映画「とんび」を観る。 作家重松清のベストセラー小説を映画したもの。
といっても、恥ずかしながら、今まで重松清さんの作品はまるで読んだことがなく、この映画が岡山県でロケされたものだということも知らなかった……。
普段まったく見ない日本映画で、主演の阿部寛も有名な俳優だというのに、振り返ってみれば、彼が出た映画で見たものと言えば、ずーっと昔、阿部寛がまだモデルだったかの頃、出た、江戸川乱歩原作の映画「ひとでなしの恋」だけだったな。
彼のデビュー作である、出た少女マンガ原作の「はいからさんが通る」も、ヤマサキマリ原作の「テルマエ・ロマエ」も見たことがありませんです、はい。
しかし、このたび見た、「とんび」——とても、面白かった! 背景となっている時代も、私の好きな高度経済成長期で、まるで「三丁目の夕日」を連想させるし、熱いハートと人情が感じられるのも、GOOD!
阿部寛演じるヤスは、地元の運送業者に勤めるのだが、けんかっ早くて、無計画。でも、仲間の皆に愛されている。奥さんの美佐子が妊娠していることを知っても、うれしさを素直に表現することもできないくらい、不器用なのだけれど、彼女と息子アキラと幸せいっぱいの生活を紡いでいく。
ところが、美佐子とアキラが、「お父さんの職場見学に」と、ヤスの勤務場所にやって来た時、悲劇が起こる。まだ三歳で、何もわからないアキラが、積み重ねられていた荷物に、洋服をひっかけ、荷がくずおれてしまう。息子を助けようとした美佐子は、重い荷物の下敷きになって死んでしまう。
そこから、ヤスは、ただ息子を幸せにすることだけを願い、アキラのために生きていく。阿部寛の演技が、濃くて(彼の顔立ちもそうですけど)、人間臭さを感じさせるのがたまらなくいい! 時にユーモラスに、時にオチャメでさえあるヤスの魅力が、こちらにもじんじん伝わってくる。この映画は、阿部寛の力演が、最大のポイントなのでは?
阿部寛が、こんなにいい役者だなんて知らなかったなあ……。
アキラは、ヤスの思いを映してか、優秀な好青年に成長してゆくのだが、彼が一流大学に合格して、出版社に就職し、そこで先輩社員のバツイチの子連れ女性と恋愛する、という後半は、はっきりいって退屈。だらだらと長い気がするんです。 そして、アキラがのちに、直木賞作家とまでなってしまうというのだから、これって、もしかして、重松清さん本人がモデル?
アキラが大学に合格し、地元を離れるという時、例によって、不器用なヤスはトイレにこもってしまい、さよならの挨拶もできないという始末なのだが、そのトイレが水洗式じゃないらしいのも、いかにも昭和なドラマ。面白いです。
いざ息子が去ってしまうと、ヤスはそのトイレから飛び出し、アキラたちが乗ったタクシーを追っかけてゆくのだが、私の好みを言えば、映画はここで終わってほしかった……。
地元の人々の情愛と、父の子に注ぐ愛というドラマが、十分堪能できたし、余韻が残った気がする。
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