期待されたスター・ウォーズ番外編『ハン・ソロ』から更迭され、順風満帆のキャリアに翳りが見えたかのように思えたフィル・ロード&クリス・ミラーのコンビだったが、同じ年にしっかり名誉挽回してくれた。それもディズニー、ピクサーを下してのアカデミー長編アニメ賞獲得というこの上ないリベンジだ。
本作を見ると『スター・ウォーズ』という40年も続いた老舗シリーズは彼らの個性と全く噛み合わない事が良くわかる。『LEGOムービー』や『21ジャンプストリート』といった諸作からも明らかなように、既存コンテンツへの深い愛情から成る換骨奪胎こそが彼らの作風だ。これまで何度も映像化されてきた『スパイダーマン』を楽しみながらアレンジしているのが良くわかる。アメコミのコマ割りや吹き出しを再現するのは序の口、何とCGアニメにも関わらずコミックの”紙質”まで描き込み、まるで初めてアメコミを読んだ時の感動を再現したかのような興奮っぷりなのである。
さらに本作が素晴らしいのはそんなオタク的ディテールに終始していない事だ。悪漢キングピンの計略によって次元がぶつかり合い、様々な平行世界のスパイダーマンが登場する本作。ヒロインのグウェン・ステイシーがスパイダーウーマンになっていたり、グラフィックノベル調のハードボイルドな白黒スパイダーマンも出てくる(声はニコラス・ケイジだ!)。日本からは萌絵タッチの女子高生がスパイダーロボを操縦し、ほとんど黒歴史的な日本実写版スパイダーマンまでもフォロー。ブタのスパイダーマン”スパイダーハム”に至っては手塚治虫のマスコットキャラ、ヒョウタンツギにそっくりではないか。そして登場する平行世界のピーター・パーカーはMJには去られ、人生に失敗した中年太りのオッサンだ。
絵のタッチも異なるスパイダーバースの中で主人公となるのがブルックリン在住の黒人少年マイルス。本作は子供達に「誰だってスーパーヒーローになれる」と謳い、スーパーヒーローになり損ねた僕たち中年には「出てきた腹なんか気にしないでもういっぺん跳んでみろよ」と背中を押すのである。そして世の中に壁があるのなら、落書きしちまえと奮い立たせてくれるのだ。『ブラックパンサー』と時同じくして登場したのも必然と思える、アメコミ映画のニュースタンダードである。
『スパイダーマン:スパイダバース』18・米
監督 ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン
出演 シャメイク・ムーア、ジェイク・ジョンソン、ヘイリー・スタインフェルド、ニコラス・ケイジ、クリス・パイン、リーヴ・シュレイバー、マハーシャラ・アリ、ブライアン・タイリー・ヘンリー、リリー・トムリン、ゾーイ・クラヴィッツ、キャサリン・ハーン
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます