長内那由多のMovie Note

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『マッドマックス 怒りのデス・ロード』

2018-04-04 | 映画レビュー(ま)

30年ぶりのシリーズ最新作は名物のカーチェイスを2時間に渡ってあの手この手で繰り広げる最高のアクション映画だが、前3作とはまるで次元の違う大傑作に化けた。激しく、過剰で、歪だが、エモーションに満ち、そして美しい。度々製作を見送られながらも完成にこぎつけた監督ジョージ・ミラーの創造の執念が映画を自然進化させたのかも知れない。それほど奥が深く、心を揺さぶる映画だ。

話はシンプルを究めた。水資源を独占する暴君イモータン・ジョーに反旗を翻した女将軍フュリオサがジョーの美しい妻5人を連れて逃走する。マックスはこれに随伴する騎士のような役割だ。映画はほとんどのセリフを排し、ドラマもアクションの中で語ってしまう。活劇こそ映画言語の根源。ミラーの演出はもはや古典的ですらある。

削ぎ落された物語から浮かび上がるのは生命への賛歌だ。レッテルを貼られ搾取の対象とされてきた娘達が、フュリオサが、老婆達が怒りを胸に道を戻り、醜悪な権力へと立ち向かう。死と隣り合わせの生身のスタントは観る者の生命力を呼び覚ます。“戦いで命を落とせば魂は英雄の館で永遠に称えられる”というおぞましい欺瞞を語る権力を倒すのにマックスがマチズモを振りかざす必要はない。苦み走った声が魅力のニヒルなトム・ハーディ版マックスは女達のために肩を貸し、血を分け与えれば良いのだ。

そう、信じ難い事に本作は女の映画、女性賛歌の映画である。実質上の主役はフュリオサ役のシャーリーズ・セロンだ。丸坊主に黒塗り、隻腕と汚れに汚れるほどこの女優は場外弾フルスイングを放つ。消え入りそうな命の炎を最高潮に燃えたぎらせる終幕にこちらまで奮い立たされるではないか!

 見終えてこんなに身体の内からエネルギーを感じた映画は初めてかもしれない。エンドロールの最中、僕は胸がいっぱいになり、涙が出た。大スクリーンで観られた喜び。あぁ、なんてサイコーな日だ!!


『マッドマックス 怒りのデス・ロード』15・米
監督 ジョージ・ミラー
出演 トム・ハーディ、シャーリーズ・セロン、ニコラス・ホルト、ヒュー・キース・バーン、ロージー・ハンティントン・ホワイトリー、ゾーイ・クラヴィッツ、ライリー・キーオ、アビー・リー、コートニー・イートン
 

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