五十嵐大介(IKKI COMIX 小学館)
《内容》
かつて手に入れることの出来なかった青年への想いに固執し、強大な力を手に首都へと舞い戻ったニコラと、その首都を目指し旅をする遊牧民の少女 シラル(『SPINDLE』)。
開発の進む熱帯雨林で恋人を殺された呪術師クマリ(『KUARUPU』)。
北欧の山中に暮らす「大いなる魔女」ミラとアリシアに、宇宙空間での事故がもたらす運命(『PETRA GENITALIX』)。
がらんどうの日常から抜け出して、東へ向かう船へと飛び乗った女子高生ひなたが、不思議な女性 千足と過ごした時間(『うたぬすびと』)。
《この一文》
“星に生命が生まれ。
星が死に塵となり。
どこかで再び寄り集まって、
混じり合い。
新しい星に生まれ変わり。
また、
死んでいく。
その、
繰り返しの中で。
全ての物質には。
生命であった頃の記憶が、
刻まれる。
―――第3抄『PETRA GENITALIX』より ”
「松本大洋が好き」という私に、お友達がすすめてくださった漫画です。いやー、なるほど、面白かったです。絵柄は松本大洋とはずいぶん感触が違って、とても繊細な感じ。手で書かれたというのがすごくよく分かります。手書きの細い線が積み重なって、まっすぐにきっちりと引かれた線がひとつもないところがいいです。物語もそれに似合って非常に細やかで鋭敏な感性が溢れる感じでした。いいですね、とても。
本当はもうちょっとはやくに感想を書くつもりだったのですが、なんだかどうしても書けませんでした。沈黙を強いられるようなところがあって、「べつに話さなくても、ただ感じればいいじゃないか」と言われているような。まあ、そんな感じです。感じさせられるような世界がありました。
この人の作品はほかに『海獣の子供』も読みましたが、私が気に入ったのは、この人はいつも同じひとつのことをずっと語ろうとしているらしいということですね。
「目に見える、すでに分析され、分類されたものだけが、世界のすべてではない」というようなことを言いたいらしい。第3抄が特に私は好きなのですが、とても考えさせらるお話です。私好みの美しい絵と幻想的な物語の中にも、はっきりとした主張がなされていて、すこしたじろいでしまうようです。そのくらいのインパクトがある、読みごたえのある物語でした。
あと、物語のあちこちにちょっとした小さなエピソードが盛られているのですが、そういう細部が私はすごく面白かったです。
たとえば、第1抄で、街へ出かけた孫娘が帰るのを待って、いつ帰るのか知らないけれども毎日迎えに行くおじいさんとか、第3抄で、石の力でパニックに陥った街で、おいしいタルトのお店が相変わらず開店営業しているところとか。そういうところが、私はすごく楽しい!
とうわけで、今後も気になる作家がまたひとり増えました。
《内容》
かつて手に入れることの出来なかった青年への想いに固執し、強大な力を手に首都へと舞い戻ったニコラと、その首都を目指し旅をする遊牧民の少女 シラル(『SPINDLE』)。
開発の進む熱帯雨林で恋人を殺された呪術師クマリ(『KUARUPU』)。
北欧の山中に暮らす「大いなる魔女」ミラとアリシアに、宇宙空間での事故がもたらす運命(『PETRA GENITALIX』)。
がらんどうの日常から抜け出して、東へ向かう船へと飛び乗った女子高生ひなたが、不思議な女性 千足と過ごした時間(『うたぬすびと』)。
《この一文》
“星に生命が生まれ。
星が死に塵となり。
どこかで再び寄り集まって、
混じり合い。
新しい星に生まれ変わり。
また、
死んでいく。
その、
繰り返しの中で。
全ての物質には。
生命であった頃の記憶が、
刻まれる。
―――第3抄『PETRA GENITALIX』より ”
「松本大洋が好き」という私に、お友達がすすめてくださった漫画です。いやー、なるほど、面白かったです。絵柄は松本大洋とはずいぶん感触が違って、とても繊細な感じ。手で書かれたというのがすごくよく分かります。手書きの細い線が積み重なって、まっすぐにきっちりと引かれた線がひとつもないところがいいです。物語もそれに似合って非常に細やかで鋭敏な感性が溢れる感じでした。いいですね、とても。
本当はもうちょっとはやくに感想を書くつもりだったのですが、なんだかどうしても書けませんでした。沈黙を強いられるようなところがあって、「べつに話さなくても、ただ感じればいいじゃないか」と言われているような。まあ、そんな感じです。感じさせられるような世界がありました。
この人の作品はほかに『海獣の子供』も読みましたが、私が気に入ったのは、この人はいつも同じひとつのことをずっと語ろうとしているらしいということですね。
「目に見える、すでに分析され、分類されたものだけが、世界のすべてではない」というようなことを言いたいらしい。第3抄が特に私は好きなのですが、とても考えさせらるお話です。私好みの美しい絵と幻想的な物語の中にも、はっきりとした主張がなされていて、すこしたじろいでしまうようです。そのくらいのインパクトがある、読みごたえのある物語でした。
あと、物語のあちこちにちょっとした小さなエピソードが盛られているのですが、そういう細部が私はすごく面白かったです。
たとえば、第1抄で、街へ出かけた孫娘が帰るのを待って、いつ帰るのか知らないけれども毎日迎えに行くおじいさんとか、第3抄で、石の力でパニックに陥った街で、おいしいタルトのお店が相変わらず開店営業しているところとか。そういうところが、私はすごく楽しい!
とうわけで、今後も気になる作家がまたひとり増えました。