山内ケンジ監督による『夜明けの夫婦』は相当な低予算で製作されている事が伺える苦心の1本で、必ずしも監督のヴィジョンを実現できているとは思えない。ワンシーンワンカットのメソッドは低予算ゆえに強いられたものであり、俳優たちの誠意あるアンサンブルによってかろうじて成立したものだ(無益なアドリブが野放しになっている場面も少なくないが)。コロナ終息後という舞台設定や、社会活動家である義母のキャラクターに山内監督の考えも伺い知れるが、夫婦の性愛をテーマにした艶笑劇である本作においてはノイズにも近く、義父が同居する息子の嫁に欲情を募らせる場面には卒倒しそうになった。
印象深いのはよりささやかな場面だ。韓国にルーツを持つ2人の女性がひっそりと母国の言葉を交わす時、彼女らの抱える“生きづらさ”が浮かび上がる。2022年の上半期は『パチンコ』『TOKYO VICE』といった外から日本を描いた作品が相次ぎ、この国が多くの人種で構成されそこに差別がある事を看破した。ここ日本で製作される作品もそんなモザイクに敏感であるべきだろう。『夜明けの夫婦』は見栄えのしない場面が多いものの、2022年の映画としてかろうじて観るべき所がある。繊細な感情表現を見せる主演の鄭亜美には『ぐるりのこと』の木村多江を彷彿とさせるものがあった。
『夜明けの夫婦』21・日
監督 山内ケンジ
出演 鄭亜美、泉拓磨、石川彰子、岩谷健司
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます