【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

聞きたい言葉

2019-09-28 07:22:24 | Weblog

 政治家がテレビで「緊張感を持って」とか「スピード感を持って」とか言っているのを聞くたびに、私は「清く正しく美しく」も言ってくれ、と言いたくなります。

【ただいま読書中】『サーカス放浪記』宇根元由紀 著、 岩波書店(岩波新書(新赤版)52)、1988年、480円

 昭和53年、芸大の演劇ゼミに来た「サーカスのバイト募集」に著者は大喜びで手を挙げました。仕事はパレードに参加することと客席での物品販売。サーカス団員のような恰好はしていても“偽物"です。ところがバイト中に団員たちの面白さに魅力を感じ、一輪車を教えてもらうと乗れるようになり、とうとう著者はキグレサーカスに正式入団することになります。家族は猛反対。そこで著者は家を出て、サーカス入団までの三箇月、おんぼろアパート(家賃は1万円)で生活をします。いやあ、大変だっただろうと思いますが、著者はとても楽しい思い出を語るかのように(というか、たぶんとても楽しい思い出なのでしょうね)記述を繰り広げます。
 昭和54年夏に正式に入団。普通はしばらく修業なのですが、何がどうしたのか突然舞台に上げられてしまいます。しかしピエロとして正式にトレーニングを受けたわけでもなく、初舞台は大失敗。しかしそれも笑い話になってしまいます。本人は化粧が崩れるくらい泣いているんですけどね。
 「日本のサーカスは閉鎖的だ」と非難する人がいるそうです。ヨーロッパでは開放されている団員の居住スペースが立ち入り禁止になっている、と。それに対して著者は「ヨーロッパのハウスは鍵がかかるが、日本の天幕住居には鍵がない」「そんなことを言う人たちは、自分の家の内部も見ず知らず人々に公開しているのかな?」と返しています。
 サーカスでの一番の重労働は「場越し(次の公演地への引越作業)」です。大天幕や客席のばらしなどの重労働は男の仕事ですが、女も楽屋や寝小屋のばらしや荷造りなどをやらなければなりません。なんだか全身が筋肉痛の塊になりそうです。トラックが出てしまうと、ごみ拾いをしてから「乗り込み」です。皆よそ行きに着替えて、新しい土地に向かいます。もっとも翌日朝からみんなトレパン・長靴・軍手で家の組み立てなどを始めるのですが。
 団員は大体早起きが嫌いだそうです。それでも早朝練習が入っている場合には早起きをします。本番が終わるとまた稽古。夕方には終えますが、振り付けが変わったりすると本番さながらにリハーサルをするので22時くらいまで稽古が続くこともあります。プロの芸を維持するのは大変そうです。
 恋愛事情も面白い。仲良し夫婦が異常に多い、とか、職場恋愛が破局を迎えても割とからりと立ちなおっていく、とか、現場で見てきた強みが文章に発揮されています。
 ユニークな人も豊富です。その言動の面白さ、それだけで本が1冊できあがる、というか、本書はそうしてできた本でしたね。




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