だーばぁの流儀

児童文学作家・岡田なおこブログです。
全身マヒ+オストメイト・作家・アラ還ならではの日々を気ままにつづっています。

本の紹介・千年もみじ

2012年11月17日 | クリエーター・モード
作家の先輩であり、いつも仲良くしていただいている最上一平さんが新刊「千年もみじ」を上梓されたので、ご紹介します。




八雲川ぞいには小さな集落が三つあります。
一番上流にある「八雲」には男の子は、ともあきしかいません。
ともあきは他の集落の友だちを誘って、川遊びをします。
ともあきはじいちゃん(祖父)に習い、「釣りのおもしろさ」を知りました。
初夏の頃、うなぎ釣りが流行りました。
しかし、じいちゃんはうなぎを釣らないし、食べません。
うなぎはフィリピンあたりの海で生まれるのです。
じいちゃんの兄は戦争に行き帰ってきませんでした。
フィリピンでも多くの人が戦争の犠牲になりました。
じいちゃんは終戦の翌年、八雲川に上ってきたうなぎを見て、兄が戻ってきたように思い、それ以来うなぎを釣ることも食べることもしなくなったのです。
ある日ともあきの家に若月と名乗る人がやってきます。
若月さんのお父さんとじいちゃんの兄は戦友で、二人は戦地で「どちらかが生き残った方が、相手の生地を訪ねる」と約束したとのこと。
しかし若月さんはいろんな都合で「約束」を果たせず死んでしまったので、息子さんが代わって「八雲」を訪ねてきたということでした。
八雲には「千年もみじ」という古木があります。
春は緑に秋には紅く、息をのむ色にそまる千年もみじ。
じいちゃんの兄は、南方の戦地でも「千年もみじ」のことを戦友に話していたそうで、若月さんはその樹を見たいといいました。
ともあきは若月さんと一緒に山に入り、改めて「千年もみじ」に触れてみます。
じいちゃんの兄は出征の前に「千年もみじ」と話をしたそうです。
どんな話だったのでしょう。
人間の営みをずっと見守っていた大きな大きなもみじは、今年もみごとに紅葉しました。
「生きているってすごい」
じいちゃんの話を聞きながら、ともあきは幹にそっと耳をあて樹の声を聞くのでした。


過疎の村。
少年と老人。
川釣り・・・お馴染みの「一平ワールド」です!
ともあき(=一平ちゃん)がイワナやヤマメを釣っている様子が目に浮かびます。
「八雲」という地名はどこから取ったの(笑) 実在するの? ・・・内輪話も聴きたくなります(^v^)

この作品のサブテーマは「反戦」だと思いますが、穏やかな文章で描かれており、中村悦子さんの美しい絵も手伝って、静かにじわっと「じいちゃんの悲しさ・悔しさ」が読者の心に染み込んできます。
読者はいつの間にか主人公のともあきと一体化し、山に入り「千年もみじ」を見上げ、幹に触れ耳を近づけます。
そして最後には紅く色づいたもみじの下で、大きく息を吸い込んでいます。

「戦争」を前面に描かれるとつらいこともありますが、この作品はたんたんと、ともあきの日常から「戦争」へと上手にシフトしていきます。
物語は悲しいのですが、清々しい読後感が残ります。

ワタクシメが「最上先輩はスゴイ!」といつも思うのは、揺ぎ無い「一平ワールド」を貫いておられるところです。
今回の作品は装丁も挿絵・ページの組み方もおしゃれで、
「これ本当に一平さんの本なの・・・」と最初はビックリしましたが(笑)、安定した世界観が繰り広げられていました。
高学年向けの内容で「絵本」という形にしたのは冒険だったと思いますが、中村さんの絵を使ったことで、より一層「一平ワールド」が洗練され広がったと感じました。
「最上一平」のファンは必読の一冊。


ぜひ、お手にとって見て下さい!

新日本出版社「千年もみじ」 最上一平・文  中村悦子・絵


コメント
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