新聞記者のマットは舞台女優のニコルとの間に2人の子供をもうけ、仕事もNYタイムズから引き抜きがかかって順風満帆、幸せな人生を送っていた。ところがニコルが末期ガンに侵された事から一家の人生は一変してしまう。そんな彼らを支えたのが2人の共通の友人デインだった。多忙を極めていたマットに代わって彼はニコルの看病や幼い娘たちの子守、掃除洗濯まで引き受けてくれるのだった。
いったいデインとは何者なのか?ジェイソン・シーゲルはこの聖人のような人物に原作エッセイ以上の複雑さを持たせている。40を過ぎても定職に就かず、舞台照明やスタンダップコメディもハンパに噛じった程度。未だに親と同居していて、行き場のない想いを内に抱えている。都会ならそんな人生の落伍者はザラだが、田舎ではひときわ“人生の敗者”として目立ってしまうだろう。そんな鬱屈がメンタルヘルスに変調を来たす事は珍しくなく、彼が半ば自殺を決意して荒野を旅するシークエンスは強い印象を残す。これは地方都市の人々を描き続けてきた脚本ブラッド・イングルスビーならではの筆致ではないだろうか。
それでもデインの利他心についての掘り下げは足りていない。時制をシャッフルした構成もあまり効果を上げておらず、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』に続いて男の弱さを体現するマット役ケイシー・アフレックとシーゲルのケミストリーが心地良いだけに、“イイ話”の域を出ていないのが惜しまれる。誰にでも起こり得る(悲劇的な)出来事が非凡な利他心によって“語られるべき物語”になるハズだったのではないか。
『Our Friend/アワー・フレンド』19・米
監督 ガブリエラ・カウパースウェイト
出演 ケイシー・アフレック、ダコタ・ジョンソン、ジェイソン・シーゲル、チェリー・ジョーンズ、ジェイク・オーウェン、グウェンドリン・クリスティー
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