『アベンジャーズ エンドゲーム』のルッソ兄弟が手掛ける200億円クラスのアクション大作は、Netflixが株価暴落を経てハリウッドサマーシーズンに挑む起死回生の1本だ。マーク・グリーニーの小説を原作とする本作は単純明快。CIAの凄腕スパイ、コードネーム“シエラ・シックス”が機密情報と少女の命を巡って世界をまたにかけるアクション活劇で、『エンドゲーム』に3時間をかけたルッソ兄弟はこれを何と2時間9分に収めるタイトな手並みを発揮している。カメラは時にほとんど常軌を逸したかのように駆け抜け、アクションに次ぐアクションの猛連打。マイケル・マン信奉者でもある兄弟ならではの市街地銃撃戦と、緩急巧みなクロスコンバットに“あぁ、『ウィンター・ソルジャー』の頃のMCUは良かったよなぁ”とMCU全盛はかくも遠くなりけりという想いが頭を過ぎった(そもそもアクションにこだわりのない人がアメコミ映画をやったらいかんと思うのですよ)。
一部では本作を“2020年代版『コマンドー』”と喜ぶ向きもあるが、80年代シュワルツネッガーアクションの愛嬌をライアン・ゴズリングに求めるのはさすがに無理があるだろう。ハリウッド映画の本歌取りをしながら、それらを全てハズした『ドライヴ』以来の本格アクションにして直球ストレートの娯楽大作に主演してみれば、途端にそのオルタナティヴな個性は稀釈されしまっている(彼のキャリアにおいて10年遅かった作品と言えなくもない)。
対するクリス・エヴァンスはMCU卒業後、『ナイブズ・アウト』や本作で“元キャプテン・アメリカ俳優”というイメージを逆手に取る役選びを続けて好感が持てる。意図的に『コマンドー』のヴァーノン・ウェルズを模しているものの、アクが出るまではもう少し時間がかかりそうだ(ルッソ兄弟のカメラのせいか、やけに“アメリカのケツ”が気になる)。
007を“定時退社”していたアナ・デ・アルマスは今回フルタイムで銃火器をぶっ放すも、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』でフィービー・ウォーラー・ブリッジに手引された鮮烈さと比べると、まだまだアクション映画の添え物感は拭えない。アクション女優としての真価は主演を務める『ジョン・ウィック』スピンオフ作品となるだろう。
シエラ・シックスはコードネームの由来を聞かれて答える「7が他の奴に取られたんだ」。果たして彼は世界の危機はもとより、Netflixの株価を救い、ストリーミング時代の一大アクションフランチャイズを築けるのか?まだまだ発展途上なだけに、次回作は口ずさみたくなるテーマ曲を携えての登場に期待したい。
『グレイマン』22・米
監督 ジョー&アンソニー・ルッソ
出演 ライアン・ゴズリング、クリス・エヴァンス、アナ・デ・アルマス、ジェシカ・ヘンウィック、ヴァグネル・モウラ、ダヌーシュ、ジュリア・バターズ、レゲ・ジーン・ペイジ、ビリー・ボブ・ソーントン、アルフレ・ウッダード
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