長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

滝口入道

2010年03月21日 23時41分24秒 | 美しきもの
 高山樗牛の『滝口入道』を初めて知ったのは、昭和の終わりごろ、NHKのラジオ番組の朗読の時間でだった。文語体の小説なのだが、とても分かり易く、かつ、文章があまりにも美しくしみじみとして、日本の言葉、文学とはなんと素晴らしいものだったのだろうと、改めて驚愕し、打ち震えた。朗読していたのは嵐圭史で、その口跡のよさ、朗々たる読みっぷりも、素晴らしいものだった。
 昔のことで、記憶が定かではないが、さっそく本屋に走って岩波文庫に収録されていた『滝口入道』を手に入れた。いや、その時は絶版になっていて、しばらくして復刻されたのを手に入れたのだったかしら…。古本屋か図書館かで手に入れたかして、とにかく、むさぼるように読んだのだった。
 高山樗牛はこの素晴らしい小説を発表し、一時大層な喝采を得たのだが、当時の文壇で「時代考証が出鱈目である」というレッテルをはられ、何となく排斥された形になったらしい。こんなに素敵な本を、今までなぜ知らずにいたのか、不思議だったのだが、そうか…とちょっと悲しい気持ちになった。
 絵空事の面白さってのは、エンタテインメントの基本だ。リアルさも大切だけど、度を超すと鑑賞に堪えるものにならない。
 この小説がきっかけになって、私は海外小説から遠ざかっていった。英語ができて原文が読めるならいいが、翻訳ものの小説の文章表現が、何となく貧弱に思えてきたからだった。そして、ストーリーが面白いという物語の構築性とはまた別の、文章の巧みさという面白さを追い求めるようになっていった。
 何年か経ってから、鎌倉を散歩していてふらりと立ち寄った寺で、偶然、高山樗牛の碑に出会った。鎌倉の長谷寺に、晩年、寄寓していたらしい。横笛が結んだ草庵を想い出して、私はなんだかいじらしい気持ちで胸がいっぱいになってしまった。
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my楽器

2010年03月21日 00時44分36秒 | お稽古
 何か一つ、自分が奏でることのできる楽器を持ちたい…というのは、万人が抱く夢ではないだろうか。
 思えば、私は音楽がとても好きだったが、学校で習う音楽の授業は得意ではなかった。
 幼稚園の時オルガンを習わされていたが、幼い私にはどうしても、あのフガフガ鳴るアヒルの啼き声のような音が好きになれなくて、泣きながら通っていた。オルガンができそうならピアノに進ませようと思っていた母は、私に音楽系のお稽古をさせることを諦めたらしい。…そんなら最初からピアノにしてくれたらよかったのに。
 高校生になってギターを買ってもらった。エレキじゃなくアコースティック。禁じられた遊びとか、アルハンブラの想い出とか、妙なる調べをカッコよく弾いてみたかったのだが、どういうわけか私にはコードが覚えられなかった。
 それから、私のmy楽器探しの旅は続いた。MGM映画が好きだったので、クラリネットでスウィングジャズを演奏しながらタップを踏む寄席芸人になろう、とか、本気で考えていたこともある。
 そのころすでに二十歳前後になっていたが、そのころ妙に、日本古来のメロディ、音楽に心惹かれるようになっていた。
 そこで、クラリネットのお稽古を1年ほどで断念して、長唄のお稽古に通うようになったのだ。三味線は弾けば弾くほど面白くなる。ギターのコードも覚えられなかった私が、これは奇跡の巡り逢いだった。
 西洋音楽の音楽理論はそれはそれで素晴らしいものだが、音楽はそれだけじゃない。
 邦楽は、ドレミという符号とも、12音階の音楽理論とも、全く別の世界で生まれた日本独自の音楽なのだ。
 馬に乗るとき、西洋と日本とでは逆側から乗るように、鋸で木を切るとき、日本は引いて、西洋では押して切るように、日本の提灯が横に竹ひごが通ってて畳めるけど、中国の提灯は竪に竹が通してあって畳めないように、東洋と西洋とではすべての発想の起点が逆なのだ。
 それはどちらが優れているとかの、優劣をつけるべきものじゃなくて、全く違う発想のもとに立脚しているものだから、相手を己がほうの尺度で測って、どうこういうものでもないのだ。
 中学校で三味線の体験授業を行うたびに、音楽の授業が苦手な生徒さんほど、音楽の別の魅力を発見して、音楽を好きになってほしい、と思う。
 西洋がだめでも東洋があるさ。同じDNAを持つ日本文化から誕生した邦楽をやってみてほしい。
 きっと、諦めていたmy楽器が見つかるかもしれない。
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