※このレビューは物語の展開に触れています※
ニコール・キッドマン、ハイクラスな妻たち、そして殺人事件…同じくデヴィッド・E・ケリーが製作・脚本を手掛けた『ビッグ・リトル・ライズ』を彷彿とする人も少なくないだろう。ただし、こちらは寒々しい冬のNYが舞台。セレブ一家の崩壊を冷気漂う演出で描くのはデンマーク出身のドグマ監督スサンネ・ビアだ。
NY有数の富豪の娘である臨床心理士のグレイス(ニコール・キッドマン)は、優秀な外科医の夫ジョナサン(ヒュー・グラント)、息子ヘンリー(ノア・ジュプ)と仲睦まじい生活を送っていた。ある日、グレイスが保護者会で孤立していた若妻エレナ(妖艶なマチルダ・デ・アンジェリス)を気遣ったことから、2人は距離を縮めることになる。そして事件が起こり…。
ジーン・ハンフ・コレリッツによる小説『You Should Have Known』を原作とする本作は、主人公グレイスが所謂“信頼のおけない語り手”であり、いったい誰が犯人なのか判然としない面白さがある。全6話中、主要登場人物は家族4人と限定的で、隠された秘密が明らかになる疑心暗鬼の心理劇はデンマーク時代に濃密な人間ドラマを描いてきたスサンネ・ビアならではだ。夫の真の顔を知って崩壊するニコール・キッドマンの演技は『ビッグ・リトル・ライズ』に匹敵。近年、精力的に活動するヒュー・グラントもいつになく本気の芝居のである。グレイスの父に扮したドナルド・サザーランドの変わらぬ眼光の鋭さに圧倒され、この演技派3人にすっかり声変わりした子役ノア・ジュプが対等に挑んでいることに驚かされた。また『ノーマル・ピープル』でセラピストを演じていたノーマ・ドゥメズウェニが、ここでは百戦錬磨の弁護士役で巧者ぶりを発揮している。
シリーズ後半、夫ジョナサンの正体と共にドラマのテーマも明らかになってくる。夫の不貞を知りながらそれを容易に認められない妻の精神的隷属を描いており、さしずめキッドマンにとって本作は『ビッグ・リトル・ライズ』との2部作なのだ。
この題材であれば、背筋が寒くなるような幕切れを期待するところが、終幕はミスマッチなまでにハリウッドライクなスペクタクルへと転調する。オスカー受賞作『未来を生きる君たちへ』でも顕著だったように、スサンネ・ビアは思いのほか大作志向であり、『ナイト・マネジャー』はそんな彼女の資質がプロダクションに一致した作品だったのだ。作家性と娯楽性を兼ね備えた彼女は、ハリウッドにとって貴重な監督である。
『フレイザー家の秘密』20・米
監督 スサンネ・ビア
出演 ニコール・キッドマン、ヒュー・グラント、ノア・ジュプ、ドナルド・サザーランド、エドガー・ラミレス、リリー・レーヴ、ノーマ・ドゥメズウェニ、マティルダ・デ・アンジェリス
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