長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『静かなる侵蝕』

2021-12-17 | 映画レビュー(し)

 地球へと飛来する彗星のショットから映画は始まる。それが大気圏を突き抜け轟音が鳴り止めば、この緑の惑星にも再び平穏が戻る。木漏れ日の中、地表に目を凝らすとそこには昆虫たちがひしめき、ヤブ蚊は人の肌に穴を開け、幼虫を産み付ける…主人公マリクだけが知る“地球外微生物”を使ったエイリアンの地球侵略だ。

 マイケル・ピアース監督による本作は低予算映画ながらアイデアとフックを効かせたSFスリラーとして始まるが、“誰が感染しているかわからない”という今日的な恐怖はこの映画の見せかけにすぎない。マリクはある事情から軍を除隊しており、妻は他の男と結婚して幼い子どもたちに「お父さんは特殊任務で帰ってこない」と吹き込んでいた。マリクは子供達をエイリアンの地球侵略から守るため連れ出す。しかし古今東西、父権を失い、アイデンティティを保つために何かを盲信する父との旅路につきまとうのは狂気だ。リズ・アーメドはそんなマリクの躁病的な行動をミステリアスに演じ、本作をミニマルな心理ドラマへと昇華することに成功している。

 地球侵略のプロットが機能的に噛み合っていないきらいはあるものの、本作もまた男の弱さについての物語であり、正体を知った長男によって父は許され、癒やされていく(アーメドの演技を受ける子役ルシアン・リヴァー・チャウハンが素晴らしい)。ピアース監督、次作あたりでホームランを打ちそうだ。


『静かなる侵蝕』21・英
監督 マイケル・ピアース
出演 リズ・アーメド、ルシアン・リヴァー・チャウハン、オクタヴィア・スペンサー
 

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