ブログ復活のきっかけとなった演奏会から書こうと思う。
時はさかのぼって6月30日、アレクサンドル・カントロフ氏のピアノリサイタルを聴きに出かけた。あの藤田真央氏を差し置いて2019年にチャイコフスキー国際コンクールで優勝するような方なのだから、折り紙付きの実力の持ち主で素晴らしき演奏をされる方であることには間違いないのだけれど、今までの来日時には、演奏会に足を運ぼうという気持ちにはならなかった。しかし、今年になって、聴けるのならば色々なピアニスㇳの演奏を聴きたいという想いがむくむくとわいてきていた。そんな矢先、カントロフ氏の前半のシューマンのピアノソナタ第1番と、後半のリストの作品群という濃厚なプログラムを見てこれは行かないわけにはいかないと思いチケット確保。
<プログラム前半>
リスト作曲 J.S.バッハ「泣き、嘆き、悲しみ、おののき」BWV12による前奏曲S.179
シューマン作曲 ピアノソナタ第1番嬰へ短調Op.11
休憩
<プログラム後半>
リスト作曲 巡礼の年第2年「イタリア」から ペトラルカのソネット第104番
リスト作曲 別れ(ロシア民謡)
リスト作曲 悲しみのゴンドラⅡ
スクリャービン作曲 詩曲「焔に向かって」Op.72
リスト作曲 巡礼の年第2年「イタリア」から ソナタ風幻想曲「ダンテを読んで」
<アンコール>
グルック作曲(ズガンバーティ編曲) 精霊の踊り
ストラヴィンスキー作曲(アゴスティ編曲)バレエ「火の鳥」からフィナーレ
ヴェチェイ作曲(シフラ編曲)悲しきワルツ
ブラームス作曲 4つのバラードOp.10から第2曲
モンポウ作曲 歌と踊り Op.47-6
ブラームス作曲 4つのバラードOp.10から第1曲
前半のリスト=バッハの下りゆく半音階の悲しみの表現、そしてシューマン作曲ピアノソナタ第1番のシューマンの深き葛藤とめくるめくドラマを感じる演奏だけで、すっかり虜になってしまい、この演奏会に伺ってよかったと思った。それとともにシューマンのピアノソナタ第1番は本当に素晴らしい曲だと再認識。
しかし後半以降になってさらにすごい内容に!ペトラルカのソネット→別れ→悲しみのゴンドラというリスト作品の流れ、曲が進むごとに段階的に彩度が下がり、その後のスクリャービンの焔に向かってで一気に明度と彩度とが急上昇、爆発するという物語の演出が素晴らしく想像を超えた世界へといざなわれた。
哀愁を含みながらもまだ温度と色彩感が感じられたペトラルカのソネットから、素朴でありながら密度の濃いトリルにより回想と問いかけが伝わってきた別れ、そして鎮魂への強き重いが故の暗い無彩色、救いなしに思えた悲しみのゴンドラの沈痛な響き。。。曲の後半に出てくる単音の濃密さ、訴求力の強さが忘れられない。
ゴンドラの暗闇から焔に向かって、混沌たる闇から一気に舞い上がり光り輝き妖しさを含みながらも絶対的に明るく激しく狂おしき忘我の境地に。そしてダンテの地獄から天国への表現の描写。振れ幅の大きな世界を極限までインターバルなしに示してくれてなんというピアニストなのだろうとただただ心奪われっぱなしだった。悪魔の世界の表現、デモーニッシュな表現も、見事でしたよ。
その後のアンコールは6曲。しかもすべて美しい演奏。夢のような時間だった。終わってほしくなかった。余韻にずっと浸っていたかった。
今回を機に、カントロフ氏の来日時には必ずひとつは演奏会に足を運ぼうという気持ちになったのは言うまでもない。
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