長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『47歳 人生のステータス』

2021-05-07 | 映画レビュー(よ)

 巻頭、ベン・スティラー扮するブラッドの鬱々としたナレーションが続く。目をかけてきた部下には仕事を否定され、大学時代の同級生は皆、社会的な成功を収めた。妻は優しいが野心はなく、彼女との結婚生活が人生に対する前向きさを奪ったのかもしれない。47歳、ミッドライフ・クライシスだ。

 人生に惑う男の悲哀を演じさせたらベン・スティラーは天下一品だ。コメディ映画の印象が強いかもしれないが、近年は監督業にも精力的な才人。そして男の弱さを無様に、しかし慈しみを持って演じ続けてきた。ウェス・アンダーソン監督の初期作『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』のあの可笑しくも哀しいジャージ姿を覚えているだろうか?その後、『人生は最悪だ!』『ヤング・アダルト・ニューヨーク』『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』とノア・バームバック監督作に連続主演。自分が思っていたよりも早く大人になってしまった男の憐れさをなんとも愛おしく演じた。

 本作ではスティラーの円熟を堪能することができる。自分は人生の敗者だと自己憐憫に暮れ、ついには同級生のみならず、若く才能に満ちた息子にすら嫉妬する。しかし彼にはハメを外すだけの度胸もない。スティラーはブラッド役に説得力を持たせる事に成功しており、『ケミカル・ハーツ』『ダッシュ&リリー』と注目作が続く息子役オースティン・アブラムスと素晴らしいアンサンブルを奏でている。

 そんなブラッドを救うのは自身を肯定し、他社と比べ合う有害な男性性を否定することだ。マイク・ホワイト監督による本作は控え目な小品だが、彼が自ら手掛けた脚本は中年の危機をトキシック・マスキュリニティの観点から切り崩しており、なんとも現代的。ブラッド同様、惑い始めていた僕も目から鱗が落ちるような気分だった。

 ブラッド・ピット率いるプランB製作による本作は全米では2017年にリリースされた。近年、日本にはなかなか入ってこないタイプの小品だが、コロナ禍の作品不足を受け、オンライン上映という形式で公開される。これもコロナの副産物だ。


『47歳 人生のステータス』17・米
監督 マイク・ホワイト
出演 ベン・スティラー、オースティン・アブラムス、ジェナ・フィッシャー、マイケル・シーン、ジェマイン・クレメント、ルーク・ウィルソン
※6/11よりMIRAIL(ミレール)、Amazon Prime Video、U-NEXTにてオンライン上映※

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