その後も東寺、清涼殿、東大寺、延暦寺、高野山大塔など当時の巨大建造物が何度も落雷で燃えています。別に寺だけが雷神に狙われていたわけではなくて、記録に残りやすかっただけでしょうけれど。与謝野蕪村の句に「雷に小屋は焼かれて瓜の花」がありますが、庶民の家も見逃してはもらえないのです。ヨーロッパでも教会の落雷被害が記録されていますが、その中でも大きいのは1769年イタリアのナザーレ寺院への落雷で、教会に貯蔵されていた火薬が爆発して3000人以上が亡くなっています(当時は教会に火薬、は珍しいことでは亡かったそうです。日本では1660年に大阪城に落雷したとき火薬庫の火薬が爆発して大惨事になっています)。
 人体に直接落雷、も多くあります。日本では(官報のデータで)明治20〜27年に、年間平均46人死亡・22人負傷、となっています。1967年8月1日西穂高岳での落雷では登山中の高校生と教師46名中、死者11名負傷14名という大きな事故が起きました。それ以降対策が本気で進められ、最近の落雷死者は年間数名となっています(ジャンボ宝くじに当選する確率は1000万分の1だから、それより落雷で死ぬ確率は低いそうです)。
 一般的に雷は高いところに落ちやすい傾向があります。東京の落雷は1平方キロメートルあたり年間2回ですが、東京スカイツリーは年間10〜20回も落雷を受けています。巨大な避雷針、となっているのでしょう(なお、電流は鉄骨を伝って地面に流れるので、人体や機器には何の問題も生じていないそうです)。
 雷雨の中なら雷に注意するでしょうが、きれいに晴れていても落雷事故が発生することがあります。「青天の霹靂」です(英語にも“Bolts from blue"という表現があるそうです)。直撃を受けると、多くの人は死んだり、後遺症が残りますが、まれに無傷ということもあるそうです。気をつけたいのは「側撃」という現象です。たとえば高い木に落ちた雷がそこから近くにいた人に放電をする現象です。実験では、木から3メートル離れると側撃は起きにくくなっています。ただ、3メートル離れていたら絶対安全、とも言えないので、ゴロゴロ鳴っているときには木には最初から近づかないのが良さそうです。
 遠くで雷が鳴っている状況は、実は「10km以内に雷が発生している」ことを示しているそうです。これは「遠く」ではありません(だから「青天の霹靂」)。安全な場所への避難が必要です。では「安全な場所」とはどこ? 導電体に囲まれた空間(自動車の中、鉄筋コンクリートの建物)や、一般的な木造住宅だと、たいていは大丈夫です。ただ、簡素な四阿は、落雷すると側劇をくらう可能性が強いので危険です。「木のそばで雨宿り」も危険。地面に伏せるのは、落雷後に地面を流れる電流に心臓を近づけるから危険。金属製のネックレスなどは落雷には無関係なので外して捨てるのは無意味な行動。
 雷撃で心停止をしている場合、まずするべきは、人工呼吸や心臓マッサージ、もしあればAEDの装着。数分以内に心拍が回復したら高確率で命は助かるそうです。「倒れた人にさわったら感電する」と恐れる人がいるそうですが、なんでそんな非科学的なことを思うんですかねえ? 電気は「穢れ」とは違うんですが。
 フランクリンはアメリカ独立で政治家として名を馳せましたが、避雷針の提唱者としても有名です。最も当時は「そんなばかげたアイデアはない」と冷笑されていたそうですが(それどころか「かえって落雷を増やして危険が増す」と全否定する人もいたそうです)。しかし、実際にそれで被害を免れた実例を見ることで避雷針は普及しました。面白いのはイギリス海軍が船舶への落雷被害防止目的で1847年に船に避雷針を設置したことです。海面から突き出たマストは、雷から見たら絶好の標的ですから、被害は多かったのでしょう。避雷針の有効性が認められると、こんどは「避雷針付き傘」「避雷針付き帽子」なんてものも登場しています。本当に有効だったのかな?
 飛行機への落雷も珍しいことではないそうです。導電体で囲まれているし、落雷したのとは別のところから放電するので、大きな被害は生じないことが普通だそうです。ただ、最近の飛行機はプラスチックを多用していて、これはあまり電気を通さないので、何か問題が生じるかも、と懸念されているそうです。
 私個人としては、自分が雷撃を受けることと、近くに落雷してそのサージが侵入して家の機器(特にパソコン)が壊れることが心配です。サージ防止用のテーブルタップを買ってこようかな。




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