J・R・モーリンガーの自伝小説『The Tender Bar』を原作とした本作で、ようやくジョージ・クルーニー監督は肩の力が抜けたところを見せてくれている。J・Rがまだ幼い頃、父親は家族を捨てて出奔。以後、J・Rは母に隠れてラジオDJである父の声を聞きなが育つ事になる。母の実家で暮らす大家族生活は裕福とは言えないが、伯父チャーリーが父親代わりとなった。自ら経営するバーに“ディケンズ”と名付けるチャーリーは早くからJ・Rの文才に目を留め、あらゆる名作に触れる機会を与えていく。チャーリー役のベン・アフレックがいい。酒と野球を愛する市井の人気者であり、文学を愛する知性の人という役柄は監督、脚本もこなすハリウッドスターの彼にピッタリだ。
そんなチャーリー伯父さんが何より大切にしたのが“男の作法”だ。まだまだ幼いチャーリーに女性への接し方、酒の飲み方、金の使い方…大人の男としてのあらゆる振る舞いを教え込んでいく。それは古風に映るかもしれないが、しかし至極真っ当だ。家庭を顧みず、安酒を飲み、女性に暴力を振るう実父の有害さと対比されることで、古風なチャーリーの男らしさが光る。かつて“最もセクシーな男”と評され、大人のイイ男の代名詞であったクルーニーが2020年代に“男らしさ”を再定義している所に本作の面白さがある。2010年代後半のアイデンティティポリティクスを経てあらゆる男らしさが忌避されてきた中、2020年代は“真っ当な男らしさ”が描かれるべきではないか?これまで自身の政治信条と映画趣味が監督作にハマってこなかったクルーニーだが、モーリンガーの自伝を引き付けることによってようやくスランプから脱しつつあるように見える。
少年のカミングエイジストーリーの結末は当然、旅立ちである。甥の門出を見送るアフレックの姿にかつての『グッド・ウィル・ハンティング』が脳裏をよぎり、あれから25年も経ったのかと感慨深いものがあった。アフレックは本作の演技で米映画俳優組合賞にノミネート。残念ながらオスカーノミネートには届かなかったが、歳を重ねて味が出てきた。
『僕を育ててくれたテンダー・バー』21・米
監督 ジョージ・クルーニー
出演 タイ・シェリダン、ベン・アフレック、ダニエル・ラニエリ、リリー・レーブ、クリストファー・ロイド、マックス・マーティーニ
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