1918年のテキサス。主人公パールは出征した夫ハワードの帰りを待ちながら日々、父親の介護や農場の維持に追われていた。ドイツ系移民の母は出自もあってか世間との関わりを嫌い、奇しくも町はスペイン風邪の流行に見舞われている。パールの唯一の楽しみは父の薬を買いに町へ出かける傍ら、映画を見ること。いつかあたしはスターになって、この町から出ていくの…。
タイ・ウエスト監督と主演ミア・ゴスは『X』の撮影に入る直前、史上最高齢殺人鬼パールのバックストーリーを練り上げ、A24からのGOサインが出るや前日談『Pearl パール』との2作連続撮影に挑んだ。若さと可能性に執着する殺人老婆パールの過去にいったい何があったのか?主人公マキシーンと殺人鬼パールをミア・ゴスが1人2役で演じるという『X』のツイストは、さらに捻れてやはりミア・ゴスが若きパールを演じる本作へと結びついた。ウエストは『悪魔のいけにえ』を本歌取りした前作から一転、1920年代ハリウッドクラシックのスタイルをテキサスの田舎に再現。パールの現実逃避と狂気を描いて、脚本も手掛けるゴスとのコラボレーションはまさにパールとワニのごとき共犯関係である。パールが強いられる抑圧は2010年代後半の映画が相次いで描いてきたモチーフではあるものの、最もユニークな要素は前作でヒロインを殺そうとしたヴィランもまた同じ焦燥と恐怖を抱いていることだろう。若きパールはスターを夢見、何事も成さず老いて死にゆくことを恐れている。純粋さゆえに追い詰められ、崩壊するミア・ゴスは主演スターの覚醒を見せる入魂のパフォーマンス。ウエストは彼女の破格の才能を証明すべく、後半3箇所にロングテイクを仕込み、ゴスの見せる悲痛は観客の胸をメッタ刺しにする程だ(ミア・ゴスが70〜80年代に活躍した女優シェリー・デュヴァルをリスペクトしているというのは大いに納得できる)。オスカーにこそ届かなかったものの、2022年のアメリカ映画を代表する“女優の映画”と言えるだろう。
続く完結編『MaXXXine』も先頃、製作がスタート。どうやら80年代のNYが舞台の様子で、果たして恐怖を乗り越えたマキシーンはスターになる夢を叶えることができるのか?主演俳優へと飛躍したミア・ゴスのパフォーマンスが何とも楽しみだ!
『Pearl パール』22・米
監督 タイ・ウエスト
出演 ミア・ゴス、デヴィッド・コレンスウェット、タンディ・ライト、マシュー・サンダーランド、エマ・ジェンキンス=ブーロ
2023年7月7日より劇場公開
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