2018年の監督第5作『ガルヴェストン』以後、まるで映画作家としての資質を模索するかのようにジャンルを横断し続ける“監督”メラニー・ロラン。それらとは対象的な初期の監督第3、第4作は、自身に物語を近づけたよりパーソナルな作品であることが観て取れる。
2013年に出産を経たロランは、ネイチャー誌に掲載された“今のライフスタイルを続ければ人類は滅亡する”という論考から子供の未来に強い不安を抱き、俳優仲間のシリル・ディオンと共に「農業」「エネルギー」「経済」「民主主義」「教育」の5つの観点から地球環境の持続可能性について模索する『TOMORROW パーマネントライフを探して』を発表する。なんとも切実で真摯な想いに溢れたドキュメンタリーで、その語り口は理路整然。ロランの才気煥発さが伺い知れる。この主題でランニングタイム120分というのはやや生真面目すぎる気もするが、製作から8年を経た今も十二分に通用する内容だ。第41回セザール賞では見事ドキュメンタリー賞に輝いた。
2017年の『欲望に溺れて』(原題“Plonger”)では、やはり出産という体験を今度はフィクションとして昇華している。気鋭の写真家パスと、親子ほど年の離れた戦場ジャーナリストのセザールが恋に落ちる。公開から6年を経た現在では口さがなく言われそうな筋立てではあるが、あくまで主人公を中年男性セザールに据えているところにロランの明晰さがある。程なくしてパスは妊娠、出産。セザールは歳を取ってからの子供だけに嬉しそうだが、育児に忙殺されるパスはアーティストとしてのキャリアが閉ざされるのではと不安を抱く。やがて…。マギー・ギレンホールの監督作『ロスト・ドーター』に先駆けること4年前、社会が抱く“母性信仰”をテーマにしながら、それを中年男性の目線から解き明かしていくクレバーな筆致と、常に撮るべきショットを心得たカメラ使いといい、ビデオスルーと安直な邦題が悔やまれる1作だ(U-NEXTのキャプションも全てが間違っている)。若手女優の起用にも定評のあるロラン作品。ここではマリア・バルベルデが真に迫っていたことも特筆しておくべきだろう。最新作『ヴォルーズ』の様子からするとロランは当分、職人監督として腕を磨いていくとみられるが、いずれ円熟期には自身の物語へと還ってくるのではないだろうか。
『TOMORROW パーマネントライフを探して』15・仏
監督 メラニー・ロラン、シリル・ディオン
『欲望に溺れて』17・仏
監督 メラニー・ロラン
出演 ジル・ルルーシュ、マリア・バルベルデ、ノエミ・メルラン
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