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わたしの求める第一義は、肉体の美しさではなく、魂の美しさ、
すなわち愛でした。でもわたしの感じる愛は、人間の能力を超える
ものらしい。――それでもわたしはわたしの愛で愛するでしょう。
それは要求するよりも惜しみなく与える愛です。
なんとすばらしい狂気! なんという崇高な蕩尽!
『モーパン嬢』(下巻)
テオフィル・ゴーチエ(岩波文庫)より
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モーパン嬢の考える「愛」とは、上記の如く「己を与えて二倍になる」ようなもののことを言うのだそうです。ふむふむ、それは狂気のような素晴らしさです。
ほんとうは、ゴーチエの『キャピテン・フラカス』を読もうとしていたはずだったのに、いつの間にか『モーパン嬢』を手にしていました。この中の一文をちょっと探すだけのつもりだったのですが、あまりの面白さに、思わず(下巻)を後半辺りからまるまる読み返してしまいました。面白すぎますね。
『モーパン嬢』は、絶世の美貌を誇る男装の少女をめぐる物語で、それはもう滅茶に面白い小説です。上下巻ですが、怒濤のような絢爛豪華な物語の大波に乗って、ぐいぐいと読み進めることができるという魅惑の小説です。あー、面白い。ゴーチエの天才がほとばしりまくり。
ところで私としては、この「モーパン嬢」の構造は『少女革命ウテナ』とよく似ていると思っていたのですが、読み返してみると、思ったよりも似ていませんでした。男装の美少女が、男性と女性の間でその両方の美しさを同時に確立しているというところはそっくりですが、主人公の性格が違い過ぎますね。モーパン嬢は自信たっぷりで(かなり痛烈な)皮肉屋の秘密主義者であるのに対し、ウテナは臆病なところを持ちながらも開けっぴろげでどこまでも優しい。どちらにしても両者はとても魅力的なので私は大好きですがね。ようするに、男装の美少女というやつが好きなのかもしれません、私は。ロマンですよ。
ああ、でも、彼女たちを取り巻く世界を打ち砕き、美を守る革命の騎士であるという点においては、やはりモーパン嬢とウテナはよく似ていますよね。(ネタバレになりますが)最後は絶対的な【美】を人々の心に残して去ってしまうところまでもよく似ている。
好きな物語に囲まれて、ちょっと暖かい今日をのんびりと過ごしています。