長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『コレット』

2019-12-02 | 映画レビュー(こ)

 1920年代に活躍したフランス人作家シドニー・ガブリエル・コレットほど#Me tooの時代に相応しい人物はいないだろう。女性名義での出版が主流でない時代に夫のゴーストライターとして書き続け、人気作家となってからは夫を捨て、同性の恋人と舞台巡業の旅に出て、女優デビューも果たしている。彼女が書いた小説『ジジ』のブロードウェー版では当時無名のオードリー・ヘプバーンを発掘しているというのも驚きだ。1つの性にも1つの肩書にも収まらない、マルチな才能の持ち主であり、時代を100年先駆けたと言っても過言ではないだろう。そんな彼女をキーラ・ナイトレイが凛々しく演じている。

 『アリスのままで』で知られる監督ウォッシュ・ウエストモアと故リチャード・グラツァーのコンビが脚本執筆に取り掛かったのは遡ること2001年であり、当初のタイトルは『コレットとウィリー』だったという。弁が立ち、抜群のプロデュース力でゴーストライター・コレットを時代の寵児へと仕立て上げたウィリーは女遊びが絶えず、夫としては落伍者だった。そんな彼が奔放過ぎるコレットを時には軟禁状態にしてまで書かせ、偉大な作家へと成長させたのである。おそらく、当初の脚本はそんな2人の奇妙なパワーバランスに着目していたと思われるが、15年にグラツァーがこの世を去り、#Me tooが起きてすっかりテーマは変容し、僕たちの目も変わってしまった。完成した映画はそんなウィリーの功績には触れておらず、彼を唾棄すべき男として描いており、手厳しい。

ならばコレットの持つ今日性だけでなく、彼女の作品が時代に与えた功績にも注目すべきだったのではないか。彼女は時代のか弱い犠牲者ではなく、先駆者だったのだから。


『コレット』18・英、ハンガリー
監督 ウォッシュ・ウエストモア
出演 キーラ・ナイトレイ、ドミニク・ウエスト、デニース・ゴフ、フィオナ・ショウ、エレノア・トムリンソン
 

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